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ネクストライフ 作者:相野仁

六章「ターリアント大陸擾乱」

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九話「攻防戦」

ランレオのカヴィール砦前に二十万超の人数で転移すると、砦に駐屯するランレオ軍が待ち構えていた。
 実際に目の当たりにするととてつもない事だ、とカヴィール砦の守将のセバス将軍は思った。
 ランレオ最強のバーラですら百人いけるかどうかといったところではないだろうか。
 それほどの力を持った魔法使いが今回は味方で、非常に心強い。
 出来ればバーラ王女と結婚して永遠に味方でいてほしい、と全てのランレオ兵が心の底から願った。
 略式ながら挨拶をすませ、セバスは少しずつではあるが魔軍が接近してきている事を伝えた。

「およそ百五十万。うちアンデッドが百三十万前後」

 戦場で数を聞くとリアリティが違うな、とマリウスは思う。
 アンデッドを数百万も支配するなど魔人だからこそ可能なのだろう。
 ゾフィも「魔人だから出来る事は意外と多い」と言っていた。
 人間の常識で考えると痛い目に遭うだろうとも。
 助言を受ける人間達は厳粛に受け止めていた。

「他の砦も似たようなものでしょう。マリウス様お願いします」

 バーラの要請に応じ、マリウスはそれぞれの軍勢を所定の位置へと飛ばした。
 もう隠す気もなく無詠唱でやってのけた。
 どうせ上級魔人を倒さねばならないのだから、早いか遅いかの違いだと割り切っていた。

「指揮はセバス将軍にお願いします」

 カヴィール砦に残ったヤーダベルスがそう言う。
 指揮系統を統一しなければ到底勝てる相手ではないのだ。
 セバスは緊張感と責任感に生唾を飲み込み、神妙な面持ちで頷いた。
 迫りくる魔軍は総兵力三百五十万、迎え撃つ人類連合軍は約四十万。
 五人の魔人はいずれも数万程度の兵力ならば物ともしない猛者ばかり、兵は通常攻撃では倒せないアンデッドが中心だ。
 単純に戦力を比べると人類には絶望しかないように思える。
 しかし人類が希望を持って立ち向かうのには理由がある。
 魔王や何人もの魔人を滅ぼしてきた魔法使い、マリウスである。
 彼が上級魔人を倒すならば勝ち目は出てくるのだ。
 彼に味方する三体の淫魔娘達も貴重な戦力だ。
 人類が選択した戦術は複雑ではない。
 アンデッドは魔法使い達に対処を任せる、魔人は人類最強クラス達で足止めをする、淫魔達は加勢する、マリウスが上級魔人を倒して他に加勢するまで何とか持ちこたえる、というものだ。
 己が負ければ全てが終わるという重責を負わされたマリウスは、傍目から見ればとても冷静で頼りがいがありそうだった。

「来ました!」

 物見が声高に叫び、一同の視線が前方に集中する。
 地平線の端から端まで埋め尽くすような、膨大な数に兵士達は息を呑んだ。
 全部が同時に攻撃してくるはずもなかったが、それでも不安を感じるには充分すぎた。

「か、勝てるのか……?」

 誰かがぽつりとつぶやくと、周囲に不安が伝播していく。
 集団心理が悪い方向へと働いていた。
 マリウスはため息一つつくと、ふわりと砦から舞い降りる。

「えっ?」

 兵士達は何が起こったのか理解出来なかった。
 味方を驚愕させた魔法使いは淡々と魔法を敵軍に向けて放った。

「【ラディウス】」

 光系の一級魔法「ラディウス」は攻撃魔法であり、アンデッド浄化効果も持つ強力な魔法である。
 白き光の奔流が発生し、螺旋を描いてアンデッド部隊を覆い尽くし、光が消えた時その数は大きく減らしていた。
 マリウスは魔法一発で敵戦力を削り取ったのだった。
 もっと近い距離で放っていたのならば、あるいは全滅させていたかもしれない。
 そう確信したカヴィール砦の兵士達からは大きな歓声が沸き起こった。

「す、すげえ!」

「いける! マリウス様がいるならいけるぞ!」

 兵士という生き物はいい意味でも悪い意味でも単純で、今マリウスがやったように味方が敵を蹴散らす光景を見れば俄然勇気が沸いてくるのだった。
 その大歓声を聞いて狙いが成功したと感じたマリウスは、息を軽く吐いた。
 これくらいの事ならば造作もない事だ。
 彼本来の任務は上級魔人の撃破であったが、今回のように悠長に進撃してくるのならばわざわざ待っていてやる必要はない。
 カヴィール砦に接近するまでに兵や下級魔人を全滅させておけば、味方の被害は一気に減るだろう。
 そう考えた時、チリチリと本能が警告を発し、マリウスはとっさに「ワープ」を使って砦の上にいた。
 次の瞬間、マリウスが立っていた地面から何かが勢いよく飛び出した。
 もし回避してなかったら、魔法使いでしかないマリウスは即死していたかもしれない。

「ちっ、いい勘してやがるな」

 地中から攻撃してきたのは魔人アルベルトだった。
 続いて魔人フランクリンも姿を現す。
 悠々と進軍してきているように見せていたのは囮だったのだ。

「私がフランクリンでこちらがアルベルトです。マリウス君、君と二対一で戦いたいのですが構いませんか?」

 マリウスはこの申し出を承諾した。
 但し条件をつける事を忘れなかった。

「いいよ。広い場所に移動するならな」

「決まりだな」

 フランクリンが「トリップ」を唱え、三者は転移する。
 この事にマリウスは内心驚いた。
 これまで魔法攻撃を受ける際は「ディスペル」を使って無効化してきた。
 これは敵の攻撃が優れていた為ではなく、装備している「煉獄のローブ」の性能が目立たないようにする為だ。
 つまり「煉獄のローブ」の防具としての性能はかなり高いのである。
 もちろん味方に魔法をかけてもらう事を考えれば、攻撃魔法以外の耐性は低くてもおかしくはない。
 そこまでの検証をしていない以上、判断はしかねるが油断はしない方がよさそうであった。
 転移した先は瓦礫の山だった。
 それなりに広そうで、かつてはそこそこ栄えていたのかもしれないとマリウスは思った。

「さて始めるぜ?」

 アルベルトはそう言うと全身輪郭がぼやけていく。
 いやアルベルトだけではなくフランクリンも同様だった。
 二人は人間形態を止め、最大の力を発揮出来るモンスター形態に移った。
 マリウスの軽く数倍はありそうなグリフォンとスフィンクスがいる。
 どちらもモンスターの中で上位に数えられる種だし、今回はどちらも上級魔人である。
 ターリアント大陸の行方を決めるべく両陣営の最大戦力同士の戦いが始まろうとしていた。




 一方、カーヴィル砦にはアンデッドを先頭に魔軍が押し寄せてきていた。

「胸糞が悪くなるな」

 ヤーダベルスが吐き捨てたのも無理はない。
 アンデッド達はボロボロの服を着ていて体の一部が欠損した男だったり、半裸の女だったりするのだ。
 おまけにベルガンダ軍の鎧らしきものをまとった者達も混ざっている。
 彼らが素性について考えるまでもない。

「外道が」

 セバス将軍はうめき声を上げる。
 襲撃してくるアンデッドは言うまでもなく滅ぼされたベルガンダの人々であろう。
 生前に何をされたのか、推測出来るような痕跡をそのままに襲ってきていて、心ある者ならば胸を痛めずにはいられないような光景だった。
 人類は意外と善戦していた。
 と言うのも魔軍は単調な攻撃をしてくるだけなので、守る方も戦いやすかった。
 魔人が指揮を執っているのであればありえない話ではない。
 攻城戦が得意な魔人などいるものではないだろうから。
 この分ならばベルガンダが滅ぼされたのは、真っ先に帝都を攻め落とされて指揮系統が混乱してしまった事、魔人の力が大きい事になりそうであった。
 もっともやはり死を恐れない大群に襲われ続けている以上、被害が出るのは避けられない。
 出来るだけ早く魔人を倒して指揮系統を消滅させる必要がありそうだった。

「パル! いないのか?」

 意外な事にゾフィは機敏にそれを察し、魔軍の指揮を執っているパルの挑発に出た。

「もちろんいるさ、ゾフィ。裏切り者めが」

 パルは簡単に応じた。
 ゾフィの挑発ならばあっさり応じるというのはゾフィの読み通りである。
 魔人達にしてみればゾフィは許しがたい裏切り者だからだ。

「何を考えて裏切った? 魔王様復活が我らの悲願だっただろう?」

 パルにしては珍しくやや興奮していた。
 同じ目的の為に動いている仲間という意識が強かったのに、それを裏切られたのだから当然という想いが強い。
 ゾフィはそんな元仲間の気持ちを嘲った。

「もちろん、より優れた男にくっついたのだ。ルーベンスはダメだな。ご主人様よりずっとダメだ」

 あっけらかんと元上司を蔑む妖艶な美女の態度はパルの癇に障る。

「何だと? マリウスとやらがどの程度の器だと言うのだ!?」

「最高にさ。ご主人様の上限、未だにさっぱり見えないからね」

「この売女めが!」

 パルの口汚い罵り文句をゾフィは愉快そうに聞いていた。

「そりゃ淫魔にとっては褒め言葉だね」

 ゾフィは肩をすくめて鼻で笑った。
 殊更パルを煽るような言い回しをしている。
 人類の戦力を考えるとパルを倒すのが一番だが、そうでなくとも意識を他の事に逸らして指揮に集中させなければよいのだ。
 現に魔軍の攻撃は緩やかになってきていて、人類側にはゆとりが生まれはじめていた。
 もっともこれはゾフィが考案した事ではなくエルの入れ知恵だった。
 「ご主人様への貢献度」に何割か請求されたのは腹立たしいが、マリウスにとって一番よい結果をもたらす為にゾフィは己のプライドを平気で捨てた。
 まずマリウスに喜んでもらえる事が第一なのだ。
 生憎とパルはレーベラやアルベルトとは違い、短気で単純ではなかった。
 ゾフィの狙いが己と舌戦して人類に余裕を与える事だと見抜いた。

「小ざかしい。お前を葬り、人類の息の根を止めてやろう」

「返り討ち、という言葉を知っているか?」

 ゾフィは勇ましく切り返すと羽ばたく。

「お前は森で殺してやろう。どうだ、ついてくる勇気はあるか?」

 その挑発にパルは乗る。
 距離があると新しい命令を出来なくなるが、人類相手では充分だろうとちらりと下の戦況を見て判断した。
 確かに人類に今はゆとりが生まれていたが、数が違いすぎる。
 ゾフィを始末すれば自らも攻撃に加わり一気に攻め落とせばよい。
 パルはそう判断し、ゾフィについていった。
 油断したつもりはない。
 ゾフィは自らより弱かったし、仮にパワーアップしていても所詮は淫魔だという思いがあった。
 戦士としての資質はあるものの、純粋な武闘派である自分の方が有利なのは変わりない。
 ゾフィの狙いはマリウスが来るまで時間を稼ぐ事だろう、というのがパルの予想である。

(アルベルト様とフランクリン様相手に生き残れたらの話だがな)

 己とは強さの領域が違いすぎる二人の上級魔人について全面的に信頼していて、マリウスに負けるとは思っていなかった。
 マリウスがこれまで倒したのはガスタークやレーベラよりも弱い者、復活したてで弱体化していた魔王だけである。
 一人で数十万の軍勢を一撃で崩壊させる、上級魔人に歯が立つはずもない。
 ゾフィは色気たっぷりの美女だから、レーベラやアルベルトあたりは欲望の対象にするだろうが、パルにそんな趣味はない。
 一思いに殺してやるつもりだった。
 そんなことをすれば己が滅ぼそうとしている、我侭で利己的で吐き気がするほどに不愉快な人間と同じになってしまうからだ。
 レーベラはともかくアルベルトには意見出来ないので、ずっと放置していたのだが、加担するのだけは嫌だった。
 手を抜く余裕がなかったとでも報告すればせいぜい嫌味を言われるだけですむだろう。
 パルほどの魔人を殺すなどルーベンスが許すはずがないのだから。

「ここらでよかろう?」

 ゾフィは舞い降りたのはベルガンダ領にある森林の一つだ。
 フィーレ森林という名前があるのだが、彼らは知らないし興味もない。

「殺す前に一つ教えてやろう」

 パルはおもむろに口を開いた。

「私は中級魔人だ。ガスタークやレーベラよりずっと上のな」

 ゾフィは聞いても怯む事はなかった。

「勘づいていたさ。淫魔は異性を見る目が命だからな」

 そう不敵に笑う。
 パルがガスターク、レーベラよりもずっと強いからこそゾフィは対戦を望んだのだった。
 他の者ならば皆殺しにされかねない、危険な相手だから。
 ゾフィはとっくに覚悟を決めていたのだ。
 しかしパルはそんなゾフィを一笑した。

「異性を見る目だと? 私はブラックアウルの亜種、オニキスアウル……雌雄同体だぞ。つまり貴様が得意とする、魅了付加攻撃は効かん」

 淫魔の魅了系は異性にのみ有効だからだ。

「ここは貴様の墓場にしてやろう」

 パルとゾフィの戦いが始まった。
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