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ネクストライフ 作者:相野仁

六章「ターリアント大陸擾乱」

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六話「東と西で」

「本当か?」

 ルーベンスはフランクリンからの報告に耳を疑い、思わず聞き返していた。
 まさかアウラニースがとっくの昔に復活していたとは。

「ええ、どうしますか?」

 フランクリンの質問にルーベンスは短くない時間考え込んでいたが、やがて答えた。

「仕方あるまい。まずベルガンダを潰せ」

「はい、その後はどこがいいですか?」

 母親が子供に何が食べたいのか問うような口調でフランクリンは尋ねた。
 答えるルーベンスの口調も何気ないものだった。

「ベルガンダと隣接している国全てだ。攻め滅ぼせ」

「了解」

 人類に危険極まりないやり取りを終え、ルーベンスはため息をついた。
 アウラニースは唯我独尊で天衣無縫だが、こんな展開は完全に想像外だった。
 正直なところマリウスと戦う為にアウラニースの力をアテにしていたのだが、協力してもらえない可能性そのものは予想していた。
 だからルーベンスはゲーリックとメルゲンを連れ、アルベルト達と別行動をしているのだ。

「まさかアウラニース様が既に復活しているとは……」

「我々に一言知らせがあってもよさそうなものですが」

 メルゲン、ゲーリックの順である。
 両者とも困惑を隠せないでいた。

「そういう方なのだ、アウラニース様は。側近のソフィアやアイリスもいつも振り回されていたな」

 ルーベンスの言葉には呆れ以外にも懐かしさが混ざった。
 魔人ソフィアと魔人アイリスはアウラニースの側近の上級魔人であり、ルーベンスとも顔なじみだった。
 どちらも倒されたという話は聞かないから、もしかしたら彼女達が主人を復活させたのかもしれない。
 事前にルーベンスに知らせるなど、彼女らの選択肢にあったとは思えない。
 顔なじみと言っても見かければ言葉を交わす程度で、積極的に情報を交換したり行動を共にしたりするような仲ではなかった。
 そして封印を解いた事を教えるかはアウラニースのその時の気分次第である。
 それくらいの事は理解していた。

「恐らく他の大陸にいらっしゃるのだろう。……この大陸が無事だからな」

 物騒な判断方法でルーベンスは結論を出す。
 アウラニースの恐ろしさ、強さは言葉ではとても表現出来ない。
 計画が狂ってしまったが、ルーベンスはその事を態度に出さず、指示を待つゲーリックとメルゲンに言葉をかけた。

「予定通り、フランクリン達が動いてからフィラートへ入るぞ」

「はっ」

 彼らはデカラビアを復活させる為にホルディアに向かっていて、今はランレオ国内にいた。
 旅人が国境を通過する際、素性確認をされるのだが三人は堂々と突破した。
 担当した兵士の目が節穴だと責めるのは気の毒だ。
 ゲーリックは家族や親友すら気づかぬくらいの変装がスキルで可能だし、ルーベンスとメルゲンはマジックアイテムで変装していたのだ。
 一流の魔法使いならばあるいは違和感を覚えたかもしれないが、それだけの人材が国境で素性確認などを担当しないのが人類国家というものである。
 マリウスにしろ他の者にしろ、まさか魔人が律儀に国境を通過するとは想像していなかった。
 もちろん魔人にとってこれは屈辱的なのだが、ルーベンスは別に人類の裏をかいたつもりはない。
 従来通りの方法でフィラートを通過した場合、マリウスやゾフィに察知される危険があると踏んだのだった。
 人間になる事が役目の一つであるゲーリックはともかくメルゲンはやや不満そうだったが、マリウスの危険性が理解出来ぬ程愚かではなかったらしく、何も言わなかった。
 マリウスがいる可能性は低いと知りながら、それでも安全の為にルーベンスはフランクリン達を囮代わり使ったのだ。
 仲間を大切にするルーベンスにとっては屈辱であった。





 ルーベンスとの通話を終えたフランクリンは、仲間達に向き直った。
 連絡を取るより先に一度合流していたのである。

「まずはベルガンダを潰し、その後は隣接国家全部を攻撃だそうですよ」

 レーベラが口笛を吹き、ガスタークが手を叩いて喜びを表現した。
 これまでが嘘のような過激な命令であった。

「ルーベンスさん、やけに好戦的だな。……まあいい加減我慢の限界だったし、いいんだけどよ」

 アルベルトはほんの一瞬だけ疑問を持ったが、すぐに打ち消した。
 彼はレーベラ並みに短気で好戦的なのだった。
 むしろ温和で冷静なフランクリンやパルが少数派である。

「俺、忙しくなりますねぇ」

 ガスタークも闘志を燃やしていた。
 自分が作ったアンデッド兵達が人類国家を蹂躙するというのは、想像しただけでも愉快で仕方がなかった。
 パルだけは相変わらずの無表情を決め込んでいたが、突然ピクリと眉を動かした。

「フランクリン様、アルベルト様」

 呼びかけの意味を二人の上級魔人は理解していた。
 遠くから大多数がこちらに接近してきている。
 十中八九、異変を察した人間達の兵であろう。

「ええ、ちょうどいい時に来ましたね」

「はっ、血祭りに上げてやるか」

 穏やかだった二人の魔人の気配が剣呑なものへと変わっていく。

「一国を潰すなんざ、チンタラしてたら時間を食う。俺らもやるが文句ねえよな?」

 アルベルトが問いかけたのは主にレーベラとガスタークである。
 事実上の命令を拒否出来るはずもなく、二人は頷いた。

「じゃあゾンビどもを下げとけ。俺とフランクリンで片づけるからよ」

 アルベルトは凶悪な笑みを浮かべた。
 巻き添えを食らいたくないパル、レーベラ、ガスタークは素直に城門の中へと退避する。
 遠くからベルガンダ正規軍が近づいてくる。

「フランクリン、どっちが多く殺るか競争しねえか?」

 とんでもない提案をされたフランクリンは眉を片方だけ上げた。

「構いませんが、ちゃんと細かく数えて下さいよ。いつも君はいい加減なんですから」

 お説教に近い意見にアルベルトは小さく舌打ちしながらも頷いた。

「分かってんよ。ズルして勝ってもつまらねぇからよ」

 その点に関してフランクリンはアルベルトを信用していた。
 いい加減で大雑把で行き当たりばったりで短気であっても、仲間に対して不正行為をするような性格ではないのだ。

「おい、褒めてんのか、それ?」

 アルベルトの疑問にフランクリンは穏やかに微笑んで答えた。

「君は信頼するに足る戦友です。それで充分ではありませんか?」

「……はぐらかされたような気がするけどまあいいや」

 フランクリンは口で勝てる相手ではない。
 アルベルトは早々に諦め、ベルガンダ軍の方を向いた。

「攻撃は公平なように同時にやるぜ?」

「ええ」

 ベルガンダ軍はようやく魔人に気づいたのか、一キロ程手前でようやく行軍速度を落としたが既に手遅れだった。
 アルベルトとフランクリンの攻撃の射程距離に入ってしまっていた。
 アルベルトは全身の魔力を練り込み、正拳突きのように右拳を突き出す。
 拳から放たれた衝撃波が空気を切り裂くような音を立て、ベルガンダ軍を襲う。
 ベルガンダ軍は何が起こったのか全く認識出来ずにいた。
 味方の兵士達が吹き飛ぶと同時に音が聞こえてきたのだった。
 アルベルトの得意技「ソニックショット」は原理としては人間の武術で言う「遠当て」と同じである。
 魔力を練ったものを飛ばし、触れずに敵を倒すのだ。
 ただ、威力や射程距離が人間のそれとは完全に別物であった。
 アルベルトの出身種族、グリフォンは魔力を衝撃波に変えるのが得意とする魔獣なのだ。
 一方のフランクリンは、普通に人間の魔法を使った。

「ちょっと合成してみますか。【インフェルノ】【クレイアサルト】【プラズマストーム】」

 闇系魔法と炎系魔法の合成魔法「インフェルノ」、土系魔法と水系魔法の合成魔法「クレイアサルト」、炎系魔法と雷系魔法の合成魔法「プラズマストーム」はいずれも限りなく禁呪に近い一級魔法とされる。
 詠唱省略で放ったにも関わらず、絶大な破壊力を発揮している上にフランクリンは汗ひとつかかずに平然としていた。
 ベルガンダ軍兵士達は黒い炎で焼かれ、土石流に飲み込まれ、プラズマで蒸発した。
 フランクリンの出身種族、スフィンクスはモンスターとしては例外的に優れた知能と強大な魔力を活かした魔法攻撃を得意とする。
 魔人ともなれば、人間の一流魔法使いが束になってもまとめて蹴散らされる程だ。
 ましてや上級魔人となれば言うまでもない。
 帝都救援の為にやってきたベルガンダ軍二十万はあっけなく全滅した。
 ……これより数日後、歴史からベルガンダ帝国の名は消される事になる。
 この国が救われるには、本気の魔人は強すぎた。





 魔軍が東で猛威を振るい始めていた頃、西ではミスラ、バルシャーク、ヴェスターの三カ国連合軍が快進撃を見せていた。
 国境の砦は占拠しそこねたものの、周辺の都市は支配下に治めていきつつあり、本国では早くも戦勝気分が広がり始めている。
 バルシャーク王ジェシカとミスラの大統領フレデリックは自身の声望の為に、それを否定せずにいた。
 ホルディア側の抵抗が弱い事が意外すぎたが、国内改革による混乱が大きいのだろうという声が多数を占めている。
 ジェシカもフレデリックも大して疑いを持っていない。
 人間とは失敗を犯す生き物だし、アステリアのように全て自分一人で考えて決める体制の場合、取り返しのつかない失敗もやらかしたりするものだ。
 臣下達は失敗の可能性を想定してもきっと諌言出来なかったのだろう、と予想していた。
 ちなみにこの点に関しては全くの的外れというわけでもない。
 アステリアは諫言を行う者を粛清したりはしなかったが、受け入れて方針を改める事もなかったのである。
 ただ連合軍も順風満帆だったとは言いにくい。
 略奪が全く出来ず、売り飛ばす奴隷や金品の類も手に入らなかった為に計画を修正する必要が出てきたのだった。
 住民がいないのでは税収も農作物の収穫も見込めないし、戦争中とあっては商人や旅人の類も寄り付かない。
 収益を確保する為には本国から民を入植させる必要があるだろう。
 だが、ホルディアに致命的打撃を与えたわけでもないのにそこまでするのはさすがに躊躇した。
 ホルディアが逆襲に転じた場合、軍どころか民に被害が出る可能性があるし、それは一番避けなければならない。
 そういう理由で「さっさとホルディア軍に打撃を」となっている。
 そして援軍の派遣が決まったのだ。
 チャンドラーが舌打ちをし、ガレスが頭を抱えている理由である。
 ランドルは王のジョンソンが喜ばずに慎重な態度を変えていない為、他と比べればまだマシだった。
 ただ、国内では慎重論よりも積極論が勝り始めていて、そういう意味ではあまり宜しくはない。
 バルシャークとミスラだけが都市を占領しているのが嫌なのである。
 王が絶対的権限を持っているとは言え、失望されたり無能だと思われても平然とするにはジョンソンはプライドが高かった。

「美味しい部分はきっちり抑えるよう、ランドルに命令を出せ」

 こうして多少の時間差があってランドルも他の二将の仲間入りをする事になった。

「現場との温度差を作り出す作戦か?」

 チャンドラーはガレスとランドルに問いかけてみた。
 この三人は急速に仲よくなりつつあるな、と思いながら。

「そしてその先は離間の策か? ありえんとは思うが、それだけの為に自国領を差し出す真似をするかな?」

 ランドルは豆のスープを飲んだ後、珍しく嫌味抜きで答える。

「まあな。我々と本国の仲が悪くなっても、別の将が来るだけだ。もちろん、その将相手なら勝算は増えるという可能性はあるが……」

 ガレスも鶏肉の串焼きにかぶりつきながら首をかしげる。
 結局この日も結論は出せず、定期的に情報交換をする事と索敵を怠らない事を約束しあって解散した。
 彼らはまだこの時、東での異変を知らなかった。
 つまり本国へ撤退する最大の好機を逸した事になる。
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