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ネクストライフ 作者:相野仁

四章「婚活戦争?(前)」

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十四話「一番は誰?」

 マリウスには三体の召喚獣がいる。
 訳あって一般的には存在を秘匿されている彼女らの名をゾフィ、アル、エルという。
 彼女らは「一番の召喚獣の座」を争って揉めた。
 発端はゾフィが「ご主人様のお褒めの言葉」と「ご褒美」を独り占めにしようと目論んだ事にある。

「私が最強で、お前達は私の部下だ。譲れ」

 元主人の迫力にアルとエルは怯みつつも、何とか睨み返す。

「お、横暴です。私達が仲よく、がご主人様のご意思です」

「そうですよ。ご主人様に言いつけますよ」

 アルとエルは圧倒的強者相手に手を組んで立ち向かう。

「ぬう……」

 ゾフィは黙ってしまった。
 エルは畳み掛ける。

「誰が一番かを決めるのはご主人様でしょう。私達が勝手に決めるのは僭越ですよ」

「むう……」

 ゾフィは悔しそうに唸る。
 どうにか言い返してやりたくてしばらくウンウン言っていたが、やがて手を叩いた。

「そうだ。一番ご主人様のお役に立てる者が、一番最初にお情けを受け入れられるというのはどうだ? 行為の順番を決めるだけならば問題あるまい」

 今度はエルが言葉に詰まる番だったが、ゾフィとは違って「そこまでして順番決めにこだわるのか」と呆れた為である。
 アルはおろおろしていた。
 エルはさほど悩まず結論を下した。

「よろしいでしょう。ただし、ご主人様から指定された場合は、それが最優先という事でいかがです」

「それは当然だな。アルはどうだ?」

 アルはおろおろしながらゾフィとエルを見比べ、コクリと頷いた。

「では一つずつ成果を上げ、ご主人様の判定を仰ごうではないか。私は王宮内の警備に当たる! さらば!」

「ああ、ずるい!」

 アルとエルが何か言うより早くゾフィは姿を晦ませた。

「じゃ、じゃあ私も!」

 アルも姿を消す。
 エルは黙って肩をすくめると最後に出発した。






「ふはは、目に見える成果、これが一番!」

 ゾフィは早くも勝利を確信していた。
 フィラートという人類国家の王宮の警備は今、弱体化していて外国の間者が潜入しやすい状態だった。

「まずは一匹」

 気配を消して影に潜み、背後から不意打ちで倒す。
 「気配遮断」と「シャドースイム」という二つのスキルの併せ技に、間者は声も立てずに倒れた。
 本来ならば情報を引き出してから人間達に差し出すわけだが、今夜は数が多いようだ。

(ご主人様がいらっしゃるのに潜入するとは阿呆揃いか?)

 ゾフィは首をひねる。
 それともマリウスとの接触が目当てなのだろうか。
 昨晩間者を仕留めたと報告した際、褒められたので今夜も張り切って仕留めていこうと思う。
 下位ながらも魔人の一角であるゾフィの索敵可能範囲は半径約五キロとかなり広いし、精度も高い。
 さすがに個体名までは分からないが、種族ならば特定出来る。
 しばらく索敵範囲内に不審な動きをする輩がいない事を確認し、警備に当たっている人間のところに向かった。

「侵入者どもだ、受け取れ」

 ゾフィが間者達を寝転がすのを、警備担当の宮廷魔術師達はやや険しい表情で見ていた。
 防御システムが機能しなくなった最大の原因が目の前の美女なのだから、心理としては当たり前と言える。
 防御力を支えていたマジックアイテムの大半は、ゾフィが侵入してきた日に破壊され修復不可能となった。
 日時が符合する以上結びつけて考えるのは自然だし、優秀な魔法使いである以上、ゾフィの強さもある程度は察知出来る。
 ルーカスの「マリウスに調伏され寝返った強力なモンスター」という説明を、複雑な顔で聞いた。

「ご苦労だった」

 感情のこもっていない言葉でゾフィをねぎらったのはニルソンだった。
 マリウスが使役しているのならば間違いないとは思っているが、だからと言ってそんなに簡単に割り切れるものでもない。

「生かしておいた方がよさそうだから生かしておいたぞ」

 ゾフィはそれだけ言うとまた警戒に戻る。
 マリウスが味方と認識している相手だからと言って馴れ合うつもりはない。
 主人の覚えを少しでもよくする為、新しい獲物、もとい敵の人間がやってくるのを待ち構えた。






 アルは困った末に王女達に接近する事にした。
 彼女らとの仲を主人が望むようにすればきっと褒めてもらえると思ったのだ。
 とは言え最初に話しかけるのを誰にするのかで悩んだ。
 すぐにバーラにしようと思った。
 キャサリンは幼すぎるので論外、ロヴィーサは仲よく出来る自信がないので却下だ。
 バーラは自分達の事を知っているし、頭も自分よりよさそうだから頼りにしていいかもしれない。
 条件次第ではいい味方になってくれると考えたのだった。
 バーラの寝室にこっそりと入り込む。
 目当ての人物は既にベッドの中で寝息を立てていた。
 一瞬夢の中に入ろうか、と思ったが、洗脳でもしに来たのかと誤解を招いては面倒だ。
 普通に起こして話を聞いてもらおうと一歩踏み出した瞬間、バーラは跳ね起きて身構えた。

「誰!? ……あなたはマリウス様の?」

 直後、アルの顔を見て怪訝そうにしたが、隙は一切見せない。
 魔力が全身の隅々にまで行き渡って迎撃準備は完了する。
 起きてから三秒未満で完全な戦闘体制になった事にアルは素直に感心した。
 温室育ちで世間知らず苦労知らずのお姫様とは対極の姿だ。

「ご主人様……マリウス様のアルよ。あなたに相談があって来たの」

「敵ではなさそうね」

 と言いつつ警戒を全く怠らないバーラだった。

「私、きっとあなたが思っているほどお人よしではないの。そこで話してくれないかしら?」

 アルは素直に頷いた。
 簡単に己を信じないのは、彼女にとって賞賛すべき事だった。
 とりあえずこの部屋に来るまでの経緯を説明する。

「なるほど。しかし私があなたに味方する理由がないわよね。個人的にはゾフィさんと仲よくするのが一番だし」

 この反応は予想していたのでアルは即座に答えられた。

「手を貸してくれたら色々教えていい。ご主人様が喜ぶご奉仕とか」

「マリウス様の!?」

 アルが思わず腰が引けてしまった程の食いつきっぷりだった。
 バーラは我に返ると咳払いをして、取り繕った。

(この娘、本当にご主人様が好きなんだ)

 淫魔の端くれであるアルはある程度感情は読める。
 だからバーラの想いが本物だと理解出来た。
 マリウスが好んだ事を少しずつ教えてやる。
 三人一緒、というのがあったと言うとバーラは意外そうな顔をした。

「マリウス様、一夫多妻には否定的だったはずなのだけど。召喚獣は別なのかしら」

「そこまでは分からない。私じゃ聞けないし」

 沈黙に包まれる。

「本音を言うと、マリウス様が一夫多妻に目覚めなくてもいいのよ。私を選んで下さるならね」

 一夫多妻云々はあくまでも己が選ばれなかった時の為の保険であって、その為に他の女を利用しているという。
 アルはバーラの告白を聞いても別に驚かなかった。
 かなうならば寵愛を独り占めしたいと願うのは女としてごく当たり前だ。
 そして盟約を結んだ以上は教えておくべき事がある。

「ご主人様、あなたの事はかなり評価していると思う。あなたの頑張り次第でひっくり返る」

「本当!?」

 バーラは全身の動きで喜びを露にしたが、ほんの一瞬で切り替えた。

「でも困ったわ。マリウス様のお気持ち、読みきれない」

「さすがに全部教えるわけにもいかないから。ごめんね」

 申し訳なさそうにうな垂れるアルに対し、バーラは初めて好意が混じった笑顔を向けた。

「それでいいわよ。じゃなきゃ、マリウス様の召喚獣失格だし、マリウス様に報告しなきゃいけないもの」

「え……?」

 アルは目を丸くする。
 バーラという小娘の腹黒さ、食えなさは予想以上だ。
 無邪気で天真爛漫だなんて褒め称えているフィラート人の、何という愚かしさだろうか。
 マリウスにも警告した方がいいかも、とかなり真剣に考えた。





 エルは貴族街に向かっていた。
 彼女はゾフィやアルと違い、淫魔としての能力は男達から金品を巻き上げる為に使っていた。
 それなのにゾフィの部下となったのは単純に淫魔としての能力が優れていたからだ。
 淫魔としての能力に限って言えば、将来的にはゾフィを凌ぐかもしれない。
 マリウスの相手をする事で着実にレベルアップしている。
 地位と財力がある男に貢がせてきただけあって、エルは人類国家の貴族という生き物をモンスターの割には理解していた。
 彼女に言わせればアシュトン一派は能力と地位権勢がつりあっていない愚者の典型である。
 しかし、粗略に扱うには影響力がありすぎるという。

(ならば影響力を殺せばいいじゃない)

 はっきり言ってマリウスにしてみれば有象無象だろう。
 でもマリウスはフィラートという国の中で生きていくつもりでいる。
 ならば敵対者の団結力を弱めたり、勢力を殺いだり、寝返らせたりする事こそが最上の手柄となる。
 エルはそう信じていた。
 アシュトンらが戦って倒すには強大ならば、まず弱体化させてやればよい。
 マリウスへの愚劣な策謀を潰すついでにだ。
 フィラート王の地位は安泰になり、巡ってマリウスの評判も上がる。

(目に見える手柄だけが手柄じゃないのよ)

 ゾフィとアルはどちらかと言うと武断派、あるいは短絡的だ。
 だから勝ち目は充分ある。
 エルはマリウスの悪評を流そうとする工作員を片っ端から昏倒させる。
 バーラやルーカス級の魔法使いならばまだしも、一般人を眠らせたり気絶させたりするくらい、造作もない。
 その場に居合わせた者達にも簡単な記憶操作も忘れない。
 次が親玉である貴族達だ。
 団結さえしなければ、それなりの人望さえなければ、彼らは各個撃破の対象でしかない。

(まずはマリウス様を貶めようとした報いを与えなきゃね)

 主だった者達の寝室に侵入し、拉致する。
 運搬先は勢力の領袖であるアシュトンの寝室だ。
 続いて全員の服を脱がせて、抱きつかせる。
 裸で抱き合う男達、の図の完成である。
 翌朝、起こしに来た侍女の黄色い悲鳴、続いて野太い悲鳴が聞こえたそうだ。
 そして彼らが「愛し合った」という噂、「マリウスに懸想し告白するも断られ、逆恨みした」という噂が階級を問わず流れた。
 フィラート国内ほぼ全域で大爆笑が起こった。
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