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ネクストライフ 作者:相野仁

四章「婚活戦争?(前)」

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九話「そして、動き出す」

 マリウスは白い世界に浮かんでいた。
 感覚としてはゾフィの「プレジャー」を受けた時に似ている。
 しかし警告は起こらず、これは攻撃ではなさそうだ。

(ゾフィ達の悪戯か?)

 構って欲しさにこんな事をしたのだろうか。
 しかしその考えはすぐに打ち消した。
 もしそうならばとっくに姿を見せているはずである。
 わざわざ敵の攻撃と誤認しそうな真似をする必要はない。

「……とう」

「ん?」

 何やら声が聞こえた気がした。

「……れて……とう」

 やはり声が聞こえる。
 何やらお礼を言われているような気配がする。
 聞き取ろうと集中した時、マリウスは目が覚めていた。

「何だったんだ、今のは……?」

 答えはなかった。









 ボルトナーのキャサリン王女の一行がフィラートにやってきた。
 脳筋親馬鹿王のせいで、なかなかの大人数である。
 これはフィラートとボルトナーの仲が良好だから出来た事で、たとえばランレオのバーラ一行が同じ事をやった場合、「我が国を信用出来ないのか」と揉め事の種になる。
 人類国家同士というものは実に微妙で面倒なのだった。

「は、初めまして。ボルトナー王が娘、キャサリンと申します」

 先日のバーラと比べたらたどたどしい口上と、ぎこちない礼をその場の者は微笑ましく見守っていた。
 王族ならば年齢は言い訳出来ないはずだが、キャサリンは見る者の保護欲を刺激する特別な空気をまとっているようだった。
 マリウスも己が優しい気持ちになっているのに気づき、「俺はロリコンじゃない」と慌てた。

「えと、先日わたくしを救って下さったマリウス様に是非一言お礼を申し上げたいのですが……」

 フィラート人の視線がマリウスに集中し、キャサリンはそこへ目の前に歩いていく。

「あ、あの、マリウス様でいらっしゃいますか」

 甘えると言うよりは縋るような目を向けられ、マリウスは頷いてフードを取った。
 その場に居合わせた殆どの者にとって初見であり、一同の視線は好奇心の色が強かった。
 黒い髪に黒い目はターリアント大陸では非常に珍しい。 

(素敵な目の色です……)

 キャサリンにはとても眩しく見えたが、三割くらいは恩人補正であろう。

「初めまして、マリウスと申します」

 フィラートで過ごすうちに身につけた礼儀作法にのっとって礼をする。

「キャサリンです。先日は危険なところを救って頂き、誠にありがとうございました」

 キャサリンは丁寧に礼を述べた後、背伸びをしてマリウスの頬にキスをした。

「はしたないですけど、お礼です」

 えへへ、と恥ずかしそうに微笑んだ顔はとても愛らしかった。
 マリウスは柔らかくてみずみずしい不意打ちに呆然となる。
 物語だと「お約束」という事もあってもしかしたらと思ってはいたが、まさか今とは。
 場所が場所だけに完全に想定外だった。
 ふわりと漂ったいい香りと唇の感触を思い出しかけ、「俺はロリコンじゃない」と踏みとどまり、フードを被った。
 周囲は相変わらず微笑ましくキャサリンを見守っていて、マリウスは自分が過敏に反応しすぎていると悟った。
 十歳でも結婚出来る世界観なのだから、「幼女愛好」という概念そのものが存在しないのかもしれない。
 一方のキャサリンはと言うと、狙い通りの展開と結果で満足していた。
 「してやったり」という言葉が浮かぶにはやや幼かったが、彼女もまた脳筋の家系の一員で、獲物をしとめたかのような感覚だった。






 またまた歓迎パーティーが開かれる事となった。
 バーラが来てからまだほんの数日しか経過していないとあって、マリウスは
半ば呆れながら参加した。
 「バーラと同時にやればよかったのに」などと思ったが、これは立地的に不可能だ。
 ボルトナーからフィラートへ来るには、ランレオからよりも何日も余計にかかるのだから。
 それに同時にやったりすると「歓迎に手を抜いた」と見なされ、非難の対象にもなる。
 フィラートのような大国がランレオのような仲のよくない国相手にやればなおさらだ。
 バーラの時と違うのは、バーラがランレオ代表としてパーティーに参加している点だろうか。
 キャサリンの立ち振る舞いはやはりバーラよりもどこか幼さを感じさせたが、まず及第と言ってよかった。
 そんなキャサリンをバーラは内心苦々しく思いながら眺めていた。

(私より先にマリウス様にキスするなんて……)

 私怨全開である。
 噂話が聞こえてきた時は、ハンカチを噛みたい衝動に駆られた程だ。
 人目を憚って自重したにすぎない。
 いざキャサリンがバーラに挨拶しに来た時は恨みをおくびにも見せず、「天真爛漫で親しみやすいお姫様」という評判を壊さなかった。

「私もフィラートにしばらく滞在する予定です。仲よくして下さいね」

 そう言ってにっこりと微笑みかけると、キャサリンも目に目えて安堵した。
 ボルトナーとランレオの関係は微妙である。
 ボルトナーはフィラートと仲よしだが、ランレオは敵視していた。
 当然の如くボルトナーの事も快く思っていない。
 だからキャサリンも、と言うよりは周囲の大人達もランレオの人間達との関係は憂慮していた。
 国王は「俺のキャサリンちゃんを泣かせたらぶち殺す」などと鼻息を荒くしていたが、そんな事が出来るはずもない。
 大義名分になりえないし、そもそもランレオの方が大国なのだ。

「は、はい。こちらこそお願いします」

 二人の王女はにこやかに握手を交わした。
 バーラがボルトナーにおけるランレオ人像をいい意味で否定出来る、きちんとした人間だった事にお供達も胸をなで下ろした。
 これで親馬鹿で脳筋な王をなだめるのに多大な労力をかけずにすむ、と。
 バーラがキャサリンの事をあまり面白く思っていないと気づいた者は、会場内にいなかった。

「よろしければ魔法話、あなたもいかが?」

「えと、ありがたいお誘いなのですが、わたくし魔法の素養がほとんどなくて……」

 キャサリンは申し訳なさと恥ずかしさが混ざった顔で、目を伏せた。
 可愛らしい外見からは想像も出来ないが、彼女もまた脳筋王家の一員なのであった。
 そんな年下の王女に対してバーラは優しく微笑みかける。

「大丈夫よ。魔法の練習だけでなく、対魔法使いの戦い方とかもあるし」

 それならばあなたにも意義はあるでしょう、と言われたキャサリンは頷く。
 ボルトナー人にとって天敵とも言える魔法使いと戦う方法は、是非とも知りたい。
 そして故郷の人々に教えてあげるのだ。
 父王はそのあたり頑固だから、多分母から廷臣達に伝わる事になるだろうけれど。

「それにマリウス様と一緒にいられるしね」

 悪戯っぽく囁かれて、顔も耳も真っ赤にして下を向いてしまった。
 母に教わった通りにやったものの、分かりやすかったのだろうか。
 そしてどうしてバーラ姫は自分に対して親切なのだろう。
 ランレオはボルトナーとも仲よくするつもりだと言う意思表示なのか。
 自問してみても答えは出ない。
 頬や頭が明らかに熱くなって、ぐるぐるしてくる。

(ふ~ん、やっぱり……)

 キャサリンの態度でバーラは自分の考えが正しかったと確信した。
 と言っても一国の王女が公衆の面前でキスをするなど余程の事なので、予想出来たのはむしろ当たり前と言うべきかもしれないが。
 実のところランレオはボルトナーに対して何とも思っていない。
 ただ、十二歳の少女に親切しないと自身の評判を損なうだけ、と計算しただけの事である。
 それに目の前の少女が「バーラの敵」となりうるのならば、近くにいて観察出来る状況を作った方が得である。
 天真爛漫でよこしまさとは無縁にしか見えないバーラも、この程度の事は考えるのだ。
 こうしてバーラとキャサリンの一次接触は表面上は友好的に終わった。

「初めまして、キャサリンです」

 バーラは知り合った人の好感度を上げイベント、もといお喋りに戻ってよかったが、キャサリンの挨拶回りは続く。
 そのうちにロヴィーサと出会った。
 二人の王女は淡々と挨拶と社交辞令を交わし合ったが、バーラの時のような和やかさはなかった。

(何だかお人形さんみたい)

 キャサリンはそう感じ、戸惑いを隠せなかった。
 同盟国の王女なのだから、もっと気さくな反応を期待していたのだ。
 ランレオのバーラ姫のように。
 幼さ故の甘えがあったのかもしれないが、ロヴィーサとバーラを取り替えればぴったり想像通りになる。
 ただ、それを引きずらないある種の強さをキャサリンは既に持っていた。
 無難に挨拶をすませて次へと行く。

「先程はどうもでした、マリウス様」

 マリウスと対峙した時、今までとは違う種類の緊張を孕んでいた。
 マリウスも薄々は察して和やかに挨拶をする。

「えと、ところでボルトナーの羊肉や牛肉はどうだったでしょうか?」

「素晴らしかったですよ。柔らかくて、旨みが凝縮されてて」

 自国の特産品が褒められて嬉しくなったキャサリンは更に質問を続ける。

「羊肉や牛肉以外は何がお好きなんですか?」

「そうですね。カカオ茶やコカトリスの肉、野菜も好きですよ」

「ほぇ、わたくし、お野菜苦手だから羨ましいです……」

 二人はどこか甘酸っぱい雰囲気を漂わせながら、ほのぼのとした会話をしている。
 それをパーティー参加者の大半は微笑ましく見守っていたのだが、例外はいた。
 「マリウス様といい感じで話す為の会話集」を頑張って考えていたのに、キャサリンに先を越されてしまったバーラである。

(む、むきーっ)

 バーラは己が考えていた事と望んでいた展開そのものを先にやられ、かなり本気で悔しがった。
 彼女の中でキャサリン王女は「敵」として認識された。
 少なくともロヴィーサよりも手強い。
 バーラの頭脳は「キャサリン対策」を練るべく、回転し始めた。
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