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ネクストライフ 作者:相野仁

四章「婚活戦争?(前)」

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八話「ザガンが死んで」

 魔王と戦って危機感を煽ろう、という作戦は不発に終わってしまった。

(魔王のくせに弱いぞ)

 マリウスは八つ当たり的かつ利己的な怒りを覚えたが、どうしようもない。
 幸いバーラは空気を読んで「ランレオに注意を呼びかける手紙を書く」と約束してくれた。
 ルーカスもとりあえず魔王復活自体は事実だと、報告する事にした。
 魔王復活とそれを狙って魔人が動いている事は皆信じてくれるが、危機感はやはり皆無に近い。
 マリウスが脱力してしまったくらいだから無理ないかもしれない。
 どの魔王も弱くて取り越し苦労ですめばいいのだが……モンスターも魔人も軒並み弱い事を考えると心配しすぎている気がしてくる。

「これが魔王の心臓です」

 ベルンハルト三世に差し出すと、差し出された方は及び腰になりながらも、まじまじと見つめる。

「四つ揃えると滅魔の武器が作れるという伝説の魔王シリーズか……」

 ゴクリと唾を飲み込む。
 エキストラアイテム「滅魔の武器」はその名の通り、魔属性に対して絶対的な攻撃力を誇る。
 何せ修正前はただの上位プレイヤーがただの一撃で大規模戦闘ボスの魔王を倒せたくらいだ。
 ゲームバランスを考慮しないエキストラアイテムを並べていた運営が唯一修正した、バランスブレーカー・オブ・バランスブレーカー。
 と言えば聞こえがいいが、実のところただの欠陥品、それが滅魔の武器シリーズだ。
 皆の反応から察するにこちらの世界でも凄いアイテムなのだろう。

「予が持っていても奪われかねんしな。マリウス殿が持っていてくれ」

「了解しました」

 マリウスはしまうと滅魔の武器シリーズについて尋ねた。

「メリンダ=ギルフォードの伝説の一つにあるが、笑うしかないくらいの強さだぞ。メリンダの伝説でなかったら作り話としか思えぬ程にな」

 メリンダ=ギルフォードは確かに人類史上最強クラスの魔法使いだったが、それでもアウラニースには到底敵わなかった。
 しかし命からがら逃げ帰った後、魔王の心臓、魂、牙、爪を揃えて滅魔の黒杖を手にし、アウラニース軍を一人で全滅させ、アウラニースをも撃破したという。
 余りの強さにメリンダは振り回されてしまい、アウラニースを滅ぼすだけの力は残らなかったという。
 アウラニース封印後、メリンダは強すぎる武器を残す事を危惧し、破壊してしまったという。

「昔は七つあった大陸が今では六つしかないのが、メリンダとアウラニースの戦いの結果だという話だ」

 大陸一つが跡形もなく消し飛んだというわけで、武器を破壊したメリンダが責められなかった理由である。
 もっともこの逸話が半信半疑で伝わっているのも同じ理由なのだが。

(こっちでの方がやばくね?)

 運営が修正する前の性能を持っている可能性は高そうだ。
 もしかしたらより強くなっているかもしれない。
 アウラニースが滅魔の武器でないと倒せない可能性があるのは頭が痛い。
 とりあえずザガンのように復活する前に攻撃をしかけて倒してしまうのが一番だとマリウスは思った。
 魔王を倒す為とは言え大陸を消し去るなんて、いくら何でも寝覚めが悪すぎるだろう。
 もっともターリアント大陸に存在すると言われる魔王は後二体で、うち一体がアウラニースなのだから、滅魔の武器を作るのは非現実的だと言わざるをえないが。

「とりあえず各国には通達しておこう。マリウス殿が魔王ザガンと、魔王復活を目論んでいた魔人を倒したとな」

 ザガンが滅んだ事で魔人達がどういう手段に出てくるのか、油断は許されない。
 魔人には伝わらないようにしたいのだが、ゲーリックが人間に化けて潜入している以上、漏れない事はありえないだろう。
 ゾフィの情報によるとまだ何体もの魔人がいるし、即ち数万の軍勢を用意する事は可能という事になる。
 モンスター十万よりも魔人一体の方が厄介ではある。
 上級魔人ともなればなおさらだ。
 フィラートにはマリウスとゾフィがいるので、滅多な事はないだろうが。

「ああ。マリウス殿。貴殿が助けたキャサリン王女が、礼を言う為に来ると使者が来たぞ」

「王女自らですか?」

 頷く国王にマリウスは嫌な予感がする。
 多少得たこちらの世界の常識だと、王女ともなると礼状を使者に持たせて金品をつければ充分のはずだ。

「ボルトナーとは仲よくやっていきたい。申し訳ないが、礼は丁重に受け取ってくれないだろうか」

 マリウスは素直に了解した。
 いたいけな少女に意地悪をする趣味はない。
 まさか十二歳の少女までが色恋沙汰外交要員として来るという事はないだろうが……。
 そんなマリウスの思い違いを指摘したのは私室で茶を淹れてくれたアイナだった。

「一国の王女が十歳で嫁いだ例はいくつもありますよ?」

 むしろ身分が高い者程結婚が早い、という。
 平民の結婚適齢期は十八歳からだそうだ。
 そんな情報を聞いたマリウスは自分でも意外なくらいに驚かなかった。
 無意識下では想定していたのだろう。
 でもそうなると、ロヴィーサ、エマ、バーラ、アステリアといった王族の女性達は行き遅れという言葉が当てはまってしまうのではないのか。
 声には出さなかったが、態度には出ていたのだろう。
 アイナはたしなめるような言い方をした。

「ロヴィーサ様、エマ様、バーラ様は例外的です。悪い言い方をいたしますが、特にとりえのない方が早いのです」

「後、口はばったいですが、私のように王族や大貴族の方々にお仕えする者も遅くなりがちですね」

 王族や大貴族の侍女は皆貴族の女性であり、箔をつける親が多い為に競争率は凄まじい。
 アイナのようにロヴィーサの側にいられるという事は、それだけの生存競争に勝ち抜いた、非常に優秀な少女となり嫁として価値も高騰する。

「エマ様に至っては他国の王族が頭を下げて縁談を申し込んでくるような領域ですよ?」

 親や家が鼻高々で強気に出られるし、少々年を食っても何の問題もないというわけだ。

(エマさん、美人で何でも出来るからなぁ)

 おまけに戦闘力も侍女にしては強いと言える。
 嫁の貰い手に困らないだろうな、とマリウスでも思う程だ。

「ちなみにアイナの年は?」

「十六です。女性に年を聞くのは失礼なんですよ?」

「聞いても失礼な年じゃないだろうに」

 おどけて答えたアイナにおどけて返しておいた。

「そう言えば一夫多妻だけど、この国は誰々がやっているんだ?」

 マリウスの疑問にアイナは記憶を掘り起こしながら答える。

「えーと陛下もですし、宰相様にルーカス様、ニルソン様、グランフェルト様、ヤーダベルス様、それから……」

「いや、もう充分だよ」

 つまり重鎮全員で、尋ねたのが馬鹿馬鹿しく思えた。
 一夫多妻に抵抗を示したマリウスに対して、皆があんな反応だったのも頷ける話だった。







「ぶっ」

 アステリアは紅茶を噴き出すという、淑女としても国王としても失格な行いをやってしまったが、誰も咎めなかった。
 フィラートの間者よりマリウスが生き埋め魔王を葬り去ったという報告が行われた為である。

「ま、魔王……魔王を、く、くくっ」

 アステリアは笑いを堪えるのに必死だった。
 ザガンと言えばターリアントでも悪名高き魔王なのに、何とも珍妙なやられ方をしたものだ。

(謹んでお悔やみを申し上げよう……)

 ほんのわずかだがザガンに同情するゆとりも生まれたが、アステリア以外の者は全員が放心状態だった。

「え……?」

「い、生き埋め……?」

 ホルディアという大国の中枢にいる者達でも例外ではなかった。
 一瞬で精神の再建をしたアステリアは、今後の対策に頭を高速で回転させる。
 魔人達が今回の件をしるのは恐らくまだ先の事だ。
 彼らは情報の共有を軽んじ、伝達網を整備していない。
 自分たちの力に驕りがあるのだった。
 最初に知るのは恐らくはゲーリックで、それからルーベンスに伝わる事となるだろう。
 その時間差をいかさねばならない。






 ランレオ王ヘンリー四世はバーラからの手紙を読んで唸った。

「魔王復活? 魔王の心臓……?」

 笑い飛ばしたい事ばかりだが、娘の筆跡で書かれたものではそうはいかない。
 娘は色々と残念な部分があるが、決して愚劣ではない。
 早急に対策を練る必要があるだろう。
 ただちに軍の上層部を召集し、強めの警戒を敷くように通達を出した。
 下級魔人ならばともかく上級魔人はランレオ軍だけでは厳しい相手だ。
 フィラートやセラエノと連携して事に当たりたいものだ。
 こうなると講和派は先見の明があったと言えるかもしれない。
 あくまでも結果論的には。







「魔王復活か……魔人どもめ、予の可愛い可愛い大事な大事なキャサリンを酷い目にあわせおって」

 ボルトナー王は魔人への怒りを再燃させた。

「いかがいたしましょう。荒唐無稽なのにも程があるかと存じますが」

 強い困惑を浮かべる重臣達を一喝する。

「たわけ、フィラート王は夢の世界に生きる御仁ではない! そもそもだ、黙っていた方が利益が大きいではないか。あの国にはマリウス殿がいるのだからな」

 王の言葉に一同はなるほどと頷いた。
 皆が脳筋に近かった。







 セラエノ王デリクもフィラートからの通達に唸った。

「魔王の復活か……やはり魔人達はそれが狙いか」

「陛下、如何いたしましょう」

「我が国に該当地はない。あれば数十年前の段階で魔王は復活しているだろうからな。となるとランレオか、ベルガンダか? いずれにせよ、救援の用意はせねばなるまい。魔王は国や価値観を超えた、人類の敵だ」

「ははっ」

 セラエノも対魔王、対魔軍を想定して動き始める。
 しかし人間の愚かさか、全ての国が同調したわけではない。


「はは、フィラートは一気に大陸の盟主になろうという腹積もりか」

 ベルガンダは信じなかった。

「何故今頃になって、なのか説明してもらわないとな」

 ヴェスター、ガリウス、バルシャークは半信半疑だった。
 このあたり、フィラートへの好感度が影響していたりする。
 ランレオがすんなり信じたのはバーラのおかげだし、ガリウスが信じないのは王のせいだが。
 ただ、ガリウス王はそれでも念の為に国内を調査しようと思った。
 友好国であるフィラートへの義理立てみたいなものだ。
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