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ネクストライフ 作者:相野仁

四章「婚活戦争?(前)」

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二話「やってきました」

 ボルトナー王国はキャサリン王女を送り、マリウスに直接礼を言いたい。
 そして願わくばそのままフィラートの優れた文化を学びたい。
 と願い出た。
 ヴェスター王国は軍の教官であるカタリナを送り、フィラート軍再編成に協力をしたいと言って来た。
 ランレオはバーラ王女を親善大使として派遣し、ランレオの魔法文明を伝える事で両国の仲を改善したいという主旨の公文書を送ってきた。
 ……このあたりはまだまともで、もっと露骨で酷いものもあった。
 フィラート王ベルンハルト三世は、想定の範囲内とは言え露骨な展開に頭を抱えたい心境だった。
 申し出を全てはねつけたとしても、今度は裏で蠢くだけだろう。
 それに対して「かかって来い」と言うにはホルディア戦で受けた被害が大きすぎた。
 今は王宮の防御能力を下げざるをえない程、弱っているのだ。
 でなければマリウスに接触した間者は捕獲出来ただろう。
 つくづくフィラートにとって忌々しい存在である。
 そのホルディアはと言うと、国交修復の為に努力をしようという手紙を送ってきただけで、今回の事態に関してはどうやら静観を決め込むつもりのようだった。
 セラエノもホルディアと同じだ。
 ……結局、ボルトナー、ランレオの提案を受け入れて他は断る事にした。
 全ての国の提案を受け入れてもマリウスを怒らせる結果になりかねなかったからだ。
 諸外国には主従関係がはっきりしているように装ったが、現実は違う。
 マリウスはロヴィーサをさらって逃げ切れるだろうし、この国を簒奪する事さえも可能なのだ。
 見方を変えればマリウスとの仲が良好な限り、他国に対して絶対的優位に立てる。
 だからこそ一番注意をせねばならないのは、マリウスとの離間工作だろう。
 この点に関しては他の九カ国が手を組む可能性すら念頭に置いておかねばならない。
 弱体化した諜報部がどれだけやれるか不明瞭だが、やってもらわなければならなかった。
 これはマリウスという人間を狙った戦争であった。
 だからベルンハルト三世は

「これ以上マリウスの論功行賞を引き伸ばす訳にはいかぬ」

 疲れた顔をして決意を示したし、重臣達も似たような顔をして頷いた。
 決して賞を与える事を惜しんでいたのではない。
 ただ「どんな褒賞ならば正しく報いた事になるのか」という点で揉めに揉めた。
 魔演祭で優勝したのならば勲章を授ければいいし、砦奪還に功があるのならば金品財宝や上等な武器を与えればよい。
 しかし一人で砦を奪還し将以下数万の捕虜を得たとか、一人で魔人を倒したとか、前例が思いつかぬ快挙はどうすればいいのか。
 あいにくメリンダの存在は大昔すぎて、彼女の功績にどう報いたのかという事に関して記録が残っていなかった。
 論功行賞が正しく行われない事は国が荒れる一歩となりえるので、慎重にならねばならない。
 実のところ国賓魔術師としての給料や創案権の支払いが遅滞している原因もこれだ。
 給料は払うが論功行賞はもう少し待って欲しいという、よく言えば柔軟な、悪く言えば恥知らずな意見はある事はあったのだが、「ではお前が言え」と言われると沈黙してしまう、それがフィラートの重臣達だった。
 しかしそれも限界まで来ているとベルンハルト三世は感じた。 
 マリウスがベルガンダ帝国から勧誘されたと、本人から報告されたのだ。
 「今度からは捕まえてくれ」と言っておいたが、今度からは別の手段でくるだろう。

「マリウスの処遇は過去最大のものとする。すなわち、伯爵位と領土、勲一等だ」

 王の宣言に重臣達はどよめいた。
 フィラートにおいて平民から成り上がった貴族は幾人もいるが、いきなり伯爵となった者はいない。 
 ただ、これより前例のない国賓魔術師でもあるし、マリウスの実力からは低すぎると見る事が出来る。
 これに関しては上級貴族達の反発を予想した為だ。
 彼らの感情も奇妙なところがあって、実力は認めても一足飛びに上級貴族の仲間入りをする事は許そうとはしないのだ。
 彼らを無視するのは困難だし、力で抑えようとしてもアシュトン一派の勢力を増大させるだけだ。
 抑圧された不満が爆発するとすれば、マリウスがいなくなってからであろうし。
 それはさておき、やっとの事でマリウスへの恩賞は決定した。
 本来ならばロヴィーサとの仲も進めておきたいのだが、やはり貴族の反発は怖い。
 アシュトンらのような者達ばかりなのなら、いっそ暴発させて……という選択肢もありなのだが、それは少数派で多数派はこちらに好意的かつ協力的なのである。
 友好的な味方をわざわざ敵に回すのも愚かだ。
 そもそも「論功行賞」というものの存在がすっぽり抜け落ちているマリウスが知る由もなかったが。
 バーラ一行がやってきたのは、マリウスに褒美が与えられた後の事である。







「初めまして。ランレオ王ヘンリーが息女、バーラと申します。この度は親善大使として貴国に参りました。未熟な若輩者につき、至らぬ部分も多々あるかと存じますが、ご寛恕たまわりたく伏してお願い申し上げます」

 バーラは堂々とした態度で優雅さと上品さと丁寧さを融和させた礼を行った。
 マリウスにはよく理解出来なかったが、皆が感銘を受けたような反応なのでこの世界的には完璧だったのだろうなと思った。
 もっとも、感心は表面だけのもので、内心忸怩たる思いを持つ者もいる。
 ベルンハルト三世やルーカスらがそうだ。
 ロヴィーサと妍をを競え、身分でも対等な相手が出現したのだ。
 今のフィラートでは突っぱねたら害の方があるからやむを得ないのだが。
 式典はつつがなく終わり、歓迎パーティーへと移った。

(またパーティーか)

 マリウスは呆れたが、単に国の勢威を他国の人間に見せるだけでなく、食材や物流の業者に仕事を発注する意味もあるのだから仕方ない事ではあった。
 ロヴィーサは普段なら白か青あたりの清楚さを強調するドレスなのだが、今日は赤で体のラインが露出する、華やかさを押し出したものを着ていた。
 これはロヴィーサの趣味ではなくエマの選択である。
 マリウスが他の女に目を奪われる可能性を摘み取ろうというのだ。
 いつもおろしていた髪も後ろに一くくりにして束ね上げて白いうなじを見せている。
 その狙いはまんまと当たり、マリウスは無意識のうちに唾を飲み込んでしまったくらいだ。
 フィラートに警戒心を抱かれてしまったバーラはと言うと、着慣れた水色のドレスで肌の露出が控えめな清楚路線だった。
 知らない相手がほとんどなのだから「いつもの」が一番というわけである。
 バーラはその気さくで天真爛漫な人当たりで、フィラートの人間の懐に飛び込むのに成功した。
 警戒していても、若くて美しい娘に自尊心をくすぐられて悪い気がする男はいなかった。
 鼻の下を伸ばさなかっただけ上出来である。
 そんな様子をマリウスは遠巻きに見ていた。
 こっそり魔法を使って確認したところ、バーラがフィラートを褒めているのも友好的なのも本心だった。
 ランレオの為に仲よくしておきたい、と思っているがこれは王女の立場を考えれば当然と言うべき事にすぎない。
 フィラートに敵意を持っている、という風に聞いていたマリウスにとってはかなり意外な事である。
 もっとも、あくまでもバーラが例外なだけで、お伴連中は敵意はともかく「ライバル心」と呼べるようなものは持っているようだった。
 一方でフィラートの重鎮達の心に飛び込む事に成功したバーラは、私心を殺してあくまでも大使として振舞っていた。
 マリウスとの会話は挨拶込みの必要最小限で我慢した。
 与えられた役目が役目なのでマリウスと親しくなる機会は後で来ると踏み、現段階では「外堀を埋める」事に専念していた。
 バーラが「悲願」を達成するにはフィラートの人間の賛同が不可欠だからである。
 ついでにあわよくば己の競争相手になりそうな女がいるのか聞き出そう、という狙いもあった。
 そしてうち一人がポロリと「王はロヴィーサ姫との仲を望んでいるのでは」と漏らしたのを聞き逃さなかった。

(ふ~ん。ロヴィーサ王女かぁ)

 バーラの記憶の中に当然ある名前である。
 彼女としては既に覚えている王女や貴族の娘より、情報が入りにくい上にマリウスと同じ階級だと思われる平民について知りたかったのだが、これはこれで貴重だった。
 一国の王女で父親が乗り気とすると、充分強力な競争相手になりえる。
 ついでに目の前の男も「重鎮の割には口が軽い」と記憶しておく。





 バーラは好評を勝ち取って歓迎パーティーを終え、与えられた部屋に従者達と共に入った。

「悪くはない出だしと言ったところかしらね」

 分析を慎重にする。
 彼女は少しも楽観していなかった。
 今までこちらが一方的に敵視していただけとは言え、良好とはとても言えない間柄だったのだ。

「あなた達もくれぐれ粗相はしちゃダメよ」

 従者達に釘をさす事も忘れない。
 彼らはフィラートへの敵意が少なく、人格でも信用出来る者達から選抜されたのだが、一抹の不安は拭えなかった。
 それだけバーラを筆頭とする講和派が苦労してきたという事だが。

「ところでマリウス=トゥーバンの印象は?」

 バーラの問いに従者達は顔を見合わせてから答える。
   
「あまり印象に残らない人間ですね」
  
「凄まじい存在感でしたが……」
  
 見事に評価は分かれた。
 どうやら魔法使いとしての素養が高いか否かで異なるようだった。 
 バーラはどう思ったのかと訊かれて

「匂いがほとんどしなかったのよね」

 と答えた。

「に、匂いですか……?」

 誰かが引きつった声を出し、侍女が急いでフォローした。

「もしかしたら香水をつける習慣のない国の出身なのかもしれませんね」

「あ、ああ、なるほど。マリウスの謎に迫る為には素晴らしい着眼点です。さすがは姫様」

 あっさりと騙された騎士らに侍女は哀れに思ったが、態度には出さなかった。
 彼らがバーラに対して抱く幻想が砕け散らない事を、彼らの為に祈ってやりたかった。 







「つまり、ベルンハルト三世はマリウスを制御し切れてはおらぬという事だ」

 セラエノ王デレクは断言した。

「断言出来ますか?」

 宰相の問いにデレクは自信たっぷりに頷く。
 魔演祭で魔人と戦った際に確信出来た。
 あの状況ならば自国の者達だけを逃がし、他の者達は巻き込んで皆殺しにするという選択が正しかった。
 大陸の王達をまとめて葬り去り、魔人に罪を擦りつける最高の機会であったのだから。

「制御しておれば今頃予は生きてはおらぬ」

「しかし今のフィラート王は穏健派でございましょう?」

 質問を発したのは若い文官だった。

「穏健な王である事と、他国の王を殺せる時に殺すのは矛盾ではないぞ」

 それこそが国家というものの闇なのかもしれない。
 温和な善人であったとしても、一国の王であれば非情な決断を迫られる事は日常的ですらある。
 セラエノはともかくホルディアやランレオの王を始末しておけば、フィラートは大いに恩恵があったはずだ。
 そしてベルンハルト三世はそれを実行するのに躊躇せぬ王だ。
 己が生きていない、という表現を用いたのはマリウスが細かい魔法制御は苦手だと踏まえての事である。
 だから皆が無事なのはマリウスが独断で行動した結果と断定してよい。
 文官も若くして起用されただけあって、言外に含まれた事を理解したようでそれ以上何も言わなかった。

(まあ予の手にも余る傑物であろうから、敵対せぬ限り構わぬのだが……)

 過ぎた力は破滅の原因でしかないとデレクは考えているのだ。
 ただどういった展開になるのか監視しておく必要はある。
 情報収集や潜入工作にも長けた者を数人、それぞれ異なる経路で潜入させる事にしたのだった。
+注意+
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