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ネクストライフ 作者:相野仁

三章「魔の足音」

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十話「第三競技(後)」

『いよいよ最終決戦、シューティングロワイヤルの決勝! まずは可憐で強いお姫様、バーラ選手!』

 バーラは毎度のように投げキッスをしながら前に出る。
 男達の野太い大声援が起こる。

『東の雄、安定の強豪、優勝候補ヘムルート選手!』

 ヘムルートは淡々と前に出る。
 男女満遍のない歓声が起こる。

『戦略性こそが真骨頂か、カタリナ選手!』

 カタリナは一礼して前に出る。
 男達を中心に拍手が起こる。

『そして空前絶後のびっくり箱、マリウス選手!』

 マリウスは黙って前に出る。
 フィラート関係者だけが拍手を送る。

『さあ、どういった予想をしますか、フェリックスさん』

『単純に考えれば万能型のバーラ選手と火力型のマリウス選手の一騎打ちだけどね。みすみすそれを許す二人じゃここに残ってないよね』

『はい。ヘムルート選手は優勝候補の一角ですし、同じく優勝候補のルーカス選手を撃破してきました。カタリナ選手は優勝候補のフィリップ選手とウォーレン選手を破っての決勝です。どちらも前評判を物ともしないのは既に証明済みですね』

 誰かが息を飲む。
 ワイスが息を大きく吸って宣言する。

『それでは、シューティングロワイヤル決勝、始め!』

 マリウスは全力で魔力弾を作成する。
 その数は二十八。
 潰しておかねばならないバーラに十二、ヘムルートに十、カタリナに六を割り振って放った。
 バーラは二十の魔力弾で応戦するも全てあっさり粉砕される。
 しかし魔力弾の軌道は微妙にズレてしまい、バーラは体を揺らして回避、一発をわざと腕で受ける。
 威力は減殺されたはずなのに、芯まで響く。

(さすがマリウス様!)

 バーラは戦意を萎えさせるどころか激しく燃やす。
 カタリナ、ヘムルートも似たような対処法でマリウスの攻撃を無傷でしのいでいた。

(制御も狙いも甘い……やはり火力特化型か。ならば戦いようはある)

 カタリナはマリウスの欠点を見抜いていた。
 百戦錬磨のヘムルートはともかく、まだ未熟な少女のはずのバーラまで見事な対処をしたのは計算外だったが、カタリナは己の持ち味を発揮する事にする。
 他者の意識から外れるように立ち回り、認識の死角からの攻撃。
 言葉にすれば単純だが、複雑で臨機応変に動かねばならない上に感覚に頼る部分が大きい。
 カタリナはこの動きを得意とし、実際にフィリップやウォーレンといった強豪選手を沈めたのだ。
 カタリナの攻撃にバーラ、ヘムルート、マリウスは反応しきれず被弾した。

『ああっと、先制ポイントはカタリナ選手だ! そしてマリウス選手はバーラ選手とヘムルート選手にパッド以外の部分に当てたので減点!』

「あれ、カタリナさんって凄くね?」

「今、三人とも反応しきれてなかったよね」

 観客達はカタリナの立ち回りの見事さにようやく気づき始めていた。

『カタリナ選手の立ち回り、巧妙ですね、フェリックスさん』

『敵の意識外から攻撃し、己が被弾する危険を小さくする。魔法使いが戦場に出たとしたら最も必要な力の一つだね。フィリップ選手とウォーレン選手もこれにやられたんだね』

『魔法使いの防御力だと、乱戦になれば死ぬだけですもんね』

 観客達も納得の声を上げる。
 カタリナが勝ち上がってきたのは決してまぐれではなかったのだ。

(分かってはいたが、かなりやりにくいな)

 ヘムルートは舌打ちした。
 彼の中で一番の強敵はバーラだが、一番の難敵はカタリナだった。
 しかもマリウスにしたところで決して弱くはなく、隙を見せると一気に試合を決めてしまうような力がある。
 複数の相手に同時に全神経を集中させねばならない、という矛盾とも言える緊迫した状況だった。
 しかし、ヘムルートは勝たねばならない。
 初めて国王が「全力戦闘」を許可したのだから。

(フィリップも負けただけあってやりにくい……でも覚えたわ!)

 バーラはカタリナの行動パターンを感覚的にではあるが、正確に覚えてしまった。
 ランレオ史上で国祖クラウス=アドラーに次ぐ傑物、という評価は決して誇張ではなかった。
 カタリナの攻撃を相殺し、驚いてほんの一瞬硬直した相手に、十発まとめて叩き込んだ。
 来ると分かっていればそれはもう「死角からの攻撃」ではないのだ。
 そこにヘムルートとマリウスからの攻撃も相次ぎ、カタリナはあえなくダウンした。

『カタリナ選手、集中砲火を浴びてたまらずダウン! とうとう動きが読まれてしまいましたか?』

『バーラ選手が読み切ったみたいだね。空恐ろしい戦闘センスだね』

 試合が始まって約一分が経過し、現在はバーラが一位になり、マリウスが最下位である。
 密度の高い試合展開に観客達は手に汗を握って声を張り上げている。

『意外なのはマリウス選手がここまでふるわない事でしょうか』

『皆が怪我覚悟の防戦をしたら、あっけない脆さを見せたね。火力特化の弊害かもしれないね』

「マリウス負けろー」

「バーラ様が女神」

 と言った声も上がり始めている。
 バーラ、ヘムルート、カタリナ達の奮闘がマリウスへの恐怖心を取り払ったのであった。
 ここまで大不振のマリウスは手を抜いてなどいない。
 殺してはまずいから威力を込めすぎないように注意しているが、それ以外は完全に本気だった。
 ならば何故この体たらくなのかと言うと、簡単に言うと

(やっとコツが掴めてきたぞ)

 魔力弾を使った戦いというものの要領が今になって分かってきたからである。
 魔法はレイモンド曰く「魔力を脳内の想像通りに現象化させる事」で、魔力弾は魔力を単に体外に放出するだけだ。
 魔力弾は放出した魔力を弾状に圧縮させる作業が必要だ。
 防御は魔力弾でしか認められていないから、弾を作る分以外の魔力を体外に放出しないように気をつけねばならず、大いに神経を削った。
 ゲーム内ではやらなかった事ばかりで、慣れるのに予選の三分では足りなかったのである。
 マリウスはこの時気づかなかったが、たった数分間の作業で慣れたのは「賢者補正」による学習能力があったからだ。
 異変に最初に気づいたのはバーラ、ヘムルート、フェリックス。
 ついでカタリナ、とワイスも察知した。

『ああっ』

 ワイスの絶叫に何事かと思った人は、目の前の光景にギョッとなり硬直してしまった。
 マリウスが作成した魔力弾は軽く五十を超えていた。
 そして一斉に射出される。

(何て数! そして今までより速い!?)

 これまでに何度も天賦の才を見せてきたバーラがまともな反応が出来ずに被弾する。
 ヘムルートもカタリナも被弾し、三人まとめてダウンしてしまった。

『何という数、何という射出速度! マリウス選手、力技で一瞬にして戦況を覆した!』

 ワイズの絶叫が静まり返った会場にむなしく響き渡る。

『まるで準備運動は終わった、といった感じだね』

 フェリックスの解説が処刑執行宣言のように聞こえた者は少なくなかった。
 最初にヘムルート、続いてバーラ、カタリナの順に立ち上がる。
 それを見たマリウスは新しく魔力弾を作る……その数はおよそ百。

『こ、こ、これは……? フェ、フェリックスさん? もしかして、マリウス選手こそ、今まで手を抜いてたのでしょうか?』

 ついに口調に怯えを隠しきれなくなったワイスに対し、辛うじて抑制したフェリックスが返答する。

『いや、何かやっと慣れてきて、本来の力を出せるようになったって印象を受けるんだけども。……いくらなんでもそれはないかな』

『は、はは……それはないでしょ? それだとマリウス選手は、今まで持って生まれた強さのみで戦ってた事になりますよ。だって、魔力弾作成って魔法使いの修行においては必ずやる事なんですから』

 会場内からもぎこちないながら、笑い声が起こる。
 皆はフェリックスが場を和ませる為に冗談を飛ばしたのだ、と判断したのであった。

「いやー、さすがにそれだけはないわ」

「修行せずにあの強さとか……アウラニースにも楽勝だろ」

「フェリックスさんって面白い人、じゃなかったエルフだったんだね」

 少しずつではあるが、会場内に活気が戻ってくる。
 フェリックスが言った事こそが正しいと本人以外に、対峙している三人も気づき始めた。
 乾いたスポンジが水を吸うようにコツを掴んで成長する、そんな後進を何人も見て育てたきたヘムルートも、教え子達のような成長力を見せるマリウスに度肝を抜かれた。

(まさか……しかし、他には考えられん……)

 制御などまだ甘いが、少しずつ改善されつつある。
 競技のさなかで成長しているのは確実だ。
 過去の英雄達と同等の力を持つのはいい。
 しかしそれがまだ発展途上など……あっていいのだろうか。
 ヘムルートのタフな精神に修復不可能な亀裂が入った。

(な、何て事……)

 カタリナは絶望的な状況に打ちのめされていた。
 もう倒れて起き上がりたくないと弱音を吐く己自身を叱咤し、歯を食いしばって立ち上がるのは祖国の為にこれ以上無様な姿は晒せないからだ。
 そんな愛国心と使命感が辛うじて心が死にそうなカタリナを突き動かしていた。
 マリウスが展開した魔力弾の群は二百に達した。

(マリウス様って意外とお若いのかしら?)

 年寄りがここまでの成長力を持っているとは考えられないし、と一人別方向な事に思いを馳せているのはバーラだ。
 常にフードで顔を隠しているせいで、そのあたりは想像するしかない。
 魔力弾の群れに一方的に叩きのめされながら、そんな事を考えられるバーラは充分タフと言えるだろう。
 マリウスが力を見せても心が折れず闘志を燃やし続けているのは稀有な事だった。

(ひょっとして、私得! な展開かも?)

 たとえ動機が何であれ。

『試合終了!』

『いや、展開がころころ変わって見ごたえがあったね』

 フェリックスは汗を拭きながら総括した。
 言葉通りまずカタリナが優位に立ち、その後バーラが逆転、更にヘムルートが存在感を見せ、三つ巴となったところでマリウスが急成長。
 最後の二分は一方的な展開となった。

『得点はマリウス選手が二百六十ポイントで一位、バーラ選手が二十四ポイントで二位、ヘムルート選手が二十二ポイントで三位、カタリナ選手が十九ポイントで四位です!』

 マリウスは二百八十五ポイント、バーラは四十四ポイント、ヘムルートが三十七ポイント、カタリナが二十九ポイントとなる。

『個人成績はマリウス選手が三百七十二ポイントで大逆転トップ、二位はバーラ選手で百四十六ポイント、三位がヘムルート選手で九十九ポイント、カタリナ選手が五十九ポイントで四位に浮上、五位には五十三ポイントのフィリップ選手となります』

『いやはや、とんでもない逆転劇だったね』

『そうですね。国別で優勝はフィラート、三大会ぶりの優勝となります。二位はランレオ、二位になりはしましたが、魔法大国の力を見せてくれました』

『そして以下は省略と』

 静まり返っていた会場からようやく笑い声が戻った。
 「勝手に略するな」と苦笑交じりに誰かが言った。
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