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ネクストライフ 作者:相野仁

三章「魔の足音」

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九話「第三競技(中)」

『続いて第三試合!』

 組み合わせはミレーユ、マリウス、アレックス、トム、ジャスパー。
 前の二試合ほどではなかったが、会場内はざわついた。

『ミレーユ選手とマリウス選手の激突だー!』

『まあ、魔力弾の威力と魔法の威力は別物だから、誰にも勝算がないわけではないけどね。マリウス選手は魔法への変換が得意みたいだしね』

『なるほど。皆でかかればひょっとするかもしれませんね』

 観客達の中には実況と解説に頷く者が何人もいた。
 マリウスが敗れるのを期待しているのか、ランレオの人間は首を何度も上下に動かした。
 名を呼ばれた五人はパッドをつけて前に出る。

『ええっと、特別ルールをお知らせします。パッド以外の部分に当てて試合続行不能にした場合、反則負けです。死亡させたら犯罪者扱いになります。パッドに当てて壊した場合、ポイントは加算されますし、ダウンポイントも加算されますが、ダウン継続ポイントは加算されません。ちなみに予備はあまりないし、壊れる度に時計を止めて試合を中断しなければいけないので、なるべく壊さないようにお願いします』

 何故ここで特別ルールが追加説明されるのか、という理由は説明するまでもなかった。
 皆、一斉にマリウスを見たし、マリウスも自分に対して言っているのだと理解していた。

『それでは始め!』

 ミレーユにアレックス、トム、ジャスパーが一斉に攻撃をしかけるが、ミレーユは読んでいたかのように全ての魔力弾を迎撃、防御に成功した。
 全員が自分に来ると思っていたマリウスは虚をつかれ、とっさに反応出来なかった。

『おおっと、狙いは全員ミレーユ選手だ!』

『ポイントを簡単にくれそうにないマリウス選手を無視する作戦のようだね』

 もちろん、マリウスからの攻撃に備えて二、三個の魔力弾を浮かべている。
 マリウスがミレーユを狙うか、それとも他の選手を狙うかで均衡は崩れそうだ。

『と言うかどの選手も魔力弾は五~八個、多い選手で十個くらいなんですね』

『作って浮かべるだけなら難しくないけど、動かすとなると一気に難しくなるからね。一流の魔法使いでも十個以上は負担が大きいだろうね』

『なるほど』

 会場内は盛り上がっているが、選手の個別の応援は少なかった。
 全員初参加というのもあるのだろう。
 マリウスは深呼吸すると魔力弾を四つ浮かべた。

『さあ、マリウス選手がいよいよ動きを見せます!』

『どうするんだろうね』

 魔力弾を一つずつ、四人に分けて飛ばす。
 それを見た四人は魔力弾で迎撃する。
 しかし、マリウスの魔力弾は容易く貫通し、四人の胸のパッドに命中した。

『ああ! マリウス選手、いとも簡単に他人の魔力弾をぶち抜いたー!』

『凄いね』

 観客達からは歓声が起こった。
 マリウスは更に四発魔力弾を作り、またも四人へばら撒く。
 四人は今度はそれぞれ五~八発作って、マリウスの魔力弾へぶつける。
 マリウスの魔力弾はそれらを全て貫通し、再度四人の胸のパッドに命中する。

「くっ」

「うぐっ」

 トムとジャスパーがたまらずダウンする。

『ああ、瞬殺! 四対一なのに瞬殺! 今度も一発ずつでまとめて粉砕! フェ、フェリックスさん、これはどう説明すればいいんでしょう?』

『どうもこうも、どうにもならないくらい歴然とした力の差があるとしか言えないね』

 沸き始めていた会場がシン、と静まり返った。
 マリウスは最初無視された腹いせを果たし、今度は真面目にやろうとまだダウンしていないミレーユとアレックスを狙う。
 最終試合でバーラがどれくらい稼ぐが不明な以上、ポイントは取っておく必要がある。
 五発ずつ同時攻撃にミレーユとアレックスは、魔力弾を出しつつ回避を試みた。
 しかし全てが無駄に終わる。
 マリウスの魔力弾は一瞬で全てを蹴散らし、二人のパットに全段命中してダウンさせた。

『あ、あまりにも破壊的! 絶対的! これがマリウス=トゥーバン!』

「す、スゲー……」

「つ、強すぎる……」

 会場の観客達も段々と慣れてきたのか、それとも感覚が麻痺してきたのか感嘆の声を上げ始めた。 

『これだと棄権しても変わらなかったね』

 棄権すると最下位になる上にポイントも獲得出来ない。
 しかし、マリウス以外はほとんどポイントが取れていない現状では、フェリックスの言葉が正しい。

『し、試合終了! 一位はマリウス選手! 六十一ポイント。二位はミレーユ選手、一ポイント。トム選手、アレックス選手、ジャスパー選手はゼロポイントで同率最下位となります』

『マリウス選手、一気にトップに上がったね』

『は、はい。六十一ポイントを取った事により、暫定一位だったヘムルート選手を抜きました。それどころか、他の選手をほぼ完封しました!』

『これはもう、魔演祭に出場していいレベルじゃないかもしれないね』

『そうですね。果たして大逆転はありえるんでしょうか?』

『それは予選最終試合を見てからじゃないとね。もっとも、誰が勝ち上がるのか分からないけどね』

 マリウスが勝つと多くの人間が予想した。

(マリウス様が素敵すぎてダメになりそう!)

 バーラは一人、恍惚としていた。
 マリウスが力を見せる程テンションが上がっているのは彼女だけである。
 マリウスが待つ決勝に自分も進みたい。
 そしてマリウスの記憶に自身を刻みたい。
 しかし“今のまま”ではフィリップの二の舞になる可能性が高い。
 バーラの表情から決意がみなぎるのをフィリップは感じ取った。

「ひ、姫様……まさか」

「いいでしょ。強硬派の連中がこだわる国威称揚にも繋がるんだし」

 恐る恐る問いかけてきたフィリップに対し、バーラは悪戯っぽく微笑んだが、その目は据わっていた。

『それでは予選最後の試合に参りましょう!』

 最終組はバーラ、アガシュ、ジョルジュ、アネット、カイルだ。
 これまでの成績ではバーラが一位だが、上位であったが故に沈んだ選手が何人もいるのがシューティングロワイヤルの予選だ。

『決勝最後の席を勝ち取るのは果たして誰か、それでは始め!』

 真っ先に狙われたのは当然バーラである。
 しかし、彼女の体から二十を超える魔力弾が浮かび上がったのを見て他の四人はギョッとなった。
 バーラが狙ったのはジョルジュとアネットで、それぞれ四発を慌てて作ったものの防ぎ切れずに被弾し、ダウンしてしまった。
 アガシュとカイルがバーラを狙って攻撃したが、間髪入れずに十数発作り出し、全て相殺してしまう。

『バーラ選手の速攻が綺麗に決まったー! そして、一度に二十も作り出しました! これはひょっとして力を温存していたのでしょうか?』

『そうだね。今見せた力こそ、バーラ選手本来の強さなんだろうね』

「す、凄い……」

「バーラ様、マジ女神」

「ますますファンになったぜ!」

 バーラは更に熱狂的な声援を浴び、それに後押しされるように攻め立てる。
 マリウスは自分との大きな落差に少しへこんだ。
 バーラはアガシュとカイルと二対一なのに、優勢に進めポイントを重ねていく。

「ば、馬鹿者が……」

 父王のヘンリー四世はうめき、額に手を当てて俯いてしまった。
 バーラの真の実力を知らなかった取り巻きの多くは、呆気に取られていた。
 ランレオ内においてバーラについて回るしがらみは意外とある。
 強硬派を含め、バーラの身を狙い結婚を望む者は多いし、強すぎると逆に嫁の貰い手がなくなる。
 普段、何かにつけ偉そうな言動を繰り返している割に、強い嫁はお断りと考える古風な連中なのである。
 今ここで本来の力を見せたら、国内の人間と結婚するのは絶望的だ。
 周囲の反応をうかがい、杞憂でなかった事を確信する。
 親馬鹿のヘンリー四世はそれが悲しかったし、最有力候補が怨敵フィラートにいる人間になるというのも悔しかった。

『そ、そこまで! 試合終了です!』

 誰が見ても勝者は歴然としていたが、問題は獲得ポイントだ。

『一位はバーラ選手、六十二ポイント! 二位はアガシュ選手、十二ポイント、三位カイル選手、九ポイント! 四位アネット選手、七ポイント、最下位はジョルジュ選手、五ポイントです』

 ポイント数が発表されると、これまでで一番大きな歓声と拍手が沸き起こる。

『何とバーラ選手、敗退するどころか、マリウス選手のポイントを上回り、逆に突き放しました!』

『あいた口が塞がらないとはまさにこの事だね。そして有言実行だね』

「バーラ! バーラ! バーラ!」

「至高の女神だ!」

「美少女でお姫様で最強って最高!」

「バーラ様は永遠に不朽です!」

 観客の多く、特に男達は夢中になって叫び拍手を送っている。
 バーラはそれに投げキッスで応え、更に拍手を浴びる。
 マリウスの見る者全ての心をへし折るような力によって重苦しくなりかけていた雰囲気を、彼女は見事に吹き飛ばしたのだった。
 しかも獲得ポイントでもマリウスを凌駕し、一位の再奪還に成功するばかりでなく更に差を広げたのである。

『と言うか、ランレオは何故今までバーラ選手を出さなかったんでしょう?』

『ここまで強くなったのは最近とか。後、単純に王家の都合かもね』

「バーラ王女の実力、本気のヘムルート様並みですよ」

 叩きのめされたアガシュは驚きを隠しきれず、ヘムルートにささやきかける。
 ヘムルートも厳しい表情で頷いた。

(バーラって子、マジで強い)

 マリウスも素直に感心した。
 言い訳するならば今回の競技で試される力はゲームでは仕様外であり、レベルやステータスでは判断出来ない部分なのだ。
 バーラのレベルはヘムルートと同程度だが、魔力弾の作成速度などでは明らかに上回っている。
 ゲームで出来た事しか出来ないマリウスに対して、一日の長があると言っても過言ではないかもしれない。

(バーラ、ヘムルートの両方を倒すのには全力を出すしかない。……まさか、人間相手に全力を出していいなんてな)

 パッドを壊したり殺したりしないように注意せねばならないが、手加減しようとするとまた一位をさらわれる恐れは充分すぎる程にある。
 ヘムルートがどう出るかは分からないが、バーラは決勝でもあの実力を出してくるだろう。
 ゲームとは違うといちいち体験せねば失念しがちな己に舌打ちしたい気分であるが、驕っていた自分を戒め、同時にそれを気づかせてくれた二人に心の中で詫びと礼を言った。
 マリウスはこの世界に来て初めて全力を出す事になる。

 暫定的にではあるが、現在の順位が出た。
 一位はバーラで百二ポイント、二位はマリウスで八十七ポイント。
 ヘムルートが六十二ポイントで三位に浮上し、フィリップが五十ポイントで四位、ルーカスが四十八ポイントで五位。
 六位にはウォーレンが四十五ポイント、七位はカタリナが四十二ポイントで上がってきた。
 国別となるとランレオが百五十二ポイントで一位、フィラートが百三十五ポイントで二位に、セラエノが九十八ポイントで三位に浮上した。
 予選通過者が出なかったホルディアは一気に沈んだ。

『今発表された順位には予選敗退三ポイントと決勝進出ポイントは加算されておりません。決勝進出者であるバーラ選手、マリウス選手、ヘムルート選手、カタリナ選手のポイントはまだ伸びるでしょう』

『カタリナ選手は何とかポイントを稼いで国別順位にも貢献したいところだね』

『ただ、対戦相手がバーラ選手、マリウス選手、ヘムルート選手と強豪揃いなので厳しくなりそうですが』

『お互いを警戒しなきゃいけない分、カタリナ選手への警戒は甘くなりそうだけどね』

『ところで、これってぶっちゃけ、純粋な力量のみが分かるわけじゃないですよね?』

『まあね。いつもなら力量比べてはいおしまい、だったんだけど、今回は交流に特に力を入れているようだね』

『そこはやはりボルトナーの国風ですかね』

『開催国ごとで競技内容の特色が出てて、面白いよね』

『そうですね。皆さんも入場料分は楽しみましょう!』

 会場内から拍手が起こった。
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