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ネクストライフ 作者:相野仁

三章「魔の足音」

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五話「第一競技」

『紳士淑女の皆様方、ただいまより魔演祭を開催いたします!』

 マジックアイテム「マイク」を使った実況担当者が宣言すると、会場に詰め掛けた大観衆から大きな歓声が起こる。
 観客人数は約五万人と満員だった。
 魔演祭は一般人にとってもいい見世物なのである。

(まるでサッカースタジアムみたいだな)

 マリウスはフードで顔を隠しながら視線をあちこちに走らせ、そんな印象を抱いた。
 彼ら選手組は会場の競技スペースに集まり、待機していた。

『実況はわたくし、ワイス、解説はエルフのフェリックスさんでお届けいたします』

『フェリックスだ、よろしく』

 再びの歓声。

『無駄話は嫌われるのでさっくりいきましょう。まず、今回の大会要項についてざっと説明しますね』

 行われる種目は三つ。
 成績順にポイントが与えられ、三種目終了時点で最も多くのポイントを持っていた者が個人部門の優勝。
 また、参加者の合計ポイントが国のポイントとなり、合計ポイントが最も多かった国が優勝となる。
 第一競技と第二競技は午前中、第三競技は昼休みを挟んで午後から行われる。
 第一競技と第二競技の間は回復系アイテムの使用は禁止、発覚すればその場で失格となる。

『昼休み中の服用は認められますのでご安心を』

『魔力使用の配分も考える必要があるわけだ』

 競技種目と内容はその都度、発表する。

『どんどんいきますよ、まずは第一競技、ラジエーション。まずは上空をご覧下さい』

 全員が空を見上げると、黒い円盤が柱から伸びて五つ設置されていた。
 そしてその円盤の前後に結界が五枚ずつ張ってあった。

『黒い円盤は魔法威力を測定するマジックアイテムです。それに目がけて順序魔法をぶつけて下さい。計測ポイントが一番高い人が優勝という単純な競技であります。結界や円盤は壊しても反則になりませんが、出来れば壊さないでくれるとありがたい、と主催国からコメントがあります』

 どっと観客から笑い声が起こる。
 五重にも重ねがけされた結界を壊すなど、観客の感覚からすればただの冗談にしか聞こえなかった。
 ワイスにしても本気で心配しているわけではない。

『優勝者に与えられるポイントは二十五ポイント、二位が二十ポイント、三位が十八ポイント、四位が十六ポイント、五位が十五ポイント……最下位が一ポイントと、続きます』

『三位までに入ると微妙に有利って感じかな』

『まあ今回、ポイント配分は最後まで面白くする為にころころ変えるそうです』

 観客からは拍手が起こる。
 安くない入場代を払ったのだから出来るだけ最後まで楽しみたい、というのが人情というものであった。

『ではまず一番手、優勝候補セラエノのヘムルート選手、お願いします』

 ワイスに呼ばれてヘムルートが一歩前に出る。

「絶え間なく吹き荒れる風よ、我の怒れる刃となりてかの存在を切り刻め
【ウィンドスラッシュ】」

 暴風の刃が吹き荒れ、黒い円盤に叩きつけられる。
 中央の円盤が五千と表示し、前後左右の円盤が四千五百と表示した。

『ヘムルート選手、二万三千ポイント! これはどうなんでしょう、解説のフェリックスさん』

『文句なしの高得点、すごい数字だと思うよ』

『いきなり高得点! さすが優勝候補!』

 ワイスの声に合わせてヘムルートが軽く手を上げると、会場から一際大きな歓声が起こる。
 何大会も連続で優勝争いに絡んでいるヘムルートは人気選手の一人なのだ。

「さすがのヘムルートだな」

「安心のヘムルートだ」

 セラエノの面々も満足げだった。


『続いてはベルガンダ、アレス選手』

 アレスは一万ポイントだった。

『いや、立派だと思うよ。やはりヘムルート選手が強いんだね』

 どう見ても手を抜いてるけどな、とマリウスは思ったが黙っていた。

『続いてはガリウス、カイル選手』

 九千五百ポイントで、暫定三位についた。
 ヘムルート以外はニルソンよりも下のようであった。
 ミスラのアレックスが九千三百、バルシャークのジャスパーが一万二千ポイント。

『続いては優勝候補、前大会王者のフィリップ選手!』

 フィリップが出ると、ここまでで一番大きな歓声が沸き起こった。
 地鳴りすらしているようで、マリウスは防音の魔法をこっそり使った。

『さすが前大会王者、凄まじい人気です!』

『今大会は初参加者が多いけど、それでも有力選手だろうね』

 一番有力なのはヘムルートだよ、とマリウスとセラエノ関係者だけが知っていた。
 もしかしたらセラエノの人間も知らないかもしれないが。
 フィリップが詠唱に入った。

「大地の嘆き、憤怒の業火、溶け合い神の裁きの鉄槌となりて、全ての存在を潰滅せよ【ラーヴァフロー】」

 五つの溶岩の弾丸が出現し、黒い円盤を激しく叩く。 
 表示されたポイントの合計点は二万七千二百。

『こ、これは凄い! 第三級魔法が飛び出したぁ!』

『それも高得点だね。さすが王者だ、別格と言った感じかな』

『まさに圧倒的強さ! フィリップ選手が一位になりました!』

 今までで一番大きな声援にフィリップは手を振って答える。

「どうやら連覇はいただきですな」

「バーラ姫様とワンツーフィニッシュを決めてほしいものです」

 ランレオの面々も得意満面で、早くも勝ち誇りながら拍手を送る。
 続いてヴェスター王国のカタリナが七千ポイントだった。

『そして次はホルディア、アネット選手です』

 盛り上がっていた会場がシンと静まり返った。
 掟破りの侵攻のイメージは完全に回復していないし、初参加選手とあって誰も咄嗟に反応しかねていた。

「水よ、我が力となりて敵を穿ち抜きたまえ【ウォーターバレット】」

 アネットのポイントは九百三十ポイントだった。

『うーん、フェリックスさん、これはどうなんでしょう?』

『一つ言えるとしたら、アネット選手を責めたら気の毒だね』

 会場内が微妙な空気に包まれる。

「やはりアネットだとこういう場ではかわいそうですね」

「開催国がボルトナーだからこそアネットだ。……仮に外れたところで痛くはないしな」

 イグナートがしみじみとつぶやいたのに対し、アステリアは微笑む。

『気を取り直して、次は優勝候補、ルーカス選手です!』

 再び大歓声が起こる。

「大渦よ、圧し潰せ【メイルシュトロム】」

 大きな渦巻きが計測用マジックアイテムを叩く。
 中央が六千、他の四つが五千と表示する。

『出ました、二万六千! 二位につけました!』

『さすがだね』

 観客達は沸き、ベルンハルト三世達も満足げだった。

「フィリップに負けたのは仕方ないしな」

「マリウス殿もいますし……そう言えば、マリウス殿はどれくらい出すでしょうか?」

「五万ポイントくらい出しそうではあるな」

 ハハハと朗らかに笑いあう。

『さあ次は開催国ボルトナーのジョルジュ選手』

 ジョルジュは二千四百ポイントだった。
 会場内から苦笑が起こった。

『ボルトナーは伝統的に魔法が苦手ですもんね』

『仕方ないと言えば仕方ないよね』

 現在一位はフィリップ、二位にルーカス、三位がへムルートとここまでは前大会の結果通りの順位だ。

『やはり優勝候補達の壁は厚いんでしょうか、フェリックスさん』

『まだまだ未知数の初参加者はいるし、前大会四位のウォーレン選手もいるよね』

『そうですね、次は初参加ながら強豪セラエノ代表という事で注目、アガシュ選手』

 「ウィンドスラッシュ」で一万九千ポイントを叩き出す。

『これはまた高得点が出ました!』

『さすがセラエノ代表だね。さらっと四位につけたね』

「やっぱセラエノって皆強いんだ~」

 ベルガンダのトムは四千、ガリウスのポールは八千ポイントだった。

『さあ、続いては注目の一人、ランレオのバーラ選手』

『ランレオが出すくらいだから強いんだろうけど、お姫様とは意外だったね』

 好奇心丸出しの視線を浴びながらバーラはドレス姿のまま前に出る。

「大地の嘆き、憤怒の業火、溶け合い神の裁きの鉄槌となりて、全ての存在を潰滅せよ【ラーヴァフロー】」

 五つの溶岩の弾丸が円盤状の計測アイテムを叩き、全てが六千の数字を出した。

『な、何と三万が出たーッ! フィリップ選手を抜いてバーラ選手がトップに躍り出ました!』

『いやはや、とんでもない隠し玉がいたものだね』

「す、すげー」

「しかも可愛い!」

 今までで一番大きな歓声が沸き起こった。
 バーラは王女としての慎みを忘れたのか、観客に手を振りながら投げキッスを飛ばしている。
 その愛らしさに観客の好感度は急上昇したが、王族としての威厳のなさに父たるヘンリー四世は深くため息をついた。

(だから出したくなかったのだ……立場を忘れおって)

 フィリップを凌ぐ実力になったものの、娘は誰の手にも負えない「魔法狂い」なのだった。 
 会場の雰囲気に当てられたらこうなる事は想像出来たし、更に厄介な展開もありえる。
 それでも二名という出場枠に加えてフィラートから例のマリウスという魔法使いが出るとなっては、魔法大国の名を守る為に出さざるをえなかったのだ。 単純に喜んでいる自国の人間を見て、更に深いため息をついた。
 バルシャークのマークが七千ポイント、ヴェスターのステイシーが五千五百ポイント、ボルトナーのグレゴールは千四百となった。

『続きましてはミスラのウォーレン選手! 今回は優勝候補から外れてしまいましたが、それでも有力選手に変わりありません』

「雷よ、我が槍となりて全ての障害を薙ぎ払え【サンダーストーム】」

 二十本の雷の束が計測アイテムを叩き、合計一万八千を記録した。

『さすがウォーレン選手! 好結果です!』

『まずまずの位置につけたね』

「ウォーレンさーん」

 黄色い声援を浴びながらウォーレンは五位に入った。

『さあ残すは後二人、アネット選手の分も挽回出来るか、ホルディアのミレーユ選手』

『どういう基準で選ばれたか不明だけに、何とも言えないね』

 会場内は再び静まり返る。
 ミレーユは顔色一つ動かさずに詠唱に入った。

「黒き星、魔界より出でて朽ちゆく魂に安息をもたらせ【ディザスター】」

 五つの黒球が出現し、槍状となってマジックアイテムに着弾した。
 中央が六千、他の四つは五千五百と表示する。

『闇系第三級魔法! 二万八千を叩き出しました! フィリップ選手を抜いて二位にランクインです!』

『これはまた凄いね……今まで出なかったのは貴族達のせいかな?』

「あの女凄くない?」

「ホルディアの癖に……」

 観客からもどよめきが起こっていた。

「バーラ王女は出来ると聞いていたが、ミレーユを凌ぐとはな」

 アステリアにとってそれが計算違いだった。

『さあいよいよ、最後の一人、フィラートのマリウス選手!』

『あのルーカスを差し置いて国賓魔術師となったんだから、楽しみだね』

 マリウスは「誰それ」「強いのか」という観客の声を聞きながら前に出た。
 マジックアイテムを壊して弁償しろと言われたら困るが、下級魔法を使う分なら結界の効力もあって問題ないと判断した。

「【ファイア】」

 マリウスは初めて本気で魔法を放った。
 白い峻烈な光が視界を覆いつくし、つんざくような轟音が会場内に満ちて観客は慌てて目を閉じ耳を塞いだ。

『な、何だこれはぁ! き、禁呪か!?』

 驚愕のあまり思わず素の口調で叫ぶワイス。

『い、いや。ファイア……ただのファイアだね』

 目が眩み、轟音に感覚を揺さぶられながらも根性で解説したフェリックス。
 五秒、十秒と時間が経ち、次第に落ち着き会場内がざわめき出す。

「い、今の何なんだ……?」

「も、もしかして禁呪って奴?」

「いや、ただのファイアだって解説が言ってたよ」

「ええ!?」

 マリウスは観客の反応と計測器の表示に満足したが、結界のうちに五枚が破れている事と、計測器にヒビが入ってるのに気づいて少し冷や汗をかいた。

『た、ただのファイアにしては凄まじかったような……ああ、け、結界が! 結界が五枚も破れてます! そして、五つとも測定不能と出ています! あああ! よく見ると計測器にヒビがっ!』

 ワイスはまだ混乱していて、そのせいで会場内のざわめきが強くなった。
 各国の来賓は両目と口を大きく開いたまま、石像と化している。
 唯一の例外がアステリアで「何だ、上級魔法は使わないのか」と思っていた。
 フィラートの関係者も、マリウスをけしかけたロヴィーサでさえも目の前で起こった出来事に脳がついていかない。

『こ、壊した! マリウス選手! ただのファイアで壊しました! 解説のフェリックさん、どうして壊れたんでしょう?』

『マリウス選手の魔法に耐えられなかったんだろうね。結界も壊れてるし、上級魔法を使ってたらきっと大惨事だっだね』

 何とか正気を取り戻し、職務を遂行する二人は天晴れなプロ根性と言うべきだった。

『えーと、この場合、どうしたらいいんでしょうね? 再測定したら今度は完全に壊されそうですし……』

『あの計測器は五万以上の衝撃を食らわせなきゃ、壊れないんだから二十五万でいいんじゃないかね。どのみち一位は確定的だしね』

 会話を続ける二人の下に主催者からの使者が走って紙を届けた。

『おっと大会運営からの裁定が出ました。マリウス選手! 二十五万ポイントとを出したと見なします! マリウス選手が一位に立ちます!』

 所在なさげに立っていたマリウスはホッとした。
 せっかくだからと「リゲイン」で計測マジックアイテムを修理し、「リカバー」で結界を張り直した。

『ああ、マリウス選手が魔法でマジックアイテムと結界を直しました! マリウス選手、ありがたいのですが、ルール上、次の競技までに魔力回復アイテムの使用は認められていませんよ? 大丈夫ですか?』

 ワイスからの質問にマリウスは質問で答えた。

「えっと、自力で回復させる分には問題ありませんよね?」

『ええ。でないと出場者全員失格になりかねませんから』

「じゃあ問題ありませんね」

『そ、そうですか……』

 ワイスの声も顔も引きつったものになったが、誰もが仕方ないと思った。
 会場内からのざわめきも消えている。
 結界の修復は魔法一つで出来る事ではない。
 ましてや数十人が数年かけてやっと張れるような規模の結界を五枚も、一瞬でだ。

「は、はったりだ。虚勢だ。魔力を使いすぎてるに決まってる」

 縋りつくような声を絞り出したのはランレオ関係者だったが、誰も咎めようとはしなかった。
 フィラート人とアステリアを除けば誰もがそうであって欲しい、と信じたかった。
 驚きながらもマリウスを讃えようとした空気は消し飛んでいた。

「マリウス殿、やりすぎではないか……?」

「妾がそうして欲しいと願ったのです……でも浅はかだったかもしれません」

 ロヴィーサは自分でさえドン引きな展開になった事を後悔していた。
 「史上最強クラス」かもしれないとは思っていても、「史上最強」だとは夢にも思わなかったのだ。
 順位と獲得ポイントは一位マリウスで二十五ポイント、二位バーラが二十ポイント、三位ミレーユが十八ポイント、四位フィリップが十六ポイント、五位ルーカスが十五ポイント、六位ヘムルートが十四ポイント、七位ウォーレンが十三ポイント……そして最下位アネットが一ポイントとなった。
 国別だと一位がフィラートで四十ポイント、二位がランレオで三十六ポイント、三位がセラエノの二十六ポイントだ。
 個人戦はさておき、国別では結局三強国が上位に並んでいた。

『マリウス選手が一位を取ったのが大きいですね』

『まだ二競技あるから、どうなるか分からんけどね。それに初参加で上位に食い込んできた選手が何人もいるし、この大陸にはまだまだ実力者はいるって分かったね』

 実況と解説の音声にも会場は静まり返っている。
 小さな話し声は起きているものの、歓声は起こらない。 
 代表選手すらバーラ以外、ルーカスですら非常に厳しい表情をしていた。

「ふっ……結界の修復まで一瞬でやるとはな……」

 さすがのアステリアからも笑顔が消え、冷や汗が流れた。
 結界五枚を一瞬で修復するなど、メリンダ・ギルフォードですら出来るか疑わしいものだ。
 アステリアはマリウスを「メリンダ並み」と評価していたが、凌駕している可能性は想定していなかった。
 彼女もまたロヴィーサ同様、マリウスが史上最強である可能性を無意識のうちに切り捨てていたのだった。
 こうして非常識の爪痕を会場内の人間全員の脳裏に刻み込んで第一競技が終了した。
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