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ネクストライフ 作者:相野仁

第一章「死んだ男」

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四話「夜にて」

 二つの太陽が地平線の彼方へと消えていく。
 どちらも甲乙をつけられないほど赤い。
 太陽が二種類なら夕日の色も二種類だろうと、半ば決めつけていたマリウスにとってはかなり意外だった。
 魔法の訓練は今のところ順調と言える。
 一級以下の魔法は一通り試し終え、全てを使える事を確認した。
 やはりと言うか、上位のものほど力加減は難しい。
 気をつけないと周囲の環境が壊滅状態になってしまう。
 もっとも、今も半壊に近い状態と言えなくもなかったが。
 視界内で、約一割の木が倒れている。
 植物の生長を促す魔法があれば使いたいところだ。
 マリウスがガンガン魔法を使っても魔力切れを起こさないのは、ステータスの高さと装備のおかげではあるが、誰かが近くまで様子を見に来る気配がないのは期待外れだった。
 魔法を乱発してるのは加減を覚えて周囲に与える被害を減らす為ではあるが、人目をひくというもくろみもあったのだ。
 だが、どうやら後者に関しては外れる可能性が出てきた。
 もちろん、単に怖がって近づかないとか、魔法に対する素養がある人がおらず、異変に気づかないという場合も考えられる。
 あるいは、異変を察したものの人を雇い、その人がまだ来ないとか。

(自分から探しに行くしかないかな)

 幸い、ゴブリンの巣を見つけた。
 ある程度放置していれば、そのうち討伐クエストが発生し、人がやってくるだろう。
 その人あるいは集団に接触すればいい。
 ゴブリンの巣を潰しに行かなかったのは単に殺戮を嫌ったからではなかった。
 この地の人と接触出来る機会を増やしたいという、独善的な理由の方が大きかったと言える。
 ただ、一日で十匹も倒されたゴブリン達が、討伐依頼が発生するまでに増加するのはどれくらいかかるのか不明ではある。
 いつまでもこんな暮らしが続けられるとは限らないのだから、選択肢は多いに越した事はない。

(でも、もう少し練習してからかな)

 五級以上の上級魔法を使いこなせていない、という現状は不安だった。
 せっかくだから使いこなしたいという思いは強い。
 戦いの渦中に首を突っ込む気はなくとも、いつ巻き込まれるか分からないからだ。
 焚き火をして「こんがり肉」を食べつつ、そんな事を考える。
 生き物がいないという環境は寂しさがあるものの、魔法の練習場所としては適しているかもしれない。
 やがて日は沈み、銀色の半月が昇ってくる。
 昨日は蒼い半月が昇ってきたので、「蒼と銀の月が交代で見える」というFAOの設定は活きているようだ。
 大陸が違っていても、見える月や太陽に違いはない、という事だろうか。
 煌々と白銀に輝く月を見ながらふとそんな事を考えた。
 月の周囲に雲はないというのに、星は二十程度しか見えない。
 昨日もそうだったから、もしかしたらこちらの世界では星の数はそれほど多くないのかもしれない。
 それとも季節によるものなのか。
 マリウスには判断しかねる事だった。
 風が出てきたが、冷たくはない。
 元の世界で言えば春か秋のような気候であった。
 過ごしやすい気候だから、夜行性の生物がいるなら活動をしてるに違いない。
 昨日のうちにそんな生物が周囲にいないのは確認ずみだった。

(あっちにはいないか、確認してみるか)

 昨日は確認しなかった場所。
 今日の昼、ゴブリンやアーマーディアーと遭遇したところだ。
 まだ、眠くはない。
 実のところ、生物と遭遇したところで何かが変わる訳でもない。
 せいぜい、戦闘経験を積めるくらいだろう。
 だが、それでも少しでも多くの情報が欲しかった。

「【テレポート】」

 アーマーディアーが倒れていた場所をイメージし、呪文を唱える。
 一瞬後、その場所に移動していた。

「ホーホー」

 すぐに鳥の鳴き声らしきものが聞こえてきた。
 どうやら、こちらには夜行性の生物もいるらしい。

「【ディテクション】」

 魔法で確認すると、いくつもの反応がある。

(だとすると、何であの付近には何もいないんだ?)

 生物が寄り付かない、何か恐ろしい理由があるとしか考えられない。
 マリウスが無事である以上、毒が満ちている、などといった事はなさそうではあるが。

(今更じたばたしてもしょうがないよな)

 マリウスはすぐに切り替え、装備を整えてから生物の反応があった方へと近づいていく。
 鳴き声が止み、首のあたりにピリッと電気が走るような感覚が襲う。
 ゴブリンに発見された時と同じだ。
 ただ、今回は暗くて敵の姿がよく見えない事が問題となる。
 月の光は全てを照らすのに充分とは言えなかった。

「【ライト】」

 握り拳大の光球を作り出して周囲を照らす。
 マリウス本人すら視力を奪われそうになったその光は、夜行性の鳥モンスターにも有効だった。
 小さな呻き声が聞こえた後、何かが落ちる音が続いた。
 その方向を見ると、マリウスより一回りは大きそうな、黒い鳥が目を回していた。
 そこまでは計算通りだったのだが、その脇からヘビ型モンスターがマリウスに飛びかかってきたのは想定外だった。

(まずい!)

 反射的に「ワープ」と念じていた。
 次の瞬間、マリウスは遥か後方に移動していて、ヘビ型モンスターの攻撃は空を切っていた。
 時空系魔法、ワープ。
 術者が視認した範囲に転移する、七級に属する魔法使いの緊急回避用魔法である。

(練習しといてよかったぜ)

 念じるだけで使える事を確かめていなかったら、ゴブリン達と実際に戦って戦闘の雰囲気を知っていなかったら、かわせていたか怪しい。
 圧倒的な能力を有していても、マリウス自身は戦闘や修羅場の類とは無縁な人間だったのだ。
 レベルは高くないにせよ、どんな特殊能力を持っているか不明なモンスターが相手だ。
 攻撃はかわすに越した事はない。
 獅子は兎を仕留めるのにも全力を尽くすと言う。
 病院の類が存在しない野生では、少しの油断や怪我が命取りにつながるからであろう。
 マリウスは今、その事に思い至った。
 回復魔法は存在しているものの、どの程度アテに出来るかは分からない。
 つまり、野生の獣と同じ心理状態だと言える。
 ヘビ型モンスターがマリウスを見失ったのはほんの一瞬で、すぐに捕捉して睨みつけてくる。
 優れた探知能力を備えているようだ。
 地面で目を回していた黒い鳥も、回復したのか羽ばたいて空に舞い上がる。
 どうやら、「スキャン」を使う暇はなさそうだ。
 一声鳴くと、マリウスを目がけて突進してきた。
 それに合わせるようにヘビ型モンスターも飛びかかってくる。
 彼らが連携を狙ったのか、それとも偶然に過ぎなかったのかは分からない。
 だが、空と地からの同時攻撃は、マリウスにとって好都合だった。

「【ファイアストーム】」

 昼に使った時と同じイメージで放った魔法は、昼と同じ大きさの火柱を再現する。
 鳥とヘビは飛んで火にいる夏の虫、の如く自ら火柱に飛び込み、一瞬で蒸発してしまった。
 あっさり終わる戦闘が味気ないものだと、マリウスは思わない。
 素人である以上、安全を最優先するのは当然の事だ。
 それに鳥もヘビも知識にないモンスターだった。
 一撃で終わるのが救いである。

(でも待てよ)

 素材なり何なりを見れば、少なくとも名前は分かるのではないか。
 ふと、そんな事を考えついてマリウスは愕然とした。
 もちろん、木の実のように知識がないと分からない、というパターンもありうるわけだが。

「【ディテクション】」

 魔法で索敵してみると、近くにモンスターはいなかった。
 さっきの戦闘で逃げ出したようだ。
 マリウスは舌打ちしながら、ゴブリンリーダーから奪った短剣と取り出した。
 「アプレーザル」で鑑定してみると、「ゴブリンの短剣」とだけ脳内に表記された。
 装備なら分かるのか、それともゴブリンのものだからなのか、にわかには判断しかねた。

(しまったな)

 ゴブリン達は、ゲームの時と違って何も落とさなかった。
 この世界でモンスターは、アイテムを落とすという事はなく、死体から剥ぎ取らなければならないのかもしれない。
 となると、炎系魔法で焼き払うのは選択ミスという事になってくる。
 少なくとも、死体が残るくらいまで威力を落とせない間は。
 夜の森を、魔法で作り出した明かり頼みで歩こうとは思わなかった。
 朝が来てからでも遅くはない。
 モンスターと戦う時は、今度から風系か土系魔法を使っていく事にしよう。 そんな事を考えつつ、マリウスは「テレポート」で拠点へと戻った。
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