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ネクストライフ 作者:相野仁

第一章「死んだ男」

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三話「初戦闘」

 マリウスが反応があった方向、つまり森の中に歩いていくと物音や叫び声が聞こえてくる。
 どうやら戦闘中のようだ。
 ゴブリンの群れらしき反応もあった事も考えるなら、野生動物が狩られている最中なのかもしれない。
 もちろん、ゴブリンに勝てたからと言って、他の生き物に勝てるとは限らない。
 しかし、ゴブリン達が狩りの標的にするような存在なら何とかなるはずである。
 自分のようにゴブリンよりずっと強いなら、戦闘音がこうも続かない。
 そんな事を考えつつ、いつでも魔法を発動させる心積もりで近づいていく。
 マリウスの視界に飛び込んできたのは、十匹のゴブリンと、地面に倒れた三頭の鹿のような生き物だった。
 どうやら狩りはついさっき終わったらしい。

(あれはアーマーディアーか?)

 黒い大きな角と毛皮には覚えがある。
 アーマーディアーは序盤に登場し、鎧のように硬くて黒い毛皮が特徴の動物だ。
 毛皮はマント、角は武器の素材になり、こんがり焼いた肉は体力を回復させるアイテムになった。
 モンスターではないが、一対一ならゴブリンよりも強かったはずだ。

(三対十とは言え、あいつら馬鹿に出来ないかも)

 ゴブリン達は武装するし、集団戦闘もこなせる。
 ゲームでは特に気に留めなかったが、知能は低くないのだろう。
 となればやはり一撃で決めるに限る。 
 平和な国で生まれ、殺し合いなどとは無縁で生きてきたのだ。
 レベルが自身よりずっと低い相手とは言え、遅れを取らない自信はなかった。
 ただ、出来ればアーマーディアーの肉はそっくり手に入れたい。
 今のマリウスでは、ゴブリン達のように上手く仕留められるかは怪しいからだ。
 その為には直線的に射出されるようなものがいい。
 そう考えた時、ようやくゴブリン達はマリウスに気づき、歯をむき出しにして威嚇してきた。
 マリウスは神竜の杖だけをしまい、即座にスキャンを使った。

「【スキャン】」

 ゴブリンリーダーのレベルが三十四、他のゴブリンのレベルは二十一と出る。
 「スキャン」を使ったマリウスを敵と認識したのか、ゴブリン達は雄叫びを上げて突進してくる。
 ある程度距離を詰められてから呪文を唱える。

「【ウィンドスラッシャー】」

 神言の指輪の力は使わなかった。
 それでも猛烈な風の刃が複数、うなりを上げてゴブリン達に襲いかかった。
 一応、手加減はした。
 殺しきれなかった場合に備えて神言の指輪は装備したままにしておいたのだ。
 しかし、それは杞憂だった。
 風の刃はゴブリン達に反応すら許さず、その体を両断し、あまつさえ背後にあった木々さえも切り倒していった。
 ゴブリン達の体からは青い液体が噴き出し、血の臭いがあたりに立ち込める。
 近くに引きつけなかったら、血飛沫がアーマーディアーにかかっていたに違いない。

(八級でこれか……)

 やはり、マリウスの知識と微妙にかみ合わない。
 ゴブリン達を秒殺する威力なのはさておき、周囲に与える被害が大きすぎる。
 こういった情報はなかった。
 もちろん、運営会社が与える必要を感じなかったからだろうし、もしかしたらそのへんまでは考えていなかっただけかもしれない。
 この地で生きていく為には、知識に頼りすぎない方がいい。
 マリウスはそう考えながら、ゴブリン達の死体へと近づいていく。
 アーマーディアーを捌く為に、刃物が欲しかったからだ。
 ゴブリン達の主な武器は棍棒だし、現に今日見かけたゴブリンは全て棍棒を装備していた。 
 しかしながら、斧やロングソードを武器とするものもいるし、短剣を予備武器として所持している個体は多い。
 少なくともFAOの設定ではそうなっていた。
 知識には頼りすぎない方がいいと思いつつ、結局頼るしかないというのが現状だった。
 死体に近づくにつれて血の臭いが強まり、マリウスは辟易した。
 豚を潰すアルバイトをした事があるとは言え、ゴブリン達は臭いが違っていた。

(息を止めながらやろう)

 臭いを出来るだけ嗅がないようにしながら、死体をあさる。
 一匹目は棍棒以外は持っていなかった。
 そこでふと思いついて、次はゴブリンリーダーの体をあさる。
 閃いた通り、懐には短剣が一本入っていた。
 鞘から抜き放つと、二種類の日光を浴び、二種類の輝きを見せた。
 刃毀れも錆びもなく、切れ味は期待出来そうであった。
 出来ればもう一本欲しいところだが、アーマーディアーの死後経過時間が気になる。
 マリウスは一瞬だけ悩んだ後、もう一本は諦め、アーマーディアーの死体に近づく。
 まだ、腐臭はしなかったが、急いだ方が賢明だ。

「【ディテクション】」

 魔法で他の生物の位置を確認すると、遠くに反応があった。
 「ウィンドスラッシャー」に驚いて逃げ出したようだ。
 これなら解体作業に取り掛かっても安心だろう。
 三頭とも、棍棒で殴られて絶命したようで、あまり血は出ていない。
 三頭の喉を順にナイフで切り裂く。
 アーマーディアーの毛皮は、生きてる時は鉄並みの硬度を誇るものの、死ぬと普遍的な皮にまで柔らかくなる。
 喉から血は出てくるが、勢いがいまいち物足りなかった。
 鹿肉は血抜きを充分行わないと、不味くて食べられないものに変質してしまう。

「【レビテート】」

 そこで物体を浮遊させる魔法を使う。
 脳内のイメージ通り、喉を下に向けると、勢いよく血が流れ始める。
 アーマーディアーの血の臭いは、ゴブリンのものと比べてずっとまともで、息を止める必要は感じなかった。

(この分だと何とかなりそうだな)

 三つの死体の高度を下げると、腹を順に切り開き、内臓を傷つけないように取り出していく。
 両手が血で汚れるが、マリウスは気にも留めない。
 転生する前の世界で経験がある、というのは大きかった。
 内臓を取り出し終えると、皮剥ぎにかかる。
 鹿の解体作業はこれが初めてである。
 だが、死体が三つあるという事でリラックスして臨めた。
 まず、足首四本を切り落とし、内側からそれぞれ体の中心へと向けて切れ目を入れ、後ろ足から剥いていく。
 皮はするりと簡単に剥けた。

(生きてる時だけ硬いってのも変な話だが……)

 そこは元がゲーム、という事で納得するしかないのだろう。
 首まで順に皮を剥いていき、続いて頭部を切り落とす。
 そして、前足と胴体を外し、最後に胴体から背骨に沿って背ロースを外す。
 更に胴体内部のヒレ肉、あばら周辺のバラ肉を外す。
 最後に元の世界の肉屋で見かける程度の大きさに切り、膜やスジなどを取り除く。
 この作業を三度行い、肉を道具袋に詰め込む。
 肉の重量は元の世界で十キログラムと言ったところだろうか。
 頭部や内臓を取り除いたと言っても、三頭分が合わさればなかなかの重さになる。

「ふー」

 たった一人で作業を全て行う、というのはマリウスの想像を超えて重労働で、事が終わった時、思わず大きく息を吐いた。
 後は肉を焼いて味わうだけである。
 その前に、鹿の頭部や内臓、ゴブリン達の死体をそのままにしておくのは良くないと思いなおした。
 特にゴブリン達の死体からは、既に悪臭が漂い始めている。
 早急に対処した方がいいだろう。

「【ファイアストーム】」

 火柱で対象を焼き尽くす、十級魔法を行使すると、赤くマリウスの目線までの火柱が立ち上り、ゴブリン達の死体は装備もろとも、一瞬で灰になった。
 悪臭も一気に気にならない程度になる。
 続いてアーマーディアーの残骸を一箇所に集めていく。
 そしてもう一度「ファイアストーム」で焼き払う。
 赤い火柱が再び立ち上り、一瞬にしてアーマーディアーの残骸を灰に変える。

(さて、戻ろう)

 森の奥にはゴブリンの巣もあるはずだが、殲滅する必要を感じなかった。
 何よりも空腹だった。
 袋を持ち上げようとすると、ずしりとした手応えがあって持ち上げられなかった。
 元々、鍛えていた訳ではないし、今は非力な魔法使いだから無理ないのかもしれない。

「【ストロング】」

 身体能力を向上させる魔法を使い再び挑戦すると、今度は軽々と持ち上がった。

「【テレポート】」

 「テレポート」は一度行った事のある場所に、自由に移動出来る時空系魔法だ。
 これによってマリウスは、今朝出発した場所へと戻った。
 散らばってる木の枝で肉を刺す。
 この時、ふと思いついて「ディテクション」で鑑定してみると、生肉と判定が出た。

(もしかしたら焼き加減が分かるか?)

 出来ればミディアムウェルくらいまでは焼きたいところだが、魔法で判断が出来るならば、かなり難易度は下がる。
 木片や葉などを集め、「ファイア」で火を点ける。
 火で肉を焙りながら、小まめに鑑定して焼き加減を確認する。
 魔力に余裕があるマリウスだからこそ、出来る事だった。
 「生肉」が「生焼け肉」になり、「こんがり肉」になったところで完成だ。
 一口かじって味見してみると、元の世界の牛肉のステーキによく似た味がする。

(よし、成功だな)

 鹿肉は牛肉に近い味がする、と耳にした事があった。
 アーマー“ディアー”だし、外見も鹿そのものだから、鹿の一種でいいだろう。
 木の実と交互に食べると、何とも言えない味に変わり、水を飲みに湖までテレポートで飛ぶ羽目になった。

(ま、まさか異世界でもこんな事があるとは……)

 水を飲んで口内に広がった味を消し去ると、一息ついた。
 考えてみればあっても不自然ではないのだ。
 そこまで頭が回らなかっただけで。
 木の実は後回しにし、まずは肉を堪能する。
 一番美味しかったのは背ロースの部分だ。
 友達に教えてやりたいと本気で思ったほどで、マリウスの語彙力では絶品としか言いようがなかった。

(帰れない、よな。やっぱり)

 読んでいた小説では、死後異世界にトリップした人間が、元の世界に戻った、というパターンはなかった。
 生きたままトリップしたり、憑依したり、召喚されたのとは訳が違うのだ。

(せっかくの第二の人生だし、思うままいってようかな)

 自分がこの地に転生した理由も、いつか分かる日が来るだろう、と何となく想像した。
 マリウスは基本的に楽観的な人間なのだ。
 ──食べ切れなかった肉は干して、保存食にする事に決めた。
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