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ネクストライフ 作者:相野仁

第二章「新天地」

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十四話「隠し事」

(さて、実際はどうなのかな)

 ロヴィーサとエマが去った後、マリウスは二人が座っていた椅子に魔法を使う事にした。
 今回の件ではさすがに疑問に思う事があった。 
 マリウスは己が今までほぼ魔法を使わなかったから信頼されたと考え喜んでいたのだが、よくよく考えてみればおかしな話だ。
 どうして彼女らはあそこまでマリウスを警戒せず、信じられるのだろうか。
 もっともこれは言い換える事が出来る。
 どうして「マリウスが魔法を使わなかった事を知っている」のだろう、と。
 答えは二十四時間体制でマリウスを監視している、だろう。
 しかし、賢者の力を持つこの体は魔法の類を知覚していない。
 山田隆司だった時は一般人であり何かされても気づかないであろうが、マリウス・トゥーバンにごまかしは通用しない。
 となるとマジックアイテムの線が濃厚になる。
 それも遠距離から魔法の発動を感知出来るタイプだろうか。
 王宮の防御力が一見して低そうに見えるのは、きっとマジックアイテムの力に自信があり結果も出しているという事だ。
 だからマリウスが今魔法を使ったらきっと感知されるが、心配はしていなかった。

「サイコメトリーを使って建物などの歴史を知ろうと思った」

 という言い訳を用意していたからだ。
 「リードシンク」と「サイコメトリー」を合成して使う事で、二人の女性が座っていた椅子から、二人のマリウスへの考え方などを読み取れるのだ。
 これを教えていない以上、マリウスの言い訳を信じるしかない。
 魔法の発動を感知出来ても種類までは感知出来ないのだから。
 いくらマリウスが凡人であっても、完全な信頼関係を構築していない相手に自分の情報を全て打ち明ける程愚かではなかった。
 ここまで全て計画通りであったのならばなかなかのものと言えるが、マリウスの場合は完全に行き当たりばったりであった。
 ロヴィーサとエマが気味悪い程に信頼を見せたから疑問に思い、そう言えば今なら「サイコメトリー」を使っても言い訳出来ると考えたにすぎない。

(監視されるのは仕方ないんだけど……)

 どこまで本当の事をマリウスに言っているのか、疑問に思ってしまった。
 正確には心の奥底に蓋をして閉じ込めていたのが噴き出してきた、と言うべきかもしれない。
 きっかけはロヴィーサ、エマの態度と王の反応のギャップだ。
 彼女達は恐らく自分達の役目を忠実かつ完璧にこなしたのだろう。
 それ故にマリウスに疑念を与えたのだから皮肉な話だった。
 これまで疑いが大きくならなかったのは、マリウスがその気になりさえすればすぐに分かるのに嘘を言うのか、という考えがあった為だ。
 それもマリウスの力に大きく驚いていた人間が、である。
 しかしベルンハルト三世の驚きぶりも今にして思えば偽情報があったのかもしれないとも取れる。
 ベルンハルト三世にせよエマにせよ、マリウスが首尾一貫した行動を取っていればこの展開は読めていたであろうが、マリウスは複雑な事は何も考えずにいた。
 だから見落とした。 

(【サイコメトリー】【リードシンク】合成!)

 二人のお尻があった部分に手を触れるとまだかすかに残る体温が掌に伝わってきたが、煩悩は刺激されなかった。
 白い光が手と椅子を行き来し、情報の断片が濁流となってマリウスの脳へと流れ込む。
 情報の濁流は脳内でパズルのように組み立てられ、マリウスの知りたかった完成形へと変わる。
 まずロヴィーサのマリウスへの好感度、警戒心はほぼなし。
 そしてこれまで言った事は……全て事実。
 次にエマ。
 好感度……微妙、警戒心は普通。
 そしてこれまでのいった事は……全て事実。
 二人と少しずつ仲良くなれた事、遠回しな忠告をしてくれた事、これらに偽りはなかったと判明した。
 マリウスは深いため息をついた。

(俺、何をやってるんだろう)

 二人を疑った事が急激に恥ずかしくなってきたが、頭をふってこれは前進だと言い聞かせる。
 恐らく怪しむべきは王の方だが、これは王としては当然の判断ではないだろうか。

(うーん、俺ブレまくってるなぁ)

 頭をがしがしとかきむしる。
 これまで無縁だった世界に飛び込んだしわ寄せがここに来て一気に押し寄せてきたかのようだ。
 どんどん新しい事が出てきて、頭の方がついていけなくなっている気がしてくる。

(とりあえず注意しなきゃいけないのはウィルスンみたいな奴らかな)

 マリウスの中では敬意を払う対象ではなくなったウィルスンだった。
 王の方は動揺が酷かったので、懲りたであろうと推測した。
 油断したら足元をすくってきそうだから警戒は怠らないようにせねばならないのだが。
 とは言え、元が一般人のマリウスでは二十四時間油断も警戒も怠るなという方が無理である。
 あくまでも「賢者マリウス=トゥーバン」のスペックを持った人間でしかないのだ。
 精神が肉体に引っ張られる、というありがたい現象は今のところ起こる気配すらなかった。

(ま、不意打ちされても防げる相手しかいないけどね)

 レベル百五十超の肉弾戦の達人、もしくはレベル二百超の魔法使いなどがいれば今のようにのん気な姿勢ではいられない。
 無力化をする策を考えるのに汗をかかねばならなかっただろう。
 この世界のレベルが低いのか、フィラートのレベルが低いのかはまだ結論が下せない。

(とりあえずはレイモンドさんとエマさんと魔法の練習かな)

 マリウスはこの期に及んでもまだのん気に構えていた。
 知り合った仲で最強のヤーダベルスとすら、レベルが百二十以上も離れているのだから緊張する方が困難だった。







 約束の時間に練兵場に行くと、エマとレイモンドと兵達以外に、見覚えのある貴族のご令嬢達がいた。

(貴族の発想が意味不明すぎる……)

 マリウスにとっては到底ついていけない奇抜な発想だったが、とりあえず遠慮せずに「リードシンク」をかけてみた。
 「お近づきに」「他の娘を牽制」「どんな過去なのか」といった思念が入り混じって伝わってくる。
 奇妙な事を考えている娘もいるみたいだが、概ねは「マリウスと仲良くなっておきたい」という貴族的野心によるものらしい。
 「リードシンク」に欠点があるとすれば一度に読めるものに限度があるという事で、今回の場合は心の奥底までは読めなかったが事情は分かった。
 道理で魔法兵達が迷惑そうな顔をしているはずだ。
 レイモンドは「やれやれ」と言いたげで、エマに至っては今回の件を画策した張本人ではないのかと疑いたくなる程に平然としていた。

「まずは“ステルス”から参りましょう」

 エマは空気を完全に無視し、冷静な声音で告げる。

「魔の力、敵より隠せ【ステルス】」

 魔法が発動したのは知覚出来たが、それだけで何も変化があったようには見えない。
 エマは淡々と続ける。

「【ファイア】」

 マリウスの顔の大きさに等しい火の玉が出る。
 魔法が発動する際に感じられる魔力の高まりが全くなく、突然火の玉が目の前に現れたようにしか見えなかった。

「これは凄い」

 マリウスは素直に感心したし、兵士達も大きく沸いた。
 貴族令嬢達は凄さを理解出来ていないだろうか、沈黙していた。
 これを会得すれば本来無理なはずの魔法での不意打ちが可能となる。
 ただ、エマとルーカスの二人しか会得していないと言うのならば何らかの欠点があるのだろうな、と思った。

「魔力を込めた分に応じて効果時間は変わります。私では五秒がやっとでしょうか」

 エマの説明と同時にエマの魔力を知覚出来るようになり、兵士達は再度どよめく。
 そういった欠点があるならば使いどころが難しいし、無理して会得する必要が無いかもしれない。
 これまでのパターン的にマリウスがまともに魔力を込めると一時間、という数字が出そうではあった。
 そういう訳でかなり手を抜きながらエマの詠唱を真似してみる。

「魔の力、敵より隠せ【ステルス】」

 しかし何も起こらなかった。
 レイモンドを眉を寄せたし兵士達から意外そうな声が上がり、令嬢達は失望したかのようにため息をついた。
 エマはお見通しだったかのように淡々と助言をした。

「なるほど……マリウス様はこちらの詠唱に馴染んでませんね。練習すれば出来るようになりますよ」

 詠唱が馴染む、その大切さを実感させられた瞬間だった。
 無詠唱ならば意外と出来るかもしれないが、さすがにこの面子の前でやるのはよくない。

「魔の力、敵より隠せ【ステルス】」

 魔法が発動し目に見えぬ膜のようなものに体が包まれるような感覚を味わった。

「あ、出来ました」

『速!?』

 エマ以外の全員が見事にハモっていた。
 エマも声にこそ出さなかったが、目を丸くしている。
 二度目で出来るというのは相当な上達速度のようだが、そうなると彼らはマリウスが出来るまで見守り続ける気でいたのであろうか。
 すぐに成功した方が精神衛生上はよかったかもしれない。

「お見事です、さすがはマリウス様」

 いち早く我に返ったエマが畏敬の念がこもった賛辞を送る。
 続いて立ち直ったレイモンドが拍手をすると、兵士達も令嬢達も一斉に拍手をした。
 拍手が鳴り止むとレイモンドが一歩前に出る。

「続いて召喚術ですね」

「え? 召喚術が先ですか?」

 マリウスは思わず訊き返していた。
 こういう場合、次はマリウスが教える番ではないのだろうか。
 そんな疑問を見て取ったレイモンドは苦笑した。

「お恥ずかしい話ですが、マリウス殿に先にお教えした方が時間はたっぷり取れそうでして」

 エマや貴族令嬢達は礼節を守って無反応を決め込んだが、兵士達は照れくさそうに頷いた。

「そういう事でしたら喜んでご厚意に甘えましょう」

 レイモンドが召喚術について説明を始める。
 倒した魔物と意思を交わして契約し、使役する術こそが召喚術。
 契約したい術者本人が倒さなくてはならないが、一対一である必要はなく、術者が参加するパーティーが倒せばよい。
 ただ、極まれに術者と一対一で戦いたがったり、戦わずとも契約してくれる魔物もいるという。
 召喚師にとって肝となるのは二つ。
 魔物と意思を交わす為の特殊言語を会得する事、もう一つは召喚獣となったもの達を収容する空間を構築する事だ。
 特に後者はきちんと出来ないといい召喚獣と契約は出来ないとか。
 地味な説明が続いたせいで、貴族令嬢達は退屈そうにしている。
 私語をしたりしないのは淑女として教育を受けてきた者の嗜みであろうか。
 マリウスが教わった通り、目を閉じて体内に新しく空間を作るイメージを描いていると、外の空気が騒がしくなってきた。
 「おや」と思うと同時に脳内に直接鐘の音が響き渡る。

「これは戦時警報!?」

 レイモンドとエマが叫び、他の者も騒然となる中、マリウスだけが事態についていけなかった。

(戦時警報? 空襲警報みたいなもんか?)

 マリウスが一人首をひねっていると壮年の男が練兵場に駆け込んできた。

「レイモンド!」

 マリウスは知らなかったが、レイモンドと同格の魔法兵団大隊長であるガレスであった。

「諜報兵より緊急連絡! ホルディアが我が国に宣戦布告! 十五万の大軍が進撃を始めた!」

「何だと!?」

 ホルディアはフィラートに隣接するターリアント大陸一の国土を有する大国であり、近年仲が悪化していた国であった。

「馬鹿な! 魔演祭は二週間後だぞ! 奴ら、不文律を忘れたのか!?」

 魔演祭、そして武闘祭の一ヶ月前後は交戦しないという暗黙の了解があった。
 戦争の代わりとして開催されるのだから当然と言えば当然である。

「文句はホルディアの狂王に言え! 準備を急げよ! マリウス殿はエマ殿と共に直ちに陛下のおそばへ!」

 第一回開催時より続いてきた暗黙の了解はここにきて破られたのだ。
 王宮内は一気に騒然とし始めた。
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