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ネクストライフ 作者:相野仁

第二章「新天地」

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十三話「ズレ」

 マリウスは知らなかったが、ヌンガロという呼称が示すのは何も袋状のものだけではない。
 つまり、アイテム袋以外にも用途はあるという事である。
 マリウスの魔力に馴染んだものはルーカスやニルソンの魔法すら効かなくなってしまう事が判明し、マリウスが魔法付加を担当する事が決まった。
 魔法を定着させられるよう、一層の努力が義務付けられた。

「五枚程度ならば、焦る必要はないぞ」

 と、ベルンハルト三世のフォローがありがたかった。

「ヌーグまで破砕しなくてよかったです」

 事の顛末を知ったロヴィーサがマリウスに向けて放った第一声である。
 綺麗な笑顔が伴っていなければ皮肉にしか聞こえなかっただろう。
 今日は時間があるとの事なので、ターリアント語の勉強を兼ねてマリウス、ロヴィーサ、エマの三人でお茶をしていた。
 エマはと言うと、給仕をしつつアイテム袋以外にカーテンやマントが不足してると教えてくれた。
 それを聞いたマリウスはマジックアイテムとそれ以外の境界線について疑問に思ったので、スコーンを頬張りながら何でも答えてくれそうなエマに尋ねた。

「マジックアイテムと普通のものってどう違うんですか?」

「簡単に言いますと、魔法と同じ効果を使えるかどうか、ですね」

 エマはレモン茶を一口啜ってから答えた。
 実のところ、日用品にも魔法がかかっているものは多いという。
 それでも日用品扱いさせるのは耐久力を高める魔法がせいぜいだからで、特殊効果の伴う魔法は全てマジックアイテムだ。
 日用品と言っても魔法がかけられている以上、かかっていないものよりは高級品となる。
 更に付け加えるのならば、高位の魔法ほど定着させるのが困難で、値段も高くなる傾向だ。

「マリウス様、責任重大ですね」

 ロヴィーサがくすくすと笑いながら言い、マリウスはわざとらしく肩をすくめた。
 ロヴィーサとエマの二人は、ベルンハルト三世よりマリウスが高位の精神系魔法を使えると聞かされたが、態度は変わらなかった。
 極まれに探るような視線をロヴィーサが向けてくる事はあったが、それ以外は今まで通りで、マリウスの方が驚くハメになった。

「“リードシンク”を使えると聞いているはずですが、お二人の態度が変わらないのは意外でした」

 後でしくじったかなと思ったマリウスにしてみれば、言わずにはいられない事だった。
 他に手が思いつかなかったし、エマ達の心を無暗に読む気はなかったが、それが相手に通じるかは別の話だった。

「魔法を使っているかどうか、エマはもちろん妾でも分かりますから」

 ロヴィーサの答えにマリウスはなるほどと頷いた。
 無条件で心を読んだり出来るならともかく、魔法を使わなくてはならない以上、歩み寄る余地があるという事だ。
 極力魔法を使わないようにして友好的態度を示してきたのだが、ここにきてそれは全くの無駄ではなかったと、少々喜ばしかった。
 魔法が発動する瞬間が知覚出来るという事にマリウスが気づいたのは、ルーカス、ニルソンの二人と戦った時が初めてである。
 だからマリウスは誰でも魔法を知覚出来るのだと思い、魔法をこれまで極力使わなかったのは正解だったと心の中で自賛した。
 ただ、「それで終わり?」と思ったのも事実だった。
 態度を変えたりされたかった訳ではなかったが、もう少し何か違う反応があるのではないかと密かにへこんでいたりしたのだ。

「マリウス様……本当にご自身のお力について、認識不足なのですね」

 マリウスの心理を見抜いたエマは呆れたようにため息をついた。
 認識不足と言うよりは価値観の違いではないのか、というのがマリウスの意見だったが、口答えはせずに続きを視線を促した。

「この国を軽く滅ぼせそうな力を見せた後で、心が読めるとか過去を探れるとか、児戯にすぎないと思うのですよ」

 淡々としたエマの態度から偽りとは思えなかった。
 つまりマリウスの戦闘力の高さが衝撃的すぎて、読心魔法に関する衝撃は少ないという事のようだ。
 そんなものなのかと疑問に思ったものの、直後に「この世界ではそんなものなのだ」といった返事が来る可能性が浮かび口をつぐんだ。
 国を滅ぼせる力といった現実味のないものより、心を読む不気味さが勝るのではと思うのはマリウスだけのようである。
 魔王や魔人という一国を滅ぼせる存在がいて、実際に滅ぼされる事が起こるこの世界ならではの発想なのかもしれない。

(と言うか俺、一国を滅ぼせる存在って認識されてんのか……)

 そこまでの力はまだ見せたつもりはなかったのに、というのが正直なところである。
 ワイバーンを一蹴したり、無詠唱を連発したりしたせいだろうか。
 それともそれらをやった上でも平然としてたからなのか。

(ま、やっちゃったものは仕方ない)

 狂的なまでの切り替えの速さで、すぐに今後に思いをはせる。
 ウィルスンが実は敵視しながらも表面上は友好的だったのも、彼らのマリウスの力の認識によるものだからか。
 という事は昨日ベルンハルト三世が衝撃を受けていたのは、読心魔法が使えるからではなく、彼の企みを暴き出して読み上げたからだったのではないだろうか。
 だとすればとんだ読み違いである。

(“賢者”補正って言うなら、価値観のギャップとか埋めてくれたらいいのになぁ)

 マリウスは舌打ちをせずにはいられなかった。
 悪化と断じるには早い気もするが、それでも事態が深刻化しているのは間違いなさそうだ。
 いや、何度かそれとなく警告されていたのに、深刻に受け止めていなかったマリウスが平和ボケしていたのだ。
 離間の策もどきを見ても、マリウス・トゥーバンというバランスブレーカーをめぐる争いが始まっているとまでは考えなかった。

(こうなったら王に読心魔法って札を見せておいたのはよかったかもしれん)

 あくまでも結果論ではあったが。
 マリウスは現状を正確に把握していない。
 マリウスの力を理解しているのは王の周辺の者で反発している貴族達はウィルスンのせいで理解していないし、読心については更に知る者は限られている。
 事態が深刻だという事は当たっていたが、その理由に関しては間違っているのだった。
 原因はマリウス自身にもあるが、国内の情勢を誰も正確に教えていないというのもあった。
 国の上層部が一枚岩ではないと知ったらマリウスがどう出るか分からない、という懸念の声が多かった為だ。
 もちろん隠しきれるとまでは思っていないし、現にマリウスも多少は気づいている。
 だからこそ醜聞も覚悟でロヴィーサやエマが接触し続けているのだった。 
 マリウスが考え事に没頭したのを見て取った二人の女性は空気を読んで沈黙を守った。
 エマは「やはり頭はあまりよくなさそう」と思ったが、胸にしまいロヴィーサにも言わなかった。
 今言っても、恐らく心労を増やすだけだろうから。
 カップの音だけが部屋に響く。
 マリウスはすっかりお馴染みになったカカオ茶を含み、小さく息を吐いた。
 彼の頭では残念ながらこれと言った妙案は浮かんでこなかった。
 それよりも一緒にお茶をしている女性達をこれ以上放置しているのはまずいと思った。
 しかし全く違う話を振ってもかえって失望されそうな空気だ。

「それは大げさじゃないですか。魔法を知覚出来なかったら、もっとルーカス殿やニルソン殿に苦戦していたと思います」

 本心であったが、本音全てを打ち明けた訳ではない。
 しかもそれなりに間があいてからの発言で、白々とした空気にならなかったのはエマも全て見抜いているかのように即座に話に乗ったからだ。

「そうですね。ルーカス様やニルソン様が魔法の発動を隠蔽する“ステルス”という魔法を会得なさっていれば、もっと白熱した展開になっていたやもしれません」

 ロヴィーサは疑問だったが、異を挟まなかった。
 戦闘力がほぼ皆無の自分より魔法使いとして優れた力を持つ二人の見立ての方がきっと正しいのだろう、と。
 ロヴィーサは天才と言うべき人間だったが、特定分野以外はてんでダメだった。
 マリウスはここで知らない魔法が出てきた事に興味を持った。

「へー、そんな魔法もあるんですか」

 素直に驚いた。
 魔法を隠蔽するシステムはゲームにはなかった。
 恐らく、一切反撃されずに一方的に攻撃出来るという事態を避ける為だろう。

(精神系でも思ったけど、現実だとゲームの時よりもえげつない事が出来るんだよなぁ。気をつけよう)

 何かある度に気をつけようと思っているな、と己の凡庸さに苦笑が出る。
 とそこでマリウスはある事に気づいた。

「でも“ステルス”を使う時は知覚出来るんじゃありませんか?」

「ええ、ですから遠く離れない限りは意味が小さいですね」

 マリウスは素直に納得しかけてエマが言いたいことはそれだけか、もっと深い意味があるのではないかと考える。
 もし、別の意味があるとするならば「遠く離れて魔法を使うと疑われる」という遠回しな忠告だろうか。
 エマはさりげなくヒントをくれたりするので、迂闊に聞き流したりしていると後悔する事もありえる。

「そう言えば読心の魔法の事は何人知っているのでしょう?」

 王にとって信頼出来る者にしか打ち明けていないのではないかという思いはある。
 つまり王が信頼していない人間こそ、マリウスにとっても警戒すべき相手ではないだろうか。
 マリウスの疑問に答えたのはロヴィーサだった。

「父上と妾達、ファルク、ルーカス、ニルソンです」

 想像以上に少なかった。
 そして王妃と王子が入っていない事は意外すぎた。

「王妃様と王子様にも内緒ですか」

 驚いたという態度を隠さないマリウスにロヴィーサが苦笑して答えた。

「あの二人はマリウス様と接点が少ないですからね。知っていても知らなくてもあまり変わりません」

 だからと言って王の身内に説明を省略するだろうか。
 さすがにあの二人が敵だとは思わなかったが、マリウスは一気にきな臭くなってきたと感じた。

「レイモンド殿とは魔法や召喚術を教えあうのを約束しているのですが」

 探るように確認するマリウスに対して、にっこり微笑んだロヴィーサ。 

「存じてます。レイモンドをよろしくご指南下さい」

 レイモンドは知らないし、教えなくてもいいという事だ。
 迂闊に話していい事ではないのは確かだが、単にそれだけなのか他に理由があるのか分からない。
 マリウスは策士にはなれない人間であった。

「“ステルス”という魔法は誰が使えますか?」

「私とルーカス様ですね。ルーカス様は私の師匠ですし」

 エマは澄まし顔でさらりと言ってのけた。

(あれ、エマさんって治癒士じゃなかったっけ)

 段々と混乱してきたマリウスだった。

「そうだ。エマ、マリウス様に教えて差し上げたらどうかしら」

 ロヴィーサは両手を叩き、名案を思いついたと言わんばかりに得意げな顔になった。

「え? いいんですか?」

 マリウスはあまりの意外さにほとんど素で反応してしまった。

「一時間程度なら問題ありません。ね、エマ?」

「ロヴィーサ様が仰るのであれば」 

 突然振られたエマは冷静な態度を崩さなかった。
 どう考えても監視を兼ねているとさすがのマリウスも気づいたが、今更断れなかった。
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