挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ネクストライフ 作者:相野仁

第一章「死んだ男」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

2/185

二話「訓練」

 転生して二日目。
 昨日、五級以下の魔法は一通り試し終え、全て使える事を確認したものの、結局微妙な加減は上手く出来ず、火も明かりもなく森の中で寝る羽目になった。
 念の為、防御結界を周囲に展開して置いたものの、何者にも破られる事はなかった。
 やはり近辺に生き物はいないらしい。
 朝、二つの太陽が昇ってきても、小鳥のさえずりが聞こえてくる、という事はなかった。
 木の実だけだと腹はふくれても、栄養バランスという点では大きな疑問がある。
 名前や効果は何度鑑定しても分からずじまいだった。
 出来れば他のものも見つけておきたいところだ。
 マリウスは起き上がると大きく背伸びをした。
 体の節々が痛むものの、思ったほどでもない。
 昨日採った木の実の残りを口へと持っていく。
 味はよく、腹もそこそこふくれるので、現状では重宝する。
 さしつかえがあるとしたら、鑑定しても木の実の名前が分からなかった事だろうか。
 FAO内で採取可能な野草があるか調べたもののこれと言った成果は出ていない。
 ただ、木片や薬草の名前は出たので、もしかすると鑑定で名前を知るには、マリウス自身が知識として持っておく必要があるのかもしれない。
 事あるごとに、ここはバルナム大陸ではないと突きつけられているようで、あまりいい気はしなかった。
 それでもあのまま死んでたよりはマシ、という想いは強い。

(今日の目標は、昨日よりも威力を落とせる事だ!)

 いずれ人里に行くにせよ、最下級の魔法で災害を引き起こすというのはまずい。
 ただでさえこの世界の知識が不足しているのだ。
 犯罪者と同類と見なされる事態は回避したかった。
 食事を終えると、種と皮は地面に捨てたまま放置して、湖の方に歩き出す。
 果物の皮は肥料になると、誰かから聞いた覚えがあったからだ。
 もし間違っていたら──そういう思いもあるが、考え出したらキリがない事である。
 マリウスという人間は、考えても結論が出そうもない事は後回しにする事で、前向きに生きていくタイプだった。
 悪く言えば行き当たりばったり、よく言えば臨機応変で切り替えが早いのだ。
 湖の水で顔を洗い、喉を潤すと、右方向へと歩き始める。
 湖の左方面に生き物はいない──ならば右方面は?
 マリウスはそう考えたのだった。

「【ファイア】」

 装備は出さず、右人差し指を上空に向けたまま唱えると、赤い、握り拳大の火の玉が上空に向かって飛んでいく。
 初めて使った時と比べ、威力はかなり落ちてきている。
 ただ、昨晩のうちに明かり代わりになる程度まで落とす事は出来なかった。
 上空に向けて放てば、少なくとも森や湖に被害が出ないと気づいたのは、木の実をウィンドで落とした後だった。
 ただ、遠くから誰かに目撃されたら、色々と誤解を招きかねない光景ではあるだろう。
 マリウスとしては、誰にも気づかれない事を祈りながら訓練を続けるしかなかった。

「【ファイア】」

 もう一度放つと、先ほどよりもやや小さい火の玉が上空に向けて飛んでいく。
 今のところは順調だ。
 マリウスが弱く、と念じれば念じるほど威力は下がっている。
 むしろ最初が強すぎただけかもしれない。

(ここは一つ、無詠唱を試してみるか)

 無詠唱とは魔法名さえも口にせず、念じるだけで魔法を使う、詠唱省略の更に上の技術だ。
 ファイア、と口に出さずに念じる。
 そうすると握り拳よりも二回りほど小さい火の玉が、指から出て上空に飛んでいった。

(出来たか)

 詠唱省略が出来る以上、出来てもおかしくはない。
 ゲームだと事前にセットしておいたものしか発動出来なかったが、この世界では自分の意思で行えるらしい。
 事前にセットなんて芸当が出来ない以上、必然なのかもしれないが。

(さて、どうするか)

 ゲームでは詠唱省略だと消費魔力こそ変わらないものの、威力は落ちるし、無詠唱では更に下になる。
 この点が変わらないのは昨日と今日で証明ずみだ。
 一方で扱う難易度も上がり、無詠唱はカンストプレイヤーでも使える者はそれほど多くなかった。
 それに一瞬で発動出来る反面、威力が大きく落ちるので、用途が限られてしまう。
 ソロプレイでもない限り、緊急用にしか使えなかった。
 今、マリウスにとっては大きな価値があるものの、人里に出ては異端視される材料になるのではないだろうか。
 そういった危険がある以上、無詠唱を積極的に練習する気にはなれなかった。
 マリウスの知識にない地なので、無詠唱が基本の世界な可能性も否定出来ないのだが……。

(まあ、いい。とりあえず詠唱省略で制御が出来るようになってからだ)

 マリウスは悩むのを止め、練習を再開する事にした。



 湖をいわゆる反時計回りの方向で進んでいく。

「【ファイア】【ウォーター】【ライト】【ウィンド】」

 ステータスの高さ故か、下級の魔法なら連発しても平気だ。
 しかし、歩きながら呪文を唱え続けていると、少しずつ息が上がってくる。
 ステータスを確認してもライフポイントは減っていない。
 どうやらライフポイントとは別に、スタミナという概念も存在するようだと見当をつけた。
 ステータスでは確認出来ない、という点が厄介ではある。
 ある程度息が弾んでくると、一旦立ち止まって息を整える事に専念する。

「【ファイア】」

 指先から出た火の玉は、無詠唱で使った並に弱々しかった。
 息が乱れた状態で使うと、魔法の威力も落ちるようだ。
 今度は無詠唱で「ファイア」を使ってみる。
 出てきた火の玉は、詠唱省略の時と同じくらいだった。
 どうやら無詠唱でなら威力は落ちないらしい。
 疲れている時はむしろ無詠唱の方がいいと分かったのは収穫だ。
 と、ここで首のあたりがチリチリする、嫌な感覚がマリウスを捉えた。
 漫画や小説だと敵意のある輩が近づいて来る予兆だ。

(俺ってその手の勘は鈍いはずなんだけど……)

 勘がよければ雪崩に巻き込まれて死ぬ、なんて事はなかったはずである。
 しかしながら、今の自分は『賢者フィロソファー』マリウス=トゥーバンだと思い直し、心構えを作った。
 『賢者』に嫌な感覚を与えるなら、きっと強敵に違いない。
 足を止め、神竜の杖を素早く取り出す。
 ちらりと左右に視線を走らせても、まだ敵らしき影は見えない。
 そこで急いで神言の指輪を取り出して、右の人差し指にはめた。
 その時、右手の森の方からガサガサという音が聞こえ、複数の影が姿を見せた。
 緑色の顔、こめかみから二本の小さな角がはえ、簡単な兜と鎧を身につけ、棍棒を右手に持ったモンスター、ゴブリンが五匹現れた。

(ゴブリン……? 湖で?)

 一瞬疑念がよぎったが、森の中にゴブリンの巣があるというのは、FAOでの設定通りではあった。
 左右の四匹はマリウスと同じくらいの体格で、中央にいるものは左右にいるものよりも一回り大きな体格だ。
 既にマリウスを捕捉しているらしく、敵意のこもった目で駆け寄ってくる。

「【スキャン】」

 敵情報を知る為の探査系魔法をかける。
 中央にいる一回り大きな体躯のゴブリンがゴブリンリーダー、他の四匹がゴブリンと判明する。
 そして名前以外は解析不能だった。

(何だと……)

 「スキャン」は十級に位置する、敵のステータスを知る事に特化した魔法だ。
 これを使ってステータスが分からないのは、遭遇した事のない敵か、あるいは自身と実力が拮抗しているかのどちらかである。
 ゴブリンは最も強いキングでレベル五十前後のはずだ。
 モンスター達のレベルは、ボス級モンスターや特殊モンスターを除いてプレイヤーが一対一で倒せるレベルを示している。
 つまり、レベル五十以上のプレイヤーなら一対一でゴブリンに負ける事はまずありえない。
 ──FAOの世界では。

(念の為、本気で行くか)

 バルナム大陸でないのなら、自分が知らない強力なゴブリンがいるのかもしれない。
 そう判断したマリウスは、神言の指輪の力を使う事にした。

「<紅蓮の炎よ。我が障害を焼き尽くせ>【クレムゾン・ブレイズ】」

 「クレムゾン・ブレイズ」の名を念じるだけで一瞬にして呪文が完成する。
 これこそが「バランス崩壊の元凶」と仲間に呆れられた、神言の指輪の効果。
 無詠唱で威力を全く落とさず魔法を発動させ、しかも使用後硬直が存在しないという、魔法使いの弱点を消滅させるアイテムだった。
 MMOではボスモンスターをソロで倒すなんて不可能である。
 そんな常識を覆すのが、エキストラアイテムだった。
 この世界でもその極悪さは変わらないと、マリウスの目の前で発生した白い巨大な炎の壁が伝えてきた。
 ゴブリン達は炎に飲まれ、一瞬で装備ごと消滅してしまった。
 「クレムゾン・ブレイズ」は五級に位置する広範囲魔法である。
 レベル百五十以上の存在なら、少なくとも一撃は耐える威力しかないし、集団なら百以上にまで下がる。
 あっさり片付いたところをみると、少なくともこの世界のゴブリン達は自分にとって脅威ではない。
 消し炭となったゴブリン達の痕跡を眺めながら、マリウスは多少安堵していた。
 人間を攻撃してくるモンスターの中でゴブリンは、スライム・コボルトに次ぐ弱さで、駆け出しの冒険者でも倒せる弱さだ。
 本気になってゴブリン数匹に苦戦するようなら、この世界では戦いから逃げ回るしかなかった。
 もちろん、油断は禁物だ。
 マリウスは自分にそう言い聞かせながら、ゴブリンの巣を探す事にした。
 ゴブリンは肉食のモンスターで、人間や草食動物を主食とし、その生息圏近隣に巣を作る。
 そして自身を脅かす生き物がいる場所には決して近寄らない。
 つまりゴブリン達と遭遇したという事は、近くに草食動物や人間がいて、ゴブリン達に脅威となる存在はいないという事なのである。

(いつの間にか、遠くまで来たんだな)

 いつの間にか二つの太陽は頭上に来ていて、出発地点らしき場所は遠くにうっすらと見えるだけだ。
 昨日、探しても見つけられなかった生き物と遭遇したのも無理はない。
 さほど疲れていないのは、マリウスという人間がスタミナもあるという事だろう。
 あくまでも魔法使いだから、前衛職よりタフなはずはないのだが、そこはエクストラプレイヤーのステータスと言ったところか。
 ただ、時間の経過に気づいたせいか、今更のように喉と腹の虫が自己主張を始めた。
 疲れて動けなくなる前に、喉を潤して腹を満たした方がいい。
 そう判断し、マリウスはまず湖で水をすくって口に入れた。
 昨日も飲んだが、体に異常は見受けられない。
 異世界のウィルスがいるかもしれないが、健康を害するレベルではない事は確かだ。
 安心して喉を潤すと、「ディテクション」を使った。
 すると、脳内で自身が赤く点滅する円として表示され、少々離れたところに青く点滅する小さな円が大量に表記された。

(いる、いる)

 マリウスは頬が緩むのを堪え切れなかった。
 待ち望んだ、生き物の反応である。
 ただし、ここで「ディテクション」の欠点が出た。
 生き物の存在は正確に探知できるが、詳細は分からない──というものである。
 どれがどの生き物なのか、判断は出来ない。
 だが、ゴブリンの巣が近隣にあるという時点で、ゴブリン達の群れなら狩れる相手である可能性は極めて高い。
 そして、ゴブリンは徒党を組む習性があり、最低でも五匹単位で行動するから、それよりも反応の数の少ない場所にいるものこそ、ゴブリンの獲物であろう。
 そして、今のマリウスにとってはそれで充分だった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ