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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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おまけ:頭痛薬が欲しいある王様

「あの方が悪いわけじゃないけど、やはり先代と比べるとどうしてもね……」

 それがトゥーバン王国第二代国王への一般的な評価である。
 これは本人のせいとは言えない。
 何故ならば初代王はアウラニースを従え、邪神の魔手から世界滅亡の危機を救った英雄マリウスなのだから。
 かのメリンダ・ギルフォードと双璧と称される偉業を打ち立てた、生きる伝説と謳われている。
 このような人物と比較されてしまうと、誰だって劣って見えるに違いない。
 だから本人はそれで納得していた。
 偉大なる父王から受け継いだものを、次の世代に渡すことが己の役目だと割り切っていたのである。
 しかし、唯一これに不満を持つ者がいた。
 その者の名はネルガルといい、二代王の実妹である。
 彼女にしてみれば父が偉大なる伝説なのは当然なのだが、兄が評価されないのも間違っているのだ。
 父は父、兄は兄として評価するべきなのに、いちいち父と比べて貶すとは。

「それで正確な評価が出来ているつもりなのかしらね、あいつらは」

 ネルガルが憎々しげに言葉を放つと、近くにいた魔王と魔人達が一斉に震えあがった。

「お、お許しください、ネルガル様……」

 彼女がひとたび怒気を発すれば、魔王級の実力がある者達ですら顔面蒼白となって命乞いをするしかない。
 彼らは皆、ネルガルが自発的に集めて鍛え育てた者達であった。
 そのようなことをせずともゾフィ、エルとアル、ソフィアとアイリスらがいると言われたのだが、彼女にとってこの面子は全て親の部下である。
 力ずくで従えるくらい訳がない相手しかいないのだが、彼女としては親のまねをして自分で自分の部下を作ってみたかったのだ。
 普段は理性的で常識的な制御役と名高いマリウスも、これだけは反対しなかったのである。
 その結果、ターリアント大陸のモンスター達は全てネルガルの傘下に入り、何体もの魔王を擁する巨大組織となっていた。

「止めるべきだったか……そうでなくとも条件や制限を作っておくべきだったな」

 これを知ったマリウスは後悔して天を仰いだが、すでに手遅れである。
 何体もの魔王を含む大量の魔人やモンスターを野に解き放ったりしたら、何が起こるか分からない。
 ネルガルに逆らおうと考える無謀な愚か者がいるはずはないが、他国から見ればまた別の考え方もあるだろう。
 今、彼女の側にいるのは魔王が三体、魔人が八人である。
 トゥーバン王国以外の国であれば、一晩あれば軽く攻め落とせるくらいの戦力であった。

「ねえ、お前達? お前達はどう思う?」

 ネルガルはそのまなざしを部下達に向ける。

「はっ、ネルガル様の兄上はとても立派な方だと思います!」

「我らに偏見を持たず、大変よくしていただいております!」

 彼らは口々に彼女の兄を褒めちぎった。
 何故ならばネルガルは家族を悪く言う者を決して許さないと、彼らは知っている。
 アウラニースだけは別のようだが、それ以外の者の悪口はたとえ義理の母のものであったとしても、少しの容赦もないのだ。

「……ふん」

 彼女は部下達が命惜しさにそのような事を言っているくらい、理解している。
 いや、冷静さが戻ってきたので理解出来るようになったと言うべきであろうか。

「さて、遠征に行くか」

 ネルガルが告げたのは、新しい手下を増やしに行くという宣言と同義である。
 一体何がどうなってそのような考えに到ったのか、彼らでは分からない。
 だが、訊くだけの勇気もなかった。

「どちらに向かわれますか?」

「大陸の外に行く。十数年もあれば、何かが現れているかもしれない」

 たった十数年でネルガルの目に留まるような存在が出現するとは思えなかったが、彼らは黙ってついて行くしかない。

「手下をどんどん増やし、珍しい品を集めて全て兄上に差し上げるのだ」

 それが兄の功績に数えられるように。
 声に出さない彼女の想いに、魔王と魔人達は黙って頭を下げる。
 彼が一斉に出ていく姿を遠目で見た当の第二代王ジークは頭を抱えた。

「私の王としての評価が微妙な原因の何割かは、あいつらのせいなんだが……」

 傍目から見た場合、彼が妹とその配下を制御出来ているようには見えないのである。
 配下達はあくまでも彼女に従っているし、その彼女の事を彼は持て余しているように映るのだ。
 彼女が家族愛に溢れる性格だからこそ、何事も起こっていないと。
 間違っている訳ではないし、彼女に悪気はないからこそ面倒なのである。
 父マリウスに相談したところ、「お前が解決しなければならない問題だ」と冷たく返されてしまった。
 まあ、国王がいつまでも引退した先代に頼れるはずないというのは、その通りなのだが……。

「胃が痛い……」

 第二代トゥーバン王の評価がなかなか定まらない理由の大半が、その身内にあるとネルガルが知ればどう思うだろうか。
 そう考えてしまったジークの反応がこれである。
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