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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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はじめてのぶとうさい

「武闘祭に出たい?」

 ジークとフリードの申し出に、ロヴィーサとバーラは思わず訊き返していた。
 彼女達の息子達はこくりとうなずく。
 武闘祭とは魔法も武器も何でもありの大会で、確かに彼らが出るのにはうってつけだろう。
 ちなみにマリウスとアウラニースらの出場は禁止されている。
 話を戻すとして、ロヴィーサが二人の少年にどうしてそんな事を言い出したのか尋ねてみた。

「どうして出ようと思ったの?」

 二人はもじもじしていたが、そのうちジークが意を決したように顔をあげて答える。

「僕達、どれくらい強くなれたのか試してみたいんです」

「正直、この国の中じゃよく分からなくて……」

 フリードが続けた言葉に、聞いていた者達は侍女達を含めて誰もが「それはそうだ」と思った。
 この国にはマリウスがいて、アウラニースがいる。
 ソフィア、アイリス、ゾフィと並みの人間ではとても歯が立たないような連中もいるし、何よりもネルガルが規格外すぎた。
 二歳の段階で魔王となったゾフィが手も足も出ないなど、マリウスやアウラニースの存在に慣れた者達ですら衝撃的だったのである。

「機会を与えるのは悪くないかも」

「そうねえ」

 二人はそう話し合う。
 息子達が自信を持てれば幸いだし、そうでなくても世の中の広さを知ってくれれば。
 そんな期待を込めて許可を出す事にした。


 ジークとフリードの出場を知ったとある女性曰く。

「ほう? ならばオレが鍛えてやろうか?」

「死ぬからやめれ」

 息子達の父が即座に止めたおかげで、ある危機は回避されたという。
 その父親の方はというと、基本的に賛成だった。

「実際、お前達が国外の連中の中でどれくらい強いのか、俺も興味はあるしな」

 二人に万が一の事があるなど、心配しているそぶりを全く見せない。
 兄達の参戦を聞いていた妹は、羨ましそうに指をくわえた。

「お兄様達いいなー、ネルも出たいよ」

「ダメ」

 これまたマリウスが一瞬で却下する。

「はーい」

 ネルガルは残念そうな顔をしたものの、素直に従う。
 何故彼女の出場が禁止されたのか、今更語るまでもないだろうが、出た瞬間優勝が決まってしまうからだ。
 彼女とまともに戦うには最低でもアイリス・ソフィア級の実力が必要である。
 そのような実力者を国外に求めるのは酷というものだろう。

「じゃあ試合の日は、皆で観戦するか」

 マリウスが言うと、ジークとフリードは天を仰ぎ、ネルガルは「はーい」と元気よく返事をした。
 その後、主催国のフィラートに申し込んだ時にひと波乱あったのだが、関係ないので省略する。
 時の流れというものは実に早く、あっという間に武闘祭の日が近づいてきた。
 今回、フィラートにやってきたのは出場者二人に加え、ロヴィーサ、エマ、マリウス、ネルガルといった面子である。
 ロヴィーサやエマにとっては里帰りの側面があったのだ。
 連れて行ってもらえないと知ったアウラニースは不満タラタラだったので、あるいは自力で来るかもしれない。
 少なくとも馬車を使うよりも彼女自身の力を発揮した方がずっと早く到着するのは、今更誰も指摘しない事実であった。
 ジークとフリードは、滅多に見られない外国の景色に心を奪われる。

「すごいねえ」

「うん、うちの国、何だか遅れているね……」

 彼らは素直にそう感想を言い、大人達の苦笑を誘う。
 トゥーバン王国は滅びた国の上に移民を募って生まれた新興国家にすぎないのだから、歴史ある大国フィラートと比べられると分が悪いのは仕方がない。
 建物を建て、田畑を耕し、緑を増やしても国家としての趣が出るには年月という工程が必要となるのだ。

「お前達、色々と勉強して国を良くしてくれ」

 マリウスが笑いながら言うと、二人の王子達は神妙な顔をしてうなずく。
 少々真面目すぎるところもあるが、純粋でまっすぐな二人だった。
 王女であったロヴィーサの里帰りという事で、王家が一行を迎えてくれる。
 彼女の父ベルンハルト三世もめっきり老け込んでいて、そろそろ後を息子に譲ろうかと考えているところだ。

(あ、弟がいたんだ……)

 というのがマリウスの正直なところである。
 彼の印象に残っているのはロヴィーサ、エマ、ベルンハルト三世を除けば、ヤーダベルスあたりだろうか。
 ロヴィーサの兄弟姉妹に関しては、全く記憶になかった。
 ジークとフリードとネルガルが挨拶をすると、現フィラート王と時期王は目尻を下げる。

「ネルガルは大会に出ないのかな?」

 国王の問いは何も知らない者としては当然であった。
 大人達が何か言うよりも早く、ネルガル本人が答えてしまう。

「あのね。ネルが出たらゆうしょうが決まっちゃうからダメなの!」

「そ、そうか」

 ベルンハルト三世の頭に一瞬、「この娘は何を言っているのか」という考えが浮かぶ。
 だが、すぐにこの少女の父親はマリウスだと思い直す。
 父の力を最も受け継いでいるのであれば、そう豪語しても無理はない。
 むしろ出ないでいてくれた方がありがたいとすら言えるかもしれなかった。
 老いはじめた脳でそう考えると、さっさと次の話題に移る事にする。
 王女ロヴィーサが嫁いだ以上、トゥーバン王国は有力な味方と考えてもよい。
 更にランレオ王女バーラも嫁いだので、ランレオも間接的な味方となる。
 こういう考えがこの大陸ではごく当たり前だった。
 子供達は退屈する前に、侍女達によって別室に案内される。
 それを断ったのがジークとフリードであった。

「将来の為にも色々とうかがえれば」

「王同士の話、気になります」

 まだ幼いと言える少年達の申し出に、フィラート側は目を剥く。
 特にベルンハルト三世の衝撃は大きかった。
 孫が立派に成長しつつあるのは喜びではあるが、自国の人間でないと思えば複雑にもなる。
 そんな大人達の反応をさほど気にする事もなく、ジークとフリードは勉強していった。


 そして武闘祭は始まる。
 年齢制限は特にないが、死んだり大怪我をしたりしても文句は言わない、というのが参加資格の一つだった。
 各国から集った猛者達が勝敗を決めていく。
 やはりと言うか、出場者は二十代から四十代でいかにもといった雰囲気屋体格を持った者が多い。
 その中でほんの少年でしかないジークとフリードは悪い意味で目立っていた。
 いちいち絡んでくる者はいなかったが、露骨に蔑んだ目を向けて来る者は少なからずいる。

「あいつらと当たった奴は幸運だな。実質不戦勝ってわけだ」

「主催者も何を考えているんだ? ボーナスステージを作るなら、もっと違うやり方があるだろうに」

 わざとしか思えぬ大きな声が二人の耳に届く。
 ジークとフリードはそれでも落ち着いた様子で、自分の出番を待っていた。
 この者達が束になって襲って来るよりも、怒ったアウラニースや癇癪を起こしたネルガルの方が遥かに恐ろしい。
 こんな思いが二人に奇妙な度胸をつけていたのだ。
 やがてジークの出番が来る。

「お、あいつ、運がいいなあ」

 選手の一人が卑下た笑い声をたてた。
 それを意に介せず、フリードと分かれてジークは入場する。
 彼が入れば観客席からもざわめきが起こった。

「大丈夫なのか、あの子?」

 という心配する声から、

「死ににきたのかねえ?」

 という嘲る声まで聞こえてくる。

「ランレオ王国、ガレス・シュナイダー!」

「おお」

 審判の声に対戦相手の男が吠える。
 観客達も合わせて拍手を送った。

「トゥーバン王国、ジーク・ヴォン・トゥーバン!」

「はい」

 ジークがお行儀よく返事をすると、あたりはシンと静まり返ってしまう。
 対戦相手のガレスは大きく目を見開いていて、顎が外れてしまいそうなくらい口を開けている。

「トゥ、トゥーバン……?」

 どこからかそんな声が聞こえた。
 この大陸の人々にとって、トゥーバンとはある男の事を指す。
 しかもトゥーバン王国出身ともなると、嫌でも連想してしまう。

「あ、マリウスは僕の父です」

 ジークはよせばいいのに上品に説明した。

「えええええええええええええええええっっっ」

 大音響が会場内に轟く。
 マリウス達は魔法できちんと防いでいたし、ジークも両手で耳を塞いでいた。
 実のところマリウスに息子が生まれていて、その名をジークとフリードという事は知られている。
 だが、当の本人がこうして大会に出てきているとなると、やはり驚きが何にも勝るのだ。
 結果としてジークは無難に勝ったが、本人は今一つ納得しきれない。
 父の威光のおかげなのでは、という疑念が頭にもたげたからである。
 フリードの時も似たような反応だったが、さすがに一度目よりは小さかった。
 そしてやはり無難に勝ったものの、本人はすっきりしないものを抱える。
 控室で兄弟は合流するとひそひそと相談し始めた。

「何かね、父上の名前に腰が引けているって感じだったよ」

「僕の相手もそうだった」

 そう言い合うと同時にため息をつく。
 一体両親はどういう狙いでこの大会への出場を許したのだろうか、と彼らは悩んでいる。
 彼らとしては自分の純粋な実力を確かめたかったのだが、とてもそれどころではなくなってしまっていた。
 その後彼らは準々決勝で仲良く敗退する。
 優勝したのはボルトナー王国のリッターであった。

「殴り合いに持ち込まれたら、誰もボルトナー人には勝てないな……」

「少なくとも人間だと難しいね」

 マリウス達はそう評価する。
 息子達の敗戦に関しては冷静に受け止めていた。
 まだ少年に過ぎないのだから、ある程度勝ち進んだだけでも上出来というものである。
 ただ例外もいて、

「マリウスの息子の癖に不甲斐ない! オレが鍛えなおしてやる!」

 と気炎を吐いた者もいた。
 もっともその者はマリウスによって強制的に退場させられたのだが。
 優勝を逃した事を詫びる息子達に対して、大人達は笑顔で出迎える。

「上出来だぞ」

 父親にそう褒められた二人は、嬉しそうな顔をして互いにうなずきあう。

「ねー、兄様。二人に勝った人達、ネルがやっつけてきてあげようか?」

 彼らの妹が不意にそんな事を言い出す。
 彼女としてはあくまでも兄の敵討ちのつもりであろう。
 だが、彼女がもしそんな真似をしたらどうなってしまうのか。

「そんな事をしたら死人が出るから止めなさい」

 危惧したマリウスによって、ネルガルの脅威は回避された。
 ただそればかりではない。
 トゥーバン国王は娘に向けて、悪戯っぽく片目をつぶりながら言った。

「それに敵討ちは自分達でやるさ。なあ二人とも?」

 父にそう声をかけられた二人は思わず驚いたが、反射的に首を縦に振る。

「そっか。獲物の横取りはいけないよねー」

 ネルガルは納得したのか、無邪気な笑顔になった。
 それを聞いたマリウスは難しい顔になり、「アウラニース、後でちょっと来い」と念話で呼び出す。
 ジークとフリードの初めての挑戦は、こうして終わったのである。
書籍版4巻、9月29日発売予定です。
よろしくお願いします。
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