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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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そして数年後

 ジーク、フリード、ネルガルはすくすくと育っていた。

「ふふん、大陸を吹き飛ばすくらいまでならいけるわね」

 得意そうな顔で胸を張ったのはネルガルである。
 幼いながらも母親譲りの美貌に白いワンピース姿はとてもよく似合っていた。
 先ほどの発言のように物騒な事を言いさえしなければ、ジークとフリードにとっては自慢の妹と言えただろう。
 事実、街道を行く人達は彼らに微笑ましそうな視線を向けている。

「止めなさい、そんな事」

 ジークとフリードが揃って止める。
 彼らは三人だけで遠くに遊びに出かけている最中だった。
 本来、王子と王女という肩書を持つ彼らが外出するならば、大量の護衛が同行するのが常だろう。
 しかし、周囲にそれらしき人影は全く見当たらない。
 その理由がネルガルという少女だった。
 まだ七、八歳という幼さにも関わらず、トゥーバン王国で五指に入る強さを有してるのである。
 何も知らない人間が聞けばともかく、ターリアント人達がこれを聞けばきっと腰を抜かすに違いない。
 国で五指ともなれば、マリウス、アウラニース、ソフィア、アイリスに次ぐという意味になるからだ。
 彼女は今その事を二人の兄に告げたのである。
 と言っても、彼女の性格上二人に自慢をしたわけではなかった。

「だからお兄様達は私が守るの。安心してね?」

「う、うん」

 真顔で妹に言われた二人は、内心複雑ではあったものの、表には出さずにうなずく。
 この幼い妹は二人の兄の事を彼女なりに慕っている。
 大好きな父親に「何かあったら、お前が兄を守れ」と言われていた事もあり、大いに張り切っていたのだった。
 ジークとフリードは生まれ育った環境が環境だけに、己の能力の限界というものをよく知っている。
 そして世の中の理不尽さも、多少は分かったつもりだった。
 だからと言って妹に頼り切りなど情けないと思わない、などといった事はない。
 そこまで兄としての自尊心を失っているわけではなかった。
 あるいはそれこそが葛藤の原因になっているのかもしれないが。
 三人は遊びに出かけていると言っても、特に目的はない。
 強いて言うならば、世の中というものを見聞してくる事になるだろう。
 トゥーバン王国は基本的にとても治安がいい国だ。
 この国の王マリウスは歴史上一、二を争うほどの大英雄だし、アウラニースもいる。
 更にアイリス、ソフィア、ゾフィ、エル、アルといった面子までもがいて、「その気になれば、マリウスとアウラニースがいなくても世界征服はできる」と言われるほどだった。
 そんな国を狙う悪党は滅多にいない。
 「滅多に」というところが大切な部分で、たまにはいるのである。
 危険は多いがその分同業他者はほとんどいないという点が大きかった。
 世界征服をも狙える戦力にさえ気をつければ、何とかなる……そう考える輩がいたのである。
 「馬鹿」「間抜け」「無謀」と言われつつ、全くいなくならないあたり、犯罪者の心理というものは奇妙なものだ。

「なんて父上は言っていたなあ」

 ジークとフリードは、父の言葉を振り返る。
 根が真面目な彼らは、きちんと父の言葉を思い出し、自身の血肉にしようとしていた。
 彼らが今回のような行為に及んでいるのも、「実情を知らない人間がいい政治をできない」という父の言葉に従っての事である。
 普段、大して仕事をしていないような父ではあったが、実のところ庶民的な視線で物事を考えて、母達や政務官達を大いに唸らせているという。

「あの人の後を継がなきゃいけないって言うんだから、僕らは大変だよね」

 フリードは大きくため息をついた。
 偉大すぎる父の影が大きな重圧となっているが、逃げ出そうと思ったり、あるいは父に対して反感を抱いたりはしていない。
 両親に惜しみなく愛情を注がれているという自覚はあったし、何よりも大人達は一方的に何かを押しつけてくる事がなかった。
 聞いたところによると、彼らの父たるマリウスが、そういう事をするのを嫌っているという。

「無理だったら無理だったらでまた何か手を考えればいいだろう。あいつらに期待しすぎる必要はない」

 マリウスのこの言葉を聞いた時、二人は大きな荷物から解放された気分になった。
 もちろん、二人の性格次第では「父に期待されていない」といじけてしまう事もありえたのだが、いい方向に働いたのである。
 それを知ったマリウスはこっそり「エルってすげえ」と思ったのだが、助言をした使い魔くらいしかその事は知らない。

「大丈夫だよ、フリード兄様。私がついているから」

 ネルガルがどんと平らな胸を叩く。

「それは頼もしいな」

 ジークが代わって答えたが、お世辞が八割ほどだった。
 強さ以外の部分でも妹のお世話になるのは避けたい、というのが彼の兄心である。
 と言うよりも、せめてもの意地だろうか。
 そのへんを汲みとる力がまだないネルガルは、無邪気に言う。

「それにエルもついているしね」

「えー……」

 妹の信頼とは違い、兄達の反応は微妙なものだった。
 それと知った少女は、不思議そうに首をかしげる。

「エル、優しくて頭よくて、頼りになるよ?」

「うーん……」

 確かにそれは否定できない。
 でも、ナニカ違う。
 ジークとフリードは心の底からそう思った。
 エルは確かに利口で頼りになるが、彼女の気持ちは三人の父親にのみ向けられている。
 父親が三人の事を可愛がっているからよくしてくれるだけで、そうでなければとても冷淡なのではないか。
 ジークとフリードはそういう疑念を持っている。
 ゾフィとアルも似たような傾向はあるものの、それでも親しみみたいなものは覚えるのだが。

「アイリスとソフィアもよく遊んでくれるし」

「……妹よ、それは間違っていると思うぞ」

 ジークは遠慮がちに指摘する。
 アイリスとソフィアは、マリウスやネルガルに対しては親切で礼儀正しいが、それだけだ。
 彼やフリードを始め、他の人間に対しては明らかによそよそしい。
 そこまで言うと言いすぎだとしても、心温まる関係を作る気がない事がはっきりと分かる。
 子ども達でも分かるくらいだから、別に隠してはいないのだろう。
 そもそもアウラニースの個人的な部下にすぎず、マリウスやトゥーバン王国に何のしがらみもない。
 マリウスはアウラニースの伴侶という事で一目も二目も置き、礼儀正しく接してはいるものの、それ以外の人間と仲よくする必要はないといったところだろうか。
 この二人はネルガルとよく遊んでいる、もとい修行しているのはまだまだ未熟な主人の娘を鍛えると言う名目があるのではないだろうか。

(言わない方がいいのかな)

 少なくとも妹自身は、二人に遊んでもらっていると解釈しているのであれば、いちいち訂正しない方がいいかもしれない。
 まだ子供なのにも関わらず、早くも苦労性の芽が顔を出し始めているジークだった。
 三人はどんどん人気のない方向へと歩いていくと、その後をつける男達が出てくる。

(つけてきている人たちがいるよ)

 ネルガルはごく自然体のまま、念話で二人の兄に知らせた。

(護衛の人じゃなくて?)

 ジークが魔法で訊き返す。
 と言っても、ネルガルのおかげでやっているだけで、彼一人ではできないのだが。

(うん、知らない気配。悪い人かも)

 ネルガルはそう報告する。
 彼女にとって会った事がある人の気配を覚えて区別する事は、呼吸したり瞬きをしたりする事くらい容易かった。

(まあ、まだ分からないよな)

 ジークは慎重なそぶりを見せる。
 何故かと言うと最大の要因は、この妹にあった。
 既に魔王に匹敵する戦闘力を持つ妹ならば、そこらの悪漢など山ほど来ても問題にならない。
 だが、悪漢ならばともかく何の罪もない人だったすると、下手な対応はまずいだろう。
 幼い兄心は、ほどなくして杞憂だった事が判明する。
 三人が人気のない林に入った後、五人の男がそれに追いついて彼らを包囲したのだ。

「ぼくちゃん、じょうちゃん、ダメだよ。子供達だけでこんなところにきたら」

 心配そうな顔をして言われたならばともかく、卑下た笑いを浮かべながら言われたとあっては、ネルガルでなくても善人認定は難しい。

「おじさんたち、悪い人?」

 ネルガルが率直に問いかけると、どっと笑い声が起こる。

「なかなかいい勘しているじゃないか、おじょうちゃん。でももう遅いけどね」

 何も知らない愚かで哀れな男の一人が、幼い少女に手を伸ばす。
 その直後、彼の姿は消えた。

「天まで届けパンチ☆」

 ネルガルはそう言いながら、男を殴り飛ばしたのである。
 幼い少女に殴られたはずの男は、半瞬もせぬ間に雲よりも高く体が舞い上がっていた。
 そしてそのまま落ちてきて、地面に激突する。
 確かめるまでもなく即死だった。
 もっとも、彼が死んだのは地面に激突した時ではなく、殴られた直後であったが。

「……は?」

「……え?」

 彼女の幼い兄達がため息をついたのとは対照的に、男達は何が起こったのか理解できなかった。
 そこに容赦ない攻撃が加えられる。

「地獄に落ちろキック☆」

 残りの男達も可愛らしい声が聞こえた瞬間、絶命する事になった。
 子ども達に手を出そうとした不逞の輩は、「相手を選べ」という教訓を守らなかった愚かさの報いを受けた事になる。

「やっぱり変な人っているんだねえ」

 悪夢のような強さで男達を一掃したネルガルは、残念そうな声でつぶやく。
 彼女の声には怒りがこもっていた。
 むろん、大好きな父の国でよからぬ事をやろうとする不埒者に対する怒りである。
 二人の兄は目配せをしあうと、妹をなだめにかかった。

「それは仕方ない事だし。ほら、先に進もう」

「むー」

 兄になだめられた少女は、唸ったもののそれ以上は何も言わず兄達の後を追う。
 彼らにとってはごくありふれた日だった。
ネクストライフ3巻は8月29日発売予定です。
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