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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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ある日のネルガル

「たすけて! エルえもん!」

 ネルガルは父の部下に泣きついた。

「はーい、どうしました?」

 泣きつかれた方は、慣れた様子で抱き止める。
 何かあったらエルを頼れ、というのはマリウスの子供達で根付いているのだった。
 その時は「エルえもん」と言うのもである。
 呼ばれる方は、もはや疑問を持つ事を諦めていた。

「おとーしゃまとあそぶじかん、もっとほしいの!」

 べそをかきながらすがるような目を向けてくる幼女の頭をなでながら、エルはクールに考える。
 彼女にしてみれば、ネルガルはマリウスの娘に過ぎない。
 マリウスが可愛がっているから大切な存在だが、そうでなければ取るに足らぬ相手となる。
 この点、ゾフィやアルとは違って冷徹ですらあるのがエルという淫魔だった。

「修行の相手になってくれるよう、頼んでみましたか?」

「うん、でもおかーしゃまがやるって」

 ネルガルは口を尖らせる。
 エルに教わった通りにしてみたら、アウラニースがでしゃばってきたのだ。
 本人にしてみればいい暇つぶしだったのだろうが、娘にしてはいい迷惑だったのである。
 そして、エルにとっても。
 マリウス自身に頼られるならば大歓迎でも、その娘に頼られたところで少しも嬉しくないのだ。
 もっとも、そんな事はおくびにも出さない。
 出せば主人の不興を買ってしまうからだ。
 エルはどこまでいってもマリウス至上主義者なのである。
 それを誰にも気づかせていないところが彼女の恐ろしさの一端なのだが。

「ではアウラニースと存分に遊んでもらえばよいでしょう」

「えええええ」

 ネルガルは大きく叫ぶ。
 彼女にしてみれば何気ない動作でも、周囲の者にとっては軽く騒音である。
 エルは予想していたらしく、事前に両耳を塞いでいたが。
 このあたりが「腹黒」呼ばわりされる一因となっているものの、本人は全く気にしていない。
 自分の存在意義だと開き直りにも近い姿勢を貫いていた。
 だからこそネルガルにも頼られるのだが。

「ど、どうしてそうなるのよー。おかーしゃまのことはいいの! わたしがあそんでほしいのはおとーしゃまなの!」

 むくれながら抗議するネルガルに向かい、エルは片目をつぶって言った。

「アウラニースと存分に遊べば、ご主人様は構ってくれるようになるでしょう」

「????????」

 ネルガルには意味が理解できない。
 偶然聞いていた人間も一緒に首をかしげたのだから、無理もないだろう。 
 どうして母親と遊べば、父親が出てくるのだろうか。
 普段は、母親と遊べと言うだけの人なのに。
 そんな疑問が湧いている。
 他の誰かが言ったのであれば、相手にしないか激怒するかだっただろう。
 だが、言ったのがエルとなると一考の余地が生まれる。

「ご主人様と遊びたいなら、一番の近道であると保証します」

 そんな幼女の迷いを見抜いたように、優しくたたみかけた。

「わからないけど、わかったー」

 ネルガルは疑問符を浮かべながらも引き下がる。
 目の前の淫魔が頼りになる事に関しては全く疑っていないのだ。
 元より幼女は素直な性格である。
 一直線にアウラニースの下へ向かって叫んだ。 

「おかーしゃま、あそぼー!」

「おう。エルにでも入れ知恵されたのか?」

 アウラニースは騙せない。
 娘は図星をつかれてたじろぎ、目をそらしながら答えた。

「そ、そんなことないもん」

 嘘がつけない性格である。
 このあたり、実に母娘そっくりだとマリウスならば言うだろう。

「まあ、いい。かかってこい。オレが遊んでやる」

「なんかまちがっているとおもう」

 ネルガルがジト目でつっこみを入れる。

「な、なんだとー」

 アウラニースはむくれた。
 目撃する者がいれば、どちらが子供か分からないと言ったに違いない。

「ネルはね、おとーしゃまにあそんでもらいたいの!」

 娘の叫びを聞いた母は、腕を組んだ。

「そう言えばあいつ、最近オレの相手もサボっていやがるな。……よし、ちょっとものを言いに行くか」

「うん!」

 アウラニースとネルガルは手を組んだ。(誤字でも脱字でもない)

「おとうしゃま、どこかなー?」

 ネルガルが無邪気にとてとてと歩き始めたら、母は首根っこを掴んで止める。

「待て。こっちだ、何となくだが」

 アウラニースは何と山をめがけて地を蹴った。
 一瞬で周囲を置き去りにして山に着く。
 彼女の脚力ならば当然だが、凄まじい負荷に襲われたのも当たり前である。

「わ! すごい! すごい!」

 ところがネルガルは無邪気に喜んでいた。
 見た目は幼いのだが、その強さ耐久力共に並みの魔王を遥かに凌駕している為だろう。
 恐らく、マリウスどころかゾフィですらここまでではあるまい。

「さてと、マリウスの奴はこっちだな、たぶん」

 アウラニースは山にある泉に向かう。
 するとマリウスがちょうど泉の水を飲んでいたところだった。

「あ、おとうしゃまいたー!」

 ネルガルは喜んで声をあげる。

「は?」

 呼ばれたマリウスは目を丸くし、素っ頓狂な声をあげてしまう。
 誰もいないはずの場所でいきなり娘の声が聞こえたのだから、無理からぬところだ。
 しかし、一緒にアウラニースがいるのを見て、全てを察して納得してしまった。

「何だよ、アウラニース」

 マリウスがアウラニースに質問をしたのはあながち間違いとは言えない。
 まず真意を問うべき相手は彼女の方だからだ。
 もっとも、問われた方にしてみれば、言わなければ分からないのかと返したいところだろう。

「オレ達と遊べ」

 魔王にして帝王の妻は、簡潔に完結させた。

「あそんでー」

 ネルガルはニコニコとしながら言う。
 マリウスは考え込む。
 アウラニースはさておき、娘の方と遊ぶのは別に嫌ではない。

「いいぞ、ネルの方は」

 その一言が二つの反応を生んだ。

「やったー! エルの言ったとおりだ!」

 腹黒淫魔の言う事を聞いてよかったと喜ぶ娘とは裏腹に、親の方は納得しない。

「待て、オレは?」

「却下」

 マリウスはそっけなく答える。

「なんだとー」

 アウラニースはむくれてしまう。
 そんな彼女に向かって娘は言った。

「やーい、ひごろのおこないー」

 その言葉を聞きとがめたのは言われた母親ではなく、父親の方だった。

「こら、ネル。どこでそんな言葉を覚えた」

「ええ? ごめんなさい」

 ネルガルは父親が不機嫌になったのを鋭敏に察して、大慌てで謝る。
 マリウスは表情を和らげ、優しく話しかけた。

「分かればいい。それよりもそんな言葉、誰が言っていたんだい?」

「えっとね……」

 少女は許してもらえた嬉しさと、父に問いかけられた喜びで一生懸命答える。
 彼女が告げたのは一人の侍女の名前だった。

(よし、クビにしよう)

 マリウスは割と親馬鹿なのである。

「おとうしゃま? あそんで?」

 ネルガルは小首をかしげ、無垢な瞳で父を見つめた。

「いいよー。何して遊ぶ?」

 父親の問いに大喜びで答える。

「えーとね、追いかけっこ」

「待て、コラ」

 アウラニースが割って入ってきた。

「オレを仲間外れにしようなんて、千年は早いぞコラ」

 心なしか声と表情に怒気をはらんでいる。  
 このままあしらうとまずい事になる、とマリウスは直感した。

「いいけど、じゃあお前が逃げる役をやれよ」

 マリウスはそう言う。
 これには当然理由がある。
 アウラニースの直感の恐ろしさを百も承知しているからだ。
 どんなところに逃げようが、直感だけで見つかってしまうだろう。
 だからこそ、逃げる役にしてそれを封じようというのだ。

「よしわかった、地の果てまで逃げてやろう」

 張り切ったアウラニースは、本気とも冗談ともつかぬ事を言い放つ。
 両手をパキパキ鳴らし、あっという間に見えなくなってしまった。
 それを見たマリウスは、娘に向かって言う。

「さて、邪魔者はいなくなったし、何をして遊ぶ?」

「えーとね、たかいたかいがいい」

 ネルガルは満面の笑みで答えた。

「よしよし、たくさんしような」

 マリウスはさっそくたかいたかいをしてやる。
 自分もそれなりに悪影響を与えている事に全く気がつかない、親馬鹿ぶりだった。
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