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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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後悔

一時的に数年後の話になります。
 後悔先に立たず。
 マリウスはその言葉を思い出さずにはいられなかった。

「死ね、ババア!」

「誰がババアだ、コラァ!」

 二人の女が激しい戦いをしている。
 天地をつんざくような轟音が間断なく聞こえるほどだ。
 戦っている場所が、マリウスが創った異空間でなくこちらの世界だったら、ターリアント大陸の地図の大半を書き直すハメになってであろう。
 見る者全てがそう思いそうな戦闘をしている者のうち、片方の名はアウラニースという。
 これを知ればほとんどの者が納得すると同時に驚倒するだろう。
 何故ならば、アウラニースと激しくもいい戦いをしているのは、マリウスではないのだ。
 そしてアイリスでもソフィアでも、ゾフィでもない。
 どう見ても五、六歳としか思えない幼女だった。
 彼女の名はネルガル。
 ネルガル・ヴォン・トゥーバン。
 父の名はマリウス、母の名はアウラニースという。
 つまり、母娘喧嘩の真っ最中なのだ。

(どうしてこうなった……)

 マリウスはそう思わずにはいられない。
 とは言っても原因は明確である。
 マリウスとアウラニースに子供が産まれたせいだ。
 より正確に言うのであれば、両者の特長を色濃く受け継いだ子供が、となる。
 ジークとフリードを見て、己の力は遺伝しにくいと安心したのが運の尽きだったかもしれない。
 ネルガルはアウラニースの理不尽さと頑健さ、戦闘センス、スキル、マリウスの魔力、魔法センスを
受け継いで生まれてしまった。
 それが判明した時、王宮内が静まり返った事をまだ覚えている。

「いい加減にしろ、ジャガーノートッ!」

 アウラニースはとうとう得意技の一つ「ジャガーノート」を繰り出す。
 まともに食らったら町どころか国だってやばい威力である。
 幼い我が子にそんな攻撃が浴びせられたと言うのに、マリウスは全く心配しなかった。

「あまい!」

 何とネルガルもジャガーノートを放ち、アウラニースの攻撃を相殺してしまったのである。
 さすがにアウラニースが真の姿に戻って全力で撃ったものは無理だろうが。

「れっきんぐはれっきんぐでそうさいできるんだよねー」

 ネルガルは得意げな顔をして言った。
 そう、彼女は既にアウラニースのスキル「レッキング」を会得しているのである。
 これで幼女と言うのだから、開いた口が塞がらない。
 恐らく実物を見ない限り、誰も信じないだろう。

(天才とかチートとかそんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしい別の何かだ)

 マリウスは戦慄する。
 このまま順調に育てば己とアウラニースをも凌駕する怪物になりそうだからだ。
 それだけであれば、まだ救いはある。
 一番の問題は、ネルガルの性質が母親似だという事だ。
 教育係が真っ青になり、号泣しながら「責任は取れません」と縋りついてきた事がある。
 気持ちはものすごくよく分かったので、無罪とした。
 ただ、本人はまだ純粋で素直なところがあるので、大きくなるまでに矯正したい。

(何も理不尽さとかまで引き継がなくても……)

 今のところ、子供達の間で両親の特長をそっくり受け継いだと分かっているのは、ネルガル一人である。
 もしかしてナイアーラトテッフの仕返しか、と勘ぐりたくなったほどだ。
 もしそうであるならば、最高の仕返しではないだろうか。
 そう思いため息をつく。
 両者の戦いは次第に一方的になってきた。
 優勢になったのはアウラニースである。
 理由は単純明快で、ネルガルの体力がなくなったからだ。
 親のひいき目を抜きにしても怪物でしかない幼女も、さすがに体力だけは子供レベルだったのである。
 でなかったらマリウスも親の情が湧かなかったかもしれない。

「そこまでっ!」

 マリウスは大きく叫びながら割って入る。
 この二人の戦いに割って入れる者は他にいないのだから仕方ないのだ。
 アイリスとソフィアならばあるいは可能かもしれないが、両魔王はこの手の事には協力してくれない。
 一度ダメ元で訊いてみたら、ソフィアは首をかしげて言った。

「親子の問題でしょう?」

 無理な事ならば協力してもいいが、できる事は自分でやれ。
 そう言わんばかりの態度にマリウスは黙って引き下がった。
 反論の言葉を思いつかなかったのである。
 だから仲裁に関してはサボらないようにした。
 親であると胸を張っていたいという思いがあるのだから。

「あ、おとうしゃまー」

 マリウスの顔を見たネルガルは、満面の笑みになって飛びついてくる。

「おう、ネルガル。お母さんに怒られた事は反省しなさい」

「はぁ〜い……」

 叱られた娘は、しゅんとなって返事をした。
 これにて一件落着、とマリウスはいきたかったのだが、納得できない者がいる。

「おい、待て、こら。何でマリウスの言う事は素直に聞く?」

 アウラニースママだ。
 力任せの説教を全く相手にされなかったのだから、額に青筋を浮かべて抗議するのも無理はない。
 マリウスが何か言うより先に、彼に抱き着いたネルガルが舌を出しながら言った。

「だって、おとうしゃまだいすきだもーん。ばばあなんかしらないもん」

「……いい度胸だな、さすがオレの娘だ」

 アウラニースの目に剣呑な光が宿る。

(あれはやばい)

 マリウスの背に悪寒が走った。
 本気で怒る前に先手を打つ事にする。
 ネルガルを地におろし、その頭に拳骨を落とす。

「あいたっ!」

 娘は両手で頭を抑え、悲しそうな目で父親を見上げる。
 痛そうにしていないのがポイントで、実のところマリウスの通常攻撃ではネルガルは痛くもかゆくもないのだ。

「お、おとうしゃまー?」

 ただ、ネルガルにとって威力は絶大だったらしい。
 あっという間に涙声になったからだ。

「悪いのはネルだろう。それとお母さんをババアと呼ぶんじゃありません」

「ご、ごめんなさーい」

 瞬殺である。
 しかしマリウスは許さない。

「ちゃんとお母さんにも謝りなさい」

 ネルガルはしぶしぶ謝る。

「全くどうしてお前は、そんなにお母さんの事を嫌うんだ?」

 マリウスが問いかけると、娘は頬を膨らませて答えた。

「だってば……おかーしゃんは、おとうしゃまのおくさんだもん」

「…………」

 マリウスとアウラニースは揃って黙ってしまう。
 まさかの超激烈ファザコンのカミングアウトであった。

「一応言っておくが、お父さんとネルは結婚できないよ?」

「やだー、ネルはおとうしゃまと結婚するの!」

 ネルは地面を転がってだだをこねる。
 マリウスは困ってアウラニースを見た。
 彼女の方は白けた顔をして、肩を竦めるとテレポートで消えてしまう。
 残されたのはマリウスと地面を転がって「おとうしゃまと結婚したい」とごねるネルガルのみだ。

「いや、どうしてこうなったんだろう。マジで」

 困惑の極みと言うべきぼやきが、異空間に消えていく。
 ……後年、帝王の座はこのネルガルに引き継がれる事になる。
 そして「守護神アウラニース」の呼称が生まれるのは、更に後の話だ。
 「暴君ネルガル」との対比でそう名付けられたのである。
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