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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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勇者ベルンハルトと魔法使いクラウス

短いです
 勇者ベルンハルトと大魔法使いクラウス。
 後にそう呼ばれる事になる、二人の男は口論していた。
 ともに三十五歳だが、まだまだ若々しく覇気もある。
 彼らが揉めているのは、「魔王討伐の手柄」についてだ。
 ベルンハルトはこう主張する。

「魔王にとどめを刺したのは俺だ。色んな人間が協力してくれたのも、勇者ベルンハルト様に対してだ。だからこそ、俺が一番の手柄なんだ。お前らは遠慮しろよ」

 一方のクラウスの主張はこうだ。

「ベルンハルトはとどめを刺しただけだろ。魔王を弱体化させたのは皆の手柄、実際に封印したのは私のおかげ。お前はいいところ取りしただけでほとんど役に立っていない。皆が協力してくれた? それだけザガンを早く倒してほしかっただけじゃないか」

 二人の口論は三日以上も続いていて、他の仲間は辟易としている。
 聖騎士パーシブエルが口を開いた。

「どっちが一番でもいいだろ。さっさと帰ってご褒美もらって、酒池肉林といこうぜ」

 僧侶ウィンザーも言う。

「そうよ。あんた達が揉めてばかりのせいで、一向に帰れないじゃん。私、早いところ宝石で着飾りたいのよ? いつまで待たせるのよ」

 仲間達は一番の手柄、という名誉などどうでもいいと思っているのだ。
 大切なのはこれから「魔王を倒した英雄」という風評で、贅沢三昧できるという事である。
 ある意味、実利的と言えるだろう。
 だが、それですまされない者が二名いた。
 ベルンハルトとクラウスである。
 両者共に更なる名誉を欲した。
 我こそが第一功だと人々に胸を張りたい。
 そんな浅ましい欲望を持っているのだった。

「大体、お前らを役立たずだったから俺が魔王を殺せなかったんだ。お前らの功績は、ちゃんと差し引かれるべきだろう」

 ベルンハルトはこんな事を言い出し、当然のごとくクラウスは反発する。

「はぁ? それを言ったら、仲間の力を借りなきゃ魔王を倒す事すらできない勇者にどんな価値があるんだよ? お前が勇者面できるのは、我々の助力のおかげじゃないか。この名ばかり勇者が!」

 肥大した自尊心を傷つけられたベルンハルトは顔を真っ赤にして言い返す。

「お前こそ、どこが大魔法使いだ? 大役立たず魔法使いの間違いじゃないのか?」

「何だと?」

「何だよ?」

 はっきり言って子供の喧嘩と同レベルである。
 これが魔王を倒して大陸を救ったと言われる者達の会話なのだ。
 彼らの功績を称賛し崇拝する者が聞けば、さぞかし幻滅するだろう。
 その事はさすがに理解しているらしく、彼らが口論しているのは貸し切った高級宿の一室だ。
 あるいは単なる見栄かもしれないが。

「いい加減にしてくれないか?」

 それまで黙って聞いていた、最後の一人が口を開く。
 彼の名はコジロー・ササクラ。
 カタナという異質な武器を装備するサムライと呼ばれる剣士である。

「そうは言うがな、コジロー。俺の手柄を盗もうとする奴は咎めるべきだろう」

「そうは言うがな、コジロー殿。無能で厚顔無恥な一応勇者の暴走は咎めるべきだろう」

 二人は同時にサムライに向かって言い放ち、相手の言葉を聞いて再びにらみ合う。
 コジローはそれを見て舌打ちをする。

「面倒だな。いっそ、二人ともこの場で斬って捨ててくれようか」

 その言葉に二人はぎょっとした。
 寡黙で真面目そうに見えるこの東方の剣士は、実のところ獲物の断末魔を聞くのが趣味という、実に物騒な存在なのである。
 真実を知る者がいれば「まともな奴がいない」と嘆くだろうが、そもそもまともな性格なら魔王に戦いを挑まない。

「け、決着はまた今度だ」

「お、おう」

 二人の口論は一応終わり、聖騎士と僧侶は白けた顔でそれを見ていた。
 彼らは大陸を絶望に陥れていたへカトンケイルの魔王ザガンを倒した英雄である。
 実態がどうあれ、それが大陸の人々の認識だった。
 後世に彼らの功績は伝わっているが、人となりについては何も残っていない。
 当人達が抹殺を命じたか、信奉者が歪曲したのか、それとも善意の第三者の好意によるものか定かではない。
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