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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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アウラニースを倒せ

「アウラニースを倒そう」

 聞く者が聞けば無謀だと呆れるか、爆笑するかのどちらかであろう。
 そんな言葉を真剣に言い放つ集団がいた。
 俗に言う「アウラニース宣言」によって、人魔共存時代はやってきた。
 それを快く思わない者は意外と多い。
 その者達のほとんどはマリウスやアウラニースに逆らうのが怖いから従っている。
 彼らがいなくなれば反旗を翻すであろう。
 だが、彼らが健在であるにも関わらず、反旗を翻そうとする者達がいた。
 「アウラニース宣言」の際、アウラニースに反発をした魔人達、彼らに同調するモンスターがおよそ五百。
 多いように思えるようで、実のところそうでもない。
 この中でアウラニースを見た事があるのは魔人数名のみ。
 アウラニースの殺気に当てられたのに、まだ勝てると思っている無謀な者達だ。

「アウラニースは人間の走狗に成り下がった。もう魔王ではない」

 青い肌に禿げた頭、筋肉隆々の肉体が特徴的な魔人がそう宣言すると、他の魔人達も一斉にうなずく。

「人間の飼い犬が魔王なんてふざけている。魔王とは我々魔の頂点に君臨し、人間どもを蹂躙する存在であるべきだ」

 黒い翼と黒い皮膚を持った魔人が言う。
 額から角が二本はえているのが特徴だ。

「そうだそうだ」

 人語を解するモンスター達が口々に賛成する。

「だが、アウラニースは強い。どうすればいい?」

 場を包む熱気に冷や水をかけたのは、赤い髪と赤銅の肌を持つ魔人だった。
 その言葉を聞いた者達は一斉に押し黙る。
 アウラニースの強さはもはや神話の領域だった。

「手がないわけではない」

 青い肌の魔人がそう声を絞り出し、皆の注目を集める。

「蠱毒の儀式をやるのだ」

「蠱毒の儀式……」

 ざわめきが起こった。
 知っている者がいれば知らぬ者もいる。
 知らぬ者の為に説明が行われた。
 「蠱毒」とは元来、虫を用いた呪術の事である。
 無数の虫を壺に封じ込めて殺し合いをさせ、最後に残った最も強い個体を用いて強力な術をかけるのだ。
 それを応用し、他を殺せば殺すほど爆発的に力を得る呪術を用いて殺しあう事を「蠱毒の儀式」という。
 生き残れるのは一名だけだが、手にできる強さは想像を絶するという。

「蠱毒の儀式と同じ結果を長い時間かけて得たら魔人や魔王になるのではないか、という説もあるほどだ」

 青い肌の魔人がそう告げると、より大きなどよめきが起こった。
 知能の高くないモンスター達にとって、魔人や魔王というのは分かりやすいたとえなのである。

「もっとも、最後まで生き残れたとしても、己ではない何かになってしまう可能性は高いが……」

 慎重にそう言われても、誰も怯まなかった。

「望むところだぜ」

「マリウスとアウラニースを倒せるなら、別に構わない」

 勇ましい言葉が次々に発せられる。
 彼らは皆「人魔共存」の被害者、もしくは将来の被害者だ。
 少なくとも彼ら自身はそう信じて疑っていない。
 過去から人類を憎悪している者もいるし、繁殖の為に人類の犠牲が必要な種もいる。
 マリウス達を信じて従っている同種も少なからずいるが、彼らは違う。
 マリウス達も彼らに憎悪を捨てさせたり、不信感を消したりする事はできなかったのだ。
 完璧な統治など存在しないという事だろう。

「よし、誰が勝っても恨みっこなしだぜ」

 反マリウス・アウラニース集団は、呪術をかけた後そう言い合って殺し合いを始めた。


 オークがネビュラワームの頭を潰す。
 その直後、魔人に胸を抉られる。
 戦場は凄惨という言葉では伝えきれないものがあった。
 能力的には他を圧倒しているはずの魔人達すら、長くない間に手傷を負っていく。
 本来、下級魔人であっても普通のモンスターが傷つけるのは容易ではない。
 これもまた呪術の力なのだ。
 誰かを殺す度、その力は格段に上昇していく。
 かすり傷一つつける事なく瞬殺されてしまうはずの差も、すぐに埋まってしまう。
 だからこそこの儀式をやる価値があると言える。
 この戦いを生き残った者は、きっとアウラニースに匹敵する力を得られるのだから。
 魔王がいればもっとよかったのだろうが、さすがに魔王がいればこんなに拮抗した戦いにはならないだろう。
 下級魔王単体で一国や二国は滅ぼせる力がある。
 魔人数名とモンスター数百名など、何時間もつのか、という程度だろう。

「おおおっ」

「うああああ」

 魔人同士の殺し合いが始まった。
 どちらもモンスターを多く殺し、この地に来た時よりずっと強くなっている。
 過去には想像もできなかった力があふれ、驚くような速さで動けていた。
 それに振り回されず、地に足をつけて戦えるのはさすが魔人といったところだろう。 
 彼らが序盤から中盤にかかった段階で戦い始めたのには理由がある。
 殺せば殺すほど強くなるとは言え、数は有限だ。
 もし、相手が自分よりも多く殺す事に成功した場合は?
 それならば先に強敵を潰してしまおう、と考えたのである。
 二人の戦いは、スキルも技もない打撃の応酬だった。
 魔人がスキルや技を使えないという事はない。
 だが、今は一対一の戦いではなく、殺した者勝ちの乱戦である。
 どうしても隙が生まれてしまうスキルや技は使えなかったのだ。
 魔人が彼らだけならばいざ知らず、他にもいるのだから。
 片方の拳が頬を捉えると同時に、もう片方の膝が脇腹に当たった。
 実力が拮抗した者同士の打撃戦だけに、簡単に決着がつかない。
 つまり、今回の戦いに関して言えば悪手だったと言えるだろう。
 彼らが互角の戦いを繰り広げている間、殺し合いの参加者数が一気に減っていた。
 減らしたのは魔人ともう一匹、赤き竜レッドドラゴンである。
 レッドドラゴンは隙を見せた魔人の一人を噛み殺し、一気に強くなっていた。
 そして風化ブレスを吐き、魔人を怯ませ、その肩を食いちぎる。

「があっ」

 苦悶の声に、殴り合いを続けていた魔人二名が思わずそちらを向く。
 彼らが見たのは、レッドドラゴンが魔人を噛み殺すところだった。
 魔人を複数殺す事に成功したレッドドラゴンは、一気に有利になる。
 残りが自分達だけになった事に気づいた魔人達も、ようやくその事に気がついた。
 自分達の判断が誤っていた事にも。
 それでも彼らは諦めなかった。
 互いに視線を走らせうなずきあう。
 そして同時にレッドドラゴンに立ち向かっていった。
 レッドドラゴンはと言うと、もう一つ頭部が生えてきて双頭になって迎え撃つ。 

「ソニック・ナックル」

「グレートインパクト」

 惜しみなくスキルを使い、それぞれが頭部を攻める。
 レッドドラゴンはと言うと、その巨体から考えもつかない俊敏さで回避し、魔人達の背後に回った。
 そして左右の頭でかみつく。
 魔人達は予想していたのだろう、振り向き様に腕で竜の牙を止める。
 ただし、牙は容赦なく腕に食い込んできた。
 殺した数も質もレッドドラゴンが上回っている。
 つまり、まともに戦うのであれば、断然レッドドラゴンが有利という事だ。
 魔人達は腕を食いちぎられる苦痛に耐え、無防備にさらけだされているレッドドラゴンの首を狙う。
 彼らは己の劣勢を知っていたのである。
 だからあえて隙を見せ、腕に食いつかせたのだった。
 隙を見て魔人を殺したレッドドラゴンの知能が低いはずもないが、魔人を複数殺したという油断や驕りがあったのだろう。
 わざと見せた偽りの隙に引っかかったのだ。
 とは言え、魔人達も必死である。
 腕を食いちぎられそうなのは事実で、食いちぎられてしまうと勝ち目は完全になくなってしまう。
 誰が勝っても恨みっこなしと言ったとしても、できれば自分が勝者になりたいというのは、当然の心理だと言える。
 三者の地味な争いはじきに決着がついた。
 レッドドラゴンが喉から紫の血を流しながら、魔人達を食い殺したのである。
 蠱毒の儀式の勝者はドラゴンに決まった。
 その瞬間、呪術は完成してレッドドラゴンの体に変異が訪れる。
 黒い光が赤き竜から溢れ、胴体から人類のような足が生えた。
 そして胴体が縦長に伸びる。

「そうカ……我は……魔王…ニ……」

 感覚的にこれまでの自分と一線を画す存在になれたと理解する。
 人間のような姿になってしまったのは気に入らないが、魔王とはそういうものなのだろうと割り切った。
 次に彼が考えたのは、アウラニースと戦いに行く事である。
 全身から燃え立つような力がみなぎっていて、これならば勝機はあると思った。

「首ヲ洗って待ってイロ、アウラニース……」

 自信たっぷりにそう言い放ち、進化したレッドドラゴンはターリアント大陸を目指して歩き出す。


 レッドドラゴンは陸を歩き、海を歩き、とうとうターリアント大陸にたどり着いた。
 魔王となった彼にとっては大した労力ではなかったが、気に入らない事がある。
 ターリアント大陸に住む者達は、レッドドラゴンを見て

「魔王じゃないか?」

 と指さしながら言い放つ。
 それだけならまだいいのだが、完全に珍獣扱いしてきたのだ。

「ぶち殺すぞっ」

 怒鳴って睨みつけると、奴らは驚いた顔をして

「そんな事をしたら、マリウス様とアウラニースに殺されるんだろう?」

 と本気で言っていた。
 全くもって腹立たしい限りである。
 アウラニースは様付けする価値がないのは認めるが、何故マリウスには様付けするのか。
 まるでアウラニースの方が格下みたいではないか。
 まがりなりにも大魔王と言われる者をそんな扱いにするなど、許しがたい。
 ただ、ここで暴れても大して意味はない事は理解した。
 アウラニースを始末し、その事実を突き付けてやるのが一番だろう。
 そう猛り狂う己の心をなだめたのだった。
 彼はさほど愚かではないので、神を倒したマリウスに勝つのは難しいと考えている。
 だが、せめてもの意地を見せたかった。

「そのアウラニースはどこに行けば会える?」

 レッドドラゴンが尋ねると、住人は不思議そうな顔をしながらも

「このまままっすぐ進んで王都に行けばいいさ。ここはトゥーバン王国だからね」

 と親切に答える。
 ここがそうだったのか、とレッドドラゴンは驚く。
 どうやら運が向いてきたらしい。
 神は倒されていないようだが。
 彼は礼も言わずに歩き出す。
 やがて殺す人間となれ合う気は毛頭なかったのである。
 レッドドラゴンに王都への道のりを教える、と世が世なら大失態をしでかした男はつぶやいた。

「何やら陰気くさい奴だったな。ま、アウラニースの暇つぶしになるなら、この国も安泰ってもんだ」

 そして畑仕事へと戻って行った。
 レッドドラゴンはやがて王都へとたどり着き、城へと向かう。
 城の前まで来ると大きく息を吸い込み、声を張り上げた。

「アウラニース、出てこいっ! お前をぶっ殺す!」

 門に立っていた警備兵がぎょっとした顔を見せる。
 ほどなくして城の方から四つの影が現れた。
 マリウス、アウラニース、アイリス、ソフィアである。

「どんな無茶な奴が来たかと思えば……もしかして魔王か?」

 マリウスは興味半分といった顔でそう言うと、アウラニースは首をひねった。

「あんな奴いたかなぁ?」

 強い者ならば彼女の記憶に残っているはずである。
 そうでないという事は、察して下さいという事ではないだろうか。
 そんな連中にレッドドラゴンは怒りを見せた。

「俺はお前を殺す為、六百六十六の魂を取り込んだ。魔王とは名ばかりで、人間の走狗に成り下がったお前に掣肘を加える為にな」

 火を吐きながら吠えるとアウラニースは顔をしかめる。

「いつ、オレが人間の走狗になった?」

「とぼけるな」

 レッドドラゴンは噛みつきそうな勢いで叫んだ。

「マリウスとやらの言いなりになり、人間の世に貢献しているではないかっ。人間のイヌと言わずして何と言うかっ。魔王のくせに、我らを裏切りおって、覚悟しろっ」

「……いつからオレがお前の仲間になったよ?」

 アウラニースは真顔で言う。

「いつ、オレが魔王と名乗った? 勝手に願望を押し付けるな」

「だまれっ! 魔王ならば、モンスターの頂点ならば、俺達の頂点としての責務があるだろうっ! それを果たさない貴様は」

「いや、オレ、モンスターじゃないし」

 アウラニースはイラつきながらも律儀に返答する。
 彼女なりの挑戦者への礼儀だった。

「黙れ、貴様と言う奴は……」

 レッドドラゴンは延々と恨み言を吐き、アウラニースの機嫌がどんどん悪化していく。

「オレに挑戦に来たかと思えば、単に恨み言を言いに来たのか? あまり、失望させるな」

「黙れ、俺は啓蒙してやっているのだ!」

 マリウス達がげんなりとし始めたのもおかまいなしに言い立てる。

「いい加減にしろよ。オレが黙って聞いていれば」

 アウラニースの体から威圧感が膨れ上がる。

「え、おい」

 マリウスが慌てたのも無理はない。
 これは「覇者の猛威」だ。
 人間形態の時も放てるのは知らなかったが、今放たれるのはまずい。

「初めてですよ。言葉でアウラニース様をここまで怒らせたお馬鹿さんは」

 ソフィアが呑気に解説し、マリウスはイラっとした。
 そんな事を言っている場合かと言いたい。
 このままでは王都が機能不全に陥ってしまう。
 レッドドラゴンは魔王になっただけあり、アウラニースの圧力に耐えてみせた。

「それでこそアウラニース。倒し甲斐がある。六百を超える魂が生んだ、俺の必殺技をふべしっ」

 堂々と応じようとしたレッドドラゴンは、空から襲撃を受けて昏倒してしまう。

「アウラニースを怒らせるはた迷惑な馬鹿は、私が片付けよう」

 淫魔王ゾフィであった。
 彼女は異変を察知してすぐさま駆けつけ、レッドドラゴンに不意打ちしたのである。

「……おい、オレの獲物」

 アウラニースは猛威を引っ込め、ゾフィに攻撃した。
 ゾフィはそれを意図的に無視し、

「お、おのれ。不意打ちとは卑怯な。かくなる上は俺の最強のごばべっ」

 レッドドラゴンにさっさととどめを刺してしまう。

「…………」

 絶句してしまったのは、マリウス達も同様だった。

「所詮はアウラニース様に目こぼしされていた程度の存在の寄せ集めだったか」

 アイリスがもっともらしい事を言う。

「蠱毒の術式は、優れた呪術使いが行使しないと効果は落ちますしね」

 ソフィアがそうしめくくった。
いつからアウラニースと戦うと(以下略)
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