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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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それじゃあ

 結局アウラニースとアウグスト三世は戦う事になった。
 マリウスがアウラニースを説得したのである。
 それを知ったキャサリンは、オロオロとしながらマリウスに質問した。

「あの、マリウス様? 父上に何か恨みでもあるのでしょうか……?」

 失礼さを充分承知している表情と口調で問われ、マリウスは苦笑した。

「いえいえ。単にアウラニースは怖くないって知らしめる機会にならないかなと」

 アウラニースは己の風評など意に介さない。
 どれだけ罵倒されても、遠くで虫が鳴いているくらいにしか思わないだろう。
 マリウスとしては変えられるならば変えてやりたいのである。

「そういう事でしたか」

 キャサリンはあっさりと納得した。
 幼い故に素直なのか、それともボルトナー人らしく単純なのか、判断するのが難しい。
 周囲から、具体的には妻達にエマ、エルからは反対の声は上がらなかった。
 マリウスがアウラニースに対して絶大な影響力を持ち、しっかり制御している事を示すいい機会だという。

「一国の王としての感覚が備わってきたのね」

 ロヴィーサが口元を綻ばさせて称えると、

「政治音痴だと思っていてごめんなさい。この調子でいけば、政治にも関わって欲しいと思います」

 バーラが申し訳なさそうに、それでいてどこか頼もしげに言った。
 マリウスにしてみれば「一体何の話だろう」という事になる。
 彼は単に思いつきを実行しただけだ。
 アウラニースが特定の存在にのみ興味を持つのは悪癖だと思うし、悪評も何とかしたい。
 アウグスト三世の望みもかなえてやりたい。
 せいぜいがその程度である。
 ただ、それを口にしたら失望されるのは分かり切っているので言わなかった。
 マリウスも所詮は人の子で、成長を喜んでくれる妻達の顔を見たら言えなくなってしまったのである。
 エルは何やら面白そうな顔をしているあたり、きっとマリウスと妻達の「ズレ」に気がついているのだろう。
 何も言わないのはあくまでもマリウスの味方だからだ。
 とマリウスは思ったが、果たして腹黒淫魔の頭の中身は……。
 アウグスト三世は使いが行くと直ちに準備をしてやってきた。
 金剛石製の槍を持ち、同じく金剛石製の甲冑で身を固めた姿は、マリウスから見ても勇ましい。

「マリウス殿、感謝いたす」

 第一声がそれで、マリウスに頭を下げた。

「いえいえ、こちらこそ」

 マリウスはどう返すべきか分からず、日本人チックな反応をしてしまう。
 誰も反応しなかったところを見ると落第ではなかったようだ。
 マリウスはそう安堵しながら、魔法による強化を申し出る。
 実は一旦断ったアウラニースを翻意させた理由がこれなのだ。
 マリウスが強化魔法を使えば、アウグスト三世もそれなりに強くなるはずだし、アウラニースがきちんと手加減をすれば死にはしないだろう。
 説明された脳筋国王は、納得したように大きくうなずいた。

「心より感謝する」

 その時、扉が開いてモルト侯爵が入ってきた。
 見るからに焦燥していて、マリウスの罪悪感を刺激する。
 彼は一瞬だけマリウスを恨めしそうに見て、すぐに表情を消し、黙って目礼して己の主君に向き直った。

「陛下、決裁していただきたい件がたまっておりますぞ」

「分かっておる。これがすんだらな」

「それから……」

 モルトは必死に主張していく。
 その様を見たマリウスはよっぽど切羽つまっているのかな、と思った。
 アウグスト三世はと言うと、面倒くさそうに対応している。

(よくクーデターを起こされないな……)

 少しだけそんな事を思ってしまった。
 ボルトナー人としてはアウグスト三世のような性格が一般的で、モルトの方が少数派、それどころか異端ですらあるとか。
 そう言われていた事を思い出す。

(俺も他人事じゃないよな……)

 国王としての職務を全うできていない、という点ではマリウスの方が酷い。
 周囲に何もしなくていいよ、と言われて素直に何もしてこなかったからではあるのだが。

(人のフリを見て我がフリをなおせって言うし……せっかく見直してもらった事だし)

 政治というやつに取り組んでみようか、とマリウスは思った。
 「困ったらエルに泣きつけば……」と考えているあたり、割と情けない。
 果たしてエルは人の政治を理解しているのか、という疑問が浮かぶ。
 そしてマリウスを敵視する貴族派閥をまとめて秒殺した事を思い出し、何とかなるだろうと思った。
 視線を前の方に戻す。
 アウグスト三世はやる気満々だが、アウラニースは露骨に面倒くさそうだった。
 絶対的な力の差がそれを許しているのだが、さすがにアレかと思ったマリウスは、アウグスト三世自身と装備に強化魔法をかける。

「これなら手ごたえも出るだろう」

 マリウスはそう言ったが、アウラニースは胡散くさそうな顔をする。

「雑魚は強化しても雑魚だぞ」

 無礼千万な物言いに対し、雑魚呼ばわりされたアウグスト三世は破顔した。

「だが、強化された雑魚にはなれた。覚悟していただこう」

「……ああっ?」

 アウラニースから低い声と猛吹雪を思わせる殺気が漏れる。
 どうやら癇に障ったらしいとマリウスが慌てた。

「お前、そんな事で怒るなよ」

「怒ってないぞ。腹を立てただけだ」

「同じだろっ!」

 マリウスは思わず叫ぶ。

「ふんっ」

 アウラニースは大きく舌打ちをし、殺気をおさめた。

(相変わらず怒るポイントが訳わからん奴)

 マリウスは胸をなでおろす。
 自分へ挑戦する者は、歓迎する性格のはずである。
 「お前を倒す」と言われたりしたら、嬉しそうに励ますだろう。
 一体何が気に入らなかったのだろうか。
 マリウスの疑問をよそに凍り付いていた部屋の時が動き出す。

「死、死ぬかと思った……」

 汗をびっしょりかいたバーラとロヴィーサがそうつぶやく。
 彼女達の顔色は悪い。
 アウラニースの怒気は、彼女達にとって凶悪極まりないものだったのだ。
 もっとも彼女達に限った事ではない。
 キャサリンや侍女達も同様だ。
 平気そうだったのはマリウスと淫魔娘三人、それにアウグスト三世くらいのものである。
 この事でマリウスとアウラニースは、ほんの少しだけボルトナー王を見直した。

「胆はまあ及第かな」

 アウラニースはそう言うや否や、右腕をぐるぐる回しながら無造作に距離を詰めていく。
 あまりにも堂々と槍の間合いに入ってこれたアウグスト三世は、唖然としてとっさに攻撃ができない。
 先手を取ったのはアウラニースだった。

「ぱ〜んち」

 右の正拳突きを繰り出す。
 アウグスト三世は無駄のない洗練された足運びでかわし、槍をアウラニースの顔面をめがけて突いた。
 右腕は伸びきっているし、左手はだらりと垂れた、ノーガード状態である。
 更に予備動作なしで死角となる位置からの攻撃だ。

(入る)

 ダメージを与えられるかはさておき、攻撃がまともに入る事をボルトナー王は疑わなかった。
 だから次の瞬間、目を剥く事になる。
 槍の穂先はアウラニースの顎に触れる寸前で止まったのだ。
 立ち塞がったのは彼女の左人差し指である。

「そんな……」

「まあまあかな」

 驚くアウグスト三世に対し、アウラニースは感想を述べた。

「全く無駄のない動きだったが、それだけに読めてしまうのがつまらん」

 おまけに批評もつけ加える。
 指を動かして槍を払い、左の正拳突きを放ってきた。
 アウグスト三世は考えるより先に体が動き、それを紙一重でかわす。
 風が雄叫びをあげていると錯覚してしまうような、強烈な一撃だった。

「いい反応だな。マリウスの強化魔法は優秀だと見える」

 アウラニースは薄く笑う。
 目の前の獲物が、期待していたよりも楽しませてくれるからだ。

「ああ、確かにマリウス殿の魔法は凄い」

 アウグスト三世は感嘆を込めて認める。
 アウラニースの攻撃は本来の彼が捕捉できたか分からないほど速い。
 全く本気を出していない事は言われるまでもなく承知している。

「勝てぬ事は百も承知。だが、マリウス殿の為、皆の為、一矢報いさせてもらおう」

 アウグスト三世はそう言って槍を構えた。
 場面が場面ならば決まっただろうが、今やっては滑ってしまう。
 少なくともマリウスはそう思ったし、他の面子も微妙そうな顔をした。
 ただ、唯一の例外がアウラニースである。

「意気込みだけは買ってやる」

 彼女は楽しそうに口元を歪めた。

「だが、単調な芸はオレには通じないぞ?」

「分かっている。とっておきを披露しよう」

 アウグスト三世は一度両目を閉じ、そしてかっと見開く。

「おおおおおっ!」

 体内から魔力があふれ出し、目に見えて威圧感が膨れ上がる。

「ああ、狂戦士か」

 アウラニースはあっさり見抜いたが、緊張感は持たなかった。

「それじゃあオレも」

 そう言って構える。

「……え?」

「まさかアウラニースも狂戦士に?」

 驚き絶句する人間達をしり目に、彼女の体内から莫大な魔力があふれ出し、あっという間に霧散してしまう。

「……失敗か」

 アウラニースがそうつぶやくと同時にアウグスト三世はとびかかった。
 本能で勝機と判断したのだろう。

「があああっ」

 無数の刺突が放たれる。
 かつて魔人の戦いでは使われなかった必殺技、流星突きだ。
 今は亡きチャンドラーもいかにこの技を出させないように立ち回るか、という事に腐心したものである。
 己の視界を埋め尽くす勢いで放たれる突きをアウラニースは、左拳のみで迎撃した。
 全ての突きは拳に跳ね返されてしまう。
 そればかりか、突きが終わった後も更に拳が飛んできて腹部に命中した。

「がっ」

 うめき声と派手な音を立ててアウグスト三世は吹き飛ぶ。
 モルト侯爵が慌てて駆け寄ると、鎧にはヒビが入っていた。
 マリウスが強化魔法をかけていなかったら、粉々になっていたかもしれない。
 モルト侯爵は生唾を飲み込みながら、両手を頭の上で交差させた。
 戦闘不能になったという合図である。

「軟弱な」

 アウラニースはつまらなさそうに言った。
 マリウスが作ったアイテムが、魔人の必殺技を跳ね返した事を知る者にとっては驚きの結果であったが、実は彼らの方が誤りである。
 アウラニースの攻撃をかわせる時点でとても凄いのだから。
 もっとも、それを理解していたのはマリウス、アイリス、ソフィアくらいである。
 他の者達は凄い事は知っていても、どう凄いのかは理解していなかったのだ。
(アウラニース式バーサーク)
超ハイテンションニースへとなり、全ての能力が大幅に上昇する。
ハイテンションニースの時でないと不発に終わる。
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