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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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崩壊

剣闘祭という名に反して、剣以外の武器の使用は認められている。
 もちろん素手もだ。
 参加国はホルディア、ヴェスター、バルシャーク、ガリウス、フィラート、ランレオ、セラエノ、トゥーバンの八か国で、それぞれ四人ずつ編出している。

「優勝候補は?」

 マリウスが尋ねるとバーラが首をかしげた。

「さあ? それを見極める為の大会だし」

「強いて挙げるなら、キャサリン様ではないかしら。そこらの騎士よりずっと強いし」

 ロヴィーサは半信半疑といった風に言う。

「そう言えばそうか」

 マリウスはキャサリンが股間への一撃を繰り出していた事を思い出す。
 騎士より強いのに野に埋もれていて、今回出てきたといった人間がいない限り、抜きんでているかもしれない。

「いやいや、フィラートも侮れない人材はいるのだぞ」

 そう横から口を挟んできたのはフィラート国王である。
 無礼とも受け取れる行為をしたのは、彼がマリウス達の義父に当たるからだ。

「そんな人、いましたっけ?」

 ロヴィーサが怪訝そうな顔になり、エマの方を見る。
 主人の視線を受けた侍女も黙って首を横に振った。
 彼女も心当たりはないようである。

「お前達が知らぬのも無理はない。ヤーダベルスの息子だよ。後、あの殺戮将軍、チャンドラーの長男も出てくるらしい」

「あら」

 それに反応したのは女性陣で、マリウスだけはさっぱり理解できなかった。
 夫の態度を見たロヴィーサが説明する。

「チャンドラーは西方随一の猛将と呼ばれた男で、ボルトナー王と唯一まともに戦える人だったの」

 バーラが続きを言う。

「一度戦うと敵兵を一方的に殺しまわるので、殺戮将軍と忌避されてしまった豪傑よ」

「それは凄いな」

 歴史などで語り継がれる一騎当千の豪傑だったのだろうか、とマリウスは素直に感心する。
 マリウスがそんな反応を見せれば嫌みにもなりかねないのだが、幸運な事に周囲には誤解する人間はいなかった。

「誰が強いのか知りたいのか?」

 突如としてマリウスの背後からそんな声が聞こえてくる。

「いや、いらない」

 マリウスは振り向きもせずに即答した。

「何だよ、教えてやろうと思ったのに」

 声の主、アウラニースは拗ねてしまう。

「教えられると楽しみが減ってしまうからな」

「ふん」

 アウラニースは言い訳を鼻で笑ったが、それ以上は何も言わなかった。
 試合が始まるからだろう。
 一回戦の第一試合はキャサリン対バルシャークの選手だ。
 キャサリンは皮鎧とズボンという動きやすい服装で素手、バルシャークの選手は鉄製の全身鎧に槍を持っている。

「王女様と言っても手加減はしないぜ?」

 男はそう言って少女を睨む。

「はい、よろしくお願いします」

 キャサリンは礼儀正しく一礼をした。
 男は油断なく槍を構えるのに対して、キャサリンはほどよく力を抜いて自然体でいる。
 見るべき者が見れば隙らしい隙がないと分かっただろうが、男には分からなかった。
 審判が開始の合図をすると一気に踏み込んで槍を繰り出す。
 先手必勝の心づもりだったのだ。
 だが、キャサリンは外見に反した実力者である。
 滑らかな足さばきで槍先をかわして距離を詰め、男の腹部に掌打を打ち込む。
 素早く無駄のない動きを男は認識すらできず、まともに食らってしまう。

「がはっ」

 息を吐いて昏倒する。
 男の鎧に入ったいくつものヒビが、掌打の威力を物語っていた。

「そ、それまで」

 審判が慌てて試合終了を告げる。
 あまりの秒殺劇に観客は声を立てず、呆気にとられていた。

「さすがだね」

 もちろん驚いていない者達もいる。
 マリウス達がそうだし、ボルトナー王国の関係者達も同様だ。

「うん、きちんと手加減したな」

 アウグスト三世は物騒な感心をしていたりもする。

「あーっ」

 一人、大声で叫んだ者がいた。

「思い出した、あいつはキャサリンだっ」

 そのはた迷惑な者の名をアウラニースという。

「やっとかよ。キャサリン王女の動きを見て思い出したのか?」

 マリウスの問いかけに魔王はこくこくとうなずく。

「あいつ、前に見た時より強くなっているな。ちゃんと鍛錬していたんだな」

 どこか嬉しそうだった。
 キャサリンにとっては面倒な展開になったかもしれない、とマリウスは同情してしまう。
 一回戦は順調に進み、ボルトナー人は他の三人も勝ち進んだ。
 ヤーダベルスの息子とチャンドラーの息子も勝ったが、トゥーバン勢は全滅してしまった。

「あらら……」

「まあ、これは仕方ないか」

 マリウス達はどこかさばさばした表情で受け入れる。
 一人はボルトナー人、一人はチャンドラーの息子に当たったので、運がよくなかったという解釈もできた。

「お前らあっさりしているなー。何ならオレが鍛えてやろうか?」

 唯一不満げだったのは、誰もが意外な事にアウラニースである。

「止めてくれ。死人の山ができてしまう」

 マリウスは真剣な顔で止めた。
 ゾフィ達やバーラ達だから耐えられたというのもあるが、それ以上にアウラニースが弱い存在を地道に鍛えられるとは思わない。

「む、どういう意味だそれ」

 むくれるアウラニースにマリウスはため息をつきながら尋ねた。

「お前、弱い奴が少しずつ強くなっていくのを黙って見守れるの?」

「……イライラするな」

 アウラニースは少し考え、己に向いてない事を認める。
 彼女は弱い存在を不当に貶めたりする気はないが、自分が鍛えているのに成果がなかなか出ないとなると、我慢できるかどうか。

「アウラニース様、決して我慢強くないですからね」

「強くなれない奴は死ね、くらい言いそうだよな」

 つき合いの長いソフィアとアイリスが分析を口にする。
 マリウスも全く同感だった。
 これにより、アウラニースによる強化育成計画は破談となる。
 それを風の便りで聞いたトゥーバン人達は涙を流して喜び、王の英断に感謝したという。


 試合は進み、キャサリンにヤーダベルスとチャンドラーの息子達は順当に勝ち上がっていた。
 準々決勝第一試合はキャサリン対セラエノ人で、キャサリンが一撃で倒す。
 第二試合はヤーダベルスの息子対ボルトナー人である。

「くそ、脳筋民族だけあって全員強いな」

 ヤーダベルスの息子は悪態をつきながら剣を構えた。
 彼としてはここでいいところを見せ、親の七光と言われずに騎士団に入りたい。
 その為にはできれば優勝したかった。
 試合が始まり、ボルトナー人は一瞬で間合いを詰めてくる。
 繰り出された剣撃を剣で防ぎ、蹴りを返す。
 正統派剣士ならば決してやらない真似をわざとしてみせたのだが、ボルトナー人は何と蹴りを受けながらも突進してきた。

「しまった」

 左足一本で立っているのだからバランスが取れるはずがない。
 自信を持って繰り出した蹴りが全く効かなかった事で彼の計算は狂ってしまった。
 リングに倒れ込み、頭突きを食らってしまう。

「ふ、ふざけるな、この」

 急いで身体強化をして押しのけようとしたが、彼にとって信じがたい事にびくともしない。
 ボルトナー人は剣でヤーダベルスの息子を抑え込みながら何度も頭突きをする。
 そのパワー、頭突きの威力はあっという間に彼の意識を奪ってしまった。

「何じゃそりゃ……」

 マリウスは思わず呆れてしまう。
 他のメンツも苦笑かあきれ返るかといった反応ばかりだった。
 戦い方も何もあったものではない。
 続いて第三試合もボルトナー人が勝利し、会場内ではざわめきが起こり始めた。

「おいおい、まさか準決勝は全員ボルトナー人か?」

「と言うか誰だよ、ボルトナー人に身体強化魔法を教えたの」

 そんな声が会場のあちこちで起こる。
 犯人たるマリウスは、脳内に「バランス崩壊」という文字がちらつくのを実感した。
 第四試合はチャンドラーの息子対これまたボルトナー人である。

「そろそろボルトナー人を止めてくれ」

 悲鳴に近い声援にチャンドラーの息子は苦笑交じりに応えた。 
 そして試合が始まり、両者は同時に踏み込む。
 チャンドラーの息子は槍をくり出し、ボルトナー人はそれを受け止める。
 お返しとばかりにくり出されて槍は、これまた難なく防がれた。
 五合、十合と打ち合いチャンドラーの息子が勝った。
 これによってボルトナー人の上位独占は阻止された事になる。

「ボルトナー人は皆強いんだな。今回、軍人とかは出ていないんだろ?」

 マリウスの言葉をロヴィーサが受けた。

「ええ。キャサリン王女以外、一般人のはずよ」

「戦闘民族だったりするのかなぁ」

 これは小声で言ったのでアウラニースにしか聞こえなかったし、唯一聞き取った魔王は無視する。
 彼女の関心はすっかりキャサリンに移っていたのだ。
 キャサリンはボルトナー対決を制して決勝進出、そしてチャンドラーの息子も決勝進出を決める。

「今のところ全部一撃だな」

 マリウスがキャサリンの勝ちっぷりに感心した。
 アウラニースが楽しそうに見ているあたり、なかなかのものなのだろう。
 そう判断してもいる。
 いよいよ決勝が始まった。
 自然体のキャサリンに対し、チャンドラーの息子は厳しい表情で槍を構えたまま動こうとはしない。
 これまでキャサリンは攻撃を仕掛けてきた相手を一撃で倒してきたので、無理もないとマリウスは思った。
 キャサリンは澄ました顔でじりじりと間合いを詰めていき、地を蹴って敵の懐に飛び込む。
 チャンドラーの息子はすかさず槍を繰り出す。
 キャサリンはこれまでのように無駄のない動きでそれをかわしたが、これまでとは違いチャンドラーの息子は彼女の動きに反応して薙ぎ払いに転じてきた。
 キャサリンは小さな手で槍を受け止め、そして真っ二つに折った。

「……え?」

 鉄製の槍の柄を何気なく折られたチャンドラーの息子は、思わずぎょっとなり硬直してしまう。
 そこにキャサリンは掌打を打ち込んだ。

「ぐほっ」

 これまでの相手と同様、チャンドラーの息子は倒れ込む。
 しかし、チャンドラーの息子もさる者で、歯を食いしばりながら立ち上がる。
 鉄製の鎧はこれまで通りヒビがいくつも入っているので、これまでの相手とは打たれ強さが違うのだろう。
 キャサリンは感嘆したように眺め、そして一瞬で間合いを詰めた。
 反射的に繰り出された左手の一撃を回避し、顎に掌打を打ち込む。
 チャンドラーの息子は激しく脳を揺さぶられ、仰向けに倒れ込んだ。
 今度は起き上がれず、キャサリンの優勝なった。
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