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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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料理会

 マリウスはふと言った。

「最近、嫁達との交流が疎かじゃね?」

 この一言で、親睦会を兼ねた昼食会が、数日後に開かれる事になった。
 その日のうちに詳細が決まったあたり、嫁達にも思うところはあったのだろう。
 料理はバーベキューだ。
 用意するのは牛、鹿、羊の肉に野菜である。
 後は飲み物が各種酒、酒の飲めないキャサリンの為のバラ水。
 下ごしらえをするのは宮廷の料理人達で、参加者達は焼くだけでいい。
 それを聞いてホッとした者達と深刻そうな顔をした者達がいたのだが、ここでは割愛する。



 そして当日。
 マリウスは頭を抱えていた。
 その視線の先で、ロヴィーサとバーラが炭寸前になった肉を悲しそうに見つめている。
 彼女達は料理をした事がなかったのだった。

(忘れていたなぁ)

 マリウスは思いっきり反省する。
 これでは親睦どころではないと。

「代わります」

 エマ、アイナ、レミカといった侍女陣がそう申し出る。
 本来ならばこれは反則とも言うべき事ではあるが、彼女達も参加者なので今回はセーフだろう。
 しょんぼりと肩を落とす嫁達の隣で、キャサリンが慣れた手つきで次々に焼き上げていく。

「そう言えばキャサリン王女はできるんだっけ?」

「はいっ」

 マリウスの言葉にキャサリンは元気よく返事をする。

「我がボルトナーでは、王族は全員サバイバル訓練を受けますから」

 いざという時、森などに潜み、草や木の実などを採ったり、動物を狩って生きていかなくてはいかない。
 その為に国民は子供の時から、サバイバル生活を体験するのだ。
 そして王族も例外ではない、というのがボルトナーの国風だという。

(それはそれでどうかと思うんだが……)

 苦笑したいというのがマリウスの本音だ。
 一国の王族であるならば、まず国民にそんな生活をさせなくてもいいよう、全力を尽くすのが使命ではないだろうか。
 とは言え、今はその教えのおかげで助かっているので、文句は言えない。

「マリウス様、どうぞ」

 キャサリンが笑顔で肉と野菜が刺さった串を差し出してくる。
 マリウスは礼を受け取り、さっそく頬張った。
 火加減も調味料の加減も絶妙で、マリウスは思わず頬が緩む。

「いかがですか?」

 不安を瞳に宿して問いかけてくる幼い王女に、マリウスは微笑みかけた。

「大丈夫。とても美味しいですよ」

「よかったです」

 キャサリンは大げさなほどに安心する。
 それを見てマリウスは、お返しとばかりに自分でも焼き、キャサリンへと手渡す。

「どうぞ」

「ありがとうございます。ずいぶんと慣れていらっしゃるのですね」

 キャサリンはマリウスの手つきを見て目を丸くした。

「ええ。昔は自分で色々とやっていたものですから」

 そう「昔」なのである。
 もっとも、マリウスがこちらの世界に来たのは、暦的にはせいぜい一年くらいなのだが。
 色々な事がありすぎて、十年くらい経ったような感覚だった。
 遠い目をするマリウスに何も言えず、キャサリンは黙って口をつける。

「美味しいです」

「よかったです」

 二人の間ではほのぼのとした空気が流れていた。
 それを見て内心悔しい思いをしているのが約二名。
 バーラとロヴィーサである。
 すっかり影が薄く、いいところがない二人は、またしてもいいところを他の者に持っていかれてしまった。

「ただ焼くだけがこんなに難しいなんて……」

 ロヴィーサが嘆けば、

「塩加減とかもよく分からないわね」

 バーラもため息をつく。
 彼女達は生まれてこの方、誰かにしてもらう人間だった。
 せいぜい、贈り物をした事がある程度である。
 今回の催しに関しても、やった事がなかっただけに逆に軽い気持ちで承知したのだった。
 肉を焼いたり、塩などで味つけするのが難しいはずがない。
 そう考えていたのだが、甘かったと言わざるを得ない。
 ただ、「甘かった」のは彼女達だけではなく、マリウスも同様である。
 彼の感覚でも食べられるように焼き、味つけをするのも難しくはなかったのだ。
 だからマリウスは「料理をした事がないお姫様でも、焼いたり塩を振ったりするくらいはできるはず。下手くそでも食べられればいい」と考えていたのである。
 一人一人の好みに合ったものに仕上げる事の難しさは承知していたし、そこまでは期待していなかったのだが。
 二人がここまで何もできないとは思わなかったのである。
 ある意味、夫婦全員の敗北だったと言えるだろう。


 そして、今回の食事会に呼ばれているのは人間ばかりではない。
 ゾフィ、アル、エルも参加している。
 彼女達は上手いとは言えなかったが、何とか食べられる物を作り上げてはいた。

「エルの提案で練習していた甲斐はあったな」

 ゾフィがほっとしたように言う。
 かつてマリウスが料理をできる事を知ったエルは、上司と僚友に調理技術を覚える事を進言したのだ。
 それが見事に的中した形になっている。
 称賛されたエルは肩を竦め、

「ご主人様に召し上がっていただけない限り、当たったとは言えませんけどね」

 と謙遜した。
 今回は妻達との親睦を深める、という名目なのだから、妻達を差し置いて自分達がでしゃばる訳にはいかないと考えている。
 アルなどは不満なのだが、エルとゾフィの「ご主人様の為」で黙った。
 彼女達が妻達に教えてやるのも一つの「親睦」になるのだろうが、エルは妻達にとっては仮想敵である。
 散々敵意を煽った手前、エルに教えは乞いにくいだろう。

(この点は反省しないとね……)

 エルは煽ったのが時期尚早だった事を素直に認めていた。
 こういう展開があると読んでいれば、まず調理技術を教えてやり、それから敵意を持たれるように仕向けただろう。
 エルにとってマリウスは、今一つ行動が予測しにくい相手だった。
 そしてそれはマリウスばかりではない。
 視線を逸らすとそちらにはアウラニースとアイリス、ソフィアがいた。
 彼女達も招待されていたのである。
 当初、マリウスは彼女達まで招待するつもりはなかった。
 だがしかし、アウラニースは意外と食い意地が張っているし、勘は理不尽なまでに鋭い。
 「食べ物パーティー」で自分がのけ者にされたと知ったら……想像しただけでマリウスは、頭痛薬と胃薬が欲しくなった。
 そのアウラニースは、何と肉も野菜も焼かずにそのまま食べている。

「うん、さすが王だけあって上等な肉を用意してあるな」

 血を口からしたたらせながら、満足そうに感想を述べた。
 そんな主人の口元をソフィアが拭ってやっている。
 手のかかる妹と面倒見のいい姉の構図、としか思えない光景だ。
 もちろん実際はそんな事はない。
 三魔王のうち、生で食べているのはアウラニースだけである。
 ソフィアとアイリスは一応マリウスに配慮し、きちんと焼いてから食べていた。

「親睦会のはずなんですが」

 ソフィアは野菜を咀嚼しながら周囲を見て、

「見事に分かれていますね」

 とつぶやく。
 彼女が指摘した通り、嫁達と侍女達のグループ、淫魔達のグループ、そしてアウラニース達のグループに分かれてしまっている。

「いつもの事じゃないか。オレのところにはマリウスか、淫魔しか来ない」

 アウラニースは豪快に笑った。
 彼女は細かい事を気にしていないようである。

「それを改善する為の催しのはずなんですけどね」

 ソフィアが指摘し、アイリスがこくりとうなずく。
 彼女達はマリウスの意図をよく理解していた。
 生憎と彼女達にはマリウスに協力する意思はなかったが。
 ただ、邪魔する気もないので、アウラニースに言っているのだ。

「ふん、弱い奴と仲良く話す事の何が面白いのやら」

 アウラニースはそうごちる。
 彼女にしてみれば、マリウスがやらんとしている事は理解不能だった。
 いちいち弱者に阿るからこそ、身動きが取れなくなる。
 強者以外を顧みなければ自由だ。
 それが彼女の基幹とも言うべき考えである。
 この考えとて、実のところソフィアとアイリスですら理解しきれていなかったりするのだが、それをわざわざ告げる二人ではない。

「まあいい。食わせてもらった分、交流とやらはしてやるか」

 アウラニースはある程度満腹になると、マリウスの希望に沿った行動をとる旨を明らかにした。
 多くの人間はにわかには信じないだろうが、彼女は義理堅いのである。
 だからバーラ達の方に歩み寄って話しかけた。

「バーラよ、自分で飯の支度くらいはできないと強くなれないぞ」

 話題はさておき、大魔王に話しかけられたバーラは、まず自分の名前を憶えている事に驚きながらも返事をする。

「ええ。理由は違いますが、料理は覚えようと思いました」

 アウラニースの動きにエルが乗っかった。

「意外だね、アウラニース。バーラ妃の名前を覚えていたんだ」

 これはほとんどの人間の本音を代弁していたので、妻達は反発せずにアウラニースの返答を待つ。

「ふん、覚えようと思ったものなら覚えられるわ。単に覚える気がないだけだ」

 胸を張って言い放った魔王に、二人を除いて呆れかえった。
 要するに記憶力ではなく、やる気の問題だというのである。
 つき合いが長い二人は、「アウラニース様はこういう性格だ。何を今さら」と思っただけであったが。

「じゃあ私達の名前は言える?」

 エルの問いにアウラニースは

「ゾフィだろう? 後は…………」
やとあっさり言葉に詰まった。
 つまり、ゾフィは覚えるに値すると判断したが、他二人には全く興味がなかったのだろう。
 これを聞いていたキャサリンとロヴィーサが同時に尋ねた。

「私の名前は言えますか?」

「…………」

 アウラニースは無言で視線を遠くに投げる。
 やはりかという空気になった。
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