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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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さて、どうなる

 マリウスはエルの計画書に目を通す。
 彼から見た限りはとてもよく出来ていたが、分量的に一晩で完成させたとは思えない。

「お前これ、前から用意していたんじゃ?」

 返ってきたのは口笛の音だった。
 マリウスはややげんなりとしながらも、続きを読む。
 するとぎょっとする内容が目に飛び込んできた。

「性犯罪者の類は、オークやゴブリンの巣に放り込む……?」

 それを聞いた女性陣からは大きな悲鳴が上がる。

「いくら何でもむごいわ!」

「性犯罪は撲滅するべきだけど、最低限の尊厳というものが」

「エルって鬼か、悪魔じゃない?」

 エルはざわめきは無視したが、主人への説明はした。

「ゴブリンやオークを絶滅させる訳にもいかないでしょう? ならば犯罪への抑止力として使うのはありではないかと」

 マリウスには判断しかねる事だが、女性陣から悲鳴が上がったあたり、とても残酷な仕打ちなのではないだろうか。
 オークやゴブリンはどれだけ嫌われているんだと思わなくはないが、女性を襲うのが生態とあっては好かれるはずもないと思い直す。

「反発が大きすぎるものはちょっとな」

 マリウスはためらう。
 犯罪者の人権など別にどうでもいいとは思うのだが、だからと言って民意を無視するのはどうなのだろう。

「でも、ゴブリン達だって子孫を残す権利はあります」

「それはそうなんだが……」

 人魔共存を謳っている手前、ゴブリンやオークは絶滅していいと言う訳にもいかない。

「ふむ。ご主人様は奴隷制度を快く思っていらっしゃらないようでしたので、私としては気を利かせたつもりだったのですが……」

 代替の罰則が生まれれば、新しい奴隷は減る。
 ゴブリンやオークを刑罰に利用するのは、そういう意味合いもあったのだ。

「俺の意向を汲んでくれたのは嬉しいんだけどなぁ」

 頭をポリポリとかきながら、妻達を見る。

「ロヴィーサとバーラはどう思う?」

「……再犯に関してはありではないかと思います」

 そう言ったのはロヴィーサだった。
 バーラも手をうって賛成する。

「そうね。後、被害者が複数いる場合だとか」

「つまり考慮の余地はある訳か」

 マリウスは悩む。
 そして結論を出した。

「じゃあそういう方向で検討を始めてくれ」

 つまり、官僚達に丸投げである。
 情けない顔をしたのは妻達だが、反論は思いつかなかった。
 彼女達の心情を正確に表現するならば、「マリウスは論破できるけどエルは無理……」であろう。
 しかし、このまま引き下がる訳にもいかない。
 ロヴィーサがささやかな反撃を試みる。

「ゴブリンやオークの番となる者は性犯罪者だけですか? それだけだと、彼らが繁殖するには不十分だと思うのですが」

「不足分はご主人様とアウラニースに創ってもらいましょう、雌を」

 エルは即答した。

「最初からそれでいいのでは?」

 バーラが疑問を投げると、

「先にゴブリンとオークの使い道を示しただけよ?」

 ニコリと笑って答える。

「…………」

 何やら室内に疲労感が蔓延したような気がしたのは、マリウスの錯覚だろうか。
 嘆息しながらマリウスは言った。

「とりあえず、ゴブリンとオークを刑に利用するのはちょっと待て」

「はーい」

 エルは可愛らしく返事をする。

「とりあえずアウラニースと協力して、ゴブリンとオークの番を作ってやる事にしよう」

 マリウスはアウラニースの気配を探ってみたが、近くにはいないようだ。
 普段は呼ばずとも来るくせに、微妙に間が悪い。
 それでもアウラニースを呼び寄せるのは、マリウスにとって大して難しくはなかった。

「アウラニース、勝負だっ!」

 マリウスが叫ぶと次の瞬間、扉が蹴破られる。

「よっしゃあ、何の勝負だっ?」

 アウラニースが満面の笑みを浮かべながら乱入してきた。
 さすがにこれには皆は驚く。

「どうやってきた?」

「いくらアウラニースでもありえないでしょう」

 ざわめく一同に向かってマリウスは言う。

「アウラニースだからいいんだ」

「説明になっていないわよ? ……でも説得力が……」

 バーラが反論しかけて、その難しさに気がついた。
 マリウスは重ねて言う。

「だってアウラニースだぞ」

「うん? 話が見えないけど、とりあえずオレはアウラニースだ」

 アウラニースは小首をかしげつつ、胸を張った。

「それで? 何で勝負だ? 喧嘩か? それとも五段合体か?」

「今日は生命創造だな」

 マリウスが言うとアウラニースは目を輝かせる。

「おお? 巨大怪獣? 大魔王? それとも新しく太陽でも創ってみるか?」

 意外なまでの食いつきに驚きながら、マリウスは答えた。

「太陽が生命に含まれるかはさておき、ゴブリンとオークの雌を作ろうと思う」

「えええー……」

 アウラニースは微妙な顔になる。

「それのどこが勝負だよ……」

 明らかにやる気を失っていた。

「勝った方が負けた方に一つ、命令できる。負けた方は逆らえない。というのはどうだ?」

「やるっ!」

 アウラニースは即答する。
 その勢いにマリウスは不安を感じ、

「無理な事は無理だからな? できる事だけな?」

 と念を押す。

「ああ、それでいいぞ」

 アウラニースはやる気満々でうなずいた。

(あれ? 俺、何かミスった?)

 マリウスは嫌な予感がして、冷や汗をかく。

「ご主人様、空腹の馬にとびきり上等な草を与えたも同然なのですが、どういう方針で?」

 エルが怪訝そうな顔をし、小声でささやいてくる。
 しめたとばかりにマリウスはささやき返した。

「助けて、エルえもん」

「……つまり、何の意図もなかったと」

 確認するようなまなざしにマリウスはうなずく。
 エルは小さく息を吐いたが、これは責められない。
 舌打ちをしなかったり、大きなため息をついたりしなかった分、忍耐力があると賞賛してもよいくらいだ。

「どうしよう?」

 一回叩きのめされて大いに反省した方がいいのでは、と妻達なら言っただろう。
 それはたとえ頭の片隅によぎったとしても、決して口にせぬのが召喚獣という存在である。

「もし負けた場合、アウラニースを言い包める口上、とりあえず十通りほどを」

「いつもすまないな」

「いいえ。召喚獣の務めですから」

 そうやって微笑み、頬を手で撫でてくる。

「あー! 何をしている! オレと遊ぶはずだろ!」

 早速アウラニースが抗議をし、妻達が白い目で見ていた。
 もっとも、妻達の方は別に嫉妬していた訳ではない。
 「どうせ困ったからエルに泣きついたのだろう」とふんでいるのだった。
 妻の勘、なかなか侮れないものである。 

「勝負内容、いいのないか聞いていたんだよ」

「ふん、勝つのはオレだ」

 アウラニースは根拠もなく自信たっぷりだった。
 「それ敗北フラグ」とマリウスは思ったものの、口には出さない。
 立ててくれた方がありがたいからである。

「ルールは簡単、ゴブリン、オークに人気があるメスを創った方が勝ち」

 エルはそう言った。
 とっさにマリウスの言い訳に合わせてくれたらしい。
 目で礼を言い、改めてアウラニースに向き直る。

「それでいいな。オークやゴブリンの巣に行くか」

 マリウスが転移魔法でアウラニースと二人で移動した。




 ゴブリンの群れは最初、何が起こったのか理解出来なかった。
 だが、次の瞬間、全速力で逃げ出す者、武器を捨て、地面に両手と額をつき、必死に命乞いをする者に分かれる。
 本来、アウラニースほどの美女が現れたら、涎を垂れ流しながら襲いかかるはずだ。
 そうするどころか、恐怖で震えるのは、目の前にいる存在の恐ろしさを本能で理解したのだろう。

「相変わらず、アウラニースは凄い人気だな」

 マリウスはそう言った。
 ただし、完全に棒読みで。

「ふん、そんなのはどうでもいい」

 アウラニースは全く興味を持たない。
 オークやゴブリンなど、彼女にとっては眼中にないのだろう。
 そして神の力「生命降誕」を使う。
 白い塊を掌から放出し、人型にこねる。
 出来上がったのは、女版ゴブリンとも言うべき存在だった。
 マリウスも負けじと「生命降誕」を使う。
 マリウスが創ったのは、二十前後と思しき美女である。
 ただ、こめかみから二本、角が伸びていた。

「さてお前ら、どっちの女がいい?」

 アウラニースはそう問いかける。
 必死に頭を擦りつけて体を震わせたゴブリン達は、驚いて顔を上げた。
 そしてお互いの顔を見合わせた後、何か早口にまくし立てた。
 アウラニースは一つうなずいて、

「お前達が番にしたいと思う方の前に並べ」

 と命じる。
 ゴブリン達は恐る恐る立ち上がり、列を作る。
 そして全員がマリウスの方に並ぶ。

「…………あれ?」

 アウラニースは怪訝そうに首をかしげた。
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