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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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とある王宮の一日の一部について

 マリウスは強制的な合意を得てラミアを連れて帰った。
 城の人間達は今更ラミアくらいでは驚かない。
 ただ、侍女にするとなると話は別だった。

「元の場所に帰して来て下さい」

 女官長は両手を腰に当て、目をつり上げてマリウスを叱り飛ばす。
 他の者達も一様に眉を寄せていた。

「うん、でも、人魔共存はこれくらいじゃないと」

「まず、私に一言あって然るべきだったと思いますが」

「あ、はい」

 本来、一国の王の言葉を女官長如きが途中で遮るなど、不敬罪で処刑の対象となってもおかしくはない。
 ただ、この場でそれを言い出す者は誰もいなかった。
 多くの者が、心の中で女官長を応援していたのである。
 ほぼ唯一の例外であるエルが口を開く。

「つまり、あなたはラミアーの登用に反対ですか」

「当たり前です」

 女官長はきっぱり言ってからエルを睨む。

「大体、陛下ならいざ知らず、あなたは分かっててやっているでしょう。一体、どういうつもりですかっ!」

 怒鳴りつけられた淫魔は飄々として答えた。

「だから人魔共存なんですよ」

「無理ですよ! ラミアーですよ? 人間の子供が主食じゃないですかっ!」

 悲鳴に近い声に大多数が賛意を示す。

「マリウスやアウラニースがいれば大丈夫って言われても……」

「母親としては止めてほしいっていうのが本心よね……」

 バーラとロヴィーサも口を揃える。
 一対一ならばラミアーに勝てるバーラですら反対派だった。
 これはやはり心情的な問題が大きい。
 ゴブリン、オーク、トロルといったモンスター同様、人間を襲うのが生態となっている種族は一朝一夕で受け入れられるものではなかった。
 例外は淫魔くらいのものだが、それでも異性にはともかく、同性には毛嫌いされている。

「知っているよ、それくらい」

 反発の強さに驚いているマリウスとは対照的に、エルはつまらなさそうに言う。

「では何故っ? もっと他にやり方があったはずだし、もっと他の種族もいるでしょう?」

 噛み付く女官長の言葉を最後まで聞き、エルはマリウスを見た。

「お聞きになりました。彼女らは人魔共存に反対のようです」

「なっ」

 女官長は驚いて絶句したが、一瞬で立ち直って反論する。

「そんな事は言っていないでしょう! ラミアーを侍女にするのが反対なんですっ! 人魔共存には賛成ですよ!」

「ラミアーの登用に反対なのに、人魔共存には賛成? 説得力がないわね」

 エルは鼻で笑う。
 それを見たエマが「やられた」とうめいた。
 興奮している女官長を始め、ほとんどの者はエルのペースにはまっていて気がついていない。

「ラミアーみたいな種族と共存できてこそ、人魔共存でしょう? 王城にそういう人間がいるのはまずいですね。是非、意識改革をしなければ」

「はぁ? 何を言っているの、あなたは?」

 激昂する女官長を慌ててエマが止めた。

「エルの罠です、女官長。あなたから言質を取る為に挑発しているんです」

 女官長はハッとなったが、既に手遅れである。
 黒い笑みを浮かべ、エルはマリウスに話しかけた。

「ねえ、ご主人様、こういう人間を改革しないといつまで経っても人魔共存は普及しないですよ?」

「それはそうなんだが、もうちょっとやり方はあったんじゃないか?」

 マリウスは正直ドン引きである。
 しかし、それを露にできない立場だった。
 ただ、エルをたしなめるくらいはしないと後が怖い。
 妻達の眼光を見てそう思ったマリウスだった。

「あらご主人様、計画は闇のように知られず、稲妻のように不意を衝くのが基本ですよ?」

「味方にやる事じゃないでしょうっ?」

 たまらず女官長が叫ぶ。

「全くもって同感だわ」

 マリウスが賛成してみたので、エルは頭を下げた。
 女官長ではなく己の主人にである。

「心得ました。以後、気をつけます」

 これでこの場は収まった。

「な、何と言うか大変なんですね」

 この場に連れて来られた挙句、長らく放置されていたラミアーのレーヌは驚いた顔で、女官長に同情的な視線を送っている。

「今のままじゃあなたも仲間入りするのよ?」

 エマがそう話しかけると、レーヌはこくりとうなずいた。

「覚悟はできています。口減らしの為に働かなくてはいけませんから」

 身を立てずして生家には戻らぬと覚悟を決めた、一人の少女の顔がそこにあり、エマは息を飲む。

「それにネズミとかバッタとか、人間の営みの害になる生き物を食べ放題というのは少し魅力的です。私の里には、あまりいませんでしたから」

「そ、そう……」

 エマも女性なので少し引いた。
 だが、確かに害虫や害獣を食べてくれるならば、いてもらってもいいかもしれない。
 そう思ったエマは女官長の説得を試みる。

「まずは試しに一月ほど仕込んでみてはいかがでしょうか?」

 信頼する相手に言われた女官長は、苦い顔になった。

「単に好き嫌いで言っているわけじゃないのよ」

「存じております」

 エマはじっと見つめる。
 レーヌも縋るような目で女官長を見ていた。
 マリウスもお前だけが頼りだといった顔で女官長を見る。

「分かりました」

 深い深いため息をつき、女官長はレーヌの仕官を認めた。

「ただし、無理だと判断した場合、解雇しますのでそのつもりで」

「はい、頑張ります」

 レーヌは両手で握り拳を作って意気込みを表明する。
 そこにたまたまアウラニースが通りかかった。
 そしてレーヌを見つけると近づき、下半身の鱗を撫でる。

「お前、美味そうな鱗を持っているな」

「ひっ……」

 レーヌは真っ青になり、口から泡を吹いて気絶してしまった。
 相手がアウラニースだから責められない。
 女官長はそう判断し、侍女達に介抱させる。

「何だ、冗談の通じない奴だな」

 アウラニースは舌打ちをして通り過ぎた。

「修行か、アウラニース?」

 マリウスの問いにうなずく。

「おう。三段合体できるようになってやるから、待ってろよ」

 何の話だと誰もつっこみを入れなかった。

「ん……」

 レーヌが目を覚ます。

「大丈夫? 災難だったわね」

 女官長が優しく声をかけると、レーヌは己の身に起こった事を思い出した。

「そうだ、アウラニース様が……」

 言いかけて身を震わせる。

「冗談らしいよ」

 マリウスが言うと露骨にホッとした顔になった。

「で、ですよね」

「アウラニースはああいう性格なのよ」

 エマが言うと、レーヌはどこか夢見るような顔になる。

「でも、でも、本当にアウラニース様がいるんですね。皆さん普通にしていて、すごいです。尊敬しちゃいます」

 ラミアーの少女の言いように、一同は苦笑した。
 そんないいものではない。
 侍女達に苦笑が起こる。
 先ほどまで皆にあったラミアーへの拒絶反応は、どこかに消えてしまっていた。 

「とりあえず一ヶ月、よろしくね」

「は、はい、頑張ります」

 レーヌはエマが差し出した手を握る。
 マリウスはそっとエルの側に寄って話しかけた。

「エルなんでまた、今回みたいなやり方をしたんだ?」

 エルはレーヌ達を見て笑う。

「計画通りです」

 マリウスは理解するまでに十秒近い時を要した。
 つまり、エルはレーヌと城の人間達に仲間意識を持たせる為、わざとかき回したのである。

「アウラニースもちゃんと頼んだ通りにやってくれましたし」

「あれもお前の仕込みか……」

 マリウスはそう言うのが精一杯だった。
 一体どこからどこまでがこの腹黒淫魔の筋書き通りなのか。
 怖くて訊く気にはなれない。
 これでめでたしめでたしとはならなかった。
 今回の件でエルに何らかの処罰を求める空気になったのである。
 宮廷に仕える侍女を選出する権限は女官長が握っていて、一国の王でも最終決定は委ねなくてはならない。
 一国の王ならば勅命を出すのが可能だが、少なくとも建前では女官長の職権は侵せないのだ。
 エルはそれを破ったのである。
 謝罪だけですませていいはずがない。
 国王の召喚獣ならば無罪、などという悪しき前例を作っていいはずもなかった。
 そこでマリウスは罰を兼ねて一つの命令をエルに出す。

「人魔共存の為の推進計画の立案を命じる。特にゴブリン、オーク、トロルと共存する為の案を優先させる」

「謹んで拝命致します」

 エルは厳かに受けた。
 今回の処罰は適当だと多くの人は感心する。
 ゴブリン、オーク、トロルは有史以来、魔王並みに人類を悩ませてきた種族だ。
 ドラゴンやグリフォンは怒らせない限り、滅多に襲っては来ないのだが、彼らは違う。
 そんな連中と仲良くやる為の案を出すのは容易ではないし、もしできあがれば人類の為にもなる。

「大きな声じゃ言えないけど、いい気味よね」

 そう言ったのは女中の一人だ。
 彼女はランレオ人であり、当然の如くバーラの信奉者である。
 それを抜きにしてもエルにはあまりいい感情を持っていない。
 と言うか、エルは大衆人気はあったが、城勤めの者達には好かれていなかった。
 マリウスにしか従わず、妻達や女官長らを翻弄して嘲笑う傾向があるのだから、無理はない。
 おまけにほとんどの女にしてみれば、敵とも言える淫魔である。
 だからフィラート人の女中も、同僚を支持してエルを笑った。

「陛下って日常ではあまり頼りにならないと思っていたのだけど、今回の件でやる時はやると分かったわね」

 意訳するならば「マリウスが珍しく仕事した」となる。
 そして翌日、エルは大きな書類の束をマリウスの机の上に積み、唖然とする者達に向かって言った。

「一晩でやっておきました」
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