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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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うっかリウスとその他

 マリウスに相談された女官長は深々とため息をついた。

「陛下、最近頭脳労働をサボりすぎです」

「す、すみません」

 思わず礼儀正しく謝る。
 マリウスにとって女官長は、亡くなった母を想起させるどこか懐かしい存在であった。
 それ故に、どこか丁寧な反応をしてしまう。
 向こうの世界に置いてきた友達ならば、「マザコンでは」とからかうところだろう。

「侍女一人に一日牛一頭は明らかに高すぎです」

「あ、やっぱり?」

 サバイバル経験があるマリウスは、何となく見当がついていた。
 自分が鹿一頭の肉を食べきるのにどれだけかかったか、を考えればよい。
 そこまでは考えたのにそれ以上は考えなかったのが、マリウスの怠慢と言えるだろう。

「陛下」

 つぶやきを聞きとがめた女官長にジト目で見られ、マリウスは黙って目をそらす。

「しかし、案はそこまでは悪くないかもしれません」

「え?」

 意外な言葉にマリウスは目を丸くする。

「ケンタウロスならばさしもの陛下も……」

 マリウスは再び目をそらした。
 今度は冷や汗をかきながら。
 取りようによっては無礼な発言ではあるが、事実である上に嫌味や皮肉ではなく、疲労感が含まれていたのだ。
 苦労させている自覚がある身としては、怒る訳にもいかない。

「よろしいでしょう。妃がたには私から申し上げましょう」

「え? いいのか?」

 女官長が言ってくれるならば大変心強い。
 マリウスのみならず、妻達や女官達にとっても頭が上がらない存在なのである。

「はい。失礼ながら陛下では、説得するのは困難でしょう」

 無理と断言しなかったのは、臣下の礼儀なのか、それとも女官長なりの優しさなのだろうか。

(両方だな、多分)

 マリウスとしては願ってもない展開である。
 エルに頼むという手もあるのだが、腹黒淫魔では全員が最大級の警戒をするだろう。



「ええ~?」

 ロヴィーサとバーラは揃って声を上げ、それに驚いて赤ん坊が泣き出す。
 乳母達が慌てて赤ん坊を抱えて部屋の外へ移動した。

「ケンタウロスの侍女って本気?」

 バーラが言うとロヴィーサも、

「マリウスやエルみたいな事を言わないで」

 と続き二人は揃ってマリウスに意味ありげな視線を向ける。
 マリウスやエルなら言いかねないと思うあたり、さすが妻と言うべきだろうか。
 マリウスは首をすくめた。
 それを見た妻達は「やはりこの男か」という表情をする。

「エルあたりに言われてその気になったのでは?」

 ロヴィーサの指摘で、マリウスは女の勘の恐ろしさを実感した。

「恐らくはそんなところでしょう」

 女官長も断定する。
 どうやらマリウスを庇う気はないらしい。

「ただ、エルが言い出しただけあって、悪くない案です。難点は、少々お金がかかりすぎる事でしょうか」

「じゃあ却下した方がいいんじゃない?」

 バーラは怪訝そうに言ったが、ロヴィーサは思案顔になった。

「それだけ利点はあるのね?」

「はい」

 女官長はきっぱりと断言する。

「まず、ただの相互不可侵でしかない現状から真の共存へと前進が期待できます。そして新しい侍女を探し起用し育てる手間費用が抑制できます。戦える種族を起用すれば、防衛戦力の強化にもつながります」 

 いい点が多いなとマリウスは感心した。
 エルがマリウスの為に考えたというのは嘘ではないらしい。
 ロヴィーサが「なるほど」とつぶやいた。

「真の意味で人魔共存が始まれば、軍事費の抑制になるし、労働人口が向上し、経済の発展が狙える。職を失った者は魔の住処を開拓したり、魔との交流で必要となる新商品の開発に取り組む。魔との交流があれば物資を届ける事もあるでしょうから、輸送業やその護衛の需要も高まる。万が一、あぶれたとしても、各地の治安向上の為に使える。まあ、問題点はいくつも出てくるでしょうけど、やってみる価値はありそうね」

(おおおおおお)

 マリウスはロヴィーサの言葉を聞き、心の中で大きな歓声を上げた。
 彼は一つも理解していなかったのである。
 少なくとも今のところはいい事ずくめで、エルの凄さを実感した。
 あの腹黒淫魔ならばこの程度の事、気づいていないはずがあるまい。
 ただ、気になった点は声に出した。

「問題点?」

「ええ」

 ロヴィーサの視線がマリウスに向く。

「これまで敵だった種族、外見も寿命も価値観も全く異なる種族と一緒に暮らす事、これそのものが火種となりえます。職業の変更だって簡単にいくはずがありません。職業訓練のようなものが必要となるでしょうね。魔と交流で何かが生まれるとは限らないですし、もし上手くいかなかった場合、恐ろしいまでの保障が必要となり、一気に大打撃を受ける事は確実と思えます」

「……止めた方がいいんじゃないかな」

 マリウスは百八十度方針を変えたくなった。
 へタレな夫の態度を見てロヴィーサは舌打ちをする。

「それでもやる価値はあるのです。あなたにも働いてもらいますからね」

「それはいいけど」

 マリウスは今のところほぼ何もしていない。
 アウラニースを放置していると世界存亡の危機になりかねないし、マリウスがいるからこその人魔共存なのだが、本人はあまり実感を持てずにいた。
 だから仕事をもらえるのはかなりありがたい。

「俺は何をすればいいんだ?」

 期待を込めた目で見ると微笑が返ってくる。

「さしあたっては、人魔交流を進める案をエルに出してもらって下さいね。私では人の価値観や感性しか分かりませんし、他の者も同様でしょう。アウラニース達では参考にならないでしょうしね」

「……はい」

 マリウスはやや情けない気持ちながら部屋を後にした。
 もう少し何か仕事が欲しかったのだが、自分の能では仕方ないと思い直す。
 国王本人が使いというのは珍しいと言えるが、なにぶん彼の言う事しか聞かない輩が複数存在するのだ。
 アイリスとソフィアに至っては、「マリウスの言う事を聞く」のではなく、「アウラニースと仲のいい人間の言う事を聞いてやっている」といった心境だろう。
 マリウスは自惚れていないし勘違いしてもいなかった。



「コール・エル」

 マリウスはエルを召喚する。
 召喚獣は好きな時、好きな場所に呼び出せるのだ。
 実のところまともに「召喚」したのは、これが初めてだったりするのだが。

「お呼びでしょうか、ご主人様」

 驚いたと言うよりは意外そうな顔の淫魔に、マリウスは事情を話した。
 一通り聞いたエルはため息をつく。

「ケンタウロスなんて論外です。ラミアーがいいと思います」

「……え?」

 マリウスは思わず耳を疑った。
 そして尋ねる。

「ラミアーって、人間の子供が主食じゃなかったっけ?」

 少なくともゲームの設定ではそうなっていて、美少女の上半身を持つおぞましい怪物だったはずだ。

「そうですが、動物の肉全般食べます」

 淡々としたエルにマリウスは苛立ちを覚える。

「いや、俺の子供、思いっきり危険じゃないか?」

「だからこそ人魔共存に説得力が生まれるのですよ。ケンタウロスはモンスターと言っても知恵と理性もあり、人語も解します。人間達にとっても話が通じる存在であっても、恐ろしい相手ではないはずです」

「そりゃそうだが……」

 だからこそ女官長やロヴィーサも反対はしなかったのだろう。

「だからこそ他の者に譲らねばなりません。ご主人様が始めた事を倣うのが人の世ですから」

「……そんなものかなぁ」

 流行に弱い日本人かと思ったが、通じるはずがないので心の中でだけ思うマリウスだった。

「ええ。倣わないのはご主人様への反逆行為だと騒ぐ馬鹿も出るかもしれません」

「そういうのは鬱陶しいよなぁ」

 これは想像できる事だったのでため息をつく。

「大体、ご主人様が召喚獣にしてしまえば、食費や危険度の問題は解決出来るでしょう」

 そう言われてマリウスは軽く混乱する。

「いやいや、それじゃ人魔共存と言えなくはないか? そういうの抜きにしてこそ人魔共存だろう?」

「ご主人様とアウラニースがいるかどうかで、交流の難易度や危険度は大きく変わるはずですが?」

 エルは心底不思議そうな顔をし、マリウスを絶句させた。
 そんな主人を見てエルはため息をつく。

「人魔共存なんてご主人様が願い、アウラニースが反対しないからこそ、やっと成り立っているのです。現時点では力ずくで進めていくしかありませんよ」

 そうやって少しずつ意識を改革し、出てくる問題を越えていく。
 それこそが重要だとエルは語った。

「そもそも、人魔共存なんて問題しかないに決まっているじゃないですか? 表面化しないのは、モンスター達全員がアウラニースに目をつけられたくない一心で、我慢しているからです」

 身もふたもない事を言われ、マリウスは肩を落とす。
 己の認識が想像を超えて甘かった事を理解したのだった。
 アウラニース達も淫魔達も、人間を襲う必要が全くないのだが、中にはラミアーのように人間を主食としていた種族もいる。
 彼らに人間以外を糧とする事を教え、なおかつそれで満足させなければいけなかった。

「今は無理やりにでも人魔共存をさせた方がいいっていうのか?」

「ええ。モンスターは人間を襲わなくてもやっていけるし、人間と生活できるのだと理解させるのです。特にモンスターにね。人間だって自分達を襲わず、仲よくできる相手なら、仲よくしようという気になるのではないでしょうか」

「それはそうだな。多分」

 断言した方がいい場面だろうが、生憎マリウスはこの世界の人間ではない。
 この世界の人間の感覚を完璧に理解しているとは言えなかった。

「ラミアーを捕獲して召喚獣にし、侍女にすればいいのです。その上で人間位以外でも嗜好に合う物を一緒に探してやり、見つければ同族に広めさせる。まずはそういった方針でいかがですか?」

「ああ、うん。それでいこうかな」

 マリウスはうなずいた。

「話を聞いた限りじゃ、むしろ今まで不満が爆発しなかった方がおかしいのか?」

 首をかしげると、エルは即答する。

「おかしくはないですけどね。アウラニースがあなたの味方で、あなたがアウラニースと同等の強さを持っているとなれば」

 何やらアウラニースに感謝した方がいい流れになってきた。
 それだけあの魔王は、モンスター達にとって巨大な存在なのだろう。
 常日頃の姿を見る限りではとてもそんな風に思えないのだが。

「じゃあラミアーを探すか」

「ラミアーの居場所なら、私が知っています。私の記憶を見て転移魔法を使えばいいでしょう」

 エルは早速抜かりのなさを発揮した。
 マリウスは苦笑してエルの記憶を読み、転移魔法を使う。
 そして彼らの目の前には、ラミアーの集落があった。

「誰だ?」

 入り口に立っていた見張りらしき二体のラミアーが、誰何する。

「マリウスという。勧誘に来たんだが、入れてもらえるか?」

 二体は目を見開き、口を酸欠状態の魚のように開閉させ、体を震わせた。

「は、はい。少々お待ち下さい」

 やっとそう言うと、全力で集落の中に飛び込む。

「長っ! 長っ! マリウス様がっ! マリウス様がっ!」

 そして絶叫じみた声が聞こえてくる。
 どうやら一大事に発展しそうであった。
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