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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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148/186

どんな

 エルの嫉妬心に気づかなかったマリウスは驚き困り悩んだ。
 いつもならエルに相談するところなのだが、そのエルが問題なのである。

(エルの事だから計画通りって陰で舌を出しているかもしれないが……)

 顔を真っ赤にして、声を震わせて、嫉妬心を吐露した姿が、偽りだったとは思えない。
 あれが演技だったりしたら、二度と信じられなくなる自信がある。 

(さてどうしよう)

 エルえもんという切り札が使えない。
 エマも最近様子がおかしい。
 原因は恐らく自分かエルだろうと見当はつけていた。
 マリウスはそこまで鈍感ではないのだが、かえって事態が悪化する原因になっていたりする。
 エルとエマの知恵を頼れない国王は一人で悩むしかない。

「マリウス」

「後でな」

「まだ何も言っていない!」

 むくれて抗議するアウラニースを無視し、マリウスは一人空に浮かんでいた。
 浮遊魔法の応用である。
 悪い子に真似されたらいけないので、幻覚魔法を使って人目から隠れておく。

(ソフィア達を侍女に、か)

 エルの提案を考え直してみる。
 嫉妬心から出たものとは言え、そんなに悪い案とは思えない。
 人魔共存を進める為には有効な一手ではある。
 アウラニース達には、怖くて誰も意見できない空気があるのだ。
 それを共存と言っていいのか、大いに問題がある。
 とは言え、ソフィア達が受け入れてくれるかはまた別の話だ。  

(いや、別にソフィア達でなくてもいいのか……?)

 人魔共存という観点で言えば、何も特定の存在にこだわる必要はない。
 むしろ人間達に怖がられないような存在の方がよいだろう。
 それでいて不測の事態に対処できる実力がある者。

(魔人あたりか)

 マリウスは魔人も人間に恐れられる存在だという事を失念していた。
 とりあえず、新顔を増やす方向は決める。
 魔人を登用するとなると、アウラニース達を頼るのが最適だろう。
 魔法を使って戻ろうとした時、

「見ーつーけーたー」

 地の底から響くような声が聞こえた。
 アウラニースが追いかけてきたのである。

「いいところに来た」

「うん?」

 マリウスが笑顔で肩を叩くと、きょとんとした顔になった。
 さっきまで逃げていた男が態度を豹変させたのだから、当然だろう。

「魔人を仲間にしたいんだけど、誰かいい奴知らない?」

 天気の話をするような気軽さで問われ、アウラニースは反射的に吟味して答えた。

「何人かいるが、どういう奴がいい?」

「人間に怖がられない、女魔人かな。できれば俺とかに従順な奴がいい」

 妻達の側に置く以上、女しかありえない。
 マリウスの意見を聞いたアウラニースは、

「とりあえずソフィアに訊いてみるか」

 と言った。

(こいつ、顔と名前が一致していないんだな)

 マリウスはアウラニースがソフィアのところへ行こうとする理由を見抜く。
 問いかけたのは彼の方だから、文句を言う訳にもいかないが。
 二名に押しかけられたソフィアは、いつも通りクールに出迎える。
 事情を聞いた彼女は首をかしげた。

「うってつけの者はいますが、人間達は反発するのでは?」

 その第一声にアウラニースはマリウスを見る。

「そう言えば人間達って、魔人が増えたら怖がるんじゃないか?」

「……うっかりしていた」

 マリウスはやっと気づき、頭を抱えた。
 らしい失態なので誰も咎めない。
 アイリスが疑問を投げかける。

「何でまたそんな事を言い出したんだ?」

 マリウスは事情を説明する。
 この時、魔王達は初めて侍女という仕組みを理解した。
 より正確に言うならば、ソフィアを除く二名である。

「確かに世話役がころころ変わるのは避けるべきでしょうが」

 ソフィアが冷やかに言う。

「あなたが手を出さなければすむ話ではないですか」

 マリウスは絶対零度、を連想して首を竦めた。

「一応言い訳させてもらうけど、俺が手を出さなくても、数年で入れ替わったりするんだよね」

 何故ならば侍女という職につくのは、原則として未婚の女性だからである。
 例外も存在するが、そういう女性はほぼ女官長など、重要な地位につくと決まっていた。

(寿退職を前提にした職制なんだから、俺だけのせいじゃないよ)

 マリウスは心の中でだけぼやく。
 寿退職、という表現が通じないだろうからだ。

「じゃあ制度を変えればいいんじゃないか?」

 アウラニースが面倒そうな顔で適当に言う。

「ん?」

 マリウスは何かが引っかかる。
 そして数秒後手を叩いた。 

「そうだな。アウラニースの案でいこう」

「ほう。オレのありがたみ、やっと理解したか」

 アウラニースが嬉しそうに言う。

「いやいや、アウラニースは元からありがたいよ」

 いいヒントをもらったのでマリウスは上機嫌で褒める。
 それを見て聞いたアウラニースは、顔をしかめて後ずさった。

「何だ、突然。気持ち悪い奴だな」

「えー?」

 褒めたら気持ち悪がられ、マリウスは不満そうな顔になったが、これはマリウスの方がよくない。
 普段、おなざりに接する事が珍しくないのだから。 
 しかし、アウラニースは根に持たないタイプである。

「まあいい。オレのありがたみ、理解したならたっぷりと拝め」

 そればかりか腕を組んで胸を張った。
 マリウスは本当に拝み、呪文を唱える。

「おお、アウラニース様、新しく部下にするのにいい者を教えて下され」

 厳かな表情を作って頼むと、気をよくしたのかアウラニースは鷹揚にうなずいた。

「よかろう。教えて進ぜよう。ソフィアが」

 馬鹿をやる二名を呆れた顔で見ていたソフィアが、ため息をこぼしてから答える。

「魔人ではなく大して力のない者がよいでしょう。ケンタウロスなどはいかがですか?」

 ケンタウロスは馬の下半身と人間の上半身を持つモンスターで、高い知性を持つ個体も存在するという。
 特に雌にその傾向が強く、真面目な性格な持ち主が多い。
 マリウスはケンタウロスに関する情報を思い出すと一つうなずく。

「うん、確かにケンタウロスならいいかも。人間の言葉喋れるはずだし、バーラなら余裕で勝てるだろうから、そんなに怖がられないかな。さすがソフィア、名案だな」

 そう褒めるとソフィアは疲労感を滲ませてため息をついた。

「ソフィアさん、お疲れ様です」

 マリウスがそう声をかけると、じろりと睨まれる。

「あなたのせいでもありますからね?」

「はい」

 端正な顔立ちだけに迫力があり、思わず敬語になるマリウス。

「あれ、オレには?」

「アウラニースは空気を読もうな」

「空気は吸って吐けばいいだろ。読むなら大気や気配だ」

 人間の言い回しが気に入らなかったのか、アウラニースはうがーと吼える。
 マリウスはそれを無視してソフィアに話しかけた。

「ケンタウロスの雌がいいんだけど、いい奴知っている?」

「ええ。今から行きますか?」

 マリウスがうなずいたのでソフィアはテレポートを使う。
 アウラニースはアイリスと共に置き去りにされ、

「おいコラァ」

 叫んでいた。
 追いかけようとはしないあたり、まだ理性が残っているのだろう。




 マリウスがソフィアに連れて来られたのは、とある森だった。
 どんな奴がいるのだろう、と思いながらソフィアの後を歩く。
 モンスターの集落があるものの、二人を遠巻きにしてみている。
 ソフィアが歩き始めると多くの者達が後ずさりをした。

「あれ、ソフィア、怖がられていないか?」

 マリウスが不思議そうに言う。
 ソフィアは温厚で理性的な性格な為、怖がられるとは意外だった。
 アウラニースならば全く違和感はないのだが。

「彼らは本能的に私の力を感じ取っているのでしょう。きちんと隠しているはずですがね」

「そういう点じゃ、人間より上だなぁ」

 残念ながら人間達ではソフィアが隠す力を感じ取れる者は稀だ。
 バーラ、アウグスト三世といった人類最強クラスのみである。

「まあ、鈍感な方が繁栄できるのかもしれませんけど。私達が近くを通る度、逃げたり気絶していたりしたら、営みどころではないでしょうし」

 さりげなく恐ろしい事を言われた気がして、マリウスは思わず足を止めた。

「あれ? もしかしてお前達、そんなしょっちゅう人間の国を通ったりしていたの?」

「しょっちゅうではありませんが」

 ソフィアは穏やかに切り返す。
 マリウスはアウラニースがいつ復活したのか、結局分かっていない事を思いだした。
 しかし、聞くのは怖い気もする。

「アウラニースは封印されていたらしいけど、お前達は違うんだよな」

 それでもいきなり話を変えるのは不自然でへタレすぎると思ったので、水を向けてみた。

「ええ」

 ソフィアはあっさりとうなずく。

「何ですぐ封印を解かなかったの?」

「封印魔法はすぐ解けるようなものではないですよ」

 マリウスの問いには苦笑が返ってきた。

「より正確に言うならば、メリンダの封印魔法は、ですけどね。普通の封印ならば、そもそもアウラニース様には通用しませんから」

「レッキングか……」

「ええ」

 アウラニースの「レッキング」はあらゆる効果を打ち消す効果を持つが、防御にも使える。
 アニヒレーションの消滅効果が効かなかったのも、レッキングによるものだ。

「あれ? メリンダの封印魔法は何で効いたんだ?」

「……使っていなかったからですよ」

 気まずい沈黙が落ちる。
 ただ、とソフィアは気を取り直すように言った。

「すぐに破れなかったのはメリンダの功績ですね」

「そうだろうな」

 マリウスとしては賛成するしかない空気である。

「あ、いました」

 ソフィアがケンタウロスを見つけ、声をあげた。
 ややわざとらしかったが、マリウスは指摘せずにのっかる。

「ん? どれ?」

 視線の先にはケンタウロスの集団がいて、雌らしき個体も複数いた。
 ケンタウロスの雌は、貝がらで胸の部位を隠しているが、膨らみは分かる。
 分かる程度での大きさでしかないが。

「ティナ」

 アイリスが呼びかけると、一人のケンタウロスがびくびくしながら前に出る。

「は、はい。お呼びでしょうか、ソフィア様」

「人間の国で働く者を探しているのだけど、あなたはどう?」

「え、えと、その、あの……」

 泣きそうな顔でしどろもどろになっている女性を見て、マリウスはソフィアがいじめているような構図に見えた。
 もちろん、錯覚に過ぎない。

「報酬はどうなのでしょう? 小さい弟と妹がいるので、私が頑張って食べ物を探さないと……」

「そのあたりはマリウスと交渉すべきね」

 そう言って視線を移動させる。
 その意味を理解したケンタウロス達は、

「あ、あれがマリウス様?」

「アウラニース様と戦っても死なないマリウス様?」

「アウラニース様と一緒に生活できるマリウス様?」

 悲鳴に似たどよめきが起こる。
 マリウスは何やら動物園の珍獣になったような気持ちを味わった。

「あ、あああ、あの、マリウス様。一日にどれくらいもらえるのでしょう?」

 ティナは空腹の猛獣と出くわしてしまった子兎のように、震えながら問いかけてくる。

「どれくらいほしいんだ?」

 マリウスが質問で返すと、ティナは必死に深呼吸を繰り返す。
 そしてやっと答えた。

「えっと、できれば牛一頭分くらいは頂きたいです。野菜や魚でもいいので」

「それくらいならいいと思うけど、詳しい事は女官長に言ってみないとな」

 侍女を採用し教育し、監督し給料を払うのが女官長である。
 国王として命令すれば大概の事は通せるだろうが、それでも無視する訳にはいかない。

(あれ? 俺、女官長を説得する必要があるんじゃね?)

 今更マリウスは気がついた。
 考えなしここに極まれり、である。
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