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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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子供が生まれたよ

 子育ては大変だと思っていた時期がマリウスにもありました。

(あったんだけどなぁ)

 過去形である。
 王が自ら子育てをするなど、認められないのだ。
 普段は暇を持て余しているので、遊び相手にはなっているのだが、本来は乳母や専属の教育係がつく。

「俺がやりたい」

 マリウスは手をあげたのだが、周囲の反応は良くなかった。

「出来ますか?」

「教育係は充分な教養と育児経験がある者がつく、一種の専門職なんですが」

 ベッドの妻達に懐疑的な目を向けられ、マリウスは傷つく。

「二人平等に育てないといけないのですよ?」

「教育係でしたら個人のやり方ですみますが、父親であり王でありあなたが少しでも差をつけてしまうと……」

「わがままを言ってすみませんでした」

 マリウスは降参した。
 己自身がそれだけ大した事を出来るとは信じられなかったのである。
 大切なのは身の程をわきまえる事だ。

「そんな事よりも」

 エマはさりげなく酷い言い方をしつつ、マリウスに言う。

「お名前、いかがなさいます。そちらの方が大切かと」

「名前か……二人とも男だし、かっこいい名前をつけてやりたいな」

 マリウスが頬を緩めて言うと、懐疑的な視線が突き刺さる。

「あなた基準のかっこいいが不安なので、言っていただけませんか?」

 ロヴィーサに言われたマリウスは眉を寄せた。

「最近、俺の扱い酷くない?」

 バーラが不思議そうな顔をする。

「扱いがいいとでも思っていたんですか?」

「ひ、ひど」

「冗談です」

 妃はにこりとし、マリウスはがっくりとなった。

「笑えない冗談、反対」

「何なら代わりに仕返しをして差し上げましょうか?」

 黙ってやりとりを眺めていたエルが口を開き、妃達の頬は引きつった。
 マリウスはそれに気がつかず飛びつく。

「おお、エル。いっちょ頼むわ」

「はい」

 エルはそっと二人の妃に近づき、

「出産後、体型は崩れて、お腹の肉はぶよぶよになるそうよ」

「いやあああ」

 ロヴィーサが思わず悲鳴を上げる。

「あっちの具合も悪くなって一気に寵愛を失う例が多いらしいわ」

「もう止めてぇ!」

 バーラが涙目になった。
 ささやき声だったので、マリウスには聞こえていない。
 ただ、妻達の反応から、エルの恐ろしさは実感出来た。

「あの、エル。そのへんでな」

「かしこまりました」

 エルはすっと妃達から離れる。

「それでお名前はどうしますか?」

 エマが無表情で確認した。
 アウラニースが勢いよく手を上げる。

「はいっ」

「却下」

 マリウス、バーラ、ロヴィーサが一斉に答えた。

「まだ何も言ってないぞっ!」

 うがーと吼えるアウラニースをソフィアとアイリスがしめ出す。

「悪は滅びた」

 マリウスがそうつぶやくと、

「マリウス、覚えていろよぉぉ」

 アウラニースの絶叫が聞こえた。
 アイリスとソフィアが二人がかりでも、本気で抵抗すればふりほどけるはずである。
 そうしないあたり、何だかんだでノリがいいと言えるだろう。

「で、名前はどうします?」

 エマは何もなかったかのような態度でマリウスに問いかける。

「ジークとフリード」

 女性陣の視線を集中的に浴びつつ言った。

「意外とまともですね」

 エマが評価すると、

「確かに意外といい名前ですね」

「ええ。意外と素敵です」

 ロヴィーサとバーラも賛成する。

「意外意外うるさいよ」

 マリウスは拗ねた。

「でも確かに意外とまともですよ」

 エルが言うと、

「エルよ、お前もか」

 マリウスは落ち込んだ。
 そんな主人にエルは近づき、

「そうやって反応するから弄られるんですよ?」

 と教える。

「そうだったのか」

 マリウスは今頃気がついたようで、妻達に呆れ顔をされた。

「愛されている証拠でしょうけどね。もちろん、私も愛しています」

「お、おう」

 直接的な言葉をぶつけられ、マリウスは照れてしまう。
 声は上ずり、目が泳ぐ。

(実にさりげなく愛をささやいたっ?)

(おのれ、エルっ!)

 妻達は声に出すのは自重したが、心の中ではメラメラと嫉妬している。
 それだけでは飽き足らず、悔しそうにエルを睨み付けた。
 そこにアルとゾフィが巡回から戻ってくる。

「あ、じゃあ私、代わりに巡回に行ってきます」

 エルは実に自然にその場から逃げ出した。
 それを見ていた妃達は、

「ねえ、ロヴィーサ様、エルを野放しにするのは危険じゃないかしら?」

「そうよね、バーラ様、同感だわ」

 小声で相談しあう。
 最近になって急激に存在感を出し始めたエルは、彼女達にとっても脅威に思える。

「しかし、どうして今頃なのかしら?」

 ロヴィーサは疑問を呈した。
 彼女とエルは直接的な交流こそはないが、それなりに知ってはいる。
 そういう意味ではバーラもだ。

「確かに」

 だからロヴィーサの言いたい事がよく理解出来る。
 二人はああでもない、こうでもないと議論するが答えは出ない。
 そこでエルに詳しいと言えば、ゾフィとアルだと思いつく。

「今更だけど、エルってどういう性格なの?」

「どうって言われても、見ての通り真っ黒だぞ」

「あまりの性格の悪さに、ゾフィ様も仲間にするしかなかったんだよね」

 ゾフィとアルは答えになっていない答えを返してくる。

「まあ、あれでも義理堅い性格だから、心配はしなくてもいいだろう」

「じゃなかったら私達、背後からぶすりと刺されていただろうし」

 笑えない事を笑いながら言う淫魔コンビに、ロヴィーサとバーラはおろか、マリウスやエマすらも顔を引きつらせた。

「確かに義理堅くないエルなんて考えたくもない……」

 マリウスの言葉は、皆の思いを代弁していた。



 マリウスの子が誕生した事に大陸は沸き立つ。

「ジーク様とフリード様か。いい名前じゃないか」

「名前をつけたのはマリウス様らしいぞ」

「へえ、こう言っちゃ何だが、意外だな」

「確かに意外よねえ」

 マリウスのネーミングセンスは庶民達にも意外扱いされていた。
 全マリウスが泣いた。
 そんな事をよそに民衆の関心はある一点に絞られる。

「どちらが王位を継ぐのか?」

 という点にだ。
 マリウスが神の力を得た事は知られているが、永遠に王座にあると思っている者は意外と少ない。

「永遠に王が同じでも国や民は困るだろう」

 マリウスはこう言って憚らなかったからである。
 今のところその治世に不満を持つ民は少ないが、実のところ文官達や妻達に全て丸投げ状態だ。
 「君臨すれども統治せず」を地で行っている。
 それが上手くいっている間はいいのだが、いつまで上手くいくのかという問題があった。
 停滞した時、それを打破できる力は必要であろう。
 ロヴィーサの子ジークとバーラの子フリードがその旗頭となってくれれば。
 そんな期待がある。
 おまけにマリウスは今すぐ決めないと明言した。
 それが余計、周囲の予想(この場合は妄想)を煽る事となる。
 ターリアント大陸の場合、大概は年長順、ないし母親の身分順で決めるのが常であった。
 だがしかし、ジークとフリードは同じ時期に生まれたし、母親はどちらも一国の姫である。
 立場では第一王妃であるバーラが有利だが、故郷の国力で言えばロヴィーサのフィラートの方が一枚も二枚も上だ。
 つまり、二人は拮抗していると言える。

「エルの策が当たらなかったら、今頃ややこしい事になっていたかもな」

 他が同じならば先に生まれた方が有利となる。
 それを覆そうとするならば、さすがのマリウスでも無理をせねばならない。
 そもそも、生まれた時点で全てを決めるのが問題だというのがマリウスの考えである。

「お手柄だな、エル」

 マリウスがそう言って頭を撫でてやると、エルは彼女にしては珍しくデレデレした。

「えへへ。上手くいってよかったです」

 いくらエルでも、生まれる時期までは完全に制御出来ない。
 どうしても運が絡んでくる。
 そういう意味では、エルもマリウスも運があったのだろう。

「しかし、これでは問題を先送りにしただけでは……?」

 ゾフィの疑問はもっともだと言えた。
 生まれた瞬間に決まってしまう事を避けられただけである。
 もしかすると、より大きなうねりが起こるかもしれない。

「いいんだよ。今のうちから兄弟二人、仲良く助け合う事を教えていけば」

 マリウスはその点では楽観していた。
 子供の人格形成は、環境や教育が大きな割合を占めると考えている。
 物心がつく前から帝王学を教えられたり、臣下の立場を教えられたりするときっと上手くいかない。
 だが、兄弟が助け合う事が当然だと教えていれば、喧嘩しても決裂には至らないのではないか。

「人間だってそんな単純じゃないと思いますけどね」

 エルのこの一言をマリウスは忠告だと受け止める。

「確かにこうすれば子育ては上手くいくって方法があるなら、誰も子育てに失敗したりしないよな。子供だってぐれたりしないだろう」

 そう言ったのは、己自身に言い聞かせる為だ。

「ぐれる……?」

 こちらの世界には存在しない言葉だったらしく、淫魔トリオは揃って首をかしげる。

「こっちの事だ。どっちにせよ、お前らは教育に悪そうだな」

 主人の率直な言葉に、ゾフィとアルは憤慨した。

「し、失礼な」

「そうですよ、何ならジークとフリードの筆卸をしてもいいんですよ」

「するな、馬鹿者」

 マリウスはアルの頭に拳骨を落とす。

「あう」

 アルは涙目になった。

「これでアルは脱落っと」

「脱落だな」

 エルとゾフィが嬉しそうに笑う。

「え? ちょっと、そんな意味で言ったわけじゃ」

 アルは焦る。
 単に忠誠心の表れに過ぎない言葉を、何やら誤解されていると思ったのだ。

「そうだったのか、アル」

 マリウスがわざとらしく残念そうに言うと、

「え? え? ご、ご主人様? そ、そうじゃなくて、私はご主人様のもので、だから、ジークやフリードもってあれ?」

 アルは半泣きになってパニックを起こす。

「分かったから落ち着け」

 見かねたマリウスがなだめにかかった。
 一晩独占すると言う条件で何とか説得する。 
 これがエルならば嘘泣きの可能性を考えねばならなかったが。
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