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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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あるキャラのある一コマ

 初代トゥーバン王マリウスは置物である。
 仕事を探しても、妻達、あるいは臣下達に

「大丈夫ですよ」

「普段はごく潰しでいて下さい」

 とやんわりと断られていた。
 王の威厳なんてもの、鼻にもひっかけていないと言えるだろう。
 人によっては激怒するだろうが、マリウスは「イエスマンしかいないよりマシか」と思っていた。
 それに彼はただいるだけで効果はあるので、全くの役立たずとも言えない。
 一つ、アウラニースを頂点とする魔の勢力が大人しい。
 これは余人には決して出来ぬ事だ。
 二つ、世界が平和である。
 マリウスが戦争嫌いなので、あのアステリアすら戦争をしようとしない。
 家族や恋人や働き手を取られる事がないと民衆は喜んでいる。

「マリウス様、万歳」

 そう言って褒め称えてもらえる。
 むず痒さを感じつつも悪い気はしない。
 マリウスは確かに置物ではあるが、何もしなくてもよいという訳ではなかった。
 他の者が作成した各種書類に最終的に認可を与えるのが、王の職務である。
 たとえ、実質判子を押すだけのお仕事であったとしてもだ。
 それしかしなくていいのは、周囲の人間が優秀だからである。
 マリウスは説明を聞いて、頷いていればよい。
 一国の王は真面目にこなすと割に合わぬ激務とされるが、本人が優秀でなくてなおかつ臣下が優秀であればその限りではないと、マリウスが証明した。
 実のところマリウスが色々揶揄される最大の原因は、この実態があるからではという説がある。
 要するに各国の王達がマリウスを羨ましがり、彼に関する噂の流布を阻止していないのが原因だというのだ。

「一国の王って、そんな事出来るのかなぁ?」

 当の本人は懐疑的だった。
 「悪事千里を走る」とか「人の口に戸は立てられぬ」といったことわざが思い浮かぶ。
 本気でやれば不可能ではない権力を持っているかもしれないが、それをやるのはちょっともとい、かなり大人げない気がする。

「まあいいか」

 マリウスは気にしない事にした。
 いくら精神攻撃に耐性があると言っても、全く影響を受けない訳ではない。
 それにいつまでも悩んでいられない理由がある。

「マリウス、遊ぼうぜ」

 どこぞの魔王さんがこうしてやってくるのだから。

「毎日毎日飽きないのか、お前は」

「飽きる? 楽しい事があるのにどうして飽きる?」

 きょとんとした顔になる。
 こうした仕草だって絵になるのだから、美女というものは反則だとマリウスは思った。

(俺の周り、美女がいっぱいだけど)

 やっぱり一番はこのアウラニースだろうか。
 口に出したら反応が怖いので、言わないのだが。
 マリウスの沈黙をどう解釈したのか、魔王の目が据わり始める。

「おい、まさか、オレに飽きて約束を破ったりするつもりじゃないだろうな?」

 これ何も知らない人が聞けばただの痴話喧嘩だろうな。
 マリウスはそう思う。

「約束は守るさ。お前だって約束は守れよ」

「守っているぞ」

 アウラニースが胸を張ると、意外と豊かな部分が揺れた。
 目の保養だと思ってしまうのが男の悲しさ、そして愚かさであろう。
 マリウスは意識して目をそらしながら、彼女の勘違いを指摘する。

「いや、皆を鍛えるという点が実行されていない」

「む」

 アウラニースは顔をしかめた。

「だってあいつら弱いんだぞ! あのままじゃ、オレには勝てないぞ」

 そして不満そうに言う。

「お前を基準にして考えるのをまず止めろ」

 とりあえずつっこんでおく。

「むう」

 アウラニースは拗ねて何かを蹴り飛ばす仕草を始めた。

「拗ねるな」

「ぬう」

 舌打ちする。
 前途多難なのだが、第三者から見れば恋人同士がいちゃついているようにしか見えないと言う。

(それが一番理不尽な気がする)

 アウラニースの手綱を握り続けるのは、決して容易ではない。
 それを理解してくれるのは、アイリスとソフィアくらいで、少しずつではあるが彼女達と仲よくなれている気がする。

「ま、まさかあの二人にも手を出すつもりでは?」

 バーラとゾフィに悲鳴を上げられたが。
 ロヴィーサはちょっと温度の低い視線を送ってくる事で抗議を示したが。
 アルとエル、侍女達は無関心を決め込んでいたのだが。

「俺は性豪じゃない」

 マリウスはきっぱり否定した。

「……え?」

「はぁ?」

 女性陣は、心底おかしいものを見る目でマリウスの顔を見た。
 マリウスは絶望した。
 後でエルが寄ってきて、

「ご主人様、あの二人には手を出さないんですか? 同じ相手に振り回されているから共感して仲よくなろう計画は破棄した方がいいですか?」

 と尋ねてきたのである。

「お前の画策かっ!」

 マリウスは恐怖した。
 でもせっかく仲よくなれたので、と現状維持の命令を出す。
 このあたりが性帝などと呼ばれる原因だったりするのだが、マリウスはいまいち自覚していない。
 エルのせいで自覚を持てていない事に誰も気が付いていなかった。
 結局、この日のマリウスはアウラニースといっぱい遊ぶ事になる。



 全ての元凶たるエルは「自覚なさるとご寵愛がいただけないし、別にご主人様に害がある訳でもないし……」と考えていた。
 複数の女性をまとめて満足させられるのは、男として自慢していい事のはずだ。
 これはエルが淫魔だから思う事ではない。
 彼女はきちんと世の男の反応について調べてあった。
 結果、ほとんどの男はマリウスを妬み、羨ましがっているだけだと判明したのである。
 悪評になるならばやめねばならないが、嫉妬や憧憬によるものならば勲章になるだろうと見ている。
 そして女達の反応もついでに調べた。
 「英雄は色を好むって言うし」「マリウス様の子なら強いだろうし」と諦め半分ながら、肯定的な意見が多かった事が、エルの後押しをする。
 さすがに世の女性に嫌われた輩を英雄とは呼べない。
 もし、嫌われていれば何らかの策を講じねばならなかったところだ。
 余談だが、マリウスに関する世評について、エルは一切加担していない。
 する必要を感じなかったのだ。
 マリウスはかなり本気で嫌がっている事は承知しているが、絶対とも言える力に恐怖されるよりはずっといいだろうと判断しての事である。
 そんなエルは今日も見回りに行った。
 彼女の役目はモンスター達と人類が上手くやっているか、定期的に巡回して確認する事である。
 そのついでにマリウスへの反応を調べたりしていた。
 今日出向くところはホルディアである。
 この国には例の狂人女王が存在するので、それに対抗出来そうという理由でエルが選ばれたのだ。
 後はアウラニースやエマくらいだろうが、諸事情で見送られている。

「あ、エル様だ」

 一人のモンスターが彼女を見つけ、寄ってきた。
 淫魔らしく男の本能を刺激する巨乳美少女であるエルだったが、「ご主人様一筋」を公言しているので口説くモンスターはいない。
 少なくとも今のところは。
 今のところ、というのはエルの気が変われば浮気相手は選び放題という意味である。

(そんな日、永遠に来ないわよ)

 エルはそう断言する自信はあるが、口にはしない。
 男どもに夢を見させてやるのも女性淫魔の仕事だから。
 もっとも、マリウスの悪口を言ったり害になる行為をする輩には、たっぷりと地獄を見せてやろう。
 そう暗い闘志を燃やしたりもするが、顔には出さない。

「何か変わった事ある?」

「ないよー」

 あっという間に人だかりならぬ魔だかりが出来上がる。
 エルが慕われているという展開を知り、マリウスも初めは絶句したものだ。
 もっとも、一番付き合いが長いゾフィとアルは「さすがだ」と何故か冷や汗を流したりしていて、新しい謎を呼んだのだが。

「ちゃんと人間と仲よくしている?」

「うん、何かね、人間の犯罪ってのをやらない限り、この国の民として認めるって王様が言っていたよ」

「アステリアが?」

 エルは目を見張って訊き返す。
 これを演技だと見抜けた者は、少なくともこの場にはいなかった。

「そうだよ」

 エルに話しかけられた、子鬼は嬉しそうに色々と喋ってくれる。
 いい情報源と言えるだろう。
 礼を言ってエルは翼をはためかせる。
 次は人間達の言い分を聞かなくてはならない。
 異なる種族の共存だとどうしても問題は出る。

「どう? モンスター達、悪さしていない?」

「お、エルちゃん」

 人間達もごく普通にエルを迎え入れた。
 若い男などは鼻の下を伸ばしているが、エルの露出の多さを考えれば無理からぬ事である。
 それだけだと女性、特にうら若き乙女達の反感を買ってしまう。

「知っている? 男の気を引く方法、こんな手もあるのよ」

 そこでエルはせっせと色恋沙汰に関する助言をしてやった。
 その的中率が神がかりだという事もあり、エルは淫魔としては例外的に同性人気も高い。
 今日は幼馴染に思いを寄せる純情な少女だった。

「皆はわざと他の男と仲良くして嫉妬させたらって言うんですけど……」

 エルは脳内から情報を引き出し、静かに首を横に振る。

「だめね。純情で真面目な彼にそんな場面を見せたら、お幸せにって泣きダッシュされて、かえってこじれると思うわよ」

「そ、そんな? じゃあどうすれば……?」

 オロオロする少女にエルは「手紙を書いてみなさい」と助言をした。

「手紙ですか?」

「そうよ。あなたの彼への想いをつづるのよ。まず、自分の気持ちを確認する為にね」

「な、なるほど」

 少女は頑張って手紙を書き上げ、エルに見せる。

「名前が書いていないわよ?」

「え?」

 訳が分からずきょとんする少女。

「名前を書きなさい。彼への想いが恥ずかしくないなら」

「は、恥ずかしくはないですけど」

 伝えるのが恥ずかしいのであって、想っている事自体は恥どころか誇りですらある。
 そう言い切った少女は己の名前を書く。

「これでどうですか?」

「ちょっと貸して」

 エルは手紙を受け取ると飛び上がり、たまたま通りかかった少女の想い人の側まで移動し、

「あ、手が滑った」

 と手紙を少年に渡した。
 「な、な、何をしているんですか」という叫び声を無視し、

「でもあなた宛だからいいか」

 と言い、読むようにすすめる。
 少年は相手がエルなので怒るわけにも無視するわけにもいかず、ためらいながらも手紙を読んだ。
 少女が顔を真っ赤にして目に涙を浮かべて、必死で駆け寄ってくる。

「ごめん、手が滑った」

「思いっきり手渡ししていたじゃないですかっ!」

「走った直後に叫べるなんてすごいね」

「ごまかさないで下さい!」

 エルは少女の追及をひらりとかわして、軽く背を押す。

「ちょっ」

「て、手紙読んだよ」

 抗議しようとした少女に、手紙を読み終えた少年が話しかける。

「え、えっとね、その、あのね」

「お、俺でいいのか?」

「え?」

 ぎこちない空気が流れる。
 エルは上手くいったのを確信して離れた。
 かくしてエルは人気取りに成功している。
 だから「私はマリウス様に言われた通りにしているだけ」と付け加える事を忘れない。
 真に偉大なのは主人であるとアピールしているのである。
 もっとも、それ故に人魔共存が上手くいかないとマリウスの汚点になりかねない。

(そんな真似、絶対にさせないもんね)

 いざとなったら汚名はアステリアに着せてやる。
 その為の人気取りだったし、アステリアの思惑を見抜けないフリをしたりしてもいた。
 ほとんどのホルディアの者達にとってエルは、親しみやすい淫魔でしかないだろう。
 実は腹黒策士であるなど、想像していないに違いない。
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