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ネクストライフ 作者:相野仁

おまけ・番外編

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頑張れスライム

今回はスピンオフ的なもの
 僕に名前はない。
 お父さんとお母さんもいない。
 友達もいない。
 僕はひとりで生まれた池の側にいる。
 友達はいたんだけど、ゴブリンにいじめられて殺されちゃった。
 ゴブリンって魔法を使える奴がいるんだよね。
 ぶるぶる、怖いよう。
 僕らスライムは打撃には強いけど、魔法には弱いんだ。
 ゴブリンのくせに魔法を使うなんて反則だよ。
 僕はゴブリン達の目を盗み、こそこそと移動して虫を捕食する。
 ゴブリンが怖いから、リスとかウサギとか、美味しいご飯を食べられないよ。
 誰かゴブリンをやっつけてくれないかな。
 僕がバッタを捕食しながらそう願っていると、足音のようなものが聞こえてきた。
 ゴブリンかもしれない。
 急いで隠れなきゃ。
 僕は草陰に身をひそめる。
 どきどき、誰が来るんだろう。
 息を殺して待っていると、ゴブリンが一匹現れた。
 あ、あいつはゴブリンメイジだ。
 ゴブリンのくせに魔法が使える、反則存在だ。
 こ、こっちに気づくなよ。
 は、早く行っちゃってくれ。
 ど、どうしてこっちを見ているんだ?
 そしてどうしてこっちに来るんだよ!
 も、もしかして僕に気づいている?
 え? うそ? 何で? 見つかったの?
 ゴブリンメイジは僕が隠れている草陰までやってきて、ニタニタと笑いながら、手にした杖で草をよける。
 そして僕と目が合ってしまう。
 う、うわあ、助けて!
 僕は必死に転がって逃げる。

「【ファイア】」

 そんな僕に魔法を使ってきた!
 火の玉が飛んできて僕の体に命中する。
 熱い、痛い、熱い、熱い、痛い、痛い。
 僕は必死に転がり続け、何とか池の中に逃げ込む。
 冷たくて傷が痛いけど、安心感の方が大きかった。
 ゴブリンメイジの魔法がすごくても、さすがに池の中までは届かない。
 そう佇んでいるとゴブリンメイジが、池の中を覗き込んでいるのが見えた。
 な、何だよ、あっち行ってくれよ。
 それともまだ何かするつもりなのか?
 僕がどきどきしながら見ていると、ゴブリンメイジは池に石を投げ込んできた!
 焦ったけど、僕の体は流動するから、石くらいじゃ平気だ。
 じっとしているとやがて諦めたのか、行ってしまった。
 よかった、助かった。
 しばらくは池の中でじっとしていよう。
 もしかしたら、行ったふりをして隠れているのかもしれないし。

 しばらく時間が経って、池の外に出てみる。
 あたりをキョロキョロ見回すけど、何もいないようだ。
 どっかに行ってくれたのかな?
 僕はホッとして池から離れる。
 落ち着いたら何だかお腹が減って来たな。
 バッタかカエルか捕まえて食べよう。

「【ファイア】」

 突然そんな声が聞こえて、僕の体に火の玉が当たる。
 痛い、そして熱い。
 びっくりして振り向くと、さっきのゴブリンメイジがニタニタしてこっちにやってくる。
 しまった、諦めてなんかいなかったんだ。
 池はゴブリンメイジの向こうにあるし……ど、どうしよう?
 そこまで考えて、火の玉をぶつけられた部分がさっきより痛くない事に気が付いた。
 どうしてなんだろう?
 驚かすのが目的で、手加減していたんだろうか?
 いずれにせよこれはチャンスだ。
 これくらいなら、何とか逃げられるかもしれない。
 僕は必死に転がって逃げる。
 円を描くように回り込み、何とか池の中へ。

「【ファイア】」

 また火の玉が飛んでくるけど、今度は外れた。
 よかった、そこまですごい命中率じゃないみたいだ。
 そりゃそうだよね。
 僕は必死で逃げてるんだし、そんなにポンポン当てられたらたまらない。

「【ファイア】」

 三度飛んできて、今度は命中した。
 痛い痛い痛い。
 それでも前ほどじゃなかった。
 当てやすさを重視したんだろうか?
 考えても分からない。
 だから必死で逃げる。

「【ファイア】」

 四度目が飛んでくるけど、また外れてくれた。
 このまま外してくれると池に入れる。
 そう思って、死にもの狂いで転がる。
 そして、何とか池の中に飛び込んだ。
 結局五発目は来なかったな。
 もしかして魔力切れってやつだろうか?
 よく分からないけど、痛いのはもうごめんだ。
 限界まで大人しくしていよう。
 僕はスライムなので、その気になれば一日くらいは池の中にいる事は出来る。
 ご飯は水草か、魚にしよう。
 虫の方が好きなんだけど、贅沢は言っていられない。
 死にたくないしね。
 僕はじっとしている事にする。
 お腹がすいたら底を転がって移動し、草や魚を食べに行く。
 この池には大物はいないけど、僕は大食漢じゃないから平気だ。
 でも、あたりが暗くなって、また明るくなってくるとさすがに辛くなってくる。
 ゴブリンメイジはもう諦めてくれただろうか?
 僕なんかをいつまでも追いかけ回しているはずがないとは思うんだけど、痛い目にあったばかりだから、油断は出来ない。
 とは言え、ちょっとくらいは余裕を持っておいた方がいいだろう。
 また池への道を塞がれるかもしれないし。
 意を決して浮かび上がり、池の外に出てみる。
 周囲を見回すけど、何もいない。
 けど、前もそうだったのに攻撃された。
 たぶん、僕じゃ見つけられないように隠れていたんだろう。
 まだいるのかな?
 そう疑問が沸いてきて、移動をためらわせる。
 前は池から離れたところを攻撃されたから、ひょっとするとここを動かなかったら安全かも?
 そう思ってしばらくじっとしていたら、がさがさと物音がする。
 すぐにでも池に逃げ込むつもりで振り返ったら、やっぱりゴブリンメイジがいた。
 いくら何でもしつこすぎるんじゃないか?

「【ファイア】」

 僕が池に逃げ込むより早く、火の玉が飛んできて命中する。
 あれ? 大して痛くない?
 ど、どうしてだろう?
 びっくりしているとゴブリンメイジが苛立った様子で、

「【ファイア】」

 更に火の玉を飛ばしてくる。
 今度も当たったけど、やっぱり痛くなかった。
 あれえ? 何で痛くないんだろう?
 ゴブリンメイジも何やら驚いている。
 今のうちに逃げよう。
 僕はまたもや池に飛び込んだ。
 ゴブリン相手なら、ここが一番安全なのさ。
 そう思った時期もありました。 
 ゴブリンメイジは何と仲間を引き連れ、池に石をどんどん投げこんできたのだ。
 水は濁りまくるし、石に当たった魚は怪我するし、僕は怒って池の外に出る。
 いい加減にしろよ! 池がめちゃくちゃになるだろ!
 と言いたかったのだけど、寄ってたかって殴られる。
 僕に棒や剣での攻撃は通用しないのだけど、不愉快には違いない。
 仕方がないので転がって脱出する。
 するとゴブリン達は追いかけてくる。
 追いかけっこの始まりだった。
 必死に転がり続けても、ゴブリン達はしつこく追ってくる。
 さすがにへとへとで、諦めかけた時、何かすごい音がした。
 僕は驚いたし、怖かったけど、もしかしたらゴブリン達から逃げられるかもしれないと期待し、音がした方に近寄ってみる。
 何があったのか、地面が大きくへこんでいて、砂煙が起こっていた。
 それが立ち消えると三人の女の人らしき姿が見えてくる。
 何かすごく嫌な予感がする……真ん中の人は特に。
 その人は何もしていないのに体の震えが止まらない。
 な、何なんだろう、この人。
 他にも二人、女の人がいて、この人達もやばい気配をまとっている。
 ど、どうして? どうしてこんな人達がこんなところに?

「ほう、オレ達の力に気が付いたか? ポテンシャルは相当なようだな」

 真ん中の目が紫の人が、何故か感心した風に言う。
 僕を追いかけてきたゴブリン達が、一斉にその人達に向かっていく。
 え? 嘘だろ? 何で攻撃するの? 殺されちゃうよ。
 びっくりして見ていると、紫の目の人が腕を軽く動かす。
 凄い音と風が起こって木々がなぎ倒される。
 ゴブリン達は影も形もなくなっていた。
 も、もしかして今の一撃で消し飛ばしちゃったの……?
 そ、そんな馬鹿な。
 僕は目の前で起こった事が信じられない。
 ほんの一瞬で、森は崩壊してしまっている。
 こ、この人、一体何者なんだろう?

「ふん」

 とんでもない事をしたはずなのに、散歩するような態度でこっちに近づいてくる。
 ど、どうして僕の方に来るの?
 ぼ、僕は美味しくないよ!

「む? 確かにスライムはイマイチ美味くなかったな……」

 女の人は恐ろしい事を言いだす。
 た、食べた事があるの?
 もしかしてスライムを食べるモンスター?
 というか、僕が考えている事が分かるの?

「いや、ただの勘だ」

 絶対ただの勘じゃないよね!
 に、逃げなきゃ……で、でも逃げた瞬間さっきの攻撃が来る気がする。
 何が起こったか分からない速さで、ゴブリン達を消し飛ばした攻撃が。
 あ、あんなの避けられっこない。
 ぼ、僕はここまでなんだな。
 覚悟を決めると、女の人はまた感心した風な顔になった。

「ほう、逃げずに覚悟を決めたか? なかなか見どころがある奴じゃないか」

 あ、あれれ? もしかして僕、気に入られた?
 だ、だとすると助かっちゃう……?
 殺されるよりは助かった方が嬉しいんですけど?

「ああ、元々オレはモンスターを殺す気はないぞ?」

 え? いや、さっきゴブリンを消し飛ばしたじゃないですか?
 原型とどめているゴブリンが一匹もいないんですけど?

「あれは埃を払っただけだ」

 あくまでも淡々としていて、だからこそ僕は震えあがった。
 この人をうっかり怒らせちゃうと「汚れを落とす」作業で、消し飛ばされちゃう。

「そう怯えるな。お前は気に入った。とりあえずオレの部下にしてやる」

 ぶ、部下ですか? 僕ってどんなお役に立てるのでしょう?

「お前、ゴブリンメイジの魔法に耐えていただろう? ただのスライムにそんな事が出来るはずがないな。つまり、見込みがあるわけだ」

 よくわかりません。
 確かに段々魔法攻撃が痛くなくなったけど、あれってゴブリンが手加減していただけなんじゃ?

「ほう? ひょっとするとお前、ラーニングスキルでも持っているのか? だとしたら掘り出し物かもしれんな」

 ら、らーにんぐ? よくわからないけど、とても嬉しそうに笑っている。
 何だろう、とんでもなく嫌な予感がするんですけど。

「とりあえず、オレを退屈させるな。そして失望させるな。以上だ」

 ええー。
 ど、どうすればいいのか分からないよ?

「オレはな、強くなりそうなモンスターを探しているんだ。強く育てる為にな。頑張って強くなれ」

 は、はい。
 穏やかな口調に表現出来ないすごみを感じ、僕は必死になって頷いていた。
 スライムの頷きを分かってもらえるか不安だったけど、どうやら「勘」とやらで分かってくれたらしい。

「オレはアウラニース。魔王アウラニースだ」

 ま、魔王?
 確か、僕らモンスターの上位の、魔人の王様?
 強いわけだ。
 ゴブリンくらいじゃ相手にならないの納得しまくりだよ。

「お前の名は?」

 そう聞かれて僕は困った。
 僕に名前なんてないのだ。

「名前がないのか? ではオレがつけてやる」

 嫌とは言えない流れです。
 カッコいい名前を、とは言わないけど、せめて恥ずかしくない名前をお願いしたいです。

「そうだな……デカラビアというのはどうだ? 強そうだろう?」

 えっと、たぶん?
 よく分からないけど、変な名前じゃないっぽいので受け取る。

「お前の名前はデカラビアだ。せいぜい魔王に成り上がって、オレを楽しませろよ」

 は、はい。
 楽しませないと消し飛ばされそうだし。
 どこまで強くなれるか分からないけど、僕頑張るよ。

「そうだな、楽しませてもらわんとうっかり踏み潰してしまうかもしれんな」

 あわわわ、この人、理不尽だよう。
 自分から部下に誘っておいて。

「あ、こいつらはアイリスとソフィアな。オレの部下だ。仲よくしろよ? お前じゃ一秒ももたないだろうからな」

 言われてなくても気が付いています。
 たぶん、この人達も魔王なんじゃないかなーって。
 魔王にも上下関係があったりするのだろうか?
 かくして僕、デカラビアは魔王アウラニース様の部下になったのだった。
 ちゃんと強くなれますように。
 そして、どうか殺されませんように。

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