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ネクストライフ 作者:相野仁

八章「カタストロフ」

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四話「次へ」

 ティンダロスより魔と海と月は生まれた。
 ティンダロスは破壊をまき、絶望をすする邪悪なる神。
 何者もかの者を呼び覚ます事なかれ。
 邪神がこの世に再臨する時、世界は闇で閉ざされ、全ての生命は終焉の時を迎える。

「というわけだ」

 アステリアが読み上げたのは、ティンダロスの伝承を記した書物だ。
 聴衆の一人、イザベラが勢いよく手を挙げる。

「はい! でも、アウラニースが味方になって、他の魔王や魔人が壊滅状態になったのだから、邪神は復活出来ないのではないでしょうか?」

 幼友達の言葉に、女王は頷いた。

「そうだな。私の取り越し苦労であればいいのだが……」

「備えがあれば憂いなし、ですね」

 バネッサが言うとミレーユも賛成する。

「アウラニースより強い邪神とか、永遠に復活してほしくないです」

 イザベラやアネットも異論はなかった。
 彼女達は魔王の死こそが、ティンダロス復活の条件である事を知らない。
 だから復活の確率は低いと思っている。
 アステリアの「演算」がいくら優秀でも、知らない事は計算しようがないのだ。

「まあ、焼け石に水程度の手なら打ってあるが……」

 アステリアの独り言をイザベラが耳ざとく聞きとがめる。

「え? また、何かしていたの、ですか?」

 素の口調になりかけ、ぎりぎりで敬語にする。
 ただ、それを指摘する者はこの場にはいない。
 全員が「また一人で何かしていたのか」という発言に賛成だったからだ。

「そう言えば」

 宰相がぽつりと言う。

「何でも船の建造を進めているとか」

 皆の視線が一斉に女王に集まる。

「いや、今回はただの布石」

 アステリアはしれっと答えて煙に巻こうと試みた。
 全員が「説明しろ」と目で圧力をかけるが、そんなものに痛痒を感じるほど可愛げがある女ではない。

(知らない方がお前達の為である、な)

 一瞬だけ優しい表情になり、イザベラだけがそれに気がついて「こいつ、また一人で全部背負い込む気か」的な表情になる。
 アステリアはそれに気がついたが、知らぬフリを決め込む。

「ま、そろそろマリウスから、何か言ってくるだろうさ」

「え? マリウス領主から?」

「うむ」

 マリウスの名を使って皆の意識を逸らしたアステリアは、紅茶を飲みほして指示を出し始めた。




 強くなりたい。
 マリウスはそう思うようになった。
 聖人になったからと言って、アウラニースを倒せるかは分からない。
 そして復活するかもしれないティンダロスもいる。
 何だかんだでアウラニース達と戦う事を承知したのは、根底にそういう思いがあるからだ。
 アウラニース達がティンダロス戦で役に立つかは分からない。 
 奥の手を使うと「グレイプニル」を破壊してしまう以上、基礎的な力を底上げするしかない、とマリウスは考えた。
 元の世界でも何かにつけて「基本は大切」と聞かされたからである。
 チートな状態でこの世界に来たマリウスは、基本が出来ているとは到底言えない。
 アウラニースのしごきなどを参考にし、少しずつでも基礎能力を鍛えていくつもりだ。
 この世界に来た頃では到底考えられない熱心さで修行するが、別に意外ではない。
 昔とは違い、今のマリウスには守りたい人がいて、守りたい場所がある。

(本音を言うと、アレの確認もしておきたいんだけどな)

 マリウスが思い浮かべたのは仕様外の魔法だ。
 正しくは魔法ではなく、バグ技と言うべきだろうか。
 禁呪を発動直前のタイミングでキャンセルし、別の系統の禁呪をまた発動直前にキャンセルする。
 これを五度繰り返してから六度目で放つと、キャンセルした五回分の威力が「かけ算」となって計上されるのだ。
 ちなみにこれがアウラニース戦で使われた事はない。
 溜め時間が長すぎて、アウラニースには潰されてしまうというのが一つ。
 「レッキング」はそういったバク的効果さえも打ち消せるのが、二つめの理由だ。
 禁呪の合成があの威力だとすると、単純計算で更に三倍にはなるバグ技など、使う場面が想像出来ない。
 多分、世界が滅ぶよりはマシといった事態にならない限り、出番は来ないあろう。
 単純に力を底上げるするならば、不確実だが一つある。
 滅魔の黒杖を完成させるのだ。
 「バランスブレーカー・オブ・バランスブレーカー」があれば、神とでも戦えるだろう。
 道具頼みなのは本意ではないが、人の命が懸かりかねない事態に格好をつけている場合ではない。
 魔王の心臓、魂、牙、爪の四つに、錬金用の媒介、杖を作る為の素材も必要になるはずだ。

(えーと、確か神霊の錬成液、煌めく星屑だったか)

 やり込んでいただけに、これくらいならばすぐに出てくる。
 過去の自分がそんなに立派な人間だったとは思わないが、こういう事態では少しだけ感謝だ。
 後は普通の杖も必要のはずである。
 マリウスが持っているのは、魔王の心臓と魂の二つ。
 いずれもドロップ率が低かったアイテムだ。
 最大の問題は、牙や爪をドロップする魔王が生き残っているのか、という点である。
 牙や爪がない種類の魔王がドロップする事はない。
 変なところでつじつま合わせを怠らなかった運営スタッフである。
 こちらの世界も同様でない事を祈りたいものだが。

(いや、待て。アウラニースが、ソフィアあたりが拾っているかも?)

 アウラニースはともかく、ソフィアやアイリスならばあるいは。
 一抹の望みを抱いて会いに行く。
 アウラニース達を見つけるのは、大して苦労はない。
 気配を隠していないからである。

「おーい、アウラニース」

 遠くから不安そうな視線を浴びせられつつ、のん気に日光浴を楽しんでいたアウラニースは、マリウスに呼びかけられて嬉しそうな顔をした。

「お。オレを探すなんて珍しい? 戦う気になったか?」

「いいや。別の用事」

 思い違いを迅速に否定する。
 でないと「グレイプニル」を展開されかねない。

「何だよー。何の用だよ」

 若干ふてくされてしまった魔王に、マリウスは質問する。

「なあ。魔王の牙か爪か持っていないか?」

 その一言で、アウラニース達三人はお互いの顔を見合わせた。

「そんなものどうするんだ?」

 アウラニースが代表して訊いてきたので、マリウスは事情を話す。

「というわけで、ほしい武器を作るのに必要なんだよ」

 事情を知った魔王の歯切れはよくなかった。

「うーん。お前が強くなるなら協力してやるけど、そんなものあったかなぁ」

「一度拾った時、アウラニース様が召し上がっていましたが」

 ソフィアが冷静な声でそんな事を言う。

「はぁ?」

 マリウスは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

「アウラニース、爪なんて食うの?」

 そして変な目で見てしまう。
 アウラニースは顔を真っ赤にした。

「おいコラ、ソフィア。いい加減な事を言うな。オレがいつ、爪なんてものを食ったんだ?」

「いい加減?」

 怒鳴りつけられたソフィアは、マリウスから見て不気味なまでに冷静な態度で、首をかしげる。

「私が、いい加減なのですか?」

「あ、いや」

 アウラニースは一瞬で鎮静化してしまう。
 アウラニースとソフィア、どちらがいい加減なのか、本人にも自覚はあったようである。
 ただ、本当に覚えていなかった。

「美味かったら覚えているはずだが」

「つまり不味かったんだな」

 首をひねったアウラニースに代わり、マリウスが結論を出してやる。

「た、多分」

 自信なさげな答えが返ってきた。
 覚えていそうなヴァンパイアを見ると、彼女は頷いてみせる。

「ええ、すぐに吐いていましたね」

「つまり、そこに行けばまだ落ちているのか……?」

 マリウスの前に道が広がった気がする。

「ヒヒイロ鉱石を拾った時にそれらしきものはありませんでしたか? なければ塵へと帰ったのでしょう」

 その言葉で「気がしただけだったか」とマリウスは肩を落とす。
 あの大陸跡にあったのは、持ち帰ったヒヒイロ鉱石のみだ。
 海洋プレートくらいならば、まだ残っているかもしれないが。

「じゃあ魔王の牙と爪を探さないといけないな。まだ滅んでない魔王って、他にいたっけか?」

 マリウスが尋ねたのはソフィアである。
 アウラニースはどうせ把握していないだろうし、アイリスとソフィアならばソフィアだ、という判断だった。

「私が把握している限りではいませんね。ゾフィを鍛えるのが一番早いかもしれません」

「……そう言えば、ゾフィにも牙と爪はあるな」

 淫魔族だから。
 ならば事情を説明してがんがん鍛えるのが一番か、とマリウスは思う。
 幸か不幸か、ゾフィは夜に可愛がってやるだけでどんどん強くなる。

「おい、ちょっと待て」

 何故か不機嫌になったアウラニースが、ソフィアとマリウスの会話を止める。

「牙も爪もある魔王なら、ここにもいるだろう」

 そう言い放ち、アウラニースは本来の姿へと戻る。

「おい」

 マリウスは焦ったが、よくよく見れば「覇者の猛威」は発動していない。
 臨戦態勢ではないからだろうか。
 アウラニースは巨体を動かし、自身の牙と爪を折り、再び人型になる。

「どうだ、受け取れ」

 大きな牙と爪をマリウスに差し出す。
 マリウスが驚いてまじまじと顔を見つめると、アウラニースはやや頬を染め、目を逸らして言い訳した。

「か、勘違いするなよ。お前ともう一度戦う前に死なれない為だからな。お前に死んでほしくない訳じゃないからな」

「アウラニース様、それ自爆です」

 ソフィアが冷静に指摘すると、アウラニースは余計な事を言った部下を睨みつける。

「だ、ま、れ」

 その語気の荒さ、眼光の鋭さから、これ以上は命に関わると判断し、ソフィアはこくこく頷いた。
 そんな主従漫才を放置し、マリウスは鑑定魔法で確認をする。
 「大魔王の豪尖牙」と「大魔王の烈鋭爪」と出た。
 どちらも準ユニーク級と言っていいレベルの希少素材である。
 恐らく、本人が自身の意思で取ったせいもあるのだろう。
 マリウスはそう思い、自分を無理矢理納得させようとした。

「アウラニース、ありがとう」

 頭を下げて礼を言うと、アウラニースは驚いてどもる。

「お、おう。き、気にするな……?」

 動揺も露わな彼女への追撃は行わず、マリウスは今後について思いを馳せた。
 魔王の魂と心臓と比べてレア度が高いアイテムでは、滅魔の黒杖が生成出来るか不安だが、やってみるしかない。
 それよりも神霊の錬成液と煌めく星屑をどうするかだ。
 マリウスの知識通りならば、どちらもファーミア大陸に存在するはずである。
 ヒヒイロ鉱石の錬成が出来るというイザベラならば、何か情報を持っているだろうか。
 あまりホルディアを頼るのはよくない気はするのだが、アステリアをこき使う分には構わないとも思う。
 マリウスの敗北イコール人類滅亡の危機なのは事実だろうから、案外快く協力してくれるかもしれない。
 アステリア相手だと黒くなるマリウスだったが、まず自分達で先に探してみる事にする。
 何から何まで頼るには、相手が悪すぎると思ったからだ。
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