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ネクストライフ 作者:相野仁

八章「カタストロフ」

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一話「一応、領主マリウス」

 ターリアント大陸は幾度も魔人と魔王の攻撃に晒され、大きく人口を減らした。
 バルシャークとヴェスターが崩壊し、ミスラもその寸前であり、難民が発生している。
 それでも秩序を保っているのには大きな理由がある。
 「メリンダの再来」と謳われる、マリウスがいるからだ。
 魔王ザガン、デカラビアを滅ぼし、数百万の魔軍を撃滅し、最強の魔王アウラニースをも撃退した、生きた伝説である。
 そしてとうとう旧ベルガンダ地域を統治する領主になり、「トゥーバン自治領」領主マリウスを名乗っている。
 「国家」を名乗るには解決すべき点、整備すべき点が残っているので、ひとまず「自治領」を名乗る事にしたのだ。
 そんなマリウスの後ろ姿に人々は希望を見出していたし、ある壮年の男性はこう言う。

「悪い事ばかりじゃない。あんな人と同じ時代に生きているのは幸運さ」

 彼の息子は父親に同調して言った。

「きっと皆羨ましがるよね」

 誰もが似たような意見を持っていて、「マリウス様が住むターリアント人」と慎ましい誇りを抱いている。
 そういう訳だからトゥーバン自治領は特に人気で、マリウスが堪らず「移住者制限令」を出したくらいだった。
 人口が増えても食わせるのは難しい。
 自力で獲得出来る食料は多くなく、各国から輸入しようにも金と時間がかかる。
 転移魔法を導入出来れば時間という問題は解決出来るとマリウスは思うのだが、全員に反対されてしまい露と消えた。
 結局マリウスは領地の方向性を打ち出す、という仕事以外はしていないとも言える。

「俺は仕事する気はあるんだよ」

 マリウスは、アウラニース、ソフィア、アイリス、ゾフィ、アル、エル達に愚痴っていた。

「でも、生暖かい目でやんわり断られるんだよ」

「出来ない事をするなよ、あっはっは」

 朗らかにマリウスの主張を粉砕したのはアウラニースである。
 ゾフィ、アル、エルは同情的、あるいは慰めるような顔をしてくれているが、アウラニース達にはそんな義理はない。
 ソフィアとアイリスなど、どこか迷惑そうだ。

「仕事とやらをするなと言われるんじゃ、心おきなくオレと戦えるじゃないか?」

「ダメだ」

「ええー」

 マリウスに即答で拒絶され、アウラニースはふくれっ面をする。

「ま、た、か」

「戦う前にオリハルコンとヒヒイロ鉱石を探す約束だろう」

 不満げな魔王に、マリウスは例の事を指摘する。

「オレ、探しものは苦手なんだよなあ」

「……確かお前の方が乗り気だったはずなんだが」

 今更な事を言い出したアウラニースに、マリウスはめまいを覚える。
 そして部下達に「いつもこうなのか」と目で尋ねると、ソフィアが「その通りだ」と目で答えてきた。
 マリウスの前に脱力感という敵が現れたようである。
 がっくり肩を落とした時、アウラニースがゾフィを見た。

「お前、前に見た時よりちょっと強くなってないか?」

 このあたりの鋭敏さはさすがと言うべきなのだろう。

「私は淫魔だからな。ご主人様に愛を頂くほど強くなるのだ」

 ゾフィはアウラニース相手に目をそらさず、胸を張る。
 答えを聞いたアウラニースは、驚いてソフィアを見た。

「何? 淫魔ってそんなスキルがあったのか?」

「はい。ご存知ではなかったのですか?」

 ソフィアもアウラニースが知らない事を知らなかったらしい。
 信頼する部下の返答を聞いて、アウラニースは手を叩いて悔しがった。

「しまった! 淫魔達をむやみに殺すんじゃなかった!」

「いえ、抱かれる相手に依存するので、どうせ魔王級は生まれていなかったと思いますよ」

 ソフィアは冷静に指摘する。
 そういうものだと承知していたからこそ、暴れて淫魔達を殺し回った時、何も言わなかったのだ。

(常識的に見えても、アウラニースの部下なんだなあ)

 マリウスはソフィアの本性を垣間見て、やや失望してしまう。
 いい制止役になってくれそうだと思っていたのだが。
 嘆いていても仕方ないので、話を戻す。

「大変なのはヒヒイロ鉱石なんだよな。珍しいし、錬成方法が特殊すぎるし」

 マリウスがそう言うと、アウラニースが同意する。

「確かにな。オレも錬成されていないヒヒイロ鉱石を見た覚えはない」

 ところが、ソフィアが予想外の事を言い出した。

「何を仰るのやら。ヒヒイロ鉱石なら、サワーム大陸跡にあるはずです」

 マリウスは知らなかったが、かつてアウラニースに消滅させられた大陸の名である。

「え? そうなの?」

 誰よりも驚いたのが、アウラニース自身だった。

「はい。アウラニース様の攻撃で、原型をとどめていた小さな石のようなものがいくつかあったでしょう?」

 ソフィアの言葉にアウラニースとアイリスが首をかしげる。

「そんなもの、あったっけ?」

「私も覚えていません」

 ソフィアはため息をつくとマリウスの方を向いた。

「あなたなら、転移して持ち帰る事は可能でしょう」

「そうだな」

 ただ、今回のような場合、記憶を読む相手はソフィアにした方がいいだろう。
 「サイコメトリー」は本人が覚えていない事でも分かるが、探し出すのに時間がかかる。
 魔法への抵抗力がずば抜けて高いアウラニースに使うのは不向きだ。
 マリウスがそう言うと、ソフィアは二つ返事で了承してくれる。

「私も魔法抵抗力が低いとは言えないと思いますが」

 魔王級ならば魔法抵抗力が備わっているのは当たり前だし、そもそもヴァンパイア自体が魔法抵抗力の高い種族だ。
 使ってみると他の人間に比べ、一秒ほど余分に時間がかかる。

(さすが魔王だなあ)

 というのがマリウスの正直な感想だ。
 ソフィアが協力的だったからこの程度の時間ですんだのであり、敵対状態だったらならば、更なる時が必要だっただろう。
 マリウスが読み終えたタイミングを見計らい、アルが声をかけてくる。

「ご主人様、素朴な疑問なのですが、戦闘中に読心魔法はお使いになってないですよね。使った方が戦いは有利に運べると思うのですけど」

「その事か」

 実はゲーム時代でも検証されたのである。
 漫画や小説などでは、心を読める敵が非常に強力に描かれるケースが多いので、自分達も試してみようと思ったプレイヤーは結構多くいた。
 だが、ほどなくしてほとんど意味がないと証明される事になる。
 強い敵ほど連続攻撃が得意だったりするし、その手の魔法が効きにくい。
 わざわざ使うだけの価値は見出される事はなかった。
 そういうプレイをしたい者が、雑魚モンスター相手に使う程度だったのである。
 「演算」スキルと並んで無駄なものランキング上位に連ねていたのだ。
 とは言え、そんな事を言うわけにもいかない。
 言葉を選びながら説明する。

「魔王って魔法抵抗力高いし、連続攻撃しかけてくるし、脊髄反射とかで反撃してくるからな。その労力を攻撃、防御、回避に回した方が安全だし、効率もいいんだよ」

「そういうものですか」

 アルは納得したような、しきれなかったようなあやふやな表情をした。
 そこにアウラニースが話に入ってくる。

「オレならそんな魔法を使っている暇に、ジャガーノートとブリューナクのコンボを叩き込めるな」

「だ、そうだ」

「は、はあ」

 アウラニースが言うと説得力が違い、アルは頷いてしまった。 
 それ以上の質問はなかったので、マリウスはアウラニースを連れて転移魔法でサワーム大陸跡へ移動する。
 大海原の上にぽつんと黒い塊のようなものが、高い空から見えた。

(あれがヒヒイロ鉱石か)

 ヒヒイロ鉱石は錬成すると緋色になるが、錬成前は黒ずんでいて、薄汚い石にしか見えない。
 念の為、鑑定魔法「アプレーザル」で確認しておく。
 本物だと分かったのでゆっくりと高度を下げる。
 ヒヒイロ鉱石が手付かずで残っているのは、周囲の海に激しい渦潮がいくつもあり、船ではたどり着けないからだそうだ。
 大陸と大陸の間を移動する力を持つ者は限られているし、その中でヒヒイロ鉱石に関する知識を持つ者はいなかったのではないか、というのがソフィアの推測である。
 通常の魔法は跳ね返されてしまう為、持ち運ぶのは大変だろうと予想されるが、だからこそアウラニースを連れてきたのだ。

「じゃあ頼むわ」

 マリウスの言葉に頷き、アウラニースは海面すれすれまで高度を下げ、黒い石の塊を持ち上げようと試みる。
 アウラニースの腕力ならば、足が地面についてないのは大してハンデにならない。
 マリウスはそう思っていたし、アウラニース自身も同感だったのだが、目的のものは彼女が力を込めなくても簡単に持ち上げる事が出来た。

「あれ? マリウス、簡単に持てたぞ?」

「あれ?」

 マリウスが調べてみると、単にヒヒイロ鉱石は岩盤の上に乗っていたらしい。
 それなのにも関わらず、波にさらわれなかったところを見ると、恐らくアウラニースの腕力が凄いのだろう。
 マリウスは少なくとも海の上で試してみる気にはなれなかった。
 もしかしたら「重さ」も放置されていた理由かもしれない、とは思ったが。
 そしてアウラニースの攻撃は海洋プレートまでは壊せないのか、とも。

「とりあえず戻ろう」

「おう!」

 戻った後、アウラニースは無造作に床の上に置く。
 二人に気づいたゾフィが、マリウスの側に寄ってくる。

「ご主人様。今、キャサリンなる者が目通りを願い出ていると報せがありましたが」

「キャサリン王女が?」

 ボルトナーの幼いお姫様が何の用か、と思いつつ会ってみる事にした。

 愛らしい少女は小さな花束を抱えてマリウスの前に現れる。

「遅ればせながら、新居完成おめでとうございます」

「これはどうもご丁寧に」

 本来、もっと堅苦しい儀礼をすべきなのだが、マリウスには難しい。
 キャサリンはと言うと、何だかんだ王族だけあって一通り出来るし、それでマリウスをへこませた事もある。
 形式的なやりとりが終わった後、キャサリンはおどおどとしながらアウラニースをチラリと見て、マリウスに助けを求めるような顔を向けた。

「あ、あの。あの方は、も、もしかしてアウラニースでしょうか?」

「ええ。そうです」

 マリウスはどこか疲れたように肯定する。
 アウラニースは、無遠慮かつ興味深げにキャサリンの全身をじろじろと見て、彼女を居心地の悪い気分にさせていた。 
 そして口を開く。

「お前、今まで見た中で、一番見どころがありそうだな」

「ふえ?」

 何を言われたのか、キャサリンはさっぱり理解出来ず、首をかしげる。
 理解出来た他の者は呆れ顔をしただけだったが、マリウスは立場上、制止しなくてはならない。

「自重しろよ。キャサリン殿下は無関係なんだから」

「何のお話でしょうか?」

 アウラニースが口を開くよりも早く、キャサリンはマリウスに問いかけた。
 当事者を放置するわけにもいかず、マリウスは答える。

「いや、こいつはどうも強い存在が大好きでして。今は弱くても鍛えればいいとか言い出しているんですよ」

「えっと、アウラニースから見て、私は強くなれるって事でしょうか?」

「その通り!」

 アウラニースが割って入ってくる。

「筋肉のつき方、足の運び方、無駄が少なくてよろしい。魔力の方も少ないながら質はよさげで、これもまたよろしい」

 褒められたキャサリンは戸惑っていたが、やがてコクリと頷いた。

「あの、私、マリウス様をお守り出来るくらい、強くなれますか?」

「ちょっと、キャサリン殿下?」

 困惑するマリウスをアウラニースは無視して答える。

「まあ、マリウスと同程度は無理だろうな。ただ、魔王と戦うのに足手まといにならない程度にはなれそうだぞ」

「ほ、本当ですか!」

 キャサリンは太陽な笑顔になり、マリウスを焦らせた。

「キャサリン殿下、さすがにそれはちょっと」

 ボルトナーの事だから、事後承諾でも問題ないかもしれないが、やはり独断はまずいだろう。
 マリウスが一人で頑張って制止しようと試みようとした時、扉を開いてバーラが現れた。

「アウラニースさん、私はどうですか? 強くなれますか?」

「おう、お前は英雄の一歩手前くらいの領域にいるじゃないか。まだ伸びシロもありそうだし」

「じゃあ、私もお願いします」

「ちょっと待てコラ、バーラ!?」

 妻相手だけに遠慮が消えたマリウスの言葉に、バーラは切ない顔を見せる。

「だって、あなたにだけ戦わせて、安全なところから無事を祈っているだけだなんて嫌なんだもの」

 そして絶句して硬直する夫の手を握った。

「あなたと肩を並べて戦う、なんて言うつもりはないのだけど、負担を軽くしてあげたい、と思っているの」

 心なしか目が潤んできている。

「ねえ、だめかしら? あなたの手助けしたい、という気持ちは迷惑かしら?」

 何も言えないマリウスにアウラニースは笑いかけた。

「お前の負けだな、マリウス」

 マリウスはがっくりと肩を落としたが、恨めしげに沈黙を貫いているエルを見る。

「エル、お前助けろよ」

 こういう時に輝くはずの召喚獣は、しれっとして答えた。

「ご主人様の負担が減る事は賛成です」

「まず俺の心労を減らす努力をしてくれないか?」

 マリウスがややムキになったのに対し、エルはどこまでもクールに言う。

「一時的な心労と長い目で見た負担。減らすならどっちがいいですか?」

「……後者でお願いします」

 マリウスはついに降参した。
 二択しかない点は文句を言えない。
 エルは性格上、他に選択肢がある場合は、それをきちんと示してくれるという事は、マリウスも承知しているのだ。

「えっと、つまり、私とバーラ様を一緒に鍛えていただけるのですね?」

「ええ。その前にボルトナー王の許可を得なければいけません。そして、ヒヒイロ鉱石を錬成出来る人を探す事も」

 魔王を倒すだけの方がずっと楽だった、と思うのは贅沢なのだろうか。
 かなり真剣に思い悩む自治領領主がいた。

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