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ネクストライフ 作者:相野仁

七章「黄昏ゆく世界」

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エピローグ「破滅への道」

「か、勝った……」

 マリウスは荒くなった息を整え、グラスに入った水を飲む。
 エマが気を利かせてくれたのだが、すっかりぬるくなってしまっている。
 外からは鳥のさえずりが聞こえてきて、時間の経過が分かった。
 ベッドの上にはバーラ、ロヴィーサ、ゾフィ、アル、エル、アウラニースがダウンしていて、つい先ほど最後の一人を沈めたところである。
 最強の魔王は、ベッドでも最強クラスだった。

(初めてって言うから優しくしようとしたのが間違いだったな)

 戸惑っていたのは最初だけで、あっという間に慣れてしまった。
 そこまでならばまだしも、それからすぐゾフィとエルを沈められてしまったのが痛かった、とマリウスは振り返る。
 アウラニースにしてみれば、最初に強敵を倒しておいたのだろうが。
 腰が痛く、全身がだるいので回復魔法を使っておく。
 まさか夜に回復魔法が必要になるとは思わなかったマリウスであった。







 邪神ティンダロスの名を知らない人間は少ない。
 二極の負の部分を司り、正を司るナイアーラトテッフと戦い、そして相討ちとなった。
 彼らの力のかけらが世界に散らばり、それらが生命となったという神話がある。

「だが、ティンダロス様は実在する……」

 一人の老人が重々しく言うと、他の者達も頷く。
 ここはファーミア大陸のとある国、とある街にある建物の地下だ。
 机の上に据えられた蝋燭の灯が、頼りなく彼らの顔を照らしている。
 人間にとっては魔の頂点に君臨する、最凶にして最悪の存在のはずだが、一部彼らのように崇拝する者もいるのだ。
 例外なく何らかの挫折を味わった事がきっかけとなっている。
 彼らは成功者を妬み、自分を成功させなかった天を恨み、それらの象徴とされるナイアーラトテッフを憎悪した。
 彼らは言う。

「能力に差はないのに運の差で俺達は負け犬になった。このような事が許されていいのか」

 自分達に非はなく、自分達を押しのけて成功した者が全て悪いと言うのである。
 いつの時代も己の失敗の責任を他に求める小人達が存在する事が、人間という種の愚かさだろうか。
 それとも人間社会の問題点なのだろうか。
 いずれにせよ、彼らの先達は身勝手な欲望を達成し、歪んだ復讐心を満たす為、密かに「ティンダロス教」というものを組織したのだ。
 憎悪すべき奴らが邪神と恐れ忌避するティンダロスこそ、自分達にとって救いの神というわけなのである。
 彼らこそ「ティンダロス教」の最高幹部達であった。

「いよいよ救い神様が再臨なさる時が来た」

 そう宣言すると「おお」とあちこちからしわがれた声が起こる。

「マリウスとかいう男と、アウラニースという裏切り者のせいで、魔王はほぼ全滅状態だが……ふふふ、実に滑稽よな」

 議長らしき老人が笑うと、他の者達も追従の笑い声を立てた。

「全くですな。魔王の死こそが、ティンダロス様再臨の条件とも知らず、せっせと我々の為に準備をしてくれるとは」

「真実を知った時の顔が見ものですなあ」

 悪意と毒気をたっぷりこもった嘲笑が飛び交う。
 かつてルーベンスが部下に告げた「魔王が必要」という言葉の、真の意味を彼らは口にしている。
 つまり魔王が必要なのは、ティンダロスへの捧げものとしてであり、別に死体でも構わないのだ。
 彼らは万が一に備えるという事で、ルーベンスから真実を教えられていたのである。
 正確には教えられていた者のうち一人がターリアントから逃げ出し、この大陸に渡ってきて、この地にいる者達に伝えたのだ。

「ルーベンスも存外間抜けでしたな。マリウスとは戦わなければよかったものを」

 一人が侮蔑の言葉を吐くと、同調する者が現れた。

「全くですなあ。魔王は死ねば死ぬほどいいというのに、どうしてあれほどまでに躍起になっていたのでしょうなあ」

 彼らはマリウスの力を伝聞という形でしか知らず、したがってその恐ろしさを今一つ実感していなかったりする。
 ルーベンスが「復活したてのティンダロスでは、あるいは敗れてしまうかもしれない」という危惧を抱いていた事も知らない。
 誰かが介在した情報は少なからず歪むものだというのが、彼らの経験に基づいた結論だ。
 魔王を倒せる力があるのは事実だろうが、邪神に対抗するなどとてもかなうまい、と侮っている。

「では、そろそろ儀式にとりかかるとしよう。人の世が終わる時、我らの日々が始まる時はもうすぐだ」

 暗いひび割れた笑い声が、部屋に満ちた。
 かつて魔人が種をまいた悪意は、消えずに移動して残っていたのである。
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