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ネクストライフ 作者:相野仁

七章「黄昏ゆく世界」

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九話「理不尽」

「【ラディウス】」

 マリウスは再び光系一級魔法を使う。

「はっはっはっ! 無駄! 無駄! 無駄!」

 光の奔流で倒せたのは分体のみ、それも千ほどだ。
 少なくともこの場所から攻撃が当たる位置にメルゲンはいないと再確認する。

「生憎と私のスキルは分体にも有効なのだ! つまり、更に学習してしまったという事なのだよ!」

 メルゲンの発言ははったりではないが、マリウスは消えずにダメージを受けたアンデッドがあるのを見逃さなかった。

「打つ手なしかな? ではくたばりたまえ」

 メルゲンは勝利を確信したようだが、マリウスはまだまだ焦らない。
 この世界はゲームと多くの差異はあるものの、無敵や万能とは無縁と言うのは共通だ。
 ラーニングスキルの欠点が存在するのはデカラビア戦で確認している。
 大きな効果を得るのに時間がかかるのがそうだし、肉弾戦ならば効果が半減するし、アニヒレーションならば効果を打ち消せる。
 それに魔法やスキル、技には有効でも、ただの物体な自然現象には効果がないので、自然を操作する禁呪も無理だ。
 もっと単純に巨大な岩や山を操って押し潰すと言う方法もある。
 更に言えばダメージを完全に無効化する事も出来ないので、軽減されてもなお致命傷を与えるという手もあった。
 つまりラーニングとはあくまでもダメージを軽減する手段として使うべきものであって、決して無敵の防具のようなものではない。
 先程ラディウスを使ったのは、それを確認する為でもあったのだ。
 ただ、引っかかるのはメルゲンのスキルの使用数である。
 ザムエルのスキルとデカラビアのスキル、マリウスが探知出来ず、攻撃を当てられない場所に隠れるという事態を可能にしているスキル、そして恐らくはアンデッドを同時に操っているスキル。
 複数のスキルを同時に発動させているのはマリウスも同じだが、ラーニングスキルは他のスキルと魔法を使っていない時でないと発動出来ない、という制約があるはずだ。
 デカラビアも例外ではなかったように思う。
 何故メルゲンだけが制約から逃れる事が出来ているのか。
 マリウスの知らないスキル「シェアリング」がそれを可能にしているのだろうか。

(まあ、倒してから考えるか。……ゾフィやバーラに訊くって手もあるし)

 マリウスは思考を放棄し、戦いに集中する。
 いつも通りに。

「俺のスキルが知りたいんだよな? 俺のスキルは消費魔力の軽減と魔法威力の向上だよ。装備の効果と重複出来る。つまり、少ない魔力で強力な威力を出せるというわけだ。これまでのようにな」

 結局選んだ手段は力押しであった。
 フレデリック父娘が遠く離れていない場所にいるので、禁呪を使うのは怖い。
 次に百万超の数を潰せそうな物理攻撃も困難だし、肉弾戦は試すだけ無駄だろう。
 ワンパターンのようでいて一応消去法で決めたのだが、結局ワンパターンになってしまう幅の狭さこそが、マリウスの欠点の一つと言える。

「……は?」

 一方、メルゲンはマリウスが何を言っているのか理解出来なかった。
 「消費魔力の軽減」「魔法威力の向上」はどちらも想定の範囲内である。
 マリウスが強い理由だと言われれば素直に頷けるのだ。
 だが、今、目の前の男は何と言ったのか。
 今まで一度も全力を出していない?

「もし、魔力を普通に注ぎ込んだら? 何が起こると思う?」

 いちいち言う必要がない事をわざと口にしているのは、メルゲンに精神的な揺さぶりをかける為だ。
 メルゲンはマリウスの言葉を笑い飛ばそうとする。

「強がるなよ。たった今まで魔力を節約していただと?」

 はったりだとメルゲンは決め付けるが、声はひきつっていた。
 マリウスの狙いに引っかかっている。
 魔王やルーベンスらを魔力を節約した状態で倒すなど、そんな事がありえるはずがないのだ。
 数百万のゾンビを一撃で消し去る浄化魔法を使ったというが、魔力の消費を抑えた状態でそんな事が出来るはずはない。
 そんな事が出来るのだとすれば、比喩抜きでアウラニースに匹敵する強さという事になってしまうではないか。
 マリウスからは応答がない。
 それが不気味に思え、メルゲンは体を震わせた。

「そ、そんな事があるはずはあるまい」

 声が上ずってしまった自分が情けない。
 虚勢に飲まれるなど、真の魔王である身としては無様の一言だ。
 分体を含めたアンデッド達に命令を下そうとした時、一瞬早くマリウスが言った。

「【イクソシズム】」

 これまでとは違い、マリウスの全身を疲労感が包む。
 それもそのはずで、マリウスは本人のスキルと装備品のスキルで消費魔力軽減効果を重複させていたのだ。
 それがなくなれば当然消費魔力は跳ね上がる。
 現れたのは小型の太陽とでも言うべき、巨大な光の球体だ。

「な、何じゃこりゃあ!?」

 ミスラの大地を一つの球体が遍く照らし、暴風の如き光の嵐で魔を浄化していく。
 ザガン、デカラビア、ルーベンス、アルベルト、フランクリン……生前の彼らであれば、何らかの対処は出来たであろう。
 されど今は術者の命令通りにしか動けないアンデッドであり、なす術もなく飲み込まれる。

(ら、ラーニング! ラーニングで耐えれば!)

 必死に縋りつこうとして、それが泡と消えたと悟った。
 常に操っているからこそ、アンデッドに何かあればすぐに気がつくのである。
 アンデッド達は先程の魔法で全滅してしまったのだ。

「あわわわわわ……しょ、しょんな馬鹿な」

 驚愕と恐怖のあまり、呂律が回らない。
 百八十万のアンデッドが、ラーニングで耐性がついていたはずの魔王アンデッド達が一撃で。

(な、何故だ……何故こんな事に)

 シェアリングの効果は凄まじい。
 先天性、後天性問わず他者のスキルを全て我がものとして使えるし、他者にも効果を分け与える事が出来るのだ。
 メルゲンが使っているスキルの数は六つ。
 フランクリンの消費魔力軽減と常時魔力回復で何体ものアンデッドの使役を可能にし、デカラビアのラーニングでマリウスの攻撃に耐性をつける。
 ザムエルのディヴィジョンで発生した大量の分体を維持し、操るのはザガンの思考分割だ。
 そしてゲーリックのトランスフォームで自然の一部に化ける。
 だからこそアンデッド達を使役出来たし、マリウスに攻撃されても無事だったのだ。
 これらのスキルを一括りにし、一つのスキルとして扱えるのがシェアリングというスキルの効果なのである。
 まさに王のスキルであり、自分にこそふさわしいと確信していたのに、マリウスはものともしなかった。
 理不尽にもほどがある。
 むろん、マリウスにしてみればメルゲンの心情など知った事ではない。

(さて、メルゲンはどこにいるのやら)

 アンデッドを全滅させた事で無力化したも同然だが、そんなのは一時しのぎですらないだろう。
 声が聞こえなくなったところをみると死んだ可能性もあるのだが、ことネクロマンサーやリッチが相手だと、念には念を入れておく必要がある。

「【アスピレーション】」

 対象を所定の位置に引き寄せる転移系魔法の一つだ。
 遠くにいる敵や物体をそばに寄せたり、逆に遠くに飛ばしたり、あるいは味方を移動させる効果がある。
 一度に移動出来る数には限りがあるが、応用性がある魔法なのだ。

「うおおお」

 メルゲンは目に見えぬ凄まじい力で引き上げられ、思わず絶叫する。
 彼はトランスフォームで、マリウスの足元の地中の石の一つに変わっていたのだった。
 しかしマリウスが使った「アスピレーション」からは逃れられず、地上に引きずり出されてしまう。

「なるほど、地中にいたのか」

 マリウスは驚くよりも感心した。
 足元にいたのでは攻撃が当たらないのも当然である。

「く、くそ~」

 メルゲンはリッチに戻り、憎悪を込めてマリウスを睨む。

「お前がメルゲンだな」

「そ、そうだ。今に見てろよ! アウラニース様にお前を倒すよう、頼んでやる!」

 そう捨て台詞を残し、テレポートで逃げ出した。
 逃げた先はヴェスター王国の海岸だ。
 いくらメルゲンがリッチの魔人と言えど、海を飛び越えるだけの力はない。
 船を手に入れる必要がある。
 必死に周囲を見回していると背後で音が聞こえた。

「ま、まさか」

 嫌な予感がして振り向くとマリウスがいた。

「ひ、ひいい……」

 メルゲンは激しく後ずさりをし、体勢を崩してしりもちをつく。
 知らなかったのだから無理はないが、一度でも会った以上、マリウスから逃げるのは非常に難しいのだ。

「た、助けてくれ」

 何を思ったのかメルゲンは、両手をつき頭を砂にこすりつけた。

「ちょっとした出来心だったんだ。も、もうやらないから、仲間になるから見逃してくれ」

 マリウスは何も言わず、距離を詰める。
 その音を聞いてメルゲンは更に怯えた。

「ほ、本当だぁ……心入れ替えるから。反省してるから。頼むから許してくれええ」

 ただひたすら哀願する。
 何も知らないお人よしが見れば、メルゲンに同情し、マリウスを悪者と決め付けそうな光景だった。
 そんなリッチに対してマリウスはやがて口を開く。

「【アニヒレーション】」

「にゃ、にゃに」 

 メルゲンは滅びの風を浴びて消滅した。
 仲間だった連中の屍を操り、得意げに笑うような輩を信用出来るはずがない。
 どんな魔法、スキル、アイテムで復活を講じていたとしても、アニヒレーションで無効化されただろう。
 さて、新妻達のところへ帰ろうと思った時、全身を冷水で浴びせられたような悪寒が駆けぬけた。
 何気なく空を見上げるとそこから三つの影が降ってきた。

「ほら、それっぽい奴がいるではないか。オレの言った通りだろう」

 マリウスからは豆粒に見えたほどの高さから降りてきて、綺麗に着地を決めて平然と話し始めたのは黒い髪、褐色の肌、紫の瞳の美女だ。

「お見事です」

「さすがです」

 一緒に降って来た青い髪と赤い髪の美女が、あきれ混じりに相槌を打つ。 
 三人とも滅多にいないような美女で、真ん中の黒髪に至っては、ロヴィーサですら一歩劣るかもしれない。
 それほどの美女達を同時に目撃したのだから、いつものマリウスならばスケベ心で目の保養だと思っただろう。
 しかし、今はそんな気にはならない。
 本能がかつてないほど、必死に警告をしている。
 デカラビアやさっき殲滅した百魔行は、ささやかな出来事だと訴えてくるのだ。

「さてと……オレはアウラニース。お前の名は?」

 マリウスは台風が通過した後、巨大竜巻がやってきたかのような気分になる。
 朝食を摂れるのはまだ先になりそうであった。
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