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ネクストライフ 作者:相野仁

七章「黄昏ゆく世界」

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八話「ジ・エンド……?」

 その知らせがマリウス達に届いたのは朝の事だった。

「百魔行!」

 マリウスは驚いてみせたが、何の事かよくわかっていない。
 彼が気になったのは「魔王のゾンビ」の方である。

(魔王はゾンビ化出来ないはずだが……)

 ありえるとするならば、生贄を捧げて儀式を行い召喚する「リビングデッド」だろうか。
 「リビングデッド」は死者を呼び戻す禁呪である。
 そしてそれは本来は死んで間もない者でなければならないのだが、この制限は太古の霊魂すら現世へ呼べる高位のネクロマンサーであれば、ないも同然であろう。
 ただ、高度で強力な術な分、難易度も高い。
 リビングデッドはゾンビよりもより生前に近い状態で復活させるのだが、自我はないので術者が操作せねばならない。
 自我を与えれば必要はないのだが、強い個体ほど術への抵抗力が高い為、魔王や魔人ならば与えるわけにもいくまい。
 そしてその間、魔力をずっと消費し続けるのだ。
 もちろん、強い個体であればあるほど消耗は大きい。
 ゾンビは自我があるし、一度生成してしまえば後は命令するだけでいいと考えれば、これはデメリットになる。
 更にゾンビは術者が死んでも消滅しないが、リビングデッドは術者が死ねば土へと還ってしまう。
 だからこちらに堂々と進撃してくれるのは、マリウスにとってあまりにも好都合と言える。
 好都合すぎて罠ではないかと疑いたくなったほどだ。

(それと俺が馬鹿ホイホイなだけかなぁ?)

 マリウスは自嘲気味にそう思う。
 過去の魔人達を考えればあながち間違っていない気がする。
 そんな事を考えていると、バーラとロヴィーサも着替えて部屋の外へ出てきた。
 二人の動作がぎこちないのは誰も気づかないフリをしている。

「そう言えば、百魔行って?」

 マリウスの問いに「どちらが先だったのかしら」と無表情で考えていたエマが答える。

「合わせて百の魔王と魔人が進撃する現象です。メリンダ・ギルフォードによって討ち破られたそうですが」

 ここでもメリンダ・ギルフォードの名が出てきて、マリウスは素直に感心する。
 人類最大の英雄というのは決して誇張ではないだろう。

「百の魔王と魔人か。今回の敵はゾンビでそれ代わりにしているのかね」

「恐らくは」

 バーラもロヴィーサもエマも賛意を示したが、マリウスの気分は晴れない。
 ますます「馬鹿ホイホイ」疑惑が濃くなった気がする。

「ええ、ただ本当に百もの魔王と魔人が揃っていたか定かではないのですが」

 バーラが説明する。

「数千年以上も昔の話ですし」

 むしろこれだけの逸話が残っているだけでも凄いのだと言われ、マリウスは納得してしまった。
 フィラートを建国した初代ベルンハルトの逸話でさえ、それほど多く残っているわけではない。
 それを考えれば人類にとってメリンダがどれほどの存在だったのか、うかがえるというものだ。

「とにかくマリウス様に出撃をとの事です」

「了解。朝食までには帰ってくるよ」

 マリウスは「これが本当の朝飯前か」などという馬鹿じみた事を考えながら、転移をしようして思いとどまる。

「ミスラには行った事ない」

「『アタッチ』という魔法ではダメなのですか?」

 バーラが不思議そうに首をかしげたので答える。

「うん。あれは相手が生きてないとダメなんだ。生きててくれさえいればいいんだが……」

 気まずい空気を振り切るようにひとまず試してみる事にする。
 「アタッチ」を使うと何と転移に成功した。

「成功したか」

 あたりは暗く、石の壁と鉄格子があり、どこかの牢獄のようだった。
 マリウスが独り言をぽつりと漏らすと、驚きの声と悲鳴が同時に上がる。
 二人の男女がこちらを見て、大きく目を開いていた。
 うち一人は見覚えがある男で、元大統領フレデリックである。
 隣は女性と言うにはやや幼く、もしかしたら娘なのかもしれない。

「おお、マリウス殿」

「久しぶりですね、大統領。いや、元大統領ですか」

 フレデリックは複雑な表情で頷く。

「取り返しのつかない過ちを犯したからな。しかし娘だけは助けたいのだ。民主主義の国で連座刑など間違っていると言うしかない」

「嫌、嫌よ、お父様!」

 娘は泣きながらフレデリックにしがみつく。
 そんな娘の髪を優しく撫でながら、フレデリックは答える。

「聞き分けなさい。私はこの国の指導者だったのだ。指導者が過ちに責任を取らないと国が腐ってしまうよ」

「とっくに腐ってるわ、こんな国! 魔人が攻めてきてるのに誰も戦わないじゃないの!」

「え? 本当ですか?」

 親子の会話に口を挟むのはよくない、と思いつつマリウスはつい、言ってしまっていた。
 フレデリックは厳しい表情で頷く。

「少なくとも主だった軍人は逃げ出したようだ。あるいは勇敢な兵は戦っているかもしれないがね」

 それはひどいとマリウスは思う。
 兵隊はいざという時に民を守って戦うから、民が収める税で生活をしているのではないか。
 そんな兵に命令を下す立場の者達が我先に逃げては、とても戦えないだろう。
 実際に見たわけでもないのに批判するのは早計かもしれないが。
 外から派手な音が聞こえ、親子は体を震わせる。

「私はちょうどいいところに来たみたいですね」

 マリウスはそう笑うと外に転移した。

「マリウス殿は負けないさ」

 不安そうにする娘をフレデリックは笑って励ました。
 他に何も出来ない自分を恨めしく思いながら。




 外に出たマリウスが見たのは、五十の頭と百の腕を持ち、身長が十メートルはありそうな巨人、へカトンケイル。
 そして見覚えがある巨大なスライム、バジリスク、スフィンクス、グリフォンらと大量のゾンビ達が、ミスラの国土を蹂躙している様だ。
 もう少し遅いとフレデリックらは助からなかっただろう。
 デカラビア、ルーベンス、アルベルト、フランクリン、ザムエル、ラーム、ガスターク、レーベラ、ルパート、センドリック、ゲーリックだ。
 へカトンケイルは倒した気がしなかった魔王、ザガンだという。
 これだけの魔王や魔人のアンデッドを操るとは恐ろしい相手だ。
 しかしマリウスには限界も見えている。
 これだけの魔王と魔人を使役するのは確かに驚異ではあるが、実のところこれが限界なのだろう。
 でなければもう一体魔王を呼び出していたはずである。
 上級魔人数人より魔王一体の方が脅威なのだから。

(さて、術者はどこだ?)

 見渡した限りでは誰が術者なのか、さっぱり分からない。
 さすがに直接狙える場所にいない程度の知恵はあるようだ。
 と思っていたら、どこからともなく笑い声が聞こえてくる。

「はっはっはっ、次なる生贄のマリウス君と見える」

 声が乱反射している、とでも言えばいいのか、発生源を特定するのは出来ない。
 もっともリビングデッドという術を使っている以上、マリウスの視界内にはいるはずである。

「我はメルゲン。真なる魔王メルゲン。恐れおののき、ひれ伏すがいい」

 お前の馬鹿さ加減にひれ伏しそうになる、とは心の中でだけ思い、マリウスは「イクソシズム」を繰り出した。
 もはや馴染みとなった、光の奔流が視界を埋め尽くす。
 さすがに魔王のアンデッドを倒せるかは怪しいが、他の連中は一層出来たはずだ、とマリウスは思う。
 それが過ちだと知るのに数秒もかからなかった。
 光の幕を切り裂き、いくつもの影が突進してきたのである。
 魔王を倒せるとは限らない、と油断していなかったマリウスは「ワープ」でその攻撃を回避する。
 しかし驚きを禁じえずにいた。
 「イクソシズム」で倒せたのはゾンビのみで、魔王は愚か魔人達は一体も滅んでいなかったのである。

「馬鹿な……」

 本当に驚くと思わず声に出るのとマリウスは知った。
 マリウスの声にメルゲンの高笑いが被さる。

「馬鹿め! お前の魔法など通じん!」

 デカラビアが接近してくるが、生前戦ったマリウスからすれば鈍いとしか言いようがない速さで、苦もなく回避出来た。
 数百メートルの距離すら一瞬で無にするあの速さは見る影もない。
 アルベルトやラームも同様だし、フランクリンに至っては魔法攻撃が出来ない分露骨なまでに弱体化していると言える。
 戦った事がないへカトンケイルがどれくらい弱体化しているのかは不明だが、それでも「操られる屍の悲哀」は歴然としていた。
 彼らは皆生前は敵であり、マリウスが悲しんだり憤ったりする義理はない。 ただそれでも、「死体を操っていい気になっている奴への怒り」というものは、何となくだが理解出来た。 

「図に乗るのもいい加減にしろ【ラディウス】」

 マリウスは躊躇なく一級魔法を行使した。
 周囲への被害を気にしてちまちま戦うと、かえって事態は悪化してしまうのは承知なのだ。
 「イクソシズム」の時とは比較にならない、巨大な光輝が一帯を覆い尽くす。
 単に不死者を浄化する光とは違い、「ラディウス」の光は物理的破壊を伴っている。
 生存者はマリウスより前には存在しないのが救いである。

(魔王だと今のでも死なないかな?)

 生前のデカラビアのタフさを思えば、一撃で終わる方が不自然かもしれない。
 マリウスはそう考え、臨戦態勢を維持する。
 しかし光が消えた時に見たものは、想像を絶していた。
 何と魔王と魔人のアンデッド達は一体も滅んでいなかったのである。

「馬鹿め! お前の魔法は通じないと言ったではないか!」

 メルゲンの勝ち誇った声が響く。

「俺のスキル“シェアリング”は他の者のスキルを共有させる事が出来るのだ! つまり、デカラビアの“ラーニング”を共有し、お前の魔力と魔法の耐性を与えたのさ!」

「そんなスキルが……」

 マリウスは思わずうめく。
 メルゲンが自信たっぷりな態度だった理由がようやく分かった。
 そしてどうして魔法使いの自分を次の生贄に狙いをつけたのかも。

「次は俺のスキル狙いか?」

「その通り! 君はさぞ強力なスキルを持っているのだろうからな! それも魔法使いである私に有用なスキルをだ!」

 マリウスが持つスキルは全て魔法使いを強化する為のもの、と言っても過言ではない。
 強力なネクロマンサーであるメルゲンが欲するのは道理かもしれない。
 など考えつつマリウスはまだまだ慌てず、「ディテクション」を使った。
 いくらラーニングで耐性を得ていようと術者の方はたかが知れていると判断したのだ。
 そしてまた驚かされる事になる。
 ディテクションの反応は確かにあったのだが、二つだけ。
 位置から察するに別れたフレデリックとその娘に違いない。
 メルゲンの位置は特定出来なかったのである。

「……お前、まさかリッチか?」

 強力なネクロマンサーであり、なおかつ「ディテクション」で感知出来ない存在となると、真っ先に思いつく存在であった。

「その通り! そして、本番はここからだぞ!」

 メルゲンの得意げな様子が増した気がする。

「ザムエルのスキルを覚えているかね?」

 その言葉にマリウスはまさか、と思う。

「ザムエルの“ディヴィジョン”を使うとだ」

 目の前のアンデッド達の分体が出現する。

「十二体のアンデッドがそれぞれ十五万の分体を作り出す事になる。お前の魔法が効かないアンデッドが百八十万だよ、マリウス君」

 マリウスは無数の分体に完全に包囲されてしまう。

「どうかな、マリウス君。私の偉大さが理解出来るかね?」

 メルゲンの声には嘲弄と侮蔑が入り混じる。

「ああ、確かにこれは凄いわ」

 ここまでになると素直に賞賛するしかない、とマリウスは思う。
 それに気をよくしたメルゲンは更なる笑い声を立てる。

「名づけてジ・エンド・アタック! 死ぬまでのわずかな間、たっぷりと堪能してくれたまえ!」

 マリウスはかつてない窮地に立たされた。
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