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ネクストライフ 作者:相野仁

七章「黄昏ゆく世界」

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四話「魔王デカラビア」

 さてどうするか、とマリウスはデカラビアの回転攻撃をワープで回避しながら思案する。
 デカラビアは戦いが長引けば長引くほどマリウスが不利になる相手だ。 
 しかも一撃や二撃では倒せないタフさである。
 ある意味では最も厄介なタイプの敵かもしれない。
 「アシッドブレス」を「リフレクション」で跳ね返すと、デカラビアは再度回転攻撃を繰り出してくる。
 どうやら攻撃パターンは「ライフドレイン」を含めて三つしかないようだ。
 スライム出身だからだろうが、魔王まで上り詰めただけあって一つ一つが油断出来ない。
 とは言え、防御と回避に専念していれば何とかなる相手ではある。
 ヴァユタの森や隣接地域に関しては諦めるしかないが。

(禁呪を出すしかないか)

 まだデカラビアに使っていない一級魔法はいくつもあるが、マリウスの魔力自体に耐性を持ち始めているのが難点だ。
 みだりに使うとやがてダメージを与えられなくなる可能性も考慮しなくてはならない。
 さすが魔王と言うべきか。
 禁呪最強は「アニヒレーション」であるが、他にも攻撃用の禁呪はいくつかある。
 単発だと恐らく倒せないだろうが、数発撃ち込んだ上に一級魔法もまとめてぶち込んでやればよい。
 もしそれでもダメならば……と考えかけたところで止めた。
 倒してから考える事にする。

「ははは! ワシを倒す算段はついたか!」

 マリウスの心の内を見透かしたような事を言ってデカラビアは回転攻撃をしてくる。
 単純だが避け続けるには集中力を維持しなければならない攻撃の連続で、魔力はスキルで回復出来ても気力が削られていく。
 マリウスは上空へと転移する。
 デカラビアの事をワンパターンだと笑えないな、と思いながら。

「またか?」

 捕捉したデカラビアの攻撃よりも早く、マリウスは魔法を撃ち込む。

「<天を駆ける星々よ、断罪の力を纏え。我が鉄槌となりて彼の者を撃ち滅ぼせ>【スターレイン】」

 今、一つ一つがデカラビアよりも一回り大きな、小型の星と言うべき存在が幾つも出現し、デカラビアがいる場所へ雨の如く降り注ぐ。
 土系最強魔法「スターレイン」は、名から察せられるように小型隕石を雨の如く降らせる特級の魔法である。

「何のこれしき!」

 デカラビアはブレスで応戦しようとしたが、大地を揺るがしながら空から降り注ぐ隕石は一つや二つではない。
 直線状に降るならばまだ対処出来たのやもしれないが、隕石は前後左右から曲線を描きながら落ちてくる。
 雨の如く降り注ぐ攻撃は、デカラビアにダメージを蓄積しつつ土をどんどん削っていく。

「お、おのれ! 【エクスハラティオ】【コンゲラーティオ】」

 デカラビアはマリウスから学習した一級魔法で迎撃を試みる。
 隕石を二つ打ち消したのはさすがと言うべきであろうが、結果的には消しきれなかった分をまともに食らうハメになった。
 デカラビアは迎撃を諦め、防御と回復に専念する。
 スキル「ラーニング」を使って耐えれば、形勢逆転も可能だと信じて。
 初めて見る魔法だったが故に、「スターレイン」の恐ろしさを知らなかったのである。
 「スターレイン」の恐ろしさは物理的破壊力ではなく、継続攻撃が可能な点にある。
 術者が魔法の行使を止めない限り、あるいは魔力が尽きない限り、撃ち続ける事が可能なのだ。
 デカラビアは何発も受けながら、それでも単発でのダメージが減っていく事に密かな期待感を抱き、再度反撃を試みる。
 「ワープ」を用いてマリウスの側に転移するが、それを見たマリウスは

「【ホーミング】」

 追尾効果を与える補助魔法を唱える。
 地へと降りかけていた小型隕石は反転してデカラビアの後背から襲いかかる。
 それだけならばまだしも、マリウスとデカラビアの間にいくつもの小型隕石が出現し、デカラビアの体にぶつかる。
 空中で集中砲火を浴びたデカラビアは、攻撃する暇もなく地面に撃ち落とされた。
 デカラビアには信じがたい展開だ。
 いくら「スターレイン」の真骨頂が継続力にあると言っても、禁呪とも言われる特級魔法を無限に撃てるはずがなく、撃ち止めになった時こそが反撃の機会となる。
 そのはずなのに小型隕石は一向に打ち止めになる気配がない。
 デカラビアの心は少しずつ焦燥感が占め始める。
 彼の巨体が地中に埋もれて地上からは見られないまで大穴が開いたというのに、隕石の雨はまだ止む気配がない。
 デカラビアは「ラーニング」が発動してる時、魔法やスキルは一切使えないという弱点がある。
 二度ほど反撃を試みた時も使えていなかったし、その分ダメージを受けている。
 そのせいで一時的に「ラーニング」を中断し、回復にあてた程だ。
 そして「ラーニング」はダメージ軽減効果は比較的早く身につくが、ダメージ無効をつけるのには時間が非常に時間がかかる。
 そしてマリウスの魔法攻撃の威力は、ダメージ無効に到達するまで、非常に時間がかかりそうだ。
 だからわざと自分から情報を明かし、警戒心をあおって慎重な行動を取らせようと思ったのだが……。

(し、知っていたのか……?)

 どうやら裏目に出てしまったようである。
 もちろんマリウスは知っていた。
 「ラーニング」は特級魔法までは会得出来ない事も。
 もちろんゲームの時との差異がある以上、油断は出来ない。
 だが一つの魔法を撃ち続けているだけならば、仮に耐性が出来てしまってもさほど問題はない。
 魔力そのものへ耐性が出来るのに時間がかからないのであれば、とっくに反撃してきているであろう。
 マリウスが持つ消費魔力軽減と魔力回復効果で、ほぼ無限に撃ち続ける事も可能だ。
 疲労を抜きにすれば。

「【リフレイン】」

 一度この魔法を唱え回復ポーションを飲む。
 地面は大きく深い穴が開いていて、マリウスの狙いは達成したといえる状況になりつつある。
 マリウスの真の狙いは深い穴を作る事だったのである。
 空中戦を誘って禁呪というパターンは一度見せた。
 魔王相手では二度も通じないだろう。
 だから次は下とやや安直な発想をしたのであった。
 もちろん禁呪を使っている以上、ダメージを与えるのも目的なのだが、あくまでもそちらはついでにすぎない。
 遠視魔法「テレスコープ」を使い、デカラビアが地中深く埋もれたのを確認する。
 一旦撃つのを止めた時、大きな音がして地中から水が吹き上がる。
 どうやら水脈を掘り当ててしまったらしい。

「やば」

 マリウスは思わず舌打ちをする。
 更地化した場所からでも「ライフドレイン」で回復を図れる相手だ。
 やりすぎが最悪の手に変えてしまったと覚悟を決めるしかない。

(仕方ないか)

 全回復されてしまう事を覚悟し、マリウスは少しずつ高度を下げる。
 すると水が湧き出る勢いが全く衰えない事に気づく。
 「ライフドレイン」を使わないのは何故だろう。
 それとも使っているのにこれだけの勢いなのか、はたまた水ならば使わなくても回復出来るというのか。
 相手は魔王なのだ、油断は出来ない。
 マリウスは警戒しつつ地に下りる。
 すると湯気のようなものに気づいた。

(ん? 湯気? 水じゃなくてお湯?)

 地下から湧き上がる湯、マリウスの脳内にある名前が浮かぶ。
 確かフィラートでは掘る為のマジックアイテムが存在していたと聞いた覚えがある。

(まさか温泉……?)

 そんな馬鹿なと思う。
 温泉を掘り当てるにはかなり深くまで……と考えたところで、ここは異世界だと思い出し気にしない事にした。
 それよりもまだ出てこないデカラビアが気になる。
 もしかするとマリウスと対抗する力を蓄えているのだろうか。
 ついでとは言えかなりの隕石を当てたので、耐性はある程度ついてしまっているだろう。
 更にパワーアップしたならばかなり厄介な事になる。
 マリウスは集中した状態でデカラビアが出てくるのを待つ。
 油断したところを不意打ちしてくる、という可能性も捨てきれないのだ。 
 体感時間で五分、十分と経過し、さすがにここまで無反応なのは不自然だと思い始める。
 ひょっとしたら水が弱点で行動不能になっているのかもしれないと思い、それでも警戒はしたまま温泉に近づいていく。
 不意打ちが出来そうな距離になったというのに何事も起こらない。
 「ディテクション」で確認してみると、デカラビアの反応は水が沸いている近くにある。
 「ディテクション」は植物さえ感知出来ないという欠点があるが、動物の感知に関しては比類がない。
 つまりデカラビアは生きているという事だ。
 ならば何故出てこないのか。
 「ディテクション」でデカラビアの反応があった場所へ行くと、マリウスの靴の半分以下の大きさのスライムが、どう見ても瀕死状態で痙攣していた。
 どうやら本当に水が弱点だったらしい。
 マリウスは思いがけぬ展開に拍子抜けしながら、スライムを踏み潰す。

「ぐは」

 デカラビアの悲鳴が聞こえ、小さな玉が残された。
 確認してみると「魔王の魂」だった。
 魔王デカラビアは滅び、滅魔の武器シリーズの素材がまた一つ集まった事になり、マリウスは首を捻る。
 滅魔の武器はその強さ故に素材集めの難易度は極めて高いはずだ。

(まあいいか)

 どうせ自分が考えても答えは見つからないと諦め、さっさと回収する。
 そして周囲を見回し、被害の少なさに満足した。
 それなりの時間「スターレイン」を撃ち続け、森一つ分の面積にいくつものクレーターを作った程度ならば軽微と言えるだろう。

「終わったか」

 振り返ってみるとアステリアがいつの間にか戻ってきていた。

「ああ。まさか熱湯で瀕死になるとは……」

 かつてない難敵だと思っていたら想定外の死に方をされて困惑し、思わずぼやいていた。
 そんなマリウスにアステリアは

「スライムの弱点は熱湯だぞ、知らなかったのか? もっとも魔王だ、余程のダメージを受けていなければそれだけで倒せたとは思えないがな。デカラビアに滅ぼされた国はいくつもあると歴史が語っているし」

 説明してやった。
 スライムの弱点がそんなものだとは初耳のマリウスは、さっさと話を変える事にした。

「ところで何であんた一人でいたんだよ? 死ぬ気だったのか?」

 マリウスの問いにアステリアは頷く。

「そうだ。私が死ねばホルディアは復讐に燃え、他の国もわだかまりを捨てる事が出来よう。人類が団結するきっかけになりえたのだ」

 アステリアはどこまでも淡々としていて、それがマリウスには腹立たしい。
 どこまでも自己完結しているように思えるのだ。

「そんなに上手くいくか? うちの王様はそういう事に興味なさそうだぞ」

 だからケチをつけてやろうと思ったのだが、全くの言いがかりというわけでもなかった。
 フィラート王ベルンハルト三世はいくつも欠点がある人物だが、無闇に自国の権益を強化したり、領土を拡大しようとする野心とは無縁なのは確実だ。
 でなければマリウスがいるという事実を背景に高圧的な外交戦略を採ったり、ホルディア攻めに参戦したりしていただろう。
 マリウスがフィラートを出奔しなかった理由の一つである。
 アステリアは「うちの王様」という言い方をしたマリウスの心境を察しながら、ある事実を打ち明ける。

「うむ。ワイバーン達に始末させようとしたのだが、あなたに邪魔をされてしまったな」

 天気の事でも語るようなさりげなさでとんでもない事を言われ、マリウスはかえってすぐに理解出来なかった。
 数秒後、やっと理解し

「あれ、あんたが黒幕かよ?」

 意図せず声が低くなる。
 そんなマリウスに対してアステリアはいつも通りの笑みを浮かべる。

「ふ、あなたが絡むといつも狂う。本来、ホルディアが大陸を制覇し、その後上級魔人と戦う算段だったのだがな。もちろん魔王は復活前に潰す」

 夢物語と退ける事はしかねる。
 少なくともホルディアは大陸を統一するだけの力を持っているのは間違いないからだ。
 そこまで考えてふと違和感を覚える。
 フィラート王を殺そうとしたのは自分の死後人類が団結する為だと言っていたが、マリウスが来なければホルディアが大陸を統一したとも言う。
 これは矛盾しているのではないか。
 アステリアなしでホルディアが大陸統一などという大事業を実現出来るとは思えない。
 そう詰問されたアステリアは悪びれずに答える。

「何だ、ごまかせなかったか」

 この女とマリウスが殺意をかなり本気で抱いた時、アステリアは笑いながら続きを述べた。

「実のところあなたのお人よしさに賭けていたのだよ。三カ国は大惨敗のせいで国家としての存続が困難になり、ホルディアは王を失う。あなたは果たして知らぬフリを決め込む事が出来るのか?」

 難しいだろうなとマリウスは思う。
 馬鹿な権力者について何にも感じないが、馬鹿な上を持ってしまった民には同情してしまうだろう。

「あなたはどうせ恩賞はほしくないと思っていただろう。ならば代わりとして西方の民が大過なく暮らせる事を望んだのではないか?」

 マリウスは否定する事が出来なかった。
 正直、そこまでは考えていなかったのだが、いざ実情を知ったら果たしてそんな決断を下さないと言えるだろうか。
 アステリアは相変わらず何もかも見通しているようである。

「もっともすぐに同情する気にならない展開になるとは思うがね」

 マリウスは意味ありげな事をつぶやくアステリアに何かを言い返したい気分になり、

「しかしそれでもあんたの狙い通りになるという確証はないはずだ。無責任じゃないか?」

 苦し紛れの反論を試みると彼女はニヤリと笑う。
 彼女が右手を掲げると影の中からアステリアが出てきた。
 少なくともそう表現するしかない光景がマリウスの前で起こったのである。

「影武者か。ドッペルゲンガーかミミックかの」

 他には説明の仕様がない。
 影武者を使って死を装うとしたというのか。

「私はどちらかと言えば悲観的なのでね」

 悪戯っぽく笑うアステリアは、一度誰かに本気で怒られた方がよいとマリウスは思った。
 それは自分の役目ではないとも。

「【アタッチ】」

 マリウスはミレーユを指定し、アステリアごと転移する。
 移動先ではアネットが涙目で人々から吊るし上げを食らっていた。

「ん?」

「ん?」

 先がアステリアで、次がミレーユとイザベラとバネッサである。
 そして続いて他の人々も気づく。

「へ、陛下!」

 人々はまず驚きついで怒りを再燃させて怒鳴りつける。
 主従の礼儀などどこかに吹っ飛んでしまっているようであった。
 アステリアはさすがに気まずそうにしている。

「ご自分だけ残られるとか正気ですか!」

「陛下の御身に何かあればこの国はどうなるのですか!」

 口々に騒ぎ立てる者達にアステリアは右手を上げて制する。

「勝算があればこそだ。現にこうして生きて戻ったではないか」

 いつも通り倣岸で不敵な態度でうそぶく。
 あまりにも堂々としたその姿に人々は騙されかけたが、一人だけ例外はいた。

「嘘だ。アー……陛下が嘘つく時、一瞬目を開くもん! 今さっき開いてたもん!」

 アステリアにとって無二の友であるイザベラだった。
 思わず愛称で呼びかけた彼女は、主君兼親友が嘘やごまかしをする時の癖を知っていたし、今出ていた事も見抜いたのである。

「ごまかす気だ! 後ろめたいからってごまかす気だ!」

 慌てたのは見破られたアステリアで、彼女にしては珍しく冷や汗をかく。
 イザベラが一緒というのは実にまずい事だった。
 他の者も普段ならばまずイザベラの言葉遣いを咎めるだろうに、今回に限っては誰もそんな素振りは見せず、アステリアを睨んでいる。
 アステリアは無意識のうちに助けを求め、マリウスの方をちらりと見る。
 読心魔法なしでもそ心情を察し、マリウスは皮肉たっぷりに笑う。

「いっぱい叱られてたっぷりと反省なさって下さい、アステリア陛下」

 嫌味を言い終えると一礼し、転移魔法でフィラートへ帰る。
 直後、怒声が響き渡った。
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