「やったよ。ポチ!」
「ポチって呼ぶなよ。」
「ついに部室をゲットだ。」
「あーそりゃよかったね。」
「冷たいな。ポチは。」
僕は【はじめ】と言う名前だ。【一】と書いてはじめ。
僕をポチと呼ぶのは【英二】だ。
一は英語でONE、ワンは犬の鳴き声だからポチと訳の分からない方法であだ名は命名された。
迷惑な話だ。
だが僕らはミステリー同好会をしていた。
会長は英二、副会長が僕の二人だけの会だったが、ついに部活になる日がきたのだ。
メンバーが四人以上で部活、未満で同好会、つまり僕と英二の他に更に二人加わったのだ。
そして今日、担任兼顧問の【五十嵐】から部室の鍵を貰うことになったらしい。
「ただ、正式に貰うには条件があるらしいんだよね。」
英二の奴、何を楽しそうにと思った。それって条件をクリアしなきゃ部室が貰えないって事じゃないか。
僕は英二を睨みつけてやった。
「実はさ。」
お構いなしだ。
「いいなそれほしい!」
教室の奥から甲高い声が聞こえ、英二の話は遮断された。
声の方を見ると、四葉【よつば】が充三【じゅうぞう】に向かって何かをねだっている。
充三の机の上に乗せられた大量の分厚い本【ミステリー】の話らしい。
充三は自慢だけして風呂敷にしまい込んだ。
「だめに決まってる。僕のだよ?部室に置くんだ。」
この二人が例の残りのメンバーだ。
「気が早いね。シイサン。まだ部室の鍵貰ってないぞ?実質、部室はない。」
英二は充三に言った。
充三のあだ名はシイサンだ。中国語で13。
意味は適当に理解して欲しい。
「わかってるよ。部長。待ちきれなかったの!」
英二は僕以外には部長と呼ばれて……呼ばせている。
始めは英二と二人で、ミステリーを読みあさったり、トリックを考えたりしていた僕らの同好会だが、今はチアリーティング辞めたばかりの四葉と、大柄な充三がミステリーが好きだと知ったのをきっかけに、二人を同好会に引っ張りこんで部活動にした。
「部室が手に入るかどうかは、解らないんだよ。条件があってさ。」
英二は含み笑いをした。
僕らは顔を見合わした。
「実はさぁ。」
と同時にチャイムが鳴る。
待ってましたの勢いで五十嵐が扉を開けた。
「おら、席に着け。」
皆慌てて席に着く。
どうやら時は、英二に話をさせたくないらしい。
「英二。部室の鍵、校長に貰っとくから、放課後取りに来いよ。」
「やったぁ!」
四葉が大げさ騒ぐ。
「静かに。喜ぶのはまだ早い。まあ、頑張りたまえ。ポチくん。」
クラスに笑い声が聞こえる。
……五十嵐にも定着しているポチという呼び方は、やめてほしい。
放課後。
頑張りとはこの事だったのか、補習テストが待っていた。
僕のクラスの半分位がさせられる。
「お前らバカなんだよ。なんでいよいよ部室を見られるって時に…。補習受けるかなあ。点数取れよ。」
英二が文句を言っている。
実際、この中で補習を受けなかったのは英二だけだった。
「待ってられないぜ。」
「だったら待ってる間、僕の今日持ってきてた本探してくれない?」
「聞いてた?話。」
充三は説明した。
朝、持ってきていたあの大量の本が、体育が終わって戻って来るとなくっていたらしいのだ。
「あの本全部だよ?1から10まで。」
「あたしじゃないわよ?」
四葉が慌てて充三に言った。
あんな分厚い本を10冊も運ぶのは大変だし、第一隠しておく場所がない。
大方、先生が没収していったのだろうと僕は思った。
充三もそう考えていたようだ。
「だから、五十嵐に鍵貰うついでに聞いてきてよ。」
「自分で聞けよ。俺は先に部室行くから。さっさとテストなんか終わらして部室来いよ。」
英二はそういうとさっさと教室を後にした。
その後、数学の先生が来てすぐさま補習テストがスタートした。
なんだかんだとすぐに充三はテストを終わらして教室を後にする。
僕はというと、何度やっても計算がうまく行かない。
だんだんとイライラしてきた。
ガターン!
途中大きな音が響いて、教室はざわめき僕の集中力も途切れる。
「騒がない。きっとどっかのバカが、何か倒しただけだ。集中しろ。」
先生が注意する。
うんざりだ。
その後すぐ四葉も退室する。
それから暫く経って、僕は結局終了までに15分も掛かってしまった。
テストは嫌いだ。
教室を出ると四葉が廊下で待っていた。
「遅いよ。何分掛かってるの。」
「数学苦手なんだよ。」
「トリック解くのは得意なのにね。」
「先に行ってろよ。部室に。」
「せっかく待っててあげたのにぃ。」
「頼んでないけど。」
僕らはその足で部室予定地へ向かった。
廊下の端は蛍光灯が切れていて暗い。
その真下に部室の扉があった。
こっちの方は、放課後の人通りは少ない。
「あれ?入んないの?」
そこには、充三が座り込んでいた。
「開いてないんだよ。ここ。本も見つからないし…。」
充三は意気消沈している。
「開いてないって英二は?五十嵐なんて?」
「本、事態知らないって。」
「本の事じゃなくて…。」
充三は質問所じゃないらしい。
僕は聞くのはやめて、ドアノブを回した。
閉まっている。
ドアに隙間はなく、中の様子を見ることはできない。
「仕方ない。聞いてこよう。五十嵐に。」
僕らは職員室に向かった。
五十嵐は中からこっちを見ている。
僕は何だろうと思いながら三人で職員室に入る。
「先生、英二…」
「何かあったのか?」
僕の声を遮って五十嵐は立ち上がった。
「あったというか、いないんです。」
すかさず四葉が五十嵐に言った。
「いない?誰が?」
このメンバーを見れば解りそうだが。
「部長だよ。」
「どういう事だ?」
どういう意味だ。「部室閉まってて…。」
「閉まってる?」
僕は少しイラッとした。
質問したいのはこっちだったが、もういいやと思った。
「部室を開けてください。」
「あっ…ああ、あそこの鍵は、英二に持たせたやつだけなんだ。」
スペアくらい作っておいてよと思いながら、僕は鞄から携帯を出した。
「もういいです。英二に電話掛けてみますから。」
「いや、その前に部室に行ってみよう。ポチ電話は部室に行ってからにしてくれ。」
五十嵐は僕を見ながら提案した。
はっとして周りを見ると先生方がこっちを見ているのが目に入った。
僕は五十嵐を睨んだ。
「えっと、それより本当は先生没収したんでしょ。私がすごくあの本、欲しいんだけど。」
五十嵐は四葉の質問に首を傾げた。
「僕のなくなった本だよ。」
「ああ。見てないって言ったらシイサン題名も教えてくれなかったやつか。」
「意味ないもん。」
充三は冷たく言った。
四葉は話を逸らそうとしてくれたらしいが、職員室の先生方は笑いを堪えている。
僕をチラ見しているのが気になった。
ポチと呼ぶなよ。ポチと。
僕はため息をつきながら四人で部室に向かった。
携帯で呼びかけているが、英二に応答はない。
「貸して。」
四葉は僕から携帯を奪い、何度も英二に掛けた。
それでも出る気配はない。
「困ったね。」
五十嵐が軽く言った。
僕はもう一度、ドアノブを回した。
閉まっている。
音が聞こえる。
携帯の音。
「静かに!」
僕は耳をドアに押し当てた。
その様子を見て充三は黙った。
携帯の音がみんなにも微かに聞こえてくる。
「ここだ。この中から聞こえる。英二、いるんだよ。」
「だったら何で出てこないのさ。」
「携帯忘れて帰ったとか?」
「来いって部長が言ったんだよ?」
充三も四葉も口々に言った。
その瞬間、いやな予感が僕の頭によぎった。
もしかしてさっきテスト中に聞こえたあの大きな音は、ここからだったのではないか。
僕は慌ててドアノブを回した。
「ポチ?どうした?」
「先生!すいません!」
僕はそういうとドアに体当たりした。
跳ね返って後ろに倒れる。
充三と四葉は僕が慌ててるのを見て、中で何かあったんだと感じたらしく、次の瞬間、二人も一緒にドアに体当たりした。
「まて!ドア壊したら、直らないんだぞ!お前ら!」
五十嵐の声虚しく、すごい音とともにドアは三人の手で打ち破られた。
「きゃあ!」
「ミステリーだ!」
「いや。それより英二!」
「待て!」
部室の真ん中に倒れた机の上で、うつ伏せになっている英二がいた。
その周りに、今日、充三が持ってきていた本が散らばっていて他に何もない。
充三はすかさず携帯にその現場を二、三枚、写真に納めた。
五十嵐は僕らを足止めして、英二に近づいた。
「何かに後頭部を強打したみたいだ。俺は保健室に連れてく。お前らここで待ってろ。」
「英二、大丈夫なのか?!」
僕は敬語も忘れて五十嵐に聞いた。
五十嵐はひょいと英二を抱き上げると、頷いて急いで運んでいった。
僕はそれを見てあれと思った。
「何やってたんだろ。部長。頭打つなんて。」
四葉が言ったので僕は部室の方を見た。
「よかったー。ミステリーあって。部長、ちゃんと探して置いてくれたんだ。でも、これじゃあ折れてたりしそうだよね。」
「おかしいよ。」
「何が?」
四葉が聞き返したので僕は説明した。
英二はうつ伏せで倒れていた。
もし滑って前に転んだとしたら、おでこか胸など、前を打ちつけるはずである。
逆に後ろに滑ったとすれば、後頭部か背中か、後ろを打ったはずである。
しかし英二は、前に倒れ込み後頭部を強打していたと五十嵐が言ったのだ。
「難しい事したんだね。部長。」
「できないんだよ。そんなこと。」
「じゃあ?」
「もしかしたら殴られたのかも。後ろから。」
「それは本当か。ポチ。」
戻ってきた五十嵐が入ってきた。
「事件なんて洒落になんないぞ。」
言っている五十嵐の顔は少しわくわくして見える。
「ここ鍵掛かってたよ。密室だったって事だよね。」
「わお。本格ミステリーじゃん!」
充三も四葉も楽しそうに言った。
人が怪我をしているはずなのにどうしてこんなと僕はちょっとイラッとした。
「人バカにするからそんな目に遭うんだよ。」
「シイサン。言い過ぎ。」
四葉は充三を制した。
「……もしかして、君らの内の誰かが英二を殴ったんじゃないだろうな。」
五十嵐は少し黙ってから僕らを見て言った。
「先生。言っていいことと悪いことあるよっ。」
四葉はむっとしていった。
だが、五十嵐はある考えを続けて言ったのだ。
「ポチ。お前は英二にポチポチ言われて頭にきていた。それでつい近くにあった本で殴ったのかもしれないな。」
もしそうだったら五十嵐も同じく殴ってるよと思った。
「待てよ。もっと簡単なことか。これは確か、シイサンの本だったな。お前は英二にバカにされていることが多々あった。だから恨みに思って殴ったのかもしれない。」
「先生!」
充三は振り返った。思いもしないことに驚いたような顔だ。
「もしくは四葉。この本が欲しくて堪まらなく、盗んでここに隠したのを英二に見つかって、困ったあげく殴ってしまったか。」
「私じゃないよ!」
四葉は足を鳴らした。
充三と四葉は言いがかりだと騒いだ。
いくら何でもひどい話である。
五十嵐は二人の訴えを見ながら部室の入り口を塞ぐように立っている。
僕はなぜか、だんだん気持ちが落ち着いてきた。
「ここに鍵がかかっていた以上、僕らの犯行は無理だと思うけど。」
僕がそう言うと五十嵐は目を泳がせた。
「だが動機はある。よし、ここは俺が。」
「じゃあ調べようか。ここで何があったのか。」
僕は五十嵐の言葉を遮断した。
「ポチ?」
「殴られたのは確かなんだ。」
「何を調べる?」
僕は充三と四葉を連れて、部室へと入り込んだ。
「ちょっといいの?入ってさ。」
「いいんだよ。僕らが調べるそうしろってことでしょ。」
僕は五十嵐を見た。
五十嵐の眉毛がぴくっと動いた。
僕らは部室の中を調べ始めた。
「あれって…」
充三が指差した。
その先には、窓がありその下の辺りに鍵が落ちている。
「シイサン。携帯見せて。」
僕は充三がさっき撮った写真を見せてもらった。
その写真に窓の下の鍵は写っている。
つまり鍵は僕らがここに入る前からあったということだ。
僕は窓を動かした。
閉まっている。何よりここは二階で、入ってくるのは不可能である。
僕はそれを確かめると落ちている鍵を拾い、五十嵐に見せた。
五十嵐が頷く。
ここの鍵に間違いない。
鍵が掛けられていたことにより、完璧に密室が完成してしまった。
しかし、明らかに誰かが殴ったという状況の中、どうして犯人は鍵を掛け密室にする必要があったのだろう。
「この本。見て。」
四葉がドアの近くにあった本を手に取った。
ミステリーの第四作目だ。
「ああ。ひどい。つぶれてるよ、本の角。」
「これで殴られたって所じゃない?」
僕は頷いた。
「あと。」
四葉は持っていた本に縛ってある糸を引っ張った。
糸は三メートル位の長さはあるだろうか、糸の先は契れている。
「どうやったかは解らないけど、これうまく使ってドアを閉めた後、鍵を中に入れたんじゃない?」
僕と充三は本を見る。
だが、この糸を使ったにしても、部室のドアは閉めてしまえば隙間もない作りになっていた。
閉めた後ドアから鍵を入れるのは無理だ。
「そもそも鍵は本当に掛かっていたのか?」
五十嵐は口を挟んだ。
「確かだよ。僕もポチも開けようとしたけど開かなかった。」
充三は答えた。
僕は頷く。
「英二がここの鍵を取り来たのが、四時頃だ。」
鍵は確かに放課後五十嵐が英二に手渡しているらしい。
「シイサンは四時五分に俺に、本を知らんか、聞きに来た。」
確か、充三の話だと五十嵐は知らなかったと言ったはずだ。
僕の頭に何かが引っかかった。
「それからポチたちが俺を呼びに来たのが二十分頃だ。その間の犯行だって事だな。そんな短時間でおまえら以外の奴が、犯行なんてできないと思うが?」
五十嵐はニタッっと笑った。
僕はあからさまに無視して部室を見回した。
そして丁度天井を見たときだった。
「ポチのアリバイは確実だよ。数学の先生付きっきりだったもん。」
あまり言われたくない事実を四葉が言ったので思わず見た。
そしてまた天井を見る。
四葉を見る。
そしてはっとした。
「四葉!天井!」
「え?」
「あれ何か見てきて。チアだったなら人の上に乗るの簡単だろ?」
僕は天井を指さした。
何かが刺さっているのだ。
「あのね。乗るのはいいけど土台がしっかりしてくれないと無理よ。」
僕はそのまま充三を指さした。
充三はびっくりしていたが、僕の無言の訴えが通じたのか、ため息と共に仕方ないという感じに了解した。
四葉は、充三にひざを立てて座るよう促すと、その膝に足を置き、勢いをつけて充三の肩に乗り立ち上がった。
「シイサン。絶対上見ないでよ!」
「見ないよ。」
「で、どう?」
四葉は天井に手をつき周辺を見た。
「フック、フックに糸が引っかかってる。」
天井にはフックが刺さっていて、それに糸が絡み付いているらしい。
「糸の色は本に縛ってあったのと同じだよ。」
「ほんと?」
「シイサン!上見ないでよ!」
「わかってるよ!」
シイサンは床に落ちている本の数を数え始めた。
フックの位置は英二が倒れていた真上にある。
その時、僕の頭にある仮説が浮かんだ。
「もしかして、密室は犯人にとって予定外だったじゃ。」
「解ったの?」
四葉は充三から降りながら言った。
僕は頷く。
「おお、じゃあ謎解き開始だね。」
五十嵐は腕を組んで静かに僕を眺めた。
部室は静かになっていた。
僕は一つ息をついた。
「犯人は先生だよ。」
「軽く言わないでよ。拍子抜ける。」
四葉が言うと充三も僕に聞いた。
「何で先生?」
「たぶん計画は僕らに部室の鍵を英二に渡すことから始まったんだ。」
僕は考えを説明した。
テストをする事を聞いた五十嵐は、鍵を渡すのを今日に決めた。
部室に用意したある仕掛けで英二を殴るために。
そこに丁度よく充三が本を持ってきた。
五十嵐は疑いを充三に向けるべく、それを盗み、部室の仕掛けを作るのに利用した。
本がなくなれば、充三は当然僕らに相談しているはずである。
勿論、仕掛け終わった後は鍵をした。
何も知らない英二は、五十嵐に放課後鍵を貰い部室に入る。
そこで充三の本が机の上に積み上げられているのを見つければ、英二はこの本が充三の物か確かめようと本に触るはずだ。
そして本を持ち上げたとき、仕掛けが作動。
本に挟めてあった糸は解放され、上のフックに通してぶら下げた本が英二の頭上に落下。
頭に衝撃を受けた英二は机をひっくり返し倒れ込んだ。
それが補習中に聞こえた音だったのだ。
「つまり、誰かが殴った訳じゃなかったっての?」
「仕掛けられてたんだよ。だから、ドアに鍵が掛かっていても、まして部室に犯人がいなくても殴ることが出来たんだ。」
「部長が部室に行った後、部室が開いていれば、私たちの誰かが殴ったことにできるけど、部長が鍵をしたため予定外の密室ができちゃったんだ。」
これならば、本の糸、天井のフックに絡み付いた糸、後頭部の傷、密室もすべて説明が付く。
僕は先生の顔を伺った。
「なるほどね。」
五十嵐は感心して見せた。
「けど、それは俺じゃなくても、テストをしてたポチでも出来るよね。」
そうきたか。
「けど鍵を持ってたのは先生です。つまり仕掛けを作れたのも。」
「部室は元々開いていた。だから部長が鍵を使うという行為はしなかったのかもしれない。俺は鍵を渡す前に、部室が閉まってるか確認しなかったからね。」
確かにそうだ。
英二が部室にくる前に鍵が開いていたのかはわからないのだ。
「でも職員室での反応不自然でした。」
僕は充三と四葉に同意を求めた。
「そうだよ。私たちが職員室に行く前からこっち見てた、部長に何かした後だったから、私たちが慌てて呼びに来るって思ってたんじゃない?」
「来なかったじゃないか慌てて。」
「だから予定外だったのよ。発見されないのは。」
「じゃあ俺が英二を殴った動機、証拠はあるのかな。」
五十嵐は僕らに迫った。
四葉は反論に困り黙った。
確かに証拠は……。
「足りない。」
充三が言った。
僕は頷くことしかできなかった。
「だよね。僕を犯人にするには証拠が。」
「違うよ。ミステリーだよ!」
僕らはガクッとした。
「ほら九冊しかない、第二作目がないよ。」
何も言わないと思ったらそれをひたすら数えていたのだ。
充三の言葉に僕ははっとした。
僕は充三から目を五十嵐に移した。
「先生、この本、ミステリーって言うんです。」
僕は本について説明するように、五十嵐に言った。
五十嵐は解っているというように僕を見た。
「これは、シイサンが今日なくした本なのですが。」
「だからどうしたのさ。」
四葉が聞いた。
「どうして先生はそれを知っていたのですか。」
五十嵐の顔が変わった。
「先生はシイサンの本が何なのかも聞いていないと言っていた。なのに、どうしてこれがシイサンの本だと解ったんですか。」
「…それはシイサン自身がそうだと言って…。」
「シイサンは、この本をミステリーと言っていました。自分の本だとは一言も言ってません。」
「…一冊足りない。」
充三はそれどころではないらしい。
「どうして知っていたんですか。もしくは知っている事実をどうして隠したんです。」
五十嵐が黙る。
「知っていたのを黙っていたのは、先生が仕掛けを作ったからではないんですか。」
僕は突き詰めた。「現物も題も見るチャンスがなかった先生が、これがシイサンのと解るなんておかしいでしょう。さあ、どうしてなんですか。」
僕は先生に詰め寄った。
暫く静かな時間が流れた。
「ま。いいだろ。」
「それって認めるってことか?」
五十嵐は頷いた。
「だったら後一冊は?」
充三は騒いだ。
「職員室だ。後で返すよ。本当はそのない本を持っていたことを証拠にして欲しかったんだけどね。」
充三と四葉は顔を見合わせた。
「何で先生がそんなこと?」
「犯人はまだいるからだ。」
僕は五十嵐に言った。
充三と四葉は顔を見合わした。それから僕を見た。
「まさか、ポチが?」
僕を見て怪訝な顔をしたのだ。
「バカか。ポチじゃねぇよ。」
皆一斉に廊下を見た。
すると英二が廊下からひょっこり顔を出した。
やっぱり。
「ご苦労。」
英二は笑った。
「どういうこと。」
「だから言っただろ?おまえら次第だって。」
つまりこれは、事件などではなく部室が貰えるかどうかという試験だったのだ。
充三と四葉はブーイングした。
「にしても英二、ポチは凄いな。事件を解いた上に、それが作りものだって気が付くとは。」
「だてに同好会してませんよ。」
英二は胸を張った。
「でも、鍵閉めるなよ。ややこしくなっただろ。」
「つい閉めちゃったんだよ。癖で。それにシイサンが予想より早く部室前にいたから、開けるに開けられなくなって。」 やはり、予定外だったらしい。
「まあ、これで部室を与えることを許可しようじゃないか。」
「……ふざけんな。」
英二、充三と四葉も喜びかけたのを僕の小言は止めていた。
「…ポチ?」
「なにが試験だよ。英二、こんな悪趣味。」
「なんだよ。初めから気づいてたんだろ。ポチは。」
「そりゃ先生の妙な態度と、頭を怪我してるはずなのに気を使わない運び方を見れば嘘だと思うよ。」
英二はやっぱりかと言う目つきで五十嵐を見た。
五十嵐は頭を掻いている。
「その上、本を盗んだり、わざわざお互いを疑わせて。やっていいと思ってんの。先生として。」
話している内にだんだんとイライラしてきた。
「怪我してるかもしれないのに笑ってんのも、謎解き見て楽しんでんのも気に入らないよ。」
気に入るかの話ではないと自分で思った。
「こんな部活ならやりたくありません。」
「……ポチ?」
英二は慌て始めた。
それもそうだ。
一人辞めれば部活は同好会になり、当然部室もなかった話になるのだから。
五十嵐も落ち着けと部室の入り口を塞いでいる。
「考え直せ。たかがジョークだろ?」
「何がジョークだ。」
僕はそっぽを向いた。
充三は本を集めている。
「でも面白かったよ。ミステリーを実際に体験したみたいで。」
英二は充三に握手をすると僕を見つめた。
「やっていいことと悪いことがあるよ。」
僕がぼそっと言ったのを四葉聞きつけて笑いだした。
五十嵐は四葉を見た。
英二はまだ僕を見ている。思わず顔を伏せた。
充三も笑いだした。
英二は充三から手を離すと僕に向かって跳んできた。
「ごめんよー!ポチ!」
「やめろっ!」
僕は思わず悲鳴を上げた。
英二は、まるで犬をあやすように絡んできた。
五十嵐は四葉を見ている。
「ポチはただ英二が心配だったんだよ。」
四葉が言った。
僕は英二に寝技を掛けられ、ギブアップをしていた。
五十嵐は黙って頷いて、壊れたドアにもたれながら、それを眺めていた。
そんなわけで結局僕らはこの部室を手に入れ、部活動が始動した。
この出来事が皆、余りに楽しかったみたいで、実際に体験するミステリーは部員の手で何度か行われたし、また英二と五十嵐は、悪巧みをしそうな気がするが、まあ、それでもいいとも思う。
勿論、どれも嘘と解っている前提でだけど。
さて、これで僕らの部活がどんな部活か解ってもらえたと思うんだ。
どんな人がいるのかもね。
そこでもし、こんな変な部に興味があるんなら、気軽に部室を覗きにきてくれよ。
鍵は…例によって開いているからさ。
そしたら歓迎するよ。
……僕ら全員でね。
ようこそ。
僕らが【ミステリー倶楽部】へ。
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