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幸せな時間
作:深水晶


 コポコポコポ。静かな部屋に響く、珈琲メーカーの湯が沸く音。
 幸せな音だ。私は湯気を立てるそれを、じっと見つめている。
「お前は変なものが好きだね、アイ」
 ご主人様は、私の頭や背中を撫でながら言う。
「何が楽しいの?」
 だって幸せなの。幸せな音なの。
 だってご主人様はいつもこの音がする時、私を膝の上に抱いて撫でてくれるから。
 私は喉を鳴らして、ご主人様に頬をすりつける。
 もっと私を愛して。私を見て。
 何処にも行かずに、そばにいて。
 私だけを愛して、可愛がって。
「お前は本当に可愛いよ。愛しているよ、私の子猫」
 ご主人様は、愛しげな顔と声で言ってくれる。
 私は鼻をすりつけ、小さく鳴いた。
「にゃああぁん」
 優しくて幸せな時間。
 ねぇ、ご主人様。そばにいて。私を抱いて可愛がって。
「お前がそばにいる時が一番幸せだよ」
 そう思うなら、ずっといて。私のそばにずっといて。
 私を一生離さないで。
 珈琲が出来上がるまでの時間、毎朝ご主人様は私を抱いて、撫でてくれる。
 なのに珈琲が出来上がると、それをパンをかじりながら飲んだ後は、慌ただしく出掛けてしまう。
 ご主人様は嘘つきでつれない人。
 週に何回かしか私のそばにいてくれない。
 だけど良いの。だけど幸せなの。
 毎朝、どんなに忙しくても欠かさない、この幸せな時間があるから。
 どうか私を愛して、ご主人様。
 私はご主人様が大好きです。
 本当は出掛ける先にも連れて行って欲しいの。
 だけどご主人様を困らせたくないから、我慢してるの。
 いつまでも私を、私だけを愛していてね、ご主人様。
 じゃないと死んでから化けて出ちゃうよ?


The End.


子猫とご主人様のお話。
読み方によっては、可愛らしい話にも恐い話にもなるはず。
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