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間抜けな陰謀(続)
作:ダストブランチ



第8話 偶然


カフェテリアは既に、人でごった返していた。金曜日の授業はかったるい。
誰もが週末を期待して、早く帰宅しようと待ち構えているからだ。だから、いつもより長々とカフェテリアで居座っている連中が多い。ステファンとジョンはトレイを手にすると、早速、キッチンの前で並んでいる列に加わった。
「ベークドポテトにベークドビーンズ、それにLargeのソーセージ一本」ジョンは仲良しのコックのルイーズにそう注文した。
「今日は珍しいんじゃないの、二人とも。こんな時間に食べに来るなんて」ルイーズはふふんと笑った。二人がいつもなら昼のチャイムがなると、速攻でカフェテリアにやって来るのをよく知っていたからだ。
「マジでエッセイ、仕上げねえといけないんだ。だから、ちょっと図書館でリサーチしてたのさ」ジョンはケチャップとマスタードをソーセージの上にたっぷりとかけながら、そう答えた。
「あら、あら。急に卒業する気になったの?そりゃ、さびしいわね、My dear」
「よせよ、ルイーズ。からかうんじゃねーぜ」ジョンは子ども扱いされてちょっとムッとしたように言い返した。ルイーズは気にする様子もなく、手際よく注文の品を皿に入れると、ステファンの注文を目で催促した。
その時、たまたまステファンの目の端にリリアンの姿が映った。
「えーっと、俺はピザでいいや」急にステファンの身体に緊張が走る。
「どれにするの?パイナップル&ハム?それとも、ベーコン&ソーセージ?」ルイーズはかしこまった様子のステファンをいぶかしげに眺めながら、ぞんざいに聞いてきた。
「じゃ、ベーコンの方」言葉少なに答えながら、ステファンの全神経はリリアンの一挙一動に集中している。何人かの友人達に挨拶を交わしながら、リリアンは少しずつステファンの方に近づいてくる。その卵型のほっそりとした顔の周りに、ブラウンがかった髪をふんわりと巻きながら、リリアンはその日、その緑色の目に合った髪留めを両方のこめかみ辺りに留めていた。彼女はいつもはそれほど華美なおしゃれをしているわけではないのだが、その時、ステファンの心にその髪留めの印象が妙に残った。
―もしかして、ネイサンが贈ったもんじゃないだろうな。ステファンはつい、疑心暗鬼になってしまっている自分に気づいた。
リリアンの友人で、一緒にこっちにやって来るベティーは陽気でおしゃべり好きな性格で、いつも誰にでも気兼ねなく話し掛けてくる。ジョンを見つけると、ベティーはいつものごとく、話し掛けてきた。
「あら、ジョン。教室で見かけなかったわね。もう、エッセイは出来たの?」
「今、リサーチしてるとこさ。そっちはもう、出来たのか?」ジョンはベティーに答えた。
「まぁね。私達は共同作業だったから、すぐに仕上がったわ。そっちも共同作業になったの?」ベティーはステファンの方を見て、そう聞いてきた。ステファンはなるべくリリアンの顔を見ないようにしていた。だが、リリアンはステファンのそんな緊張を知るはずもなく、軽く微笑みながらベティーとジョンのやり取りを傍で聞いている。
「いつものことさ。で、そっちは何、書いたんだ?」ジョンはちょっと探りを入れた。
「ふふん。私達はJFKよ」ベティーが誇らしげにそう話すのを聞いたジョンとステファンは、密かにちらっとお互いを見合った。それには気づかず、ベティーはそのまましゃべり続けた。
「だって、暗殺から40周年記念でしょ。当然、皆の話題になるでしょうけど、これまでとはちょっと違った視点で書いてみたら、きっともっとユニークに見えるでしょ?だから、彼の恋愛嗜好と政治的嗜好をダブらせて書いてみたの。どう、結構、ナイスアイディアでしょ?だから、ドーソン先生だけでなく、どんな先生だって面白がって読んでくれるんじゃないかしら」
「JFKの恋愛嗜好?何じゃ、そりゃ?」それを聞いてジョンは素っ頓狂な声を出した。
「要するに、恋愛って人間の本質的な部分が出てくるでしょ?つまり、本音の部分が政治的にも影響するわけよ。だから、マリリン・モンローを始めとして、女性関係がすっごく派手だったって言われている、プレジデント・ケネディの恋愛嗜好っていうのは、政治にもちゃーんと現れてくる訳よ」ベティーはちょっと自慢気にそう説明した。
「マリリン・モンローがどう、政治的に影響してんだよ?」ジョンはお株を取られた気分なのか、冷めた調子で言った。
「してるわよ。だから、最後に殺されたんじゃない。彼女は何か知ってはいけない秘密に触れてしまうくらい、ケネディの政治的な部分に参入してたわけよ」ジョンに馬鹿にされたと思ったのか、ベティーは意気込んでジョンに反論してくる。
「ねぇ、あなた達は何を書いたの?」リリアンは横から仲裁するかのように話の矛先を変えようと、ステファンに振ってきた。
「・・・スーパーマンさ」ステファンはぼそっと、小さな声で答えた。
「えっ?」聞き取れなかったらしく、リリアンはいぶかしげにステファンをそのエメラルド色の目で見つめてくる。
「スーパーマンだよ。クラーク・ケントがアメリカの政治に及ぼした影響ってのを書いたのさ」ステファンは捨て鉢な気持ちでそう答えた。ベティーもリリアンもちょっと驚いたように互いの顔を見合わせていた。
「スーパーマンがどう、政治的に影響するわけ?」ベティーはジョンの反論を逆手に取って聞いてきた。
「だって、アメリカの象徴といやぁ、ヒーローだろ?その中で、スーパーマンはアメリカンヒーローさ。だから、イメージとしては、政治的にも影響している。大統領にもそういう、ヒーロー的な部分をアメリカ人の俺達は大体、求めているんじゃないかなって思ってさ。それに、スーパーマンってのは、呼んだらすぐ、現れてインスタントに問題を解決してくれる。だから、難しい問題をすばやく解決して欲しいって点においても、アメリカ人の多くが政治に求めている象徴と受け取れない事もないかなって・・・」ステファンは淡々と説明した。
すると、リリアンはにこっと笑って言った。
「確かにそうよね。とってもいい視点だわ、ステファン。私もそう思うわ」
「ふーん、なるほどね。で、ドーソン先生からのOKは出たの?」ベティーはジョンに言われた事がまだ気になるらしく、まぜっかえしてきた。
「・・・」そう聞かれて、ジョンもステファンもつい黙りこんでしまった。
「なんか、まずい事、書いちゃったの?もしかして?」
「まぁね。ちょっと俺がステファンのエッセイ、そのままペーストしちまったからさ・・・」ジョンは自虐的にそう、つぶやいた。
「で、どうするの?また、書き直すの?」気の毒に思ったのか、今度は優しくベティーはジョンに尋ねた。
「ドーソンは、一週間で別のエッセイを書けっていうからさ。だから、慌てて今、別のことをリサーチしてるのさ」ジョンはふてくされたように答えた。
「そうなの。でも、さっきのステファンの視点、とっても良かったから、残念だったわね。今度は上手くいくこと、祈ってるわ。じゃ、またね」リリアンはステファン達にそう言うと、ベティーと一緒にランチを注文しに行った。思わぬところでリリアンから誉められたステファンは余韻を楽しむように、去っていくリリアンの後ろ姿をしばらく見つめていた。












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