第23話 孤独な想い
紫織は七海にこれまでの経緯を話した。笠井がクラスの3人の少年とつるんでいじめをしてきたこと、斉藤と言う少年をターゲットにして、その少年が自殺未遂したことを淡々と語った。
七海は紫織の話に悲痛な顔をするとあまりの事実に絶句した。今の自分の記憶がないことで情緒不安になっている笠井に告げるには酷な事実だった。しかし、笠井が事実を受け止め、自分で乗り越えていくしかないのだ。たとえ、魔物が憑いていたと言っても周りには笠井に見えていたのだし、おそらく笠井の心にも魔物に憑かれるような隙があったのだろう。
しばらく七海はじっと無言で考えていたが、すっと顔を上げると真顔でまっすぐ紫織を見据えた。
「わかった。なにがあっても今度は笠井を支えるよ。今度は逃げない。」
紫織は深い海の底に光が届いたかのように蒼く透き通る瞳で七海の視線を受け止めると、七海の想いを汲み取るように薄っすら口元で笑った。それはほんとうに僅かな一瞬だった。しかし、七海はその一瞬を捉えて驚いた。七海は紫織が自分に笑いかけるのをはじめて見たのだ。確かにニッコリ微笑むと言うわけではないが、今確かに笑った。七海は急に照れくさくなって戸惑うような顔をすると恥ずかしそうに目を逸らした。
翌日、七海と聖護はコミュニケーション広場の片隅で1人うなだれている笠井を見つけた。笠井は随分やつれたようで正気がなく、二人が近づいても気付くことはなかった。七海は少し悲しそうな顔をしてじっと笠井を見下ろした。
「笠井…。」
何かに怯えるようにビクッとして笠井は恐る恐る顔を上げた。そして、七海の顔を見つけると訝しげな顔をする。なんで?と笠井の目がそう語っていた。その後ろにいる聖護に気がつくと笠井はひどく動揺して、目を逸らした。
「おまえに話がある。」
笠井は七海の話にビクッとして体を小さくして小刻みに震えた。七海はその様子に気付いて笠井の傍に近づく。そして少しの間、じっと笠井を見下ろしていたが、すっとしゃがむと笠井の背中に触れてやさしく話しかけた。
「瞬、大事な話なんだ。おまえの記憶の…。」
笠井ははっとして顔を上げると七海にすがるような目でじっと見上げた。
七海と聖護、笠井の3人は医務室にいた。
今から話す内容は人に聞かれないようにとの配慮で聖護が連れてきた。七海はと言えば、覚悟は決めたものの、いつもよりも緊張してこわばった顔つきで笠井の様子を伺っている。
「瞬…。」
七海が笠井の弱々しくすがってくるような目を視線で捉えた。
「今から言う真実はおまえにとって決していい内容じゃない。おそらく酷く辛い内容になる。それでも聞きたいか?」
笠井はしばらくじっと七海を見つめると、怯えながらも恐る恐る頷いた。
「でも、逃げるな。その事実に向かっていくと約束してくれ。」
笠井が不安げで悲しそうな顔をした。七海はすかさず、笠井の傍に寄ると笠井の肩に手を回して安心させるように背中をさすった。
「大丈夫。俺も居るから。」
そう言って七海は優しくにっこりと笠井に笑いかけた。笠井が不安気な表情で七海の顔をじっと見返す。静かな時が流れた。やがて笠井は覚悟をきめたのかゆっくりと頷いてつらそうに微笑んだ。
「ぼく、大丈夫だよ。どんなことでも…。自分のことがわかるなら。こんなちゅうぶらりんじゃ嫌だもの。」
七海はほっとした顔を一瞬したが、すぐに緊張して構えた。そして落ち着かせるように大きく呼吸をして、笠井に真顔で向かった。
「瞬、おまえ、魔物に憑かれていたんだ。」
「…。ま…もの?」
笠井は七海から思いもよらない言葉が発せられて不可思議な顔をした。七海は大きくうなづく。
「魔物だ。だから、その間記憶がないんだ。」
「魔物が憑いていた?」
笠井が繰り返して確認するように尋ねてくる。
「ああ…、そして魔物に憑かれたおまえは…クラスのやつらとつるんでいじめをやってたんだ。」
「いじ…め…?…ほんと?」
信じられないと言った風で聞き返してくる。七海はじっと笠井を見ながら頷いた。
「僕が…?いじめ…?」
笠井は呆然として、七海から視線をはずすと瞬きしないまま床をじっと見入っている。
「僕が…?」
笠井は絶句した。七海は少し不安気に顔をゆがませたが、笠井から目を離さずに様子を見ていた。
「ああ…、でも正確には魔物に取り憑かれたおまえがだ。」
「僕が…いじめ…そんな…!」
七海の言葉が耳にはいらないのか、笠井は両手で頭を抱えてうなだれた。七海は深くため息をついて近くにいる聖護に不安な顔を向けるとしばらく笠井の横に座ってだまって見守った。笠井は体を震わせ声を殺して嗚咽している。七海はもう一度そっと笠井の背中にやんわりとふれてゆっくりとなだめるようにさすった。その様子を聖護はじっとかたい表情で見守る。
「…おかしいと思った…。みんなが僕を見る目が違うんだ。僕は勝手にみんなが自分を認めてくれたからいじめられなくなったんだと思ってた。でも、今思えば、みんなまるで機嫌をとるみたいで…、そんなに居心地のいいものじゃなかった…。僕がいじめをしていたからなんだね…。」
「ああ、俺もおまえが変わってしまったような気がしておまえから離れたんだ。こんなことになってたなんて知らずに…。もっと早く気付いてやれればよかった。ごめんな、瞬。」
七海が笠井の背中をさすりながら、頭を下げると、笠井ははっとして顔を上げる。
「薫君、謝らないで…。君のせいじゃないもの。すべては僕…、自分の所為なんだ。僕が弱いからだよね…。」
涙をためながら、大きな瞳で七海に訴えかけてくる。七海は言葉を失いかけたが、呼吸を整えると笠井の両肩をつかんで真顔で言った。
「確かにおまえ自身がやったことじゃない。でも、世間ではおまえがやったことになってるんだからな。おまえが強くなって目の前の現実を乗り越えるしかないんだ。いいか、これを乗り越えられればいじめられてきた弱かったおまえ自身も乗り越えられるんだ。しっかり気をもて、瞬。」
じっと七海が笠井の瞳を見つめる。笠井の目はうるんだまま、七海にすがるような弱々しさをかもし出している。
「でも…、僕どうしたら…?」
「それはおまえが考えろ。俺達はおまえを支えてやる。でも、乗り越えるのはおまえだ。俺達じゃない。おまえがやろうとしていることを助けてはやれるけど、変わってやることはできない。おまえがやるしかないんだ。しっかり気持ちを持て、瞬。」
七海はまっすぐ笠井をみつめる。
「俺は幼い時からおまえが嬉しそうに花や動物の話をしてくるのがすごく好きだったんだ。俺の周りには大人しかいないしな。みんな自分の利益のために本心で付き合うやつなんかいなかった。笑いかけてくるのも、優しくしてくれるのも全部下心があるんだ。俺が会長の息子でいずれ跡を継ぐからだ。誰も本当に自分を愛してなんかくれてない。学校にいっても同じだった。会長の息子だからってみんな特別扱いだった。そんな風に腐ってたとき、おまえだけは違ったんだ。心からの笑顔で本当に嬉しそうに懐いてくる。俺は時々おまえと話をするのがすごく好きだったんだ。あの頃、友達といえるのはおまえだけだったんだ。俺はそうやって素直で屈託のない笑顔で笑えるおまえがうらやましかった。」
笠井は驚いたように涙で濡れる目を見開いて七海を見た。
「えっ?でも、いつも薫君は友達が一杯いて、みんなが一目置いていたよ。僕はそんな君がうらやましかったもの。時々話せるだけでとっても嬉しかった。それに、何度も助けてくれたこともあったし。君みたいになれたらいいっていつも思ってて…。」
「ちやほやされても、本当に心配してくれたり、怒ってくれたりはしないさ。付き合っておくと得になるって思ってるぐらいで。俺を見てるわけじゃない。みんな俺の後ろにある七海グループを見てるのさ。」
そう言って七海は寂しそうに笑った。
聖護は初めて見せる七海の本心に驚いた。自分はそんなことを考えたこともなかったし、興味もなかった。ただ、出会った頃、妙に大人びていてどこか突っ張っていて、隙を見せない、言い方が悪いが、かわい気のないやつだと思っっていた。確かに一見明るい性格で飄々として軽い感じがあったので、誰にもなじんでいるように見えた。しかし、その一方で聖護は何をしてもすり抜けていく、どことなく人を寄せ付けないそんな感じがしていた。付き合っていくたびにはじめの印象とは違って、ちょっと強がりで素直じゃないところもあるが、本当は人一倍情に厚く、繊細でやさしいやつだとわかってきた。
聖護はと言えば、たいていどこにいても常に周りは人であふれていた。性格上、曲がったことが嫌いな上、強い精神力と面倒見のよさでみんなに慕われていたのだ。それでもたいていみんなは自分を頼りにしてくるので、相談にのってやったり、守ったりすることが多かった。誰もが聖護に一目置いて信頼を寄せていた。しかし、聖護には、自分と対等でいてくれる友達が居なかった。この学院に来て七海と知り合い、一緒の時間を過ごすことで、常に七海だけが自分に対等で居てくれて、自分もいつのまにか構えず自然に自分らしさでつきあえるようになっていた。今では一番近い友達とさえ思えて特別な信頼を寄せていた。なんだ、俺もあいつも人に囲まれていながら寂しさを抱えていた同士だったんだと聖護は今更ながら理解すると口元でふっと笑った。
笠井はしばらくじっと七海を見ていたが、その瞳にしっかりとした光が宿ると頼りなさ気な顔がどことなく引き締まった顔つきに変わった。
「薫君…。ありがとう。僕、そんな風に思ってくれてる人がいるなんて初めて知ったよ。僕にもいいとこあったんだね。僕は、みんなみたいに強くないし、花や動物とは話ができても人と話をするのが怖くて、苦手だったんだ。僕の両親は早くになくなったから、叔父夫婦に引き取られたんだけど、みんなになじめなくて、いつもしかられてたんだ。それで、人が怖くて…。だから、学校でも、みんなとうまくなじめなくて…。無視しただのバカにしてるだのいろんなこといわれて、気付くとこづかれたり、ののしられたりしていて、だんだんエスカレートしてなぐられたりし始めたんだ。でも、僕は怖くて何も言えなかった。だまって我慢してやり過ごすようにするしかなかった。それでも、みんなのいじめはやまらなかった。そしていつか僕は自分は人に生まれたのが間違いじゃないかって思い出して…。人間になんて生まれたくなかったって、毎日神様を恨んだんだ。なぜ僕を人間にしたの?って。そしたら、ある時、夢の中で、僕が君の願いをかなえてあげる、もう何も怖くないよ、安心して、僕は君の味方だよっていう声がして…。」
「夢の中で?」
笠井はゆっくりと頷いた。
「それがだんだん頻繁になって、それとともにみんなの態度が変わって行ったんだ。」
「笠井、その声におまえは返事をしたのか?」
笠井と七海の後ろでじっと二人の様子を聞いていた聖護が割って入った。
「え?あ…、うん、たぶん。酷いいじめにあった時、助けて僕はなんでもするからと確かいった気が…。」
突然、聖護から声がかかって驚いた笠井は戸惑いながらも記憶をたどって話をした。
「その時だな。」
聖護が手を顎にやり、何か考えるように視線を左にやった。
「その時って?」
七海訝しげな顔をして聖護に聞き返した。
「それが契約になったんだよ。魔物は餌にするときはいちいち契約を取らないが、利用するときは契約するんだ。しかし、それには恐ろしいつけがある。魔物が人間たちを苦しめることでその契約した人の魂は悪しき思いで膨らんでいくんだ。それが熟しきったところで魔物が餌食にするんだ。おそらく、笠井に魔物が取り付くことでいじめを通して笠井の魂に悪しき思いを増幅させていったんだ。」
聖護の話に笠井は身震いした。
「じゃあ、僕はそのうちたべられちゃったってこと?」
聖護は笠井をじっと見て頷いた。その時七海がはっとした。
「もしかして、その前にあいつが気付いて瞬を助けたってことか。」
聖護は今度は七海を見て頷いた。
「でもどうやって…。」
「正確には紫織じゃない。別のやつだ。笠井についた魔物は魔王を目覚めさせてしまったのさ。」
聖護は苦虫をつぶすような表情でもう一度頷いた。
「魔王?」
七海が怪訝な顔で聞き返す。
「ああ。魔王はそれに怒って笠井に憑いていた魔物を抉り取って消してしまったんだ。俺はその時その場にいた。でも、それから、やつは消えてしまった。それが笠井が気付いた時だ。」
聖護は紫織の中に魔王が眠ることだけは二人に伏せておきたかった。
「ああ、あの時…。」
笠井は台風で窓ガラスが割れて風と雨が激しく降り込む講堂で、聖護に起こされた。なぜそこにいるのかもわからないままその場を去った。でも、それからみんなの反応や話していることがおかしいと思い始め、自分の中で記憶がとんでいる部分があるのではないかと思うようになったのだ。
「あ…、そういえば、人が…、もう1人たおれてたよね。あの人は…?」
「あいつはおまえに魔物が憑いていることに気付いておまえを助けようとしたんだ。でも…。」
「やられちゃったの?」
笠井は心配そうに大きなめで訴える。
「…ああ、ちょっとショックを受けただけだから、大丈夫だ。今は元気にしてるよ。」
聖護はやや困ったようにその瞳に答える。
「ほんと?よかった…。僕、その人にもお礼を言わないといけないね。」
笠井がほっとしたように笑うとその様子に聖護も七海も少し表情が和らいだ。さっきまでの沈んで弱々しい笠井から、いつのまにかもとの明るさを幾分取り戻し、素直で優しい笠井にもどっていた。
「ああ、また、今度な。瞬が元気になったらいつでも会えるさ。」
七海は笠井に優しく微笑みながら声をかけると笠井はもう一度笑顔で微笑んだ。聖護はそろそろだなと二人に近づくと、七海が再び顔をこわばらせた。
「笠井、おまえ、斉藤と言うやつを知っているか?」
七海の顔が緊張したのを見て笠井は一瞬顔を曇らせた。
「えっ?あ、うん。話したことはないけど…。そう言えば彼は僕をみると怯えたような顔して避けられていた気がする…。…もしかして…、その斉藤君を僕はいじめて…いたの?」
笠井ははっと気付いたように聖護に不安気に尋ねる。聖護は笠井をじっと見てやや難しい顔をして頷いた。笠井はまた固まった。
「ああ、残念ながら、おまえが察するとおりだ。しかも…。」
聖護がその先を話そうとしているときに七海が割ってはいる。
「瞬、気をしっかり持てよ。斉藤はな、魔物に憑かれたおまえや仲間に追い詰められて、屋上から飛び降りようとしたらしい。」
「え…?」
笠井は息が止まるかと思った。
「あっ…はあっはあっ…うっ…っく…!」
急に呼吸が乱れて、うまく息が出来ず、発作のような症状を起こした。
「瞬っ!大丈夫かっ?瞬っ!」
聖護は急いでドアの外にいる涼子を呼んだ。
「諏訪先生!笠井が!ちょっと来てください!」
聖護があわててドアを開けて叫んだので涼子は驚いたが、何かあったのをすぐに察知して走って休養室に飛び込んだ。そこでは、七海が笠井を抱えて名前を呼びながらうろたえていた。
「七海くん、彼をその場に寝かせて!」
そう叫ぶと涼子が走って傍に駆け寄る。どうやら過呼吸らしい。
「笠井くん、落ち着いて。大丈夫よ。ゆっくり呼吸を整えましょうね。少しおどろいたのね、呼吸のリズムが乱れただけよ。そう、ゆっくり呼吸を整えて…。…そう、もう大丈夫よ。」
笠井はさっきの苦しそうにしていた表情から少し穏かになって呼吸も静かになった。
「七海くん、ちょっと力を貸してくれるかな。笠井君をそこのベッドに寝かしてあげて。」
七海は言われたとおりに笠井を抱えてベッドに寝かせた。
「ごめんね。薫君…。もう大丈夫だから…。」
「俺こそ、ごめんな、唐突に変なこと言って…。」
七海は心配そうに笠井を見つめた。
「ううん。変に隠してほしくないから、良かったよ。それで…、斉藤君は?」
「大丈夫だ。今は自宅で療養している。」
七海の後ろから聖護が安心させるようにしかっりとした声で答えると、笠井は聖護の言葉にほっとして息を吐いた。
「そう…、よかった…。無事で…。」
笠井はふっと自虐的に笑った。
「そうだよね、いじめていたんだもの、それによって傷ついている人がいるに決まってるのにね。僕はいじめをしていた事実にばっかり気がいって、いじめられてた人がいたことにまったく気付いてなかった。自分がいじめられてたくせに…。」
そういうと顔をゆがませて身体を丸めてシーツの中に顔をうずめた。笠井の体は小さく震えている。泣いているのだ。
「瞬、泣くな…。いじめの事実を聞くだけでもショックだったんだ。そこまで考えれなかったのはしかたないんだ。自分を責めるな。」
七海は笠井の頭をなでながら笠井をいたわるように話しかけた。
「笠井…、斉藤に会ってみないか?」
突然の聖護の言葉に、笠井は動きを一瞬とめて、ゆっくりと涙で濡れた顔を上げた。
「え…?なん…?…だめだよ。きっと僕を怖がってるもの。僕を見るだけでいやな記憶がよみがえるはず。僕もそうだったもの。いじめられたやつらを見かけるとそれだけで、背筋が寒くなって吐き気がした。また、嫌なことされるんだと思うと死にたくなるぐらい…。」
笠井は苦しそうにいじめられていたときの思いを吐き出した。
「大丈夫。斉藤は君に会いたいと言ってるよ。」
後ろから細く透明な声が響く。そこにいる全員が声のするドアの方を見た。そこには清麗で慈愛に満ちた微笑を浮かべた紫織が澄んだ蒼い瞳で笠井を見ていた。まるでそこに女神が現れたように全員の視線が釘付けになった。
「紫織?おまえ、いつの間に…。」
紫織は聖護に一瞬視線を向けると聖護の言葉を受け止めるようにゆっくりと頷いた。
「斉藤は真実を知ってるよ。僕が話した。はじめは彼も疑ってた。でも、だんだん心が癒えてくると落ち着いて考えるようになって、最近では君に会いたいと言ってる。君は加害者じゃないし、彼も君の被害者じゃない。こんな特異な事件にまきこまれてしまっただけ。君達は魔物が起こした事件の被害者なんだ。同じ思いも共有できるはず。お互いに前に進むためにも、彼に会ってみてはどう?」
笠井は吸い込まれるように蒼い瞳をじっと見つめたまま、黙っている。紫織はその笠井の視線を黙って受け止めていた。やがて、笠井が頷いた。
「うん。そうだね。このままじゃ、前に進めない。僕、斉藤君に会ってみるよ。」
紫織はそのことばを受け取ると、再び薄っすらと高貴で清らかな微笑を浮かべた。
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