お茶の国から召喚されました
「貴女が最年長です。」
にこやかにそう告げるのはこの国の麗しき騎士団長様である。
「・・・帰ってもいいですか?」
思わず出た言葉は瞬殺され、きらびやかな部屋に押し込まれました。
コトの発端は・・・というより
実はわたし、30過ぎて異世界トリップなんぞしまして
特に逆ハーイベントもチート能力もなく、静かに森に降り立ったわたしは近くの村に保護されました。
すでに適齢期を過ぎていたというのもあって
偏屈と言われながらも、気ままな独身生活を送っていたのですが
ある日私の店を訪れた騎士様が
「出頭を命じる。」
と、問答無用で私を拘束し、王都へと護送。
城の離宮ですまきから開放されたわたしに告げられたのは后候補という荒唐無稽なお話。
なんでも独身の女性すべてがこの離宮に集められたのだとか。
たまたまこの異世界には戸籍制度がありまして
異世界人のわたしも村長さんの尽力により、戸籍を得ていたのが仇になったようです。
まぁ、わたし以上の年齢で未婚の女性もいるとは思うんですが
なぜかその方達はココに連行されるという不名誉は免れ
たまたま仕事熱心な地域担当の騎士様のせいで、わたしが恥をかく羽目になったということです。
「なぜ溜息をつくんだ?」
思い出して溜息をついたわたしにふんぞり返ってカップを突き出したのがこの国の王子様です。
いくらでも適齢期のきれいなお嬢様方がいるというのに
この王子はいつもわたしのところにお茶を飲みに来ています。
緑茶が気に入ったそうです。
カップで飲むなんて邪道だと思いますが、湯飲みが存在しない上高そうな茶器を差し出されたら黙るしかありません。
「店が心配になったんです。」
辺境の村とは言え、行商の方や冒険者やらがよく訪れていた為
わたしの茶屋はそれなりの収入を得ていました。
森に群生していたお茶と小豆様々です。
「隣国の第二王子がお忍びで通ってたとかいうあの茶屋か。」
「・・・そんな事実はありませんが、休業が長いと客が離れるじゃないですか。」
確かに最近はなんだか上質な服を着た冒険者っぽい人が通ってましたが
そんな話は初耳と言うか、ありえないので否定します。
それよりも一人で切り盛りしていたので、休業している間に常連客がよその街道の店に流れるのではと危惧しています。
「・・・そうだな、そんな事実はないな。」
おかわりの緑茶をすすりながら、意味深な笑いをする王子にうんざりしてきます。
いつもこの王子は思わせぶりというか、疲れる態度をとるというか
正直さっさと后を決めて、この離宮から開放してほしいんですが。
「そうだ。とうとう最終選考に入ったぞ。」
「やっとですか。」
溜息を再びついたわたしに王子がにやりと笑いました。
はっきり言ってむかつく笑い方ですが、内容が喜ばしいことなので許すことにします。
「お前が急かすからな。仕方ない。」
「申し訳ありません。ですが、わたしもいい加減解放されたいんですよ。」
可愛いお嬢様方に30過ぎのオバハンとののしられ続けた為、見事引きこもりになりましたが
ようやくこの軟禁生活からもオサラバかと思うと不思議と寂しい気もしてきます。
こんな気楽な会話をしてきましたが、相手はやんごとなき王子様ですからね。
后を娶られれば、二度とお会いすることもないでしょう。
この経験も時が経てばいい思い出と昇華され、茶屋で昔わたしは・・・と語るコトになるかもしれません。
「俺もいいかげん、腹をくくったのさ。」
「それはよかった。どなたに決められたか知りませんが、きっとお相手はすばらしい女性でしょうね。」
「・・・ああ。」
心なしか去り際の王子が肩を落としたかに見えたのは
わたしの寂しい気持ちが見せた幻想なのか。
王子もわたしと同様にこの友情とはいえないまでも、それなりの関係を寂しいと思ってくれたのならいいのですが
※ ※ ※
「・・・・・どういうことですか?」
呆然とするわたしの前にはいつぞやの麗しき騎士団長様です。
いい笑顔に普通なら赤面するところですが、わたしにはいつも憎しみしか浮かびません。
「ですから、貴女は最終選考まで残ったと言っているのです。」
おめでとうございます、じゃねええええええええええええええって叫びたいです。
わたしが引きこもってる間に数がかなり減っていた候補者たちがすごすごと引き上げていく中
帰る気満々だったわたしの荷物と両腕を拘束している騎士様たち。
「・・・・・どういうことですか?」
「ですから、貴女は・・・いい加減腹をくくったらいかがですか。」
溜息も麗しくて、バックに花が見えそうです騎士団長。
しかし言っている言葉をわたしは理解できない、と言うか理解したくありません。
まさか!
公爵令嬢だの、隣国の巫女姫だのに混じって!
30過ぎの異世界人が候補に残るだなんて!
「貴女に拒否権はありません。諦めてください。」
※ ※ ※
「熱を出したと聞いた。」
「・・・。」
「食事もまともに取ってないらしいな。」
「・・・。」
「付けた侍女も追い出したというではないか。」
「・・・。」
「おい。」
「頼む。」
「顔だけでも見せてくれないか。」
王子が絶賛懇願中ですが、知りません。
奴は合鍵を使い、バリケードを突破してきたのです。
わたしはと言えば、現在布団に潜り中。
というか力技でめくられそうになったので、芋虫みたいに布団に包まってます。
正直、ハンガーストライキ中なのでつらいです。
なんか王子は泣いてそうな感じでかすれた声をしてますが、わたしの方がよっぽど泣きたいです。
てか泣いてましたが、水分が足りないのかもう出なくなってしまいました。
つれてこられてたときも問答無用でした。
たしかにこの世界では身分が絶対。
ヒエラルキーの頂点である王族には逆らえないのかもしれません。
ですが、わたしの意志を無視して嫌がらせのように最終候補に残すなんて・・・。
正直王子に感じていた友情はわたしの一方通行だったようです。
最初は王子と気付かず、来る度に茶を振舞ってきたかつてのわたしを問い詰めたい。
「許せとは言わない。」
グェっと声が出そうになるのを慌てて抑えます。
布団の上に王子がのしかかったのか重みがかかり、声が近いです。
じんわりと伝わる人の熱にこの布団は豪華な見た目ではありますが、薄いコトを思い出しました。
「お前と離れたくないんだ。」
王子は友情を惜しんで、このような選択をしたようです。
茶を飲みながらの楽しい思い出を思い出したわたしは
思わず芋虫から脱皮を果たしたのですが
わたしを待っていたのは輝いた笑顔の王子とめくるめく官能の世界でした。
あれ?
タグ選びとあらすじ書くのがどうも苦手です。