挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

子供が泣きそうな桃太郎

作者:柊ゆう
 むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川に洗濯に向かいました。お婆さんが川で洗濯をしていると、大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。

 お婆さんはお爺さんと一緒に食べようとその大きな桃を家へと持ち帰り、お婆さんから桃を受け取ったお爺さんは「えいや」という掛け声のもと桃を二つに割ると、そこから小さな赤ん坊が現れました。

 桃から生まれた赤ん坊は桃太郎と名付けられ、お爺さんとお婆さんに育てられすくすくと成長し、やがて人々を苦しめている鬼を退治する為、鬼ヶ島へと向かうのでした。





「帰りたい。今すぐお家に帰りたい」

 初めまして、桃太郎です。お爺さんとお婆さんと三人で仲良く暮らしておりましたが、この度、この辺りを治めているお殿様に呼び出されて人々を苦しめる鬼を退治して参れと鬼退治の命令を仰せつかりました。妖怪退治どころか喧嘩すらしたことのないモヤシっ子の僕になんて命令を下しているのでしょうか。

「とはいえ拒否権はないし……どうしよう」

 こんな命令が下った以上、お爺さんとお婆さんを巻き込むわけにもいかず、桃太郎は一人で鬼ヶ島へ向かうべく山の中を歩いておりました。桃太郎は鎧兜のようなものは身に着けておらず、持ち物と言えば身に着けている麻の服と、お殿様のお城へ向かうということでお婆さんにお弁当として作ってもらった黍団子のみ。その黍団子も途中でお腹が空いて食べてしまい、手元にはたった三つしか残っていなかった。

「こんな状態で鬼退治なんてできるわけないよ」

 がっくりと肩を落としながら、それでもお殿様の命令に逆らう訳にはいかず、大きな山の先にある鬼ヶ島へと向かう桃太郎。山の中を歩いてしばらくすると、草むらの中から「ワンワン」という鳴き声が聞こえてくる。

「犬?」

 「ワンワン」という特徴的な鳴き声から草むらのなかにいるのは犬だと察する桃太郎。「ワンワン」と元気の良い鳴き声と共に飛び出してきたのは――。

「ワンワン! お話は聞かせて頂きましたワン! お腰につけた黍団子を一つくださいワン! 代わりに私も鬼退治のお供をさせて頂きますワン!」

「あの……犬ですよね?」

 草むらから現れたの者は間違いなく犬の容姿をしている。しかし、四足歩行ではなく二足歩行で歩き、着物のようなものを身に纏い人間らしい振る舞いをしている。犬と言われれば犬だが、人間と言われれば人間。犬人間さんだろうか?

「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 桃太郎は犬の顔をした人間に名前を伺うと。

「ワンワン! 私は犬神と申しますワン! 呪詛が得意ですワン! 相手を苦しみ悶えさせて殺したい場合は言ってくださいワン!」

 犬神
 憑き神の一種とされる妖怪。
 強力な呪詛の力を持ち、取り付いた相手を呪い殺す。

「鬼よりもよっぽど不味いものが現れたんですけど」

 鬼退治の仲間としては心強いが、鬼よりも放っておくと不味い存在に冷汗をかく桃太郎。とはいえ武術の心得がなく、陰陽師のように物の怪を退治する力もない桃太郎がどうこうできる相手ではない。桃太郎は諦めて黍団子を犬神に差し出すと、犬神は喜んで黍団子をパクリと口に放り込む。

「ありがとうですワン! 約束通りお供させて頂きますワン!」

「……結局君は犬なの? それとも妖怪なの?」

「わんわんお! わんわんお!」

 鳴き声を上げて走り回り自分は犬だとアピールする犬神。犬をお供にした桃太郎。彼はこれは犬なんだと自分を納得させて山を歩いて鬼ヶ島へと向かう。しばらくすると今度は「ウッキー」という鳴き声が聞こえてくる。

「猿かな?」

「ワンワン! 猿のにおいがしますワン!」

 桃太郎は鳴き声から猿と推測し、犬神は自分の鼻で猿だと確信する。鳴き声のする方向へと向かっていくと、そこには岩山に押しつぶされた一匹の猿がいた。

「ウッキー! 誰か助けてくれ! お礼は何でもするからこの大岩を退けてくれ! キキー!」

 駆け付けた桃太郎の姿を見て助けを求める猿。猿を押しつぶしている大岩にはお札のようなものが張られており、物理的に押しつぶしているのではなく封印を施されているように感じる。

「あの、すみません」

「キキー! 早く助けてくれー! なんでも、何でもするから!」

「その前にお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「孫! 孫悟空だ! キキー!」

 孫悟空
 西遊記の登場する猿。
 仙術や神通力を操り、キン斗雲に乗って空を飛ぶ言わずと知れたキャラクター。

「鬼退治の仲間としては心強いけど、ちょっと過剰戦力過ぎない?」

 退治どころか殲滅してしまいそうな戦力になりつつある鬼退治パーティ。桃太郎の戦力が零に等しいので、つり合いが取れていると言えば取れているかもしれないが、この猿一匹でどうにでもなりそうな気がする。

「桃太郎さん、桃太郎さん! あのお札を剥がせば封印は解けますワン!」

「解いて良い封印なのこれ?」

 封印されている以上、何かしら悪さをしてここに封印されているはず。勝手に封印を解くのは不味いのではないかと考える桃太郎。

「キキー! ここまでされる悪さはしてないッキー! ちょっと神界の女神たちの湯浴みを覗いてただけだッキー!」

「アウトかな?」

「アウトですワン」

 むしろこの程度の封印で済んで良かったのではないだろうか? 過激な女神さまがいればそれこそその場で神罰を下して黒焦げにされてもおかしくないことをやらかしている。

 とはいえ、流石にこのまま岩山に封印されているのも可哀そうだと思った桃太郎は、岩山を登って封印のお札を解く。すると、パッと岩山は消え失せて孫悟空の封印は解かれた。

「ありがとうだッキー! 鬼退治のお供をさせて頂くけどお腹が空いて力がでないッキー! お腰に付けた黍団子を一つ分けてくださいッキー!」

「まぁ、こんなものでいいなら」

 桃太郎は黍団子を孫悟空に一つ差し出すと、孫悟空は喜んで黍団子を口に放り込む。猿をお供にした桃太郎は山を歩いて鬼ヶ島へ向かう。しばらくすると今度は「ケンケン」という鳴き声が聞こえてくる。

「……鳥?」

「たぶん雉ですワン!」

「キキッ! 鳥の鳴き声を聞き分けるのは難しいッキー!」

 鳥の鳴き声、犬神曰く雉の鳴き声が聞こえた。「ケンケン」という鳴き声と共に一羽が空を飛びながら桃太郎の前へと現れる。

「ケンケーン!」

「本当に只の雉なんですけど」

 「ケンケン」という鳴き声のみ発する雉に困惑する。今までに出会ったお供がだいぶズレていることもあって、やっとまともなお供に出会った……と言いたいところだが登場したのは対話すら困難な相手。

「ケンケーン!」

「あ、こら!」

 雉は桃太郎の懐へと飛び、素早く腰に付けた黍団子を加えて大空を舞い飛び立とうとする。しかし――。

「貴様! 桃太郎さんに何をする!?」

「命が惜しくないと見える、ここで屍をさらせい!!」

 黍団子が奪い去られる光景を目の当たりにした犬神と孫悟空が怒りの声を上げる。犬神がブツブツと呪詛のような言葉を呟くと、空を舞っていた雉がピタリと空中で止まる。そこへ向かって孫悟空が手に持った棒を思いっきり雉へと叩き込む。雉は遥か彼方へと殴り飛ばされて空に輝く星の一つのようにキラリと光って消え失せた。

「さぁ! 桃太郎さん、鬼退治に向かいましょうワン!」

「キッキー! 鬼なんて目じゃないッキー!」

「アッハイ」

 お供の犬と猿に連れられて桃太郎は鬼ヶ島へと向かう旅を再開する。二人に引っ張られて山を歩く桃太郎の目に光はなかった。





 やがて桃太郎一行は鬼ヶ島に到着する。途中、広い海を渡ることとなったが船がなかったので孫悟空のキン斗雲を使って鬼ヶ島まで渡ることになった。

 やっとこさついた鬼ヶ島。そこに待ち受けていた光景は――惨劇そのものだった。

「お願いします! 許してくださいなんでもしま、アァアアアア!?」

「もう悪さは致しません! だからお助けェエエエエエエエエエエ!!?」

 勇んで鬼ヶ島に乗り込んだ犬と猿によって鬼ヶ島は殺戮の場と化す。最初は余裕たっぷりだった鬼たちだったが、犬神の呪詛と孫悟空の怪力と仙術によってたちまち窮地に陥ることになり、降伏しようと許しを請うも二匹はその言葉に耳を傾けず、次々と惨劇の海を広げていく。

「もうどっちが鬼かわかんねーなこれ」

 積み上げられた鬼の骸の山を見て桃太郎は取り返しのつかないことをしてしまったのではないだろうかと思い始めるが、こと既に遅し。

「差し出せぇええ! 桃太郎様にすべてを差し出せぇええ!」

「国も宝もすべてだ! すべてを差し出せぇええええ! すべては桃太郎様の為に!」

「あいつらの狂信が怖いです」

 いつの間にか「さん」付けから「様」付けに変わっていることにも恐怖を覚える桃太郎。一刻程経つと鬼は全滅し、後に残ったのは鬼の骸と、一人と二匹。

「桃太郎様! すべて終わりましたワン!」

「さぁ! 次のご命令をッキー!」

「えぇ……」

 桃太郎に捧げられる謎の狂信。鬼退治が終わったことで桃太郎がこの鬼ヶ島にいる理由は特になく、彼の望みはお殿様にこのことを報告して、またお爺さんとお婆さんと三人で仲良く暮らすこと、ただそれだけだ。

 できればこの危険生物たちからも縁を切りたいところだが、狂信の輝きに満ちた目を見る限り、ちょっとやそっとでは縁を切れそうにない。そこで――。

「うーん、そうだな。じゃあ綺麗なお嫁さんを連れてきてくれないかな」

「お嫁さんですかワン?」

「うん、何十年……いや、何百何千年かかってもいいからこの世で一番綺麗なお嫁さんが欲しいな」

 切っても切れそうにない縁だったので、今後しばらく関わらないで済むような命令を下す。世界は広い。世界で一番綺麗な嫁を探すという無茶ぶりを下して彼らが捜している間に、お爺さんとお婆さんを連れてどこか遠い所へ引越ししようと画策する桃太郎。しかし、お供の二人は桃太郎の想定通りの働きをしなかった。

「わかりましたワン! この世界のすべてを支配して、全世界の美女を集めて一番綺麗な女を桃太郎様に娶らせるワン!」

「まずは近隣のお城を攻め落とすッキー! お姫様を強奪してここに連れてくるッキー!」

「えっ! ちょっ! まっ!」

 お供の中で桃太郎の命令がどう処理されたのかは不明だが、彼らは世界を征服することに意気込みを見せはじまえる。桃太郎は慌てて先ほどの命令(ここまで酷い命令にした覚えはないが)を中止させようとする。

「「行ってきますワン(ッキー)!」」

「待って! お願いだから待ってぇえええええええ!!」

 無情にも犬と猿は鬼ヶ島を飛び出してしまう。桃太郎は鬼の死骸がさらされている惨劇の場に一人ポツンと取り残されることになった。

 しばらくして桃太郎王国と人類最後の国と鬼の連合が世界の覇権をかけてぶつかることになる。最後に残った国は、はたしてどちらなのか。その先はあなたの想像にお任せするとしよう。

 めでたしめでたし。




「っていう劇を今度、園児たちに向けてやろうと思ってるんだけど、どう思う?」

「子供たちが泣くからやめろ」

 めでたしめでたし?

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ