第5小節 Bメロ 1句
第5小節 Bメロ 1句
幼馴染み。その関係をご存知であろうか?
幼い頃から馴染みのある相手の事を指す、正にそのままの言葉だ。俺にもそのような関係に当たる人間がいる。
だが、ここ数年全く口を聞いていない。何故かというと、まぁ親同士の喧嘩が原因だろうと俺は考えている。全く、困ったもんだな。
話をちゃんと出来るかも怪しい状況だよな。俺は不幸人なのだろうか……いいや、でも由架や貴明に会えた事を考えると幸福者なのだろう。そこは俺もそう思う。
学校生活は今日も問題なく回る。平凡すぎて騙されている気分になる。こんな生活を送っていていいのだろうか……そんな事を考えるようにもなった。
授業はいつも通り手につかず、どうしたものか、と脳を回転させて考えた。だが、これといって納得のいく素晴らしい考えは思い浮かばず、ただただ時間が俺を見て笑うように過ぎ去っていった。
幼馴染みもそうだが、親友、という存在をご存知であろうか。
最も親しい友達で親友。皆さんにはそんな人物がいるだろうか。さて、俺にも親友はいる。
親友はいるけど……しかも楽器も出来る。俺がギターを始めた時、一緒にベースを始めた奴がいる。
何故すぐにそいつを誘わないのかって? それにはいろいろ理由があるのだよ、皆の衆。
その親友の名前は新島雅人。ちなみに隣のクラスに在籍中で、俺のクラスにいる花崎美雪という女の子に恋をしている。
少しは察してもらえたかもしれないが、こいつは恋愛大好きで女好きな健康男子だ。それも理由の一つだが、もう少し肝心な理由が一つある。
ラブソングというものしか聴かない人間なのだ。乙女心というものを知りたいらしいが、端
から見ればちょっとした変態だ。しかもヒットチャートのトップ10に入ったベタベタでミーハーなラブソング限定。俺から見るとさすがにそれは気持ちが悪い……
しかし! そんな奴すらも呼ぶしかないほど、俺はピンチ、崖っぷちなのだ。幼馴染みは少し置いといて、親友というものに頼ってみよう。仕方なく……
昼休み。
俺は食堂に行き、雅人に話し掛けた。
「よぉ、雅人。久し振りだな……」
「おぅ、優斗! なんか話でもあるのか?」
「そうなんだけどさ……お前まだベース弾けるか?」
「一応、基本くらいは出来ると思うぞ。何でだ? バンドか?」
「分かってくれると話が早いな。っでどうだ?」
「ラブソングか?」
やはり来たか……分かっていた事とはいえ、どう言い返したら良いものか……
「ラブソングはもちろんあるぞ! 当たり前だろ」
実際の所、ラブソングは1番の苦手分野で書く事は出来ないだろう。だが、そんな事を言ってはいられない。何故なら今、俺はチャンスを目の前にしているからだ。
「じゅあ、考えといてやろうかな〜親友の頼みだしな」
「あぁ、頼むよ」
なんとか此処までは漕ぎ着けたぞ。あと1人も誘わなくては……
幼馴染み、そいつを誘うのは大変な話だ。
だが、そんな事は言ってられない。猫の手も借りたいほど困っているのだ。
放課後。
幼馴染みこと槇悠太は雅人と同じクラスに在籍中で、部活もしていない。だから、捕まえるなら放課後の今だ!
「悠太!」
「……優斗か。なんだ?」
「いやぁ、あのさぁ〜……」
話しにくいのも当たり前だ。
俺達は昔、親同士もそうだが俺達同士も喧嘩をしてそれ以来だからな。
これはとても悲しい話。
悠太が「好きな奴が出来た」と恋愛の相談をしてきたのだ。黙って聞いてやると、そこで事件は起きた。まぁご察しの通り、同じ相手を好んでいたのだ。俺もその子が好きだった。今じゃもう好きだった女の子の名前すら覚えているか怪しい感じだが。
「お前、まだ怒ってるか?」
「……いいや、もう終わった事だから気にしてない」
そう。もう終わった話なのだ。お互い好きだった女の子は転校してしまい、お互いが泣く事となった。
「優斗、俺もう行っていいか? ちょっと用事があるんだよ」
「あぁ、悪いな」
「じゃあ」
怒ってないと知っただけでも収穫としよう。
そんな事を考えながら、下駄箱に上履きを入れ玄関を出ていくと、ラブソング野郎がそこにいた。
「優斗! バンドって女の子にモテるか?」
「しっかりやってれば、カッコ良く見えるぞ」
「そうかぁ〜そうだよな〜っで、考えたんだけど、明日までにさ、俺が食いつくようなラブソングを書いてきてくれよ。それで考えてやる!」
「お前……今何て言った?」
「だから、ラブソング! 俺へのラブソングを書いてきてくれ!」
「なんで雅人宛てなんだよ」
「まぁ、いい詞を待っているよ、優斗君」
そして、そいつは軽快なリズムを足音で奏でながら走っていった。
ふざけるなよ、この野郎。
ラブソング……書けない……
悩んでも、考えても、浮かんでこない……
どうする俺……
そして、翌日。
「優斗! ちゃんと書いてきたか?」
俺が教室目指して廊下を歩いていると、奴に会った。
「あぁ、感謝しろよ。ほら」
俺は大学ノートの切り取った1ページを奴に渡した。
「サンキュー! じゃあな」
失礼な奴だ。人に頼み事をしてそれが果たされたらすぐ逃げていくのか。なんて野郎だ。全く、嫌な奴だな。
俺があいつに渡した詞。
それは、確かに俺が書いたラブソングだが、たった5分くらいで書いた適当な物。
ただ、好きだとか愛してると書いただけの物だ。
実際にこれ。
『マイ ハニー』
ずっと 待ってる 君の足音が 鼓動のリズムと 解け合う瞬間を
此処で 聴いてる 君の歌声が 鼓動のリズムと 絡み合う瞬間を
ずっと 待っている
もっと 近くに 君の心臓が 僕の右胸に 重なる瞬間を
もっと 静かに 耳を澄ませて 二つの鼓動が 響く瞬間を
ずっと 待っている
マイ ハニー 誰よりも愛しているよ
一度だけでもいいから 微笑んでおくれ
マイ ハニー 君の事が好きだよ
誰かではない 僕だけを 愛しておくれ
いつも 遠くで 君の姿を 僕の思い出に スケッチしている
いつも 笑って 可愛い君を 眺めている 初恋の目をして
綺麗な 横顔を
マイ ハニー 誰よりも愛しているよ
僕だけを見て欲しい 気付いておくれ
マイ ハニー 君のことが好きだよ
「今か今か……」と 僕の気持ち 分かっておくれ
だんだん 近くなって 夢見ているみたい
どんどん 好きになって 今夜も また 夢で会えるね
マイ ハニー 世界で1番愛しているよ
こんな曲があるって 気付いておくれ
マイ ハニー 世界で1番好きだよ
宛名の無い 僕の手紙 受け取っておくれ
マイ ハニー 誰よりも愛しているよ
一度だけでもいいから 微笑んでおくれ
マイ ハニー 君の事が好きだよ
誰かではない 僕だけを 愛しておくれ
世界中で 僕だけを 愛しておくれ
マイ ハニー……
書いている時、自分でも笑ってしまった。
なんだこれ! って。面白くてね。うわぁ、気持ち悪いなぁ〜とか思いながらもなんとか書き終わって、また笑った。本当に鳥肌モノの気持ち悪さだったな。
さて、雅人の反応が楽しみだ。
翌日。
俺と貴明が屋上で昼食を食べていると……
ガチャ。
「探したぞ、優斗!」
「なんだ雅人か……なんだそれ?」
「どうもこうもねぇよ! これはベースだ! さぁ、やるぞバンド!」
「そ、そうか……」
「何だそのやる気は! 本気でやるからな!」
「ふ、藤森さん? この方は?」
「俺の友達だ……」
「どうしてベースを?」
「それは……」
―以下、省略―
「そうなんですか! それは良かった。でも、その詞ってどんな詞ですか?」
「後で読ませてやるよ」
「はい」
「何ぐちゃぐちゃ言ってやがる! 練習だ、練習!」
こうして、また一人。メンバーが増えた。まぁ、嬉しい事は嬉しいけどな。
この期間、由架は俺と貴明の事を他人のようにシカトしてきた。あと一人だ。狙いはもう決まっている。待ってろよ、由架!
あの詞を貴明に見せたところ、笑われて「藤森さんじゃないみたいですね」と言われた。
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