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 寮祭が終わると、招待された寮生以外の生徒がぞろぞろと帰っていく。
 リンも三上や先輩達に軽い挨拶まわりを終えると、おれに「またね」と、言い、靴を履いた。
 おれはコートを羽織りながら玄関を出て行くリンの背中を見て、このままここで別れてしまうのが惜しくなり、リンを追いかけた。
「今日はおれが誘ったんだから、リンを家まで送る」と、言うとリンは嬉しそうに笑った。
「あげた手袋はしないのか?」と、聞いたら「代わりがある」と、おれの手を握った。
 お互いの冷たい指の一本一本が握り合わさっていく。お互いの手の平があったかくなり、おれ達は顔を見合わせて微笑んだ。
 なんだろう…こんなひとつひとつのリンとの繋がりが、とても大切な…たまらなくいとおしいものに感じてしまうなんて。
 おれは本当にどうかしてしまったらしい。
 自然に口元が緩んだまま、しまりがなくなっている。
 バカみたいに幸せだ。

 会話は自然とさっきのパーティの話となる。
 寮祭の出し物で、くじを引いたものは紙に書かれていることをやらなくちゃならなくなり、リンと三年の美間坂先輩で、アルゼンチンタンゴを踊る羽目になったのだけど、即興といいながらも、ふたりとも見事に踊りこなして拍手喝采だった。まあ、最後に転んでリンの上に美間坂さんの身体が乗っかって、危うくキスする寸前になったのはサービスだろう。ふたりともエンターティナーだ。
 一見仲が悪そうに見えたリンと美間坂さんだけど、先輩の恋人の桐生さんに言わせれば、「同類相求むだよ。美間坂は宿禰のことを相当気に入ってるよ」と、微笑んでいた。
 美間坂さんと桐生さんは誰もがうらやむほどの絵になるカップルで、男同士の恋人といってもちっとも変に見えないし、あれだけ堂々としていると、偏見の目で見る方がやましい気になってくる。

「あの二人を見ていると、男同士の恋愛って成立するんだなあ〜って、なんだか信じたくなる」と、言うと「ミナは俺と恋愛しているって思ってないの?」と、問われた。
「…リンのこと、好きだけど…」それに嘘はない。
 だけど「やっぱり、このまま行っていいのかなあって…」と、口ごもってしまった。
 おれがなんのことを言っているのか、多分リンはわかっている。
 おれは、リンと身体を繋ぐことが怖いんだ。
 過去のまずい経験からも、男同士だからって事にしても、おれはセックスに対して臆病どころか、怖気づいてしまっている。
 リンはうっすらとは気づいているんだろう。
 今までだって無理強いはしていないし、おれを大事に扱ってくれている。だけど、普通の恋人だったら、お互いを欲しいと思うのは当たり前だし、身体を繋ぎたいって、求めるのは自然の成り行きだ。
 リンがおれを強く求めたら、おれは抵抗しないだろう。
 だけど、おれはそれをちゃんとリンに与えてあげれるのか。リンはおれに失望しないだろうか。
 リンは経験に不安はないだろう。相当に遊んでいるとは、自分で言ってた。それを罵る気は無い。
 だからこそ、リンとのセックスが上手くのかどうか…おれには自信なんてものはない。
それでもやっぱりおれだって、リンが欲しいと思う。

 リンのマンションに着くと、お別れしなきゃならない。
 リンは泊まるように誘ってくれたけど、まだその勇気も自信もないんだ。そのくせこのまま離れてしまうのが寂しくて堪らない…と思ったら、目頭が熱くなって、涙が込み上げてきた。
 どうしようもない。
 おれは弱虫だなあ…
 リンはいつもの冗句でおれの涙を笑い飛ばしてくれたけど、おれは申し訳なくてたまらなかった。
 なにひとつおまえの欲しがるものをあげられないなんて…

 マンションのエントランス前で、寒いのも構わず、おれが帰るのをずっと見送ってくれるリンの姿が嬉しいのと寂しいのと情けない気持ちがごっちゃになって、おれは寮に帰り着くまで涙が止まらなくなった。

 寮に帰り着いたおれは、部屋にいた根元先輩にリンとの事を散々からかわれた。
 どこまで進んでいるのかをしつこく聞く先輩にしかたなく白状すると、呆れた顔で、「みなっちが宿禰とセックスしないって言うんなら、僕が先にいただいちゃうよ」と、言われ、本気で先輩を殴りたくなった。




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