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 玄関の引き戸を開けたリンは俺が待ち構えているのを見て、驚いたように少し仰け反った。
が、すぐににっこりと微笑むと「ご招待ありがと、ミナ」と、胸に手を置き会釈する。
 普通の輩がやっても様にならないだろうに、リンがやると自然だ。全く嫌味がない。
 しかし…なんて奴だろう。
 黒のトレンチコートも中に見える臙脂のジャケットも光沢のある黒ズボンも、リンの為にあつらえたみたいに極まっている。
 思わず「モデルみたいだ。かっこいい」と呟くと、リンは苦笑する。
 その顔にぽーっとなる自分に呆れた。俺はなんて男に惚れているのだろう。
 同じ歳なのにこの貫禄と言うか…恋人としては相手がかっこいいのは喜ばしい事かもしれないが、同じ男としては…「自信喪失だ」と、愚痴ると、リンは鼻で笑い「ミテクレだけ見て無くすような自信は、初めから無い方がマシだね」と、言う。
「…」
 そりゃそうだがね。それは、自信のある奴の驕りで、おれみたいな世間一般の男子には、おまえはすべてにおいて、癪に障る奴なんだよ。
 多分全くわかっていないだろうけど…

 荷物を置きに俺の部屋へ案内した。
 部屋に入りふたりきりになると、リンはおれにクリスマスのプレゼントをくれた。
 スワンスタビロの水彩色鉛筆だ。リンの亡くなったお姉さんのものらしい。
 そんな大事なものを、と思うが、使ってくれたら嬉しいと言われ、ありがたくいただく事にした。
 実は結構欲しかった画材で、値段的に躊躇していたので、とても嬉しかった。と、いうよりおれの欲しかったものが何故わかったんだろうという疑問と、別な心配のために、喜びの表現としてはかなり乏しいものになったことは否めまい。

 心配は…リンへのプレゼントだった。
 正直なにも考えていないわけではない。と、いうかめちゃくちゃ考えて考えて…考えた末に買った物は、あまりにもスタンダードな「毛糸の手袋」という代物で、おれは自分のセンスの無さにリンにあげるのが恥ずかしくなってしまったのだ。
 しかも、リンからはこの上ないプレゼントを貰ったにも関わらずだ。
 …出そうか出すまいか迷った挙句、恋人からのお返しが何も無いではあんまりだと思い、俺はリンの目の前にリボンがけの袋を差し出した。
 バカにされるのも覚悟しつつ渡したら、リンは思いもよらぬほどに喜んでくれた。
 おれはあまりにも嬉しくて、リンのキスの催促に、自分からしたいと申し出た程だ。
 正直おれは自分からリンにキスをしたり、求めたりしたことは一度もない。
 リンとするのだって最初のキスが、信じられないくらいに激しかったから、おれはあれが当たり前だと思ったら、自分が節操が無さ過ぎるように気がして、その後はやたらと嫌がって見せたけど、本当は嬉しいんだ。
 好きな相手と身体を寄せ合ったり、手を繋いだり、お互いの呼吸の音や、唇の感触を感じるのがこんなに心踊るものとは、想像できなかった。

 リンがおれを抱きしめる前に、おれはリンの両頬に指を添え、顔を上げながらリンの口唇に触れる。 震えているのを気づかれる前に口を開け、舌を入れた。
 リンの両腕がおれの背中を抱きしめる。

 なんでこんなに…おれはこいつを好きなのだろう…音を立ててお互いの口の中を味わいながら、バカみたいに何度も思った。


 根元先輩が現れて、おれ達の逢い引きも終わってしまったが、おれはその後もなんだかふわふわした気分のままで、寮祭のお祭り騒ぎ処じゃなくなってしまっていた。



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