9.変態心霊青年の愛
どこかで聞いたような叫び声。
「ヤナギだ……」
遅刻の反省文書きですっかり遅くなった放課後、私は声のした方向、正門までの道を駆けた。
夜梛一也はいつも放っておけない気にさせる。
笑ってるといじめたくなるし、泣いてると慰めたくなる。
放っておけるワケない。ちょっと目を離しただけで、こんなことになってるし。
必死な形相で、自分をつかまえる男を押しのけようとしている。
どう見ても、正月生まれのめでたいヴィジュアル系に、迫られて…る……かんじ?
「さつきさん……」
ヤナギが捨てられた子犬のような目で、私を見つめた。
ほんとうに、ヤナギって……。
「――あ、蓮が来る」
一条初日が告げたあと、ほんとうに高遠が校門から出てきた。
私たちに気づくことなく、駅に向かって歩き出す。帰宅部と部活の生徒が帰る時間帯の間で、人影はまばらだった。
私もなんとなく高遠のあとを尾ける二人と歩く。帰宅方向は同じだし。
「あの人が出てくるって、どうしてわかったの?」
聞くと得意そうに、一条が胸をはる。
「愛だよ」
ふふふ、と彼がわらう。
「はぁ」
冗談? つっこんだほうがいいのかな。
「かれこれ十二年かな。長いつきあいだからねえ。――中坊のときから、今日は憑いてるか、明日は憑いてるかって、ビクビクして暮らしてたんだよ? こっちも命かかってるからさ」
「命って……、映画みたいな怖い霊が憑いたり?」
じつはホラーは平気な方だ。てか得意だ。井戸から出てくる貞○で爆笑してしまい、家族から白眼視されるのが私。リアルで見えないから笑えるんだろうけど。
「まあ、うん」 歯切れ悪く一条が答えた。「白塗りの子どもとか、電話かけてくるヤツはいねーけどね。――そいで憑いてたら憑いてたで、逃げたり隠れたりしてる蓮を捜してまわんなきゃならないわけ。必然的に、蓮の気配に敏感になっちゃって……とうとう残ったオーラまでわかるよーになったさ」
彼はヤナギの肩にポンと手を置いた。
ヤナギはびくっとして、サっとよけた。
「おまけにどんなに離れても、蓮になにかあるとわかっちゃうしぃ。はは。――これって、霊能力じゃなくって超能力かなって思うんだが、どー思うよ、ヤナギ少年?」
「愛なんでしょ」
ヤナギが言うと、ぽっと彼は、なぜだか頬を染めた。
「そーかぁ。やっぱりねぇ。どーしても蓮ってほっとけないんだよねー。あー見えて、淋しがりやさんだからねー」
やたらエラそうで猫かぶりで冷たそうで凶悪そうな高遠が、『淋しがりやさん』?
「はぁ……」
見てはならないものを見た気がした。
聞いてはならないことを聞いた気がした。
――思考停止。
「あ、曲がった。やっぱ気づいてるな。公園でまく気かー。でも行き先は会社だろーねぇ。仕事中毒気味だし」
高遠が朝、ヤナギと出逢った公園に入って行った。そんなのお見通しってかんじで一条初日がぶつぶつ言う。
公園には出入り口が三箇所あり、それぞれ星藍高校方面、駅方面、広い道路がある方面に抜ける。
「……まずいかも」
ヤナギがなにかに気づいたように言った。
「どうしたの、ヤナギ」
「朝の、電車のコワい霊……、たぶんぼくについて来てたから。公園でさつきさんに逢う前まで、いたような――」
「公園にいるかもってこと? ――あっ一条さんっ」
もんのすごいダッシュで、彼が走りだした。
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