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心霊少年 ヤナギ
作:オトハソラ



6.心霊青年あらわる      


 とんでもないものを見た気がして、私は保健室の入り口で立ちすくんだ。
 「なにっ、ナニしてんの!?」
 一時間めが終わっても、ヤナギが教室に来なかったから、ようす見にきたのだ。
 校医の先生はいなかった。
 ベッドには高遠蓮とヤナギがいた。
 高遠はベッドに片方の膝をついて、両手でヤナギの顔をはさんでいた。慌てたようすもなく、笑いかけてくる。
 冷たい、笑顔。
「なにって、お仕置きだよ」
「オシオキって…」
 ヤナギは真っ赤になって涙を拭っている。
 ナニされたんだろうか、とぐるぐる頭の中が回り出す。あんなこととか、こんなこととか…。
 想像して私は赤くなってしまった。少女まんがの読みすぎだと、ちょっと反省。
「気がすんだし、新しい上司の顔でも見にいくかぁ。――じゃあね、ヤナギ君」
 満足そうに言って、彼はこっちに歩いてくる。
「待ってください」
 ヤナギが呼びとめた。
「あん?」
「あ、あなたに――」
 ヤナギは少しためらってから続けた。
「あなたに悪霊が憑いてます」
「はあ? 俺はそういうの信じてないんだけど」
「たぶん事故で、血がいっぱい出てなくなった女の人」
「………」
 彼は眉を寄せた。
「だから、気を付けてください。信じてくれないなら、それでもいいです。……忠告はしたから、これであなたになにかあっても良心が痛まない」
 怒っているらしいヤナギは、言うだけ言うと、逃げるように保険室を出て行った。
 ヤナギも怒ったりするのかと、私は変なところで感心していた。
「血まみれの女ってか……」
 高遠が呟く。
「心あたりあるんですかー? ヤナギ小さい時からコノヘンで有名なんですよ。心霊少年ヤナギ、つって」
「…アホらしい」
 高遠は吐きすてて、出て行った。

「はー」
 ため息ついて窓の外を見た。
 見るだけで暑苦しい入道雲が、空に立っている。
 遅刻三回で反省文。原稿用紙2枚。
 作文がとっても苦手な私にはしんどい。もともと想像力に乏しいほうなので、遅刻の理由をひねりだすのもひと苦労。起きれないときは起きれないんだからしかたないじゃん。
 放課後の教室に私一人で、原稿用紙に向かっていた。
 ヤナギは保健室にかつぎこまれたので免除。ずるくない?
「ねーねー」
 声がかかって振り返ると、後方の出入り口に、それはもう、アヤしい男がいた。
 金髪ピアスのヴィジュアル系。黒パンと黒Tシャツ。薄茶のサングラス。
「人さがしてんだけど、今日から先生やってる高遠蓮、見なかった? ――あれ?」
 私があからさまにイヤな顔したのに気づいて、彼は苦笑いをした。
「ひょっとしてもう蓮にいびられた?」
「いびられたのは友達ですけど。――先生捜すなら職員室に行けば?」
「いやー」
 彼は頭をかく。
「職員室にはいないからって玄関の受付で待たされてさー、オレここの卒業生だから、あっ蓮もね、で、懐かったから勝手にウロついちゃってたわけ」
 高遠の友達なんだろうか。ずいぶんタイプが違うけど。
 例えるなら、高遠は極寒のブリザードで、この人はひなたで毛がふかふかになった犬っころ。
「あれぇ、キミ美人だねぇ。名前なんてゆーの? オレは一条初日。元旦生まれなんだよん。だからハツヒ」
 人懐っこい、というより馴れ馴れしい男はずかずかと教室に入ってくる。
「ナンパはよそでやって下さい。今忙しいんです」
「えぇぇ。じゃあ忙しくなくなるまで待ってるからぁ。おにーさんと遊んでくれる?」
 うざい。ものすごくうざい男だ。一番嫌いなタイプだ。
 嫌いすぎて、ついまじまじと観察してしまう。
 脱色されて痛々しい彼の髪は肩のあたりまでのびて、好き勝手な方向に跳ねている。そしてまた痛々しいかんじで、耳にたくさんの銀色のピアスが並んでいた。指輪もたくさん。
 私のとなりの机にどかりと腰掛けると、彼は期待するように目をきらきらさせる。
「イヤです」
 こういうヤツにはちょっとでも甘い顔しちゃいけない。
「があぁぁぁん」
 彼は自分で効果音をだした。
 と。 
「一条!」
 大きな声に振り向くと、息を切らせた高遠が立っていた。
「レンちゃぁん、久しぶりぃ」
 うれしそうにヴィジュアル系が手をふった。
「お前なにやってんだっ。ストーカー行為はやめろっつてんだろっ」
 だいぶ頭にきてるらしい高遠は勢いよく突進してきて、彼のTシャツをつかむ。
「ひどいなぁ。親友の危機を察知して携帯に電話したら拒否ってるんだもん。で、会社に電話したんだよ。そしたら母校で先生やるって親父さんが教えてくれたからさ」
「着信拒否されててわかんねぇのか。俺はお前とエンがきりたいんだよっ」
「………………」
 彼は、一条初日はぴたりと口を閉ざして、高遠を見つめた。
 鼻息もあらくそれを見返していた高遠は、やがて手を離して舌打ちをした。
「――なにしにきた」
「だから鬼○郎くんの妖怪探知機ならぬ幽霊探知機がね、親友の一大事を察知したのだよ」
 にこにこして彼はおどける。
 ちょっといい人かもしれない。第一印象とちがって。
 乙女系の少年に仕返ししてるような高遠より、ずっと大人だ。
「いい加減にしろ」
 高遠はうんざりした顔をした。
「うん、ごめん。いい加減にしとく。蓮が元気そうで安心した。――じゃあね」
 意外なほどあっさりと、正月生まれの彼は去っていった。
「もしかするとあの人もヤナギみたいに見える人なんですか?」
 聞いてみたけど高遠に睨まれただけで、答えてはもらえなかった。


 
 
 
 







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