5.ヤナギの決意
ぼくは、傷つけられちゃダメだ。
それが結論だった。
きっと高遠蓮にも、ぼくに似た力がある。
それだからこんなふうに彼の情報が流れ込んでくるんだと、思った。
こんなにはっきり、だれかの心の中が見えたことはなかった。
つよく彼を縛りつけているものがある。
(タカトオビジネスコンサルティングカブシキガイシャ)
寝る間もなく作り上げた企画から外されて、社長である父親の命令で、星藍高校にくることになった。
だから電車で、あんなに不機嫌になってた。
兄が、血が半分繋がった兄二人が重役。せせら笑って、企画を取り上げた。
でも、高遠連は怒らない。怒れない。
そこだけが彼の居場所だから。
幼い彼は虚弱だった。とても弱く、小さかった。
彼の母親が死に、小さな彼はときどきやって来る父親に引き取られた。
高遠の家には身体が大きく、力も強い兄が二人がいて、ことあるごとに暴力をふるった。
髪をひっぱり、つねった。蹴飛ばした。つき飛ばした。
(おまえなんかいらない。おまえなんか死ねばいいのに。二号の子なんて高遠のハジだ)
痛みを、憶えている。暴力が身体を、言葉が心を痛めつけた。
義理の母親は彼を見なかった。彼女の前では彼は空気同然だった。
ただ父親だけは、時折家に帰る父親だけは彼の頭をなでることはあったけれど……。
けれど、その手は兄たちのものだった。義母のものだった。
いつも――。
怒りは心の奥底に沈んで、形を変えていた。
冷たく、暗くよどんで、彼にふれた人間めがけてとびかかっていく。
そして誰かを傷つけて、傷つけた自分を嫌いになる。
(おまえなんかいらない。おまえなんか死ねばいいのに)
自己嫌悪は、また誰かを傷つける原動力になる。
無限につながるメビウスの輪のように、繰り返している。
永遠の輪のなかで、彼はもがいている。
たとえ本人は気づいていなくても。絶対に認めなくても。
だから、ぼくは傷ついてはいけない。
彼の言葉で痛めつけられてはいけない。
この輪を断ち切らなくてはならない――。
心の奥底にある怒りが、あんなにおそろしい魂を呼びよせているのだから。
ぼくは息を整えて、なるべく力強く聞こえるように言った。
「あなたに悪霊が憑いています」
こんなことを言ったのは、はじめてだった。
なにかが変わっていく、そんな気がしていた。もう戻れない――。
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