4.あぶない教師とヤナギ 2
「夜梛君」
目を開けると、あのスーツ男の顔が目の前にあった。
「うわあああっ。くっ、くるなぁっ」
ぼくは飛び起きて、ベッドの端まで逃げて、壁にへばりついた。
目を点にしていた彼は、しばらくしてからため息をついた。
「あのさぁ、いい加減にしてくれない。人を化け物みたいに」
「あ……ご、ごめんなさい」
ぼくは我にかえって謝った。さいわい幽霊の姿はない。
「保健室、ですね。あの、ひょっとしてここまで運んでくれたんですか。ありがとうございました」
「――ああ、うん」
彼は眼鏡の位置をなおした。指が長い。きれいだなと感心してしまった。
「夜梛一也君、自己紹介からしておこうか。俺は高遠蓮。今日から三ヶ月間、この高校の数学教師になる」
「えっ、そうなんですか」
「ここの理事の一人がうちの社の経営者でね、頼まれて仕方なく。基本的に俺は、年下は苛めるもんだと思ってるから、やめとけって言ったんだが」
「はあ……」
間の抜けた返事をしてしまった。
たしかに、教師って感じじゃあない。エリートサラリーマンばりばりって感じだ。自信に満ちた話し方と態度は、オレ様ナニ様先生様。
ぼくとは正反対。
「今朝の電車の件だけど」
うっ、とぼくは俯いた。話をすると寄ってくるってのは有名な話。その通りだ。
「あの後俺はチカン呼ばわりされて、駅員室に連行されるところだったよ」
「すみません」
とても怒っているような、気配が伝わってきた。
「本当にすみません。ぼく、あの、どうにもならなくて」
「素直でいいね、君。でも人と話すときは、ちゃんと相手を見るもんだ」
「……」
冗談じゃない。視線はななめ下に固定。それでないと、いやなものを見るはめになる。
「や・な・ぎ、君?」
「わっ――いてっ」
頭をがっしりつかまれて、ねじあげられた。
彼の顔が近い。
「いる?」
「えっ」
「幽霊見えるんだってね。いま、ここにいる?」
毎日だれかに聞かれることだ。
でも信じてない人と信じている人に対してでは、答え方がちがう。
信じていない人にはなにも答える必要はない。うっかりそんな話をすると、嫌な目で見られる。
まるでぼくのことを、気味が悪い虫を見るような目で――。
信じている人にだって、『いる』場合には、言ってよい時と悪い時がある、と思う。
「――いま、せん」
ほんとうにいなかった。見えなかった。今は。
と。
「へえっ」 彼の瞳がかがやいた。「君ってほんとうに見えるんだ」
ドキっとして、胸をおさえた。
嘲笑まじりの言葉はトゲだらけだった。
(わざとだ、この人。信じていないくせに)
涙がこぼれた。
もっと警戒すべきだった。
(わざと傷つけた)
真っ暗な悪意に満ちている彼の心が、怖い。
「―――どうして、そんなに」
(憎いの)
知りたいと思った。そしてぼくにはその力があった。
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